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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1739話 ルクセリオン教国 ――二人の騎士――

 遠い過去に消えた騎士ルーファウス。それはかつてもう一人のカイトが率いていた騎士団の団員にして、現世の親友にして過去世の戦友であるルクスの弟だった。そんな彼は、自身の正体に気付いたカイトの魂と呼応して、ついに目を覚ましていた。


「……これ……は」


 何者かはわからない。過去の自分が目覚めたから、と何から何まで理解出来るわけではないのだ。現に瞬とて即座に過去世の自身の名がわかったわけではない。彼が自ら名乗りを上げた事で、理解していた。

 が、目覚めた事だけは、はっきりと分かるのだ。故にルーファウスも前世の自分が目覚めた事を自覚し、そしてそんな彼を見て、ルードヴィッヒが目を見開いた。


「まさか……」

「どうしたんですか?」

「……君は、<<原初の魂(オリジン)>>というものを知っているか?」


 訝しんだ様子の瞬に対して、ルードヴィッヒが問いかける。そしてこれを知らないと言えるわけがなかった。


「え、ええ……」

「そうか……ルーには今、それが起きている」

「ルーファウスに?」


 やはりこれは冒険者の頂きに立つ者たちが使える技術だ。それをルーファウスが使える様になった、と言われては瞬も思わず目を見開くしか無かったようだ。まぁ、そんな事を言ってしまえば彼も使えるのだから、それより上の戦士であるルーファウスが使えない方が道理に合致しない。


「どんな奴……でしょう」

「わからん……が、あの威圧感。並では無いだろう」


 遠くからでも肌身に感じる圧力はとてつもなく、ただでさえ天才の名をほしいままにするルーファウスの本気の圧を更にとんでもない領域へと押し上げていた。

 今なら、間違いなくランクSの冒険者と戦っても互角の勝負を演じるだろう。それこそ、もう少し鍛えれば<<原初の魂(オリジン)>>を始動したランクSの冒険者とだって、戦えるかもしれなかった。


「何者なんだ、あれは……」


 ルードヴィッヒは思わず、僅かな戦慄を口にする。間違いなく、英雄。もしくはそれに類する者の力が感じられた。


「……」

「さぁ、やろうや。これだけ待ってやったんだ。少しは遊ばせろよ?」

「無論です……ん、いや……ふぅ。カイト殿。遊ばず、伺いたい」

「まぁ、良いが……なんだ?」


 今までもう一人の己に任せていた様に見せていたカイトは一度笑い、いつもの風を装い先を促す。なおルーファウスが一息入れたのは言うまでもなく、前世の侵食があったからだ。一息入れて自らを強く律したのである。ここらは、瞬よりも彼の方が戦士として一日の長がある。早々に感覚に慣れた様だ。


「カイト殿の過去世は確か織田信長なる者ではなかったのか?」

「ああ、そうだ」

「では、それは一体……」


 カイトの明言に、ルーファウスが困惑混じりに問い掛ける。前世の己が目覚めればこそ、これが何か分かる。そしてだからこその困惑だった。とはいえ、この程度の質問を想定していないカイトではないし、何より言い訳なぞ簡単に思い付く。


「前々世さ」

「二つ前……?」

「あっはははは。困惑してるって顔だな。まぁ、当然か。だが、しょうがない」

「しょうがない?」


 カイトの言葉を理解できず、ルーファウスは小首を傾げる。それに、カイトは敢えてかつての笑みを浮かべる。


「おいおい……オレが何者かは分からずとも、お前にはもうわかっている筈だ。オレがどの様な因果を持っているのかぐらいは」

「っ! そうか、あの時か!」


 どうやらカイトの語りでルーファウスも状況が掴めたらしい。そう。カイトは表向き、ルーファウスとアルの最初の目覚めとなるエンテシア家の遺跡での戦いに触発された、としたのだ。カイト――というか冒険部――程の特殊な状況だ。別世界に渡った事で偶然にもその頃の知り合いと魂が呼応しても、不思議はない。


「そうだ。あの時、オレの中に眠るオレが呼応した。だから、今ここでお前を目覚めさせる為にここに立った」

「なるほど……」


 カイトの語っている事は筋の通る話ではあった。そして相変わらず嘘は言っていない。呼応した、とは言ったが目覚めたとは言っていない。呼応して呼ばれたに過ぎないのだ。


「さぁ、どうするんだ? これでお前の疑問は解き明かされた。来るか、来ないか」

「答えなぞ決まっている。問われるまでもない」

「さっすが」


 一瞬で自らの背後に回り込んだルーファウスに、カイトは楽しげにに笑う。答えなぞ決まっていて、合図ももう下っている。なら、これは卑怯ではない。ただ敵を前におしゃべりをしていたカイトが悪いだけだ。が、それが分からぬ彼ではない。


「はぁっ!」

「ほっ、と」


 気合一閃とばかりのルーファウスに対して、カイトは相変わらず軽い。が、込められた力はルーファウスのそれを大きく上回っていた。


「様子見か?」

「当然だ……ああ。あの当時の力、と」

「それは納得だ」


 あの当時。そう言われて、カイトは何時なのか納得する。出会った当時の力だ。まだまだ、これからだ。


「さぁ、見せろよ。オレが居なくなった後の力を。オレが託した時代の力を……な」


 この程度で終わってもらっては困る。そう言わんばかりのカイトはこちらもまだ遊びと言わんばかりにいつもと同じ長さの刀を構える。


「……」


 あぁ、歓喜している。ルーファウスは自らに宿る前世の何某かが強い喜びを得ている事を自覚する。そうして、彼はそれを宥め方向性を付けてやる。それは当然、カイトへ向かう様に、だ。


「「……」」

「なっ……」


 獰猛に牙を剥きながら無言で斬り合った二人のあまりの速さに、ルードヴィッヒが思わず絶句する。あまりの速さに、彼は今の鍔迫り合いしか見えなかった。気付いたら、鍔迫り合いをしていたのだ。


「瞬くん…君は今のは……」

「半分が限界でした……自分も使えば、見えたかもしれませんが……」

「君も使えるのか!?」


 瞬の言葉に、ルードヴィッヒが思わず声を荒げる。<<原初の魂(オリジン)>>は最高位の冒険者が使えるある種の必殺技だ。そうぽんぽん出来て良い技ではなかった。


「君以外にも……」

「いえ、後は自分だけです。と言っても、ソラはそろそろ出来そうですが……」

「ああ、彼か……」


 確かにソラは仕方がないかもしれない。ルードヴィッヒは賢者の弟子であり、一年もあの地獄に捕らえられていた彼なら不思議はないと考える。彼は一年もずっと今のカイトがしていた訓練をしていた様なものだからだ。


「ふむ……」


 やはり凄まじいものだ。ルードヴィッヒはカイト達についてそう思う。何より凄まじいのは、やはりカイトだろう。ここまでの腕利きでありながら、組織の長としても辣腕を振るえるという。間違いなく、総合的に自分なぞ及ぶべくもなかった。


(一体、どれだけ修行を積めば、ここまで到達できる……?)


 この半年、何度となく凄まじい戦いを経た筈だ。並の冒険者が得る激戦を倍以上経験している。そうとしか考えられなかった。


(……いや、違うな。これが、背負う者の覚悟か)


 おそらく、ルーファウスと決定的に違うのはここ。カイトはあの双肩に全てを、それこそかつての勇者の権威さえ背負うのだ。その意味が分からぬ彼ではなかった。


「……」


 鍔迫り合いを行う自らの息子と異邦の少年を、ルードヴィッヒはただ真剣な目で眺める。と、その一方でカイトとルーファウスは鍔迫り合いを終えつつあった。


「ぐっ……」


 この状況でカイトが何をしてくるのか。ルーファウスは過去の記憶に手を突っ込んで、それを探る。

 彼が何をしてくるのか。それはカイトかもう一人の彼かによって異なってくる。それを見極めねばならなかった。


「……」


 僅かに苦悶の表情を浮かべるルーファウスに対して、カイトは相変わらず楽しげだ。そしてその笑みで、ルーファウスは次の一手を理解した。


「っ!」


 ルーファウスが気付いたと同時に、彼に向けて剣が一本飛来する。それに、ルーファウスは火炎を以って叩き落とす。


「ぐっ!」

「さぁ、おまけだ」

「っ!」


 自らを押しとどめその場を離れたカイトに対して、ルーファウスは僅かに目を見開く。しかもカイトは飛び退き間際に無数の刃を射出していた。が、そんなカイトに、ルーファウスは僅かな笑みを浮かべる。


「転移術だと!?」


 息子が行使した最高位の魔術に、ルードヴィッヒは思わず声を上げた。しかしそんな父の声を横に、ルーファウスはカイトに背後に回り込んでいた。


「甘いな……オレにその戦い方は通じない」

「わかっているさ」

「ほぉ……」


 自らの背後に回り込んだ様に見せたルーファウスは、実際には氷塊で彼を模した物だった。そうして、カイトの斬撃により氷塊が砕け散り、その先からルーファウス当人が現れる。


「っ!」


 煌めく氷の欠片の中、ルーファウスはカイトが笑っていたのを見る。当然だ。この程度の奇策を見抜けぬ相手でない事ぐらい、今の自分も過去の自分も理解している。故に彼は一切の迷いなく、その場を飛び退いた。

 が、それこそがカイトの策だった。そうして、次の瞬間。ルーファウスが着地した場所の真下に、奇妙な紋様が浮かび上がる。カイトが地球で得たルーン文字だった。


「ぐっ!」

「虚々実々……その程度か?」


 吹き飛ばされていくルーファウスに対して、カイトが問いかける。まだ遊んでいる段階だ。この程度でノックアウトなぞ言ってもらっては困る。そう言わんばかりであった。そしてその声に触発されたかの様に、ルーファウスが空中で急停止する。


「……ふぅ……そうか。目覚めであれば、そちらに一日の長があったのだったな」


 ルーファウスと彼の中に眠り今は目覚めたもう一人の彼は、妙な感覚故に笑う。今の彼は非常に不安定に近い。特にしっかりと目覚めたのがはじめてという事もあり、彼自身がどう考えれば良いかがわかっていない。

 それに何より、<<原初の魂(オリジン)>>に目覚めた者との戦い方がわかっていない事が大きかった。故に今のカイトを相手にすれば良いのか、それとも過去の彼を相手にすれば良いのかの感覚が掴めていない。特に氷を多用する様になったのは、その顕れと言って良いだろう。


「……」


 すぅ。カイトの行動を見て、ルーファウスは自身の行動を洗い直す。氷を多用するのは、彼らしくない。が、前世が氷を得意として、なおかつ相手がカイトだからこそ、氷を多用してしまっていた。懐かしさがあるからだ。

 そうして、彼は自分の最適解へと過去の自分をすり合わせる。別に拒絶する必要はない。自身の前世で、なおかつ自身であるからこそ、前世の自身がまた誇るべき騎士であった事を理解出来ていた。なら、拒む必要はない。一生涯を騎士として全うした男だ。敬意しかない。そうして、そんな彼が消えた。転移術だ。が、これを普通に使うほど、今の彼は甘くない。


「む……」


 面白い事をしやがったな。カイトは今までと少し違う笑みを浮かべる。ルーファウスがした事は簡単といえば、簡単だ。それは氷に対して転移術を行使する、という行動だ。

 が、だからこそ、これは有効だった。転移術の弱点はいくつかあり、その一つは転移術は空間を歪めてしまう事だ。それ故、とはいえ、転移術が開発されて長い。その対策はいくつも考えられていた。


「無数の転移術を行使して、自分がどこに転移するかわからなくしてしまう……転移術を使う際の常道の一つではある……が……くっ。上出来だ。それでこそ……それでこそ、だ」


 おそらくもうルードヴィッヒも瞬も絶句さえ出来ないだろう。カイトは獰猛に笑いながら、そう思う。それでこそ、自らが率いた伝説の部隊。もう一つの彼の部隊の英雄。そうでなければ、再び連れて行こうなぞと思えるわけがない。


「無数の氷塊を……動かしながら転移させる……だと……?」

「何体居るんだ、これは……」


 見たままを、ルードヴィッヒと瞬が告げる。見たままを、あるがままを告げればそれしかない。ルーファウスは自身と同じ質量を持つ氷像を作ると、それを動かしながら転移術を行使したのである。

 こうすれば、転移術の歪みは自分と寸分違わぬものになり、どの歪みが本物が転移する為の歪みかがわからなくなる。が、これは即ち非常に難しい転移術を同時にいくつも行使する、ということだ。

 決して、軽々しく出来る芸当ではない。転移術を使える者とて何人がこれと同じ芸当が出来るか、という領域だった。が、だからなんだ。カイトはこれを使いこなす者たちを率いていたのだ。これぐらい見切れねば、彼らが信じた勇者になぞなれたわけがない。故に、彼は業を見せる事にする。


「……」


 目を閉じて、カイトは周囲で無数に転移を繰り返すルーファウスの動きに集中する。そうして、少し。彼は目を開く事なく、ルーファウスの斬撃を回避する。


「っ」


 偶然。そんな事をルーファウスは思わない。この程度は出来て当然なのが、カイトだ。原理はわからない。神陰流で気配を読んだか、それともそれ以外の何かか。が、少なくとも動きを読まれたのは事実だ。そうして、カイトはルーファウスの転移術と氷像を織り交ぜた斬撃の中で、しばらく踊るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] やはり凄まじいものだ。ルードヴィッヒはカイト達についてそう思う。何より凄まじいのh▶最後の所が「は」でなく「h」になってます [一言] やはりこの作品は物語が壮大で何度読んでもワクワク…
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