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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1718話 ルクセリオン教国 ――武器屋――

 ルクセリオン教国ルクセリオ支部に所属するローラントよりの紹介状を手に、ヴァイスリッター家の邸宅からほど近い『ゲイツ鍛冶屋』という老舗の鍛冶屋へとやって来ていた。そんな彼は親子で鍛冶屋を経営しているヒースコートという男に刀を預けると、彼らが作った武器を見せてもらうべくそのまま『ゲイツ鍛冶屋』に留まっていた。


「うーん……色々とあるなー」

「えっと……お客さん、そういえばウチには刀は無いですけど、大丈夫ですか?」

「ん? ああ、そう言えば名乗ってなかったな。オレはカイト。分かってると思うが冒険者だ」


 そう言えば名乗らなかったな。カイトはそう気付くと、シムに向けて一応の自己紹介を行っておく。そうして彼はそのまま、とりあえずの品揃えを聞いてみる事にした。


「やはり片手剣が多いな。騎士達もよく来るのか?」

「あ、ウチは昔から<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>の団長さんに向けて武器を卸してますので……その関係か、時々騎士の方も」

「そうか……素材、何か分かるか?」


 元々鍛冶屋を探していたのは、素材の流入等についてを調査する為だ。なのでひとまずそれを知る為にも、基本的に使われている素材を知る事にしたらしい。


「あ、そこらの武器は基本は鋼ですね。一般的な冒険者さんがお求めやすい物になっています」

「鋼か……ここらの両手剣。手にしてみて良いか?」

「良いですけど……魔力は通さないで下さいね」

「分かっているさ」


 カイトはあくまでも武器を求める者として、シムに許可を得ておく。とはいえ、一人の剣士として純粋に剣に興味があったのは事実だ。というわけで、カイトは乱雑に置かれていた一本を適当に見繕って手にしてみる。


「ふむ……少し重いか? いや、両手剣としてみれば少し軽い……か」

「ウチは鋭さが売りなので」

「重さで叩き切るより、鋭さで切り裂けるのか。多くの名剣がそうだ。良い腕を持つ証拠とも言える」

「ありがとうございます」


 ふっ、ふっ、ふっ、と数度両手剣を軽く振るってみながらの称賛にシムが礼を述べる。刀よりは重いが、両手剣としては軽めだ。瑞樹の持つ両手剣と比べても少し重いぐらいだろう。

 彼女の両手剣は村正流がベースなので、刀に近いし、女性という事もあって切れ味を魔力で補佐している。結果、軽めの拵えになっていた。それと比べられるぐらいなので、やはり切り裂く品なのだろう。


「とはいえ……やはり重いな」

「どうしても、刀よりは肉厚な事だけは避けられませんからね」

「ああ……もう少し軽めの剣はあるか?」

「そうですね……」


 ちょうど今は誰も来そうにないか。そう考えたらしいシムは立ち上がり、カイトの望む剣を見繕う。


「これとかはどうですか? 女性向けの両手剣になるんですけど……」

「素材は?」

「鋼です。代替品としては悪くないと思いますよ」

「ふむ……少し貸してくれ」

「はい」


 カイトはシムから両手剣を受け取ると、再び数度振るってみる。すると確かに、彼の言う通り先程より随分と軽かった。


「ん……良いな。この程度の重さがオレとしてはちょうど良い」

「じゃあ、それをお買い上げで?」

「いや、流石にちょっとまってくれよ……これと同じぐらいの重さで素材違いはあるか? 鋼は流石にきつくてな」

「代替品でも結構かさみますよ?」


 カイトの問い掛けに、シムは笑いながらもその要望に応じてくれる。ここらは客が求める所に応ずるだけだ。


「金なら問題ない。最悪は口座から下ろすだけだ。武器に金払いの悪い奴は生きてはいけん。なら、代替品だろうと最良の物を求めるだけだ」

「……」

「どうした?」

「あ、いえ。すいません。ウチの父ちゃんも同じ事を言ってたんで……少しびっくりしただけです」


 カイトとしては武器に金銭に糸目をつけたつもりはないし、つけるつもりもない。が、どうやら彼らの一族にとっても良い言葉だったようだ。一瞬呆気に取られたシムであったが、気を取り直してカイトへと一本の両手剣を差し出した。


「そうか……これは?」

「表面にオリハルをメッキに使った物です。中は鋼です。強度は高いですよ」

「ふむ……」


 差し出された剣をカイトは数度振るう。が、少し腕が取られる様な感覚があった為、しかめっ面を浮かべる事となる。


「うーん……これはダメだな。というか、これ。バランス崩れてないか? 先端が過重になってる」

「はぁ……あ、本当だ。少し先端が重い……」

「そいつぁ、多分遠心力で切る奴向けの剣だ! ほら、前に南の方から来た奴が数本作ってくれって頼んだのあったろう!」

「ああ、あれ!?」


 どうやら二人の会話を奥でヒースコートが聞いていたらしい。彼の言葉にシムが納得していた。そんなシムに、カイトが興味深げに問い掛ける。


「そんな流派があるのか」

「はい。小柄な人が使う流派らしいですね。と言っても、ここらは基本ヴァイスリッター流を筆頭にした各騎士団の剣技が主流なので……あまり有名じゃないです」

「へー……ハーフリング達とも違う剣技かな……興味深いな……」


 やはり三百年もあれば色々と新しい流派も出来ているもんだ。カイトは新たに生まれていた剣技について興味深げに聞いていた。と、そんな彼であるが気を取り直して改めて首を振る。


「とはいえ、悪いが流石にそういう事ならオレには扱えん。重さは良いが……流石にな」

「あはは。ごめんなさい。少し別に分けますんで、少し待って下さい」


 シムはカイトから受け取った両手剣を別に分けておく事にしたようだ。一旦店の棚に立てかけておいた。それを見ながら、カイトはそろそろ良いかと切り出す事にした。


「おまたせしました」

「ああ……そうだ。玉鋼とかは無いのか? やっぱりあれが一番馴染みが良くてな」

「玉鋼ですか? 玉鋼の両手剣の在庫、どうだったかな……」


 カイトの問い掛けに、シムがどうだったかな、と店に出ているリストを確認する。と、そんな彼のつぶやきを、カイトは聞き逃さなかった。


(確認出来る、か……つまり定期的な流入がある、ってわけか。とはいえ、良く求められてるわけではなさそうだが……いや、この店の顧客の事を考えればさほど不思議はないか)


 これは中々に気になる話だ。以前の夜会で言及されていたが、教国には良質な鉄の取れる鉱山が幾つもある。これはルクスの情報なので確かだ。それらの一年あたりの産出量や使用量を考えた場合、少なくともまだ枯渇はしていないはずだ、というのが皇国諜報部の推測だった。


(ふむ……わざわざ玉鋼を使う理由は無いはずなんだがね。それでも手に入る、って事は定期的にどこかが玉鋼を精製している、というわけか……中々に面倒な話かもしれんな……)


 さて、どうしたものか。カイトは一度店の中を改めて確認する。が、やはり見た限りは鉄や鋼の武器が多く、玉鋼の武器は多くない。


(つまり、鉄の枯渇が起きているというわけではない、というわけか。それでも玉鋼をわざわざ、ね……)


 これはいよいよ刀鍛冶が中津国に居る可能性があるな。カイトは僅かな苦味を顔に浮かべる。と、そんな事を考えていた彼であるが、その一方でシムがリストの確認を終えていた。


「あ、数本ある……父ちゃん! 玉鋼の両手剣ってどこ置いたっけ!?」

「あぁ、あれか! あれなら三番の棚に置いてないか!」

「あ、分かった! 見てみるよ!」


 ヒースコートの返答に、シムが一つ頷いて棚を見る。そうして、一本の両手剣を手に取った。


「ありました。玉鋼の両手剣です」

「お、マジか。物は試しと言ってみるもんだな。玉鋼があるとは思わなかったよ」


 カイトは素直な驚きを顔に出し、シムから玉鋼の両手剣を借り受ける。そうして間近に見てみた両手剣だが、やはりカイトも手にしてみる限りでは玉鋼の両手剣に間違いなさそうだった。そんな彼の言葉に、シムが首を傾げた。


「そうなんですか?」

「ああ。玉鋼は基本、中津国や皇国のマクダウェル領ぐらいでしか使わない素材でな。精錬の方法や魔力との相性から刀の素材としては最適なんだが……精錬が手間になるからあまり使われないんだ。高くなる。もっぱら、刀鍛冶専用と言っても過言じゃない」

「へー……」


 やはり色々な国を旅している冒険者は違うんだな。シムはそんな感じでカイトの言葉に頷いた。そんな彼に、カイトは試しに問い掛ける。


「玉鋼、定期的に手に入るのか?」

「どうでしょう。ここらの仕入れ、父ちゃんと兄ちゃんがやってるんで……僕はあまり。ただ確かに玉鋼の武器は少し高めですね」

「そうか……」


 まぁ、そこまで上手くは進まないよな。カイトとてシムが仕入れまで担当している可能性は流石に無いだろうとは思っていた。なので特に気にする事でもなかった様だ。とはいえ、費用が若干高いという事は即ち、精錬の方法としては中津国と同じと考えて良いかもしれなかった。


「ふむ……やっぱり一番玉鋼がしっくり来るな。後は重さと振り心地、握りだけなんだが……」

「あ、グリップなら交換出来ますよ。若干、手数料は頂きますが……お安いですよ?」

「お、マジか」


 数度玉鋼製の両手剣を振るうカイトは、シムの言葉に喜色を浮かべる。ひとまず持ってみた限りではやはり刀とは使い心地は違うものの、一時的な代替品としては問題なさそうだった。無論、最悪は彼の場合魔力で刀を編めるのでそこまで本気になる必要はないが、それでも真剣に選んでいた。


「ん。これが一番しっくり来る。こいつにしよう」

「大丈夫ですか? さっきも言いましたけど、玉鋼なんで少し割高になりますけど……」

「ああ。一番しっくり来るのはこいつだ。素材としてはキツイんだが……まぁ、昔を思い出して出力抑えめでやるのも悪くない。刀は流石に置いてないだろ?」

「あはは。流石に刀は……僕も実は今回見せてもらうまで初めて見た感じです」

「そうか」


 刀があればそもそも刀を勧めているだろう。であれば、この言葉に嘘は無い。カイトはそう判断すると、一つ頷いて改めて武器を確認する。そうしてとりあえずの代替品を手に入れた彼であるが、そのまま申し出る。


「鞘は選べるか?」

「鞘ですか? まぁ、戦闘で失われた方向けに販売してますが……」

「すまんがそっちも頼む。なるべく刀と同じ使い方をしたくてな」

「戦闘……するつもりなんですか?」


 僅かに驚いた様子でシムはカイトへと問い掛けた。これに、カイトは一つ笑った。


「ま、それは時と場合によりけり、って所だが……型稽古とかはする。となると鞘も使う」

「はぁ……」


 剣技の流派に応じて形稽古等が異なってくるのは流石にシムも鍛冶師の息子として分かっていた様だ。なのでそんな流派もあるのか、という様な感じで両手剣向けの鞘をカイトへと提示する。


「鞘だとあの棚にあるサンプルと同じ物を仕入れています。流石に鞘はワンオフの一品物じゃない限りウチじゃあ作ってないです」

「そうか……まぁ、代替品だからそこまでは求めてない。とりあえず、って所で良いか」


 これは完全にカイトの趣味と言える。というわけで、一通り鞘を見せてもらって手頃な重さの物を買う事にする。


「……ん、これで良いか。じゃあ、このセットで頼む」

「はい。じゃあ、代金の計算をしますから、少し待って下さい……あ、そうだ。グリップの交換とかは大丈夫です?」

「ああ、そちらは問題なかった。このままで良いよ」

「わかりました」


 それなら大丈夫か。カイトの返答にシムは鞘と両手剣の費用を計算する。そうして、カイトは代替品となる両手剣を腰に帯びて『ゲイツ鍛冶屋』を後にする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1719話『ルクセリオ教国』

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