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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1715話 ルクセリオン教国 ――ホタルの生まれた場所――

 すいません、投稿送れました

 ルクセリオン教国中央研究所。元マルス帝国の中央研究所でもあったそこの最深部へ向けて教国が誇る<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>と共に進んでいたカイトであるが、それもついに最下層へとたどり着いていた。そこではかつてホタルの様なカスタム機の中でも特に重要なゴーレムやその他秘匿性の高い研究がされており、そこを守っていたのはホタルを生み出した者達が改良したゴーレム達だった。そうしてそんなゴーレム達との戦いを終わらせた所で、ルードヴィッヒ率いる本隊がやって来た。


「ルー。カイトくん、瞬くん……無事だな?」

「はい」


 基本的に最前線の最前線を進んでいるのはカイト達三人だ。それ故に最も危険があるのがこの三人であり、ルードヴィッヒも殊更気にかけていた様だ。そんな彼の問い掛けに、カイトは自らが鹵獲せしめた一体を後ろに頷いた。


「それは……」

「この階層を守っていたゴーレムです。ユリィの奇襲が上手くいったので、鹵獲しました」

「なんと……」


 ほぼ無傷で鹵獲したと言って良いカスタマイズド・カスタム機にルードヴィッヒが思わず瞠目する。少なくとも今までの戦いを見る限り、無傷での鹵獲がどれだけ難しいかはわかろうものだ。それを難なく成し遂げたのだから、カイトの腕がどれだけかは察するに余りある。


「いや、それなら幸いな事か。うむ……これで、この研究所は全て終わりか? カイトくん。この研究所に他に隠しエリアは?」

「ホタル」

「はい……」


 カイトの要請を受け、ホタルが早速データベースへの接続を開始する。そうして、しばらくの後に彼女が口を開いた。


「研究室のデータベースにアクセスを試みた結果、隠し部屋はこれ以上無いとの事です」

「研究室?」

「はい。この階層に到達した事で当機が所属していた研究室との間で接続が可能になりましたので、そちらを迂回しました」

「なるほどな……」


 元々は終焉帝の最側近を作っていた研究室だ。おおよそ全ての研究者には最上位の権限が与えられており、結果それと同程度の権限を与えられていた――研究の補佐の為――ホタルはそちらのアカウントで迂回して接続出来た様だ。

 どうやら研究室の主任クラスの権限を持っていたらしく、誰も妨げる事のない現状では普通にそちらを使ってハッキングが可能だったそうである。と、そんな彼女がカイトの通信機に直接接続し、報告する。


『少しお時間を頂ければ、主任研究員のアカウントを用い本研究所を全て掌握する事も出来ますが……』

『ふむ……』


 確かに今後を考えればこの研究所をきちんと把握しておく事は重要かもしれない。カイトもホタルの提案にどうするか、と少しだけ悩む。そうして数瞬の後、彼が結論を出した。


『いや、止めておけ。下手に向こうにそんな事が出来ると分かる必要はないだろう。もし万が一、今後何かがあって教国に攻め入る場合もあるかもしれん。それを考えれば、黙っておいた方が得だ』

『了解です』


 やはりまだカイトとしては教国を信じられるわけではない。個々人を信じるのと国を信じるのは話が違うのだ。そこから、もし万が一何かがあった場合にこの研究所を確保出来なくされてしまうのは困ると判断したようだ。


「あ、すいません。これ以上、階層は無いようです。更に下には私やルーファウスが飛ばされた実験室も幾つかある様子ですが……」

「そちらは後にするべきだろう。君達が入った事で問題は無いとは思うが……一つひとつ確実に進んでいこう」


 カイトの問い掛けに、ルードヴィッヒは首を振ってその必要がないと明言する。そうして、カイト達はそんな彼の指示を受けてこれで本当に増援が終わりかを確認した後、この階層にも簡易の陣地を設営する事にするのだった。




 さて、陣地の設営からおよそ一時間。カイト達は改めて最下層の調査に乗り出す事になっていた。そんな中、彼はルーファウスや<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>の騎士達と共にホタルの持つ見取り図と現在の状況のすり合わせを行っていた。


「ふむ……」

「カイト。少し聞きたいんだが……良いか?」

「ん?」

「いや、何故下から上に調査を進めるのか、と思ってな」


 見取り図を見て部屋を確認していたカイトであるが、瞬の言葉にふと顔を上げる。それに、彼は少し事情を語る事にした。


「いや、そうじゃないぞ? 上は上ですでに他の騎士団から増援が来て、そちらで調査をしてくれている。オレ達は先遣隊で、更にそこから最下層の調査も担っているだけだ」

「ああ、なんだ。そういう事なのか」

「当たり前だろ? オレ達はある程度の安全は確保したが、今回は最下層まで到達を優先している。今回、オレ達の更に背後には教国があるからな」


 瞬の問い掛けを受けたカイトはある意味では当然といえば当然の内容を告げる。基本的にカイト達の様に資源も人材にも限りがあるのに対して、やはり国家がバックボーンに入るとそこらがどうにでもなる。結果、カイト達は先に進み他の兵士達に彼らが掃討した場所の確認をしてもらえる様になっていたのである。


「ま、そういうわけで……良し。この部屋も確認出来た。次だな」

「ああ……良し、次だ」

「「「はっ」」」


 カイトの報告を受けて、ルーファウスが他の騎士達に号令を掛ける。そうしてしばらく同じ様に研究室の確認を行い、残す所最後の一部屋となった。それはこの最下層の中でも最大の部屋の一つであり、同時に最も重要な物が開発されていた場所の一つだった。


「ここ、か」

「はい……ここが当機が開発されていた第零ゴーレム開発室です」


 どこか懐かしげに、ホタルはカイトへと自身が開発された部屋を指し示す。ここについてはホタルや先の六番機の性能を鑑み、最後にされていた。もし万が一まだ生き残っている姉妹機や試作機が残っていた場合、単独では危険と判断されたからだ。


「ルードヴィッヒさん。カイトです」

『ああ、カイトくんか。どうした?』

「指示されたエリアの調査が終わりました。後は残す所、大部屋二つだけです」


 やはり最下層には幾つかの大部屋があったらしい。その中でもカイトはホタルの事もあり、この第零ゴーレム開発室に割り振られていた。


『そうか……こちらも今、魔術開発室の前に居る』

「そちらに何か異変は?」

『いや、無い。そちらは?』

「いえ、こちらもありません。人員、資材共に損耗はゼロです」

『そうか』


 カイトの報告に、ルードヴィッヒは一つ頷いた。なお、カイトが何故こういった統率を取っているかというと、どうやらお手並み拝見、という所だったらしい。

 ルーファウスから報告は受けていたが、自分の目でもどの程度か見たかったそうである。勿論、万が一が起きたりしない様に補佐の人員はきちんと付けている。


『わかった。では、タイミングを合わせて突入する。今から五分後だ。危険があるとすれば、そちらだと思われるが……』

「ええ、承知しています。そのために、こちらには主力が居るわけですからね」

『ああ。十分に気を付けてくれ』

「そちらも、お気を付けを。こちらに全員主力が居ますので……万が一の場合には堪える事を優先して下さい。ルーファウスを即座に向かわせます」

『わかっているさ。これでも君よりも三倍は長く戦場に立っている』

「失礼しました」


 カイトは笑うルードヴィッヒに一つ謝罪する。それに、ルードヴィッヒも一つ笑った。


『いや、構わないさ……では、そちらも気を付けてな』

「はい……総員、ルードヴィッヒさんから号令が出た。これより五分後、突入する。ホタル、いつでも扉を開ける様に準備だけは進めておいてくれ」


 ルードヴィッヒの号令を受けて、カイトは改めて全員に突入の指示を出す。そうして、五分。カイトは改めて号令を下した。


「ホタル」

「了解」


 カイトの指示を受け、ホタルが自身が遠隔操作で生まれた部屋の扉を開く。そうして、ルーファウスが盾を構えて一気に内部へと突入した。


「……問題無し」


 盾を構えなにもない事を確認したルーファウスは、少し警戒しながらも後ろへとそう報告する。それに、カイトもまた部屋へと入った。

 そうして見えた室内は、言ってしまえばロボット開発が行われている地球の研究室にも似ていた。腕や足、胴体等のゴーレムの部品がそこかしこに転がっており、一言散らかっているという言葉が相応しかった。


「……ホタル。お前の記憶と何か齟齬は?」

「少々、お待ち下さい」


 カイトの言葉を受けて、ホタルは一度自身に蓄えられている記録と部屋の状況をすり合わせる。が、少し呆れ気味に、首を振った。


「……申し訳ありません。散らかりすぎていて、地震等の影響でこうなったのかそれとも荒らされたのかが……」

「あ、あはは……そ、そりゃしゃーないな」


 確かに言われてみれば尤もといえば尤もである。ここはあまりに散らかっており、禄に整理整頓がされている様子はない。はっきりと言ってしまえば彼の公爵邸地下の研究所やヴァールハイトの研究室と同様だ。荒らされても分からない、というのはよく理解できた。


「まぁ、とりあえず……動きはなさそうか」

「はい。それについては……マスター。この研究室のシステムはコントロールしても?」

「出来るか?」

「元々、当機はそのために改良されていますので。この研究室内の独立したシステムで扱える物は全て、当機の管轄下にあります」

「そうか。なら、下手に動かない様に全て改めてシャットダウンしておいてくれ」


 ここでカイトとしても困るのはやはり試作機が暴走をしたりする事だ。なのでカイトは改めて正規ルートで停止の指示を送っておく事にしたらしい。


「了解。では、即座に手配に入ります」

「頼む……さて、この状況。どうするかね」


 可能なら調査をしておきたい所であったが、どうにもこの様子ならホタルに全ての清掃を任せていた、というわけなのだろう。


「ホタル。お前、確かここでメイドとして動いていたんだったな?」

「はい」

「……この状況は?」

「……改良を受ける時間の方が多かったので、空いた時間で整頓をしておりました。そしてこの研究所が包囲された際、当機は改良中で動けませんでした。結果、散らかったままだったのかと」


 若干自分でも言い訳がましいとは思ったらしい。ホタルはどこか恥ずかしげにしながらもかつての事を語る。まぁ、ここは元々彼女の職場で、当時の仕事は清掃作業だというのだ。それでここまで散らかっていたのなら、恥ずかしくもなるだろう。


「そうか……そうだ。それなら、清掃は可能か?」

「それは可能です。この研究室の清掃を命ぜられておりましたので、資料をどこに仕舞うか、等については全て当機に訓練用プログラムとして搭載されております」

「ふむ……なぁ、興味本位なんだが。お前、ここで整理整頓以外どんな作業をしていたんだ?」


 ホタルの返答を聞いて、カイトは少しばかり興味が鎌首をもたげた様だ。そんな彼の問い掛けに、ホタルは壁際を指差した。


「あそこにある炊事場を使っての夜食を作ったり、コーヒーを入れたりしておりました。後は……寝た研究員に毛布を掛けて、という所でしょうか……」

『あ、それ良いのぅ……余も毛布等掛けてくれるゴーレム作るかのう……』

「……はぁ。時代が変われど国が変われど、結局馬鹿は馬鹿か」


 僅かに聞こえたティナのつぶやきを完全に無視し、カイトはただただため息を吐く。ティナ達もそうだが、ここの研究員達も研究に没頭して寝食を忘れるのは常だったのだろう。

 なお、公爵邸の研究室にはコーヒーや紅茶を入れる設備はあるが、軽食を作る設備は無い。作ったら出てこない事が分かっていたので、カイトが断固阻止――無論、無駄な抵抗とは分かっていたが――したのである。


「まさか、お前を家庭用ゴーレムに改良するってアイデア……自分達の為じゃないだろうな……」

「……」


 肩を落とした自身のつぶやきに、ホタルが視線を逸したのはおそらく勘違いではないのだろう。カイトはそう思う。とはいえ、それなら彼女もこの部屋の事はよく分かっているだろう。カイトはそう判断する。


「ホタル。手早くで良い。足の踏み場ぐらい作れるか?」

「……はい」

「良し……ホタル、全員への指示は頼む。全員、何故こんな事をしなければならないのだろう、とは分かる。が、これより清掃を開始する」

「「「はっ!」」」


 確かにこれでは何が無くなっているのかも分からない。更に言うと調査もままならないだろう。というわけで、一同はホタルの指示の下、部屋の清掃作業を開始する事にするのだった。

 お読みいただきありがとうございました

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