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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1722話 ルクセリオン教国 ――暗躍――

 久秀達が暗躍を開始していた一方、その頃。カイトはというとホテルへと戻ってユスティーツァのノートについてを話し合っていた。


「と、いうわけじゃ。やはり最後の一冊があるか無いか、というのは重要じゃろう」

「ふむ……ティナ。一つ聞きたい」

「なんじゃ」


 カイトの要望に、ティナはその先を促す。それを受け、カイトは道理といえば道理を問いかけた。


「教国の現状の魔術の技術水準はどの程度と目される?」

「ふむ……まぁ、それを話さねば話は進められぬか」


 ユスティーツァの研究ノートをどうするにせよ、兎にも角にも前提としてこれを保管しているエリアまでたどり着いた上で、封印措置などを回避しなければならないのだ。であれば、まず考えるべきなのはこれだった。


「……おおよそ、余に対処不可能なレベルではない。ま、それはこのエネフィアのどこであれ変わらぬので特に意味はないがのう」

「で、最大の問題といえばお前はスニーキングには向かない、って所だな」

「それのう。まぁ、魔術による隠密などを使えば余も向かえぬ事は無いが……」


 いつもいつも言われている事であるが、ティナは魔術師。後方支援だ。確かに魔術師として優れているのでスニーキング・ミッションも不可能ではないが、やはり魔術となると万が一魔術無効化の罠が仕掛けられていた瞬間、一発で終わりだ。そしてこういった罠は仕掛ける上で基本中の基本とされている。必ず、教国側も一つは設けていると考えるべきだろう。


「余が行く場合は一度は誰かが先行して確認せねばならぬじゃろう。本末転倒じゃな」

「だろうな……となると、順当に何時ものパターンをやるしかないか」

「じゃろう」


 何時ものパターン。それはカイトが潜入工作員として施設に潜り込む場合でのやり方だ。とはいえ、今回は彼お得意のバレても口八丁手八丁で切り抜けるやり方ではなく、バレない事を前提としたやり方だ。というわけで、カイトは自身の為に開発された幾つかの装備を並べる。


「持っててよかった光学迷彩」

「電磁メタマテリアルなんぞ、地球の科学に余の錬金術でも無ければ量産出来んからのう」


 ケタケタと笑うカイトに、ティナもまた笑う。メタマテリアル、というのは人の手で創造された物質の事を示すが、光学的に負の屈折率を持つメタマテリアルの事を指す事が多く電磁メタマテリアルとも言われるのであった。そしてここではその負の屈折率を持つ物質を、二人は指していた。と、そんな楽しげな二人に、灯里は少し興味深げに覗き込む。


「メタマテリアルなんてよく持ってるわねー。一応、最近実用化の道を付けれたってニュースは見たけど……これがそれ? 見えてる様に思うんだけど」

「さぁ……それは知らんが。某社が光学迷彩として試用したい、ってんで、ウチに試料が提供されたんだよ。彼らも量産は出来るが、大量生産の体制を整えるのに時間掛かるから、ってな。これはそれを使った装備の入った収納用の魔道具」

「へー……で、結局どうだったの?」

「あぁ、光学迷彩の開発? まぁ、順調は順調らしいぜ?」


 完全に興味本位の灯里の問いかけに、カイトは若干笑いながら結論を明言する。そんな彼の言葉に、灯里は若干目を見開いて驚きを露わにした。


「へー……意外ー。回折型の光学迷彩って現実的には一番実現可能な光学迷彩だけど、光を迂回させるって事は逆に言えばこっちからも何も見えなくなるってわけだからねー。よくその問題に対処出来たわね」

「まな。迂回型の難点だ」

「そもそも、可視光を迂回させれば外からは見えなくなるのは当然じゃが、迂回させれば中にも光は入って来ぬ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いておるというのはまさに言い得て妙。向こうから見えるから、こちらからも見える。こちら側から見えねば向こうからも見えぬ。こちらから見えて向こうから見えぬ、というのは流石にご都合が過ぎるからのう」


 驚きを露わにした灯里に、カイトとティナもまた言外に同意する。これについてはカイト達に試料を持ち込んだ某社とやらも分かっていたが、それに対処する方法を考える為に量がほしいとの事であった。というわけで、灯里は興味深げに問いかけた。


「で、どうやったの? 迂回型の時点で対処無理なんだから、何か考えてるんでしょう」

「そこは知らん。向こうだって軍事機密だからな。メタマテリアルの提供をした所で驚いていたぐらいだ。が、流石にそれ以上はな」

「まー、当然かー……で、それはそのサンプルを錬金術で量産した、と」

「そゆこと」


 灯里の問いかけにカイトは笑いながら頷いた。とはいえ、やはりサンプルがある以上、灯里としてもカイトが何もしていないとは思っていなかった。


「ま、それでもサンプルがある以上、調べてんでしょ?」

「うむ、当然じゃ……まぁ、このメタマテリアルはよく出来ておる。電流を流せば可視光ならほぼ迂回させような」

「完璧じゃない。電力次第じゃ完成形と言って良さそうね」

「うむ……まぁ、そも回折型の時点で中から外が伺えぬのでそれ時点で大問題じゃがのう」


 感心した様に何度も頷く灯里に、ティナもまた科学者としての見地から感心した様に頷く。そうして、彼女は笑いながら対処とやらを告げた。


「ま……ぶっちゃければこれを使って光学迷彩を作るのは無理じゃろ。なのでこの試料を提供した某社はドローンを使う事を考えてのう」

「あ、なるほど。中から見えないのなら、外に目を置いておけば良いのか。光は通さないけど、電波を通さないわけじゃないだろうし」


 なるほど、納得。灯里は昨今のドローン技術の発展を鑑みて、数世代先を行くだろうアメリカの科学技術であれば十分に見付かりにくいドローンを作れるのだろうと理解した様だ。そしてカイト達もこのメタマテリアルの見事さから、そうだろうと推測していた。そんな二人に、灯里が問いかける。


「ということは、ドローン持ってきたの? それともユリィちゃん?」

「いや、こやつにドローンなぞ必要無い。そも、熟練の戦士であればミリ単位の物であれ気配を察するからのう」

「へ?」


 まさか、とカイトの対処を理解して、思わず灯里が頬を引き攣らせる。が、カイトならばできそうだ、と思うのだから始末に負えなかった。


「もしかして……完全に暗闇で動くの?」

「おう。気配を読んだり消したりするのは、<<神陰流>>の得意分野だ。宗矩殿か石舟斎殿でも無いと、本気で隠れたオレの気配は読めん。で、電気は電池を魔石で増幅。可能な限り魔力を抑えた一品となっております」

「……」


 相変わらずぶっ飛んでるわ。灯里はおそらくカイトが本気で暗殺者となれば大抵の者は逃げられないだろう事を理解して、ただただ呆れ返る。これこそ、地球の科学力とエネフィアの魔術技術を併せ持つカイト達の面目躍如であった。


「ティナ。悪いが、こいつのチェックと最終調整を頼む」

「あいよ。まぁ、バレぬ様に動くので数日必要じゃが……問題はあるまいか」

「多分な。こっちもこっちで色々とやらないとダメだしな」


 現在、ヒースコートから玉鋼についての調査や、偶然に得たソーニャの事など色々と動いている。なのでユスティーツァの研究ノートの回収もその中で可能なら行う、という程度だ。

 彼女の研究ノートにはイクスフォスの情報だけが記されているわけではない。最悪は彼の情報さえ抹消出来れば問題無い。この情報を基に何かしらの魔術を開発されると、皇族を根こそぎ殺される可能性があるからだ。と、そうして装備のチェックをティナに依頼したカイトが、おもむろに立ち上がった。


「む?」

「あれ? どこ行くの?」

「ちょっと夕涼み……と、言いたいんだがね。ちょっと気配を読みたい」

「何か気になる事でもあるのか?」


 カイトの言葉に、ティナが問いかける。それに、カイトは一通の封筒を取り出した。


「宗矩殿……そろそろ仕掛けてきても不思議はない。気配があるなら、警戒も出来る。勿論、彼の気配を読むのは容易ではないが……もし『挨拶』ぐらいしてくれるのなら、分かるからな」

「なるほど……確かに、そろそろ彼奴らも動いて不思議はない。が、いたずらに動きを促さぬ様にな」


 ティナとてカイトが宗矩から果たし状を受け取っている事は知っている。そして現状、カイト達は即座に<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>からの支援を受けられるわけではない。

 仕掛けるのなら今、と言っても良いだろう。というわけで、カイトは窓からバルコニーに出ると、気配を隠して一人屋上に跳び上がる。


「ふむ……」


 遠くから自分を見る影は幾つかある。当然だが、カイト達を招いた教国とて密かに彼らを監視している。そして現状、それだけだ。それに、カイトは僅かな安堵を浮かべつつも、一転気を引き締める。


(いや……おそらく宗矩殿が動くとなると、それは久秀が動くと同時だ。なら、奴が止める可能性は高い。となると……来ていてもわからんか)


 カイトは前世において、久秀とは知り合いだ。かなり親しくしていたと言っても良い。なので彼が止めるのだろうとは察するに余りあり、そして同時に同じ師である信綱よりも何かと生真面目な彼は軍事行動であれば自己を抑制するだろう、とも聞いていた。おそらく襲撃を察せられる様な事はしないだろう、と考えた様だ。


(……久秀。お前は何を考えている……? まぁ、どうせ裏切り、と楽しげに言うんだろうがね)


 屋上に寝転がったカイトは、僅かに久秀の内面を推測する。お互いに現役時代には時代を先取りした、と言われる事を幾つも成したのだ。故にか彼の内面は僅かにだが理解出来たらしい。


「死ぬなよ、久秀。三度目の裏切りは、許さんからな」


 月に伸ばす様に手を挙げたカイトは、そう小さく呟いた。これを歴史を知る者が聞けば疑問に思うのだろうが、彼にはこれで良かった。と、そうして一つ月を見ながら久秀に思い馳せた彼であるが、そのまま右耳の横に魔法陣を生み出した。


「……あー……()()()()? 聞こえるか?」

『おや……これは珍しい。君から連絡を取ってくるとはね』


 カイトが連絡を取った相手は、地球においてアーサー王伝説に記される伝説の魔術師マーリン。現在の地球においては彼のひ孫のマーリン・セカンドがいるが、こちらは物語によるとヴィヴィアンによって塔に封ぜられた初代マーリンの方だった。


『どうしたんだい? 君がわざわざ私に連絡なんて』

「いや、あんたに用事、ってわけじゃないんだが……イクスは居るか?」

『彼? ああ、居るよ。代わろうか?』

「頼む」


 マーリンの問いかけに、カイトは一つ頷いた。彼が起動していたのは、マーリンと連絡を取り合う為の魔術だ。イクスフォスは彼自身が言っていた通り、目的の為に常には様々な世界を移動している。なので連絡を取れない可能性があった為、彼の拠点に滞在しているマーリンへと連絡を取ったのだ。


『よ、カイト。何?』

「ああ。ちょっとトラブっててな。少し聞きたい事が出来た」


 何時も通り呑気な返事をしたイクスフォスに、カイトは現在教国に居て、ティナがユスティーツァの研究ノートを見付けた事、一冊見付からない事などの現状を伝えていく。そうして一頻り語った後、彼が問いかけた。


「というわけなんだ。ユスティーツァ殿の最後の研究ノート。それについて何か知らないか?」

『あー……そういえばノート持ってたなぁ……』


 イクスフォスが思い出したのは、自身が中央研究所を脱出した時の事だ。どうやら案の定、ユスティーツァは最後の研究ノートを持っていたらしい。とはいえ、そんな彼は苦い顔で首を振る。


『ごめん。俺にはわからね』

「いや、そりゃ分かってるよ。ユスティーツァさんには聞けないのか?」

『んー……ちょっとしばらくは無理、かな。でも聞ける様になったら聞いてみよっか?』

「頼んで良いか? 最悪、あんたもティナも纏めて全滅だぜ?」

『それ、困る。マジで困る。最悪は俺も介入しよっか?』


 流石に自分の身の安全はともかく、ティナが巻き込まれるのは彼としても承服しかねた。そんな彼の問いかけに、カイトが逆に問いかける。


「挨拶回りとかは良いのかよ」

『ああ、それはもう終わったよ。今は皆一緒に待ってるとこ。そっちがどれだけ経過したかはわかんないけど……こっちは大体半年ぐらい経ったから。今はそっちとの同期を取ってる所』

「そか。まぁ、こっちは気長に待ってるぜ、お義父さん?」


 なら、今は本当に暇をしているだけなのだろう。カイトはそう理解する。そうして笑ったカイトに、イクスフォスもまた笑った。


『あはは。ああ、すぐに行くよ……で、手助けは良い?』

「まぁ……最悪の万が一の場合だけ、頼むよ。一応、今は二冊に対処出来てる。最後の一冊だけどうしようもなくてな」

『分かった。分かり次第、連絡を入れるよ』

「ありがとう」


 カイトはイクスフォスの申し出に礼を述べると、通信を切断する。そうして、彼は最後の一冊についての調査を密かに開始させると、改めて部屋に戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1723話『ルクセリオン教国』

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