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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1738話 ルクセリオン教国 ――蒼騎士と白騎士――

 ルードヴィッヒの提案により行われる事になった、カイトとルーファウスの模擬戦。それはカイトが優勢のまま、ルーファウスが切り札の一枚である<<ラーヴァ・ソード>>という溶岩の剣を使用するという展開となる。そうしてそのルーファウスから投げつけられた<<ラーヴァ・ソード>>に向けて水弾を投げつけたカイトは、蔓延した水蒸気の中で少しだけ、過去を思い出していた。


「はぁ……はぁ……」

「ふ、二人でやってダメとか……」

「あ、兄上以来だ……」


 倒れ伏した二人の少年騎士を、カイトは見下ろしていた。その二人の名は、ルーファウスとアルフォンス。この当時のカイトの実家であるマクダウェル家と双璧を成す騎士の一族の名門の出で、彼らはその次期団長の弟だった。そんな彼らに、二人の兄、即ちルクスが問いかけた。


「あはは。私でも一人じゃ団長にはダメですよ」

「まー、なにせ伝説背負ってますんで。お前ら全員守れるぐらいの力はあんのよ、オレ」

「あははは……で、どうですか? 団長に挑んでみた感想は」


 笑いながら、地面に突っ伏す二人の弟へとルクスが問う。やはり戦士であれば、どうしても気になるのは相手の実力だ。それが自分が入団した騎士団の団長ともなれば気にならない方が可怪しい。

 しかも先代は父が親友にして戦友と掛け値なしに明言する相手で、兄をしてもう一人の父とまで言わしめた傑物だ。その跡目に多くの、それこそその先代の実子にして義弟からさえ望まれた騎士というのだ。どれほどの人物か見てみたかった。


「……つ、強すぎる……そして、遠すぎる……これが、果て……」

「これが……最強……なんですね……」


 ルクスの問いかけに二人は起き上がり、半ば笑う様に感想を口にする。が、そんな感想を口にされたカイトが、笑った。


「オレが、果て? あはははは」

「違うんですか?」

「違うのですか?」


 笑うカイトに、二人が荒れた呼吸を整えながら問いかける。ここまで圧倒的で、そして彼はかつてたった二人で魔王とその取り巻き達を撃退している。それで最強でなければ何なのか。そうとしか思えなかった。が、そもそもの問題でそこの時点で彼が最強でない、と証明されている様なものだった。故に彼は楽しげにそれを指摘した。


「おいおい……オレは、一人で魔王に勝てたわけじゃないさ」

「それは勿論知っています……レックス殿下と共に戦われて勝った、と」

「だろう? だから、オレが果てなんかじゃない……それに、今度の敵はおそらく奴をも上回るだろう」


 アルフォンスの言葉に、カイトが笑いながら中空を見上げる。聞いたのだ。あの最後の瞬間。自らの国を石に変えた魔王が、何者かに自らの不甲斐なさを詫びるのを。そして、見た。その声に呼び寄せられるかの様に、あの当時の自分達では到底勝ち得ない様な『何者か』の姿があったのを。


「……勝てますかね?」

「勝てるさ」


 敵は強大だ。おそらくあの最後の瞬間に現れた何者かは単身で国なぞ簡単に滅ぼせるだろう。それに集う配下の魔族達もおそらく、同様だ。負けしか無いはずだ。が、どういうわけか負ける気はしなかった。


「今度は、あの時とは違う。この大陸全部の力を集めるんだ」

「……それが出来れば、苦労はしないんですが」

「あっはははは……はぁ……本当にな」


 ルクスのツッコミに、カイトもまたため息を吐いた。敵が優れていたのは、力だけではない。知略にも優れていた。何百年と大陸に平和をもたらした統一王朝は瓦解させられ、魔族の侵攻を受けているというのに人同士の争いも絶えない状況になってしまっていた。上手い手だ、とはカイトが帰還した後の歴史家達の言葉だ。謂わば管制塔を最初に破壊し、統率を取れなくしてしまったのだ。


「ま……なんとかするさ。オレとてマクダウェル家の騎士。初代様、親父……二人の伝説の背を見て育ったんだ。これぐらいの伝説、成し遂げてみせるさ」


 どうしたらこの難局を乗り切れるのか。まだそれはわからない。が、それでも確かに僅かな光明は見え始めていたのだ。なら、それを取っ掛かりに戦い抜くだけだ。そしてそのためには。


「さぁ、休憩は終わりだ。次はどうする? 一人ずつ来るか? それとも一緒か? なんだったら、ルクスと共にやっても良い」

「「……」」


 カイトの問いかけに、ルーファウスとアルフォンスの二人は顔を見合わせて笑う。が、その笑みは闘士の笑み。決まっているだろう、という返答だった。そうして、答えを述べるよりも前に二人が行動に出る。


「ルー!」

「ああ! 団長は俺がなんとかする!」

「兄さんはこっちで!」

「「……」」


 ま、こう来るよな。カイトとルクスは顔を見合わせて笑う。そうして、カイトは双子の騎士との戦いを再開させるのだった。




 かつての事を思いながら、カイトは水蒸気を霧にして包まれる。そうして彼は己の中に眠る、『もう一人のカイト』へと呼びかけた。


『変わるか?』

『ああ』


 聞かないでも、言わないでも答えなぞわかっている。かつて必ず生きて帰ると誓い合った仲間が、そこに居るのだ。なら、かつての団長として発破の一つでも掛けてやらねばならないだろう。


「『敵は強く、道のりは険しく、そして果ては見えない』」

「?」


 水蒸気の中から聞こえてきた声に、ルーファウスは僅かな訝しみを得る。まるで朗々と歌い上げる様に告げられていたのだ。そしてどういうわけか、その声には懐かしさがあった。

 ここ数ヶ月は聞き慣れたカイトの声なのに、懐かしさがある。それは彼にとって不思議な感覚だった。そうして声が終わった頃に霧が晴れガシャン、という鎧が動く耳慣れた音が聞こえてきた。


「!?」

「ふぅ……さぁ、遊んでやるよ」

「その姿は、一体……」


 先程までカイトは何時もの白いロングコートに刀という出で立ちだ。それが一瞬にして、この蒼を基調にした騎士の装いに変わったのだ。驚くのも無理はない。が、何よりルーファウスが困惑したのは、その騎士の姿に見覚えがあったのだ。


「……そんな事は今はどうでも良いし、何よりお前はあまりにオレを甘く見ている。これが何か? そんなの、わかりきった事じゃねぇか」

「!?」


 この様な変貌を遂げる理由は、限られる。その中でカイトが冒険者である事を考えれば、答えなぞ見えたものだ。<<原初の魂(オリジン)>>。それしかなかった。が、それ故にこそルーファウスには困惑があった。


「一体、どうやって!?」

「おいおい……ま、良いがな。戦闘前から準備してた。それだけだ」

「!? そ、それは」

「卑怯? ぷっ……あっはははは! おいおい、ルー……お前、そんなヌルい戦場しか歩いてなかったのか?」

「!?」


 一瞬で自らの前に肉薄したカイトに下から顔を覗き込まれ、ルーファウスは思わず身を固くする。当たり前だ。ただでさえ身体能力のずば抜けたカイトが<<原初の魂(オリジン)>>を使った――実際は使っていないが――のだ。冒険者のランクとしては同格の自身が追いきれなくて当然、とルーファウスは納得する。


「『どうした? オレに力を見せるんじゃなかったのか?』」


 誰かの声が、ルーファウスの耳朶を打つ。誰かの声。そんなものはカイトの声しかない。が、これはカイトであってカイトにあらず。かつてのカイトの声だ。

 そしてそれは今、カイトの肉体を通して放たれている。それはルーファウスの奥底に眠るもう一人の彼、即ち前世の彼を叩き起こす鐘の音だった。


『あぁ……』


 ルーファウスの中に眠るかつての彼が、ついに巡り会えたかつての長の声に歓喜する。そうして、ルーファウスは見る事になる。かつて、彼らが誓い合った最期を。


『……聞いたか?』

『ああ』

『あの人らしいよなぁ……』


 星空を見上げ、かつて一つの騎士団に集っていた者たちが笑いながら涙を流す。あの別れの日から、幾星霜。これはカイトはもはや摩耗した記憶の中に消え去った記憶だ。実は彼はまだまともだった頃に何度か、故郷と連絡を取っていた。


『世界を守る戦い、か』

『この一つ一つの光のどこかに、ここ以外の文明がある……団長の言葉じゃなきゃ、信じられねぇな』

『あの人、嘘だって言葉をマジにしちまうからなぁ……』


 この星のどこかに。この世界のどこかに。この世界群のどこかに、カイトが居る。そして戦っているのだという。そう。実のところ、彼が率いていた者たち。そして彼がかつて友と呼んだ者たちはカイトが久遠の戦いに挑んでいた事を、知っていた。とてつもない苦痛を得ている事を、理解していたのだ。


『……行こう』

『ああ……ここでの戦いが終わったら、次は』

『……どした?』

『次は……どこだろうな?』

『知るかよ……何処だって良いさ。あの人はまだ、戦ってる』


 行かなければならない。どこで再会出来るか、なんてわからない。本当に再会出来るのか、なんてわからない。助けになれるか、なんてもっとわからない。だが、行ってやらねばならない、と思っていた。


『団長……俺達は、どうしますか?』

『どうするか、って?』

『いえ……風迅卿の名を継いだ以上、だん……カイト殿の所へ行くのは、と』


 ルーファウスは実兄にして父の騎士団を継いだルクスへと問いかける。カイトの消失の後、彼の騎士団は有名無実化して解散した。これは仕方がない。

 彼の義弟には彼が率いるべき騎士団、ルクスが率いる騎士団と双対を成す騎士団がある。『蒼の騎士団』はそれを率いる事を拒絶したカイトに特例的に作られた臨時の騎士団だった。彼が居なくなった以上、そのままにしておく道理は無かった。

 ルクスやルーファウスらが所属したのは一つには戦力の集中の意味もあるが、もう一つは彼らの父が戦傷により戦えなくなった為、昵懇の仲であったカイトの義父に預けられたからだ。戦いが終わった以上、『蒼の騎士団』に留まれる道理が無かった。


『……はぁ。ルー……私の答えは決まってるさ。死んだ以上、問題はない……だろう?』

『……』


 そう言うだろうと思った。ルーファウスは僅かに笑う。そうして、彼はこの場の錚々たる様子を見る。


『……団長にも、これを見せたかった』

『あはは……我が王国が誇る四つの騎士団……そのエース達が一堂に会する、か。こうなるのも当然だったかな』

『炎帝が率いる炎刃騎士団』


 ルーファウスの言葉に、ルクスは赤揃いの騎士達を見る。その中心の騎士の顔を、彼らは知っていた。


『氷帝が率いる氷刃騎士団』


 ついで、二人は白揃いの騎士たちを見る。この中心の騎士の顔もまた、彼らは知っている。


『雷迅卿が率いる雷刃騎士団』

『……随分、勇ましくなったものですね』


 雷迅卿。そう言われた男の事を、彼らは知っていた。当然だ。それこそ、カイトが義父と慕った男の異名だからだ。そしてその名を今は、彼の実子にしてカイトの義弟が継いでいた。

 やはり数多くの離別を経験したからだろう。その顔はかつて父を喪い兄にすべてを頼った頼りない少年の顔ではなく、一端の英雄の顔だった。


『そして、我らが風迅卿が率いる風刃騎士団』

『持ち上げすぎです』


 風迅卿。それこそ、ルーファウスの実兄にしてかつてのカイトの友であるルクスの父が受け継いだ名にして、彼が受け継いだ名。そしてその副団長こそが、ルーファウスとアルフォンスの前世だった。


『これらすべてが、『蒼の騎士団』の騎士だった』

『ええ……だから、行くんです。団長の所へ。騎士団の戦いはまだ終わっていない』


 自らの騎士団の団長が一人、戦い続けているという。なら、行かねばならないのは当然だ。仲間なのだ。なのに、一人で戦わせる事なぞ死んでも出来るはずがない。


『……ルー。思えば、貴方も随分と腕を上げましたね。今じゃあ流石に私も二人同時には相手に出来ない』

『……ああ……副団長になって、腕を大きく上げた。あの頃みたいにはいかない』


 兄としての言葉に、ルーファウスは弟として答える。そうして、彼は告げた。


『……団長にも、この力を見せてやるさ。そして、また』

『ええ、そしてまた』


 あの人と共に肩を並べよう。二人は笑い合う。そうして、それから幾星霜。その人生を一切の悔いなく終わらせた彼らは、カイトとの再会を果たすべく旅立つ事になる。そして、ついに。


「……」


 自らの胸の内側で何かが鳴動するのを、ルーファウスは耳にする。そうして、ついに彼の過去世が目を覚ます事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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