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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1728話 ルクセリオン教国 ――裏に気付いた者――

 ルクセリオン教国軍にて制式採用されている刀剣の入手をするべく、暗躍を開始したカイト。そんな彼はその為の手段の一つとして、教国軍による定期的な巡回巡回への同行を行っていた。

 そんな巡回活動であったが、それは兵士達の企みにより、ルクセリオへ水を提供する水源の一つの最奥にある地底湖に置き去りにされるという事態となる。というわけでそんな地底湖に眠っていた『水竜(ウォーター・ドラゴン)』を叩き起こした兵士達に置き去りにされ、いざ戦いという所にかつての親友とその妻が現れ、カイトは彼らと少しの話をする事になっていた。


「へー。これがお前らの言ってた竜なのか。随分とでっかく育ったなー」

「うん。僕らももう来れないと思って心配はしてたんだけど……まさかここまで大きく育ってたなんんてねー」


 よしよし、と『水竜(ウォーター・ドラゴン)』の背を撫ぜてやるルクスはかなり嬉しそうだ。その一方、ルシアはというと『水竜(ウォーター・ドラゴン)』の顔の付近を飛んで頭を撫ぜていた。


「よしよし、元気ね」

『ぐるるるる……』


 やはり昔の事とはいえ、いや、幼少の頃だからこそこの『水竜(ウォーター・ドラゴン)』は二人が自分を助けてくれた恩人だと分かったらしい。魔物と討伐する事は出来ないほどに、この『水竜(ウォーター・ドラゴン)』は穏やかだった。


「あはは。実は今だから明かすけど。五年ぐらいは飼ってたんじゃないかな」

「五年ってと……オレ達と旅に出たのが確か17歳だから……12歳の頃かよ……お前、よくバレなかったな」

「いやぁ……多分家族にはバレてたと思うな。レイは少なくとも知ってるはずだよ。レイも餌やり、してたからね。で、レイの性格を考えれば多分、母さんにはバレてたな。となると、という感じ」


 多分この『水竜(ウォーター・ドラゴン)』が今の今まで生き延びていたのは、自分達が去った後もレイが密かに面倒を見ていてくれたからなんだろうな。三人は内心で、喧嘩別れに終わってしまった青年へ思い馳せる。と、そんな事を考えながらしばらく呑気にしていた三人であるが、それもすぐに話し合いに入った。


「この子……どうしましょう」

「カイト。なんとか出来ない?」

「はい、そう来ると思ってましたー」


 ルクスの要請に、カイトは両手を挙げる。というわけで、カイトは黒白の翼を出現させて浮かび上がり、『水竜(ウォーター・ドラゴン)』の顔の前へと移動する。


「よ。さっきは悪かったな。攻撃しようとしちまって」

『ぐるる……』


 カイトの謝罪に、『水竜(ウォーター・ドラゴン)』はどこか仕方がない、という感じで一つ唸る。先程の間にルシアがカイトはルクスの親友で、彼は謀られただけで攻撃していない事を教えてあげていたそうだ。やはり長年飼われていたからか、普通の魔物よりも随分と知性がある様子だった。


「実はここにはもうルクスもルシアも来れる機会が殆ど無くてな」

『ぐる……』


 どうやらカイトの言葉は理解出来ている様だ。今まで長い間二人が来てくれていなかったからか、そうなのだろうと分かったらしい。どこか悲しげながらも小さく唸る。


「それで、あいつらが来やすい場所に移動して欲しいんだ。ここだとまた何時攻撃されるか分からないだろう?」

『……ぐる』


 カイトの問いかけに、『水竜(ウォーター・ドラゴン)』は一つ納得した様に唸る。


「良し……少し待ってくれ。日向!」

『くー……』


 カイトの生み出した魔法陣から、小竜形態の日向がずるりと落下する。当然だが彼女は今回の旅に同行しておらず、マクスウェルにてお留守番だ。というわけで、時差の関係かお昼寝中だったらしい。そんな彼女をカイトは慌てて抱き抱え、少しだけ揺する。


「日向ー。悪いがちょっと起きてくれー」

『んにゅ……ごしゅじんさま? おかえりー』

「あぁ、まだ帰ってないんだ。ここはルクセリオ近くでな」


 どうやら日向は寝ぼけていた事も相まって、カイトが帰ってきたのだと勘違いしたらしい。なお、何故こんな事が出来るのか、というと彼女や伊勢との間で<<騎龍の契約>>を交わしたからだ。

 本来は龍族を対象とする魔術で竜種には使えない――そもそも伊勢は竜種でさえ無い――のだが、進化をした影響か少し改良するだけでこの適用範囲に含まれる事になったらしい。


『んにゅ……? あ、ルクスとルシアだ』

「おはよ、日向。ごめんね、起こして」

「んー」


 どうやら少しばかり時間が経って、日向も思考が目覚めたらしい。ルクスの言葉に応じながら、馴染みの少女形態を取る。


「で、なにー?」

「ああ。こいつをマクスウェル領内に移動してやろうと思ってな」

「……」


 ひらひら。日向はルクス達が育てた『水竜(ウォーター・ドラゴン)』へ向けて手を振ってみる。それに、どうやら『水竜(ウォーター・ドラゴン)』も同族と理解して尻尾を振り返した。


「……友達になれた」

「そ、そか……まぁ、どこでも良いや。湖に移送してやろうと思う。で、そこに一旦置いておいてやってくれ。後でオレが色々と手配しよう」

「おー。りょーかいです」


 基本的に領内の竜系と狼系の魔物は全て日向と伊勢の支配下に居ると言って良い。まぁ、そう言ってもそれは彼女らが威圧するから統率が取れるのであって常には統率が出来るわけではないのだが、それでも領内を自由気ままに散歩するので縄張りは把握している。この『水竜(ウォーター・ドラゴン)』が居ても安全だろう場所は理解できたのである。


「とりあえず学校の側の湖で良い?」

「学校の側……? んなデカイ魔導学園にあったかな……飼育用の湖は使ってるし……」

「天桜の方」

「あ、あそこか」


 天桜学園が転移した際にまず見えたのが、大きな湖だ。転移後にマクダウェル軍が掃討作戦を実施して、今では魔物は一匹も発生しない状況が整えられている。安全だろう。日向の提案にカイトもまた頷いた。


「となると……ちょっと待ってくれ。一筆したためよう」


 カイトは桜田校長に向けて手紙をしたためる事にする。基本的には性質は温厚でこの様子なら手を出さない限りは安全だろうし、学園の警護は基本は冒険部が担っている。なのでカイトの許可があれば基本は問題ないが、近くなので一応の断りは入れておくのが筋というものだろう。というわけで一筆したためた彼は更にその後、クズハとアウラに向けても手紙を書いておく。


「良し……日向。この二枚をクズハかアウラに渡してくれ。それで全部大丈夫だ」

「んー」


 カイトから渡された手紙を、日向は懐の内側に閉まっておく。というわけでそこらが終わったあたりで、カイトは『水竜(ウォーター・ドラゴン)』を見た。


「良し……ちょっと環境が変わって暮らしにくいかもしれないが、そこは我慢してくれな」

『ぐる……』


 カイトの言葉に『水竜(ウォーター・ドラゴン)』は一つ頷いた。と、そんな『水竜(ウォーター・ドラゴン)』であるが、じっとルクスを見る。


「ん? どうしたんだい?」

『……』


 ルクスを見た『水竜(ウォーター・ドラゴン)』は、ざぷんと水中に潜る。それに三人が首を傾げながら待っていると、何かを加えて『水竜(ウォーター・ドラゴン)』が戻ってきた。そんな『水竜(ウォーター・ドラゴン)』はルクスへと顔を近付けて、加えていた物をルクスへと差し出す。


「これを……僕に?」


 ぽとん、という音と共にルクスの手に落ちたのは、小さな記録用の魔石だ。三百年前程に流通していたもので記録容量はさほどではないが、持ち運びには便利なものだった。というわけで、ルクスはそれを起動してみる。そうして映ったのは、ルクスに似た一人の老人だ。


『……これを、兄さんが見るのは何時になるだろう。そもそも見てくれるのかも分からないが……』


 そこに映っていたのは、ルクスの弟。レイ。正式名称はレイモンドだ。彼が晩年、ここで撮った物らしい。


『……兄さん……そしてルシアさん……一つだけ、恨み言を言わせてくれ。どうして、二人は何も語ってくれなかったんだ』

「っ……」


 レイモンドから発せられた恨み言に、ルクスが思わず辛そうに顔を顰める。が、映像の中のレイモンドは一転、少しだけ苦笑混じりに笑っていた。


『……ごめん、兄さん。これだけは言いたかった……はぁ……ああ。スッキリした』


 一つ恨み言を言えてスッキリしたからだろう。レイモンドはどこか晴れやかな顔だった。


『……兄さんが何時、これを見ているか分からない。私が生きている時点では、まだカイトさんは帰っていなかった。おそらく、私がこれを直接彼に渡せる事もないだろう。そして現状、これを家に遺す事も出来ない。故に、こいつに……ルルレに預ける事にした』


 おそらくレイモンドは自身の死期が見えたからだろう。これを遺そう、と思った様子だった。なお、ルルレというのは『水竜(ウォーター・ドラゴン)』の事で、ルシア、ルクス、レイモンドの三人の頭文字を取ってそう名付けられたそうだ。そうして語られたのは、自身の悔恨だ。


『……どうして、こうなったのか……おそらくこれを兄さんが見ているという事は、カイトさんもまた帰ってきているのだろう。その時、おそらく教国と皇国はあまり良い関係ではないはずだ』

「「「……」」」


 確かに教国と皇国の軋轢の発端の一つは、二つのヴァイスリッター家の軋轢も一枚噛んでいる。それを悔いているのかとも三人は思う。が、何か違う様な気がしたのだ。


『……私は今更、自分が恨み……いや、嫉妬やそういう感情に流され、皇国との関係悪化に一助となった事を嘆く事はない。けれど、ここまで大事になるとは思わなかった』


 これは仕方がない事だ。レイモンドの語りを聞くカイトやルクスは、そう思う。元々揉めてしまったのは彼らが原因だ。それで悪感情を抱かれたのは仕方がない事で、レイモンドとて人である以上それは当然とさえ捉えていた。だがそれをここに遺すという事は、何か意味がある筈だ。三人はそう思う。


『……おそらく、これを頼めるのはカイトさんだけだろう。だから兄さん。もし一人で聞いているのなら、ここから先だけで良い。カイトさんに聞かせてくれ』


 おそらくこれは何か重要な事が語られている。ルクスとカイトは目を見合わせ、一気に顔の真剣さを増す。


『……詳しい事は分からなかったが……いや、おそらく私が老いて満足に動けなくなるタイミングを狙ったんだろう。何者かが教国と皇国の対立を煽っている。その者達はかなり昔から暗躍している様子だった。そして長く時を待てるだけの時間がある』

「「「……」」」


 レイの語った言葉の意味は、あまりにも大きかった。長く時を待てるだけの時間がある。それは、即ち。一つの事を意味していた。そうして、録画を一旦停止したルクスが口を開いた。


「……カイト。どちらだと思いますか?」

「……はっきりとは言いたくはないな」

「……構いません。貴方の推測を聞かせて下さい」

「……お前と同じ、だと思うが」


 あまりに真剣な内容だったから、かつての騎士としての口調で問いかけたルクスに、カイトはおそらく同じ事を考えているだろうと口にする。そうして、視線で会話をした二人は先にカイトが口を開くことにする。


「一つ。英雄にまで至った何者かが死なず、生きている」

「もう一つ……何らかの長寿の種族が、この国の裏に居る」


 この意味がどれだけ大きいのか。カイトはこの記録がここに沈められていた本当の理由を理解する。反異族を国是とするこの教国の裏に、異族が居る。レイモンドはそう言っていたのである。


奴ら(死魔将)……だと思うか?」

「あり得ます。が……少なくとも私が居た頃には居なかった事ははっきりと私が明言しましょう」

「オレ達が戦いを終わらせた後に、ここに逃げ込んだ? あり得るか?」

「……」


 どうなのだろうか。ルクスはカイトの言葉を考える。確かに、筋として考えればそれが正しい。が、どうしても解せない事がある。そんな彼に、カイトは更に告げる。


「時期から考えて、まず間違いなくオレ達……いや、はっきりと言えばオレが居た頃に奴らが密かに潜り込めた可能性は皆無と言って良い。あの時まではオレは教国に足繁く通っていたからな」

「……ですね。その後すぐにこの中枢まで潜り込む……確かに、彼らなら不可能ではないのでしょうが……」


 出来るか、と言われればかなり微妙と言うしかない。あまりにも早すぎる。それこそ、ルクスが居た頃から蔓延していなければおかしいほどの早さだ。


「……すいません。先にはああ言いましたが、正直彼らの暗躍に絶対に気づけたかというと微妙です。が、私は国中を回った。決して、異族を排斥する者達が多数を占めていたわけではない事だけは事実です」

「……まぁ、悔やんだ所で過去は変えられんし、どうにもならんさ。なら、今だけを見て進もう。とりあえず、残りを見ちまえよ」

「……はい」


 カイトの言葉に、ルクスは気を取り直す。が、残っていた言葉は少しだった。


『……すいません。カイトさん……貴方達が居ないでも大丈夫と啖呵を切ったわけですが……いえ、今更、謝った所でどうにもならない。だから……ただ一つだけ、言わせて下さい。どうか、お願いします。私の愛したこの国を……宜しくおねがいします。もし、私の力が必要なら、何時でも呼んで下さい。兄さんと……貴方と共に、カイトさんの下に馳せ参じます』


 レイモンドはそれを最後に、言葉を切った。それはまごうこと無き、和解の言葉。全てを終わらせる言葉だった。そうして、その言葉が終わった後、しばらくは誰もが沈黙を得る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1729話『ルクセリオン教国』

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