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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1713話 ルクセリオン教国 ――研究所の奥へ――

 鍛冶屋についての情報を得る為、ローラントの要請を受けてルクセリオン教国北部にあるオーリムという廃村の解放の依頼を受けたカイト。そんな彼は村を襲った魔物の群れのボスである『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』という魔物の討伐を成功させると、一路ルクセリオへと帰還する。

 そうして帰還を果たしたカイトは、『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』から遺されたと思しき手帳をティナへと渡すと今度は冒険部の長カイトとして、行動を再開させていた。


「さて……全員、まずはおはよう。今日も引き続き、戦闘員は研究所の奥に潜入し研究所奥の調査を行う事となる。各員、怪我の無い様に安全に配慮して行動する様に」

「「「了解」」」


 カイトの朝一番の号令に、冒険部一同が了解を示す。これは仕事の朝礼と一緒だ。というわけで、朝礼を行った後、カイトはルードヴィッヒの所へと向かう事にする。


「ルードヴィッヒさん」

「ああ、カイトくん。よく来たね」

「おはようございます……どうしました? 何か嬉しそうですが……」


 朝から上機嫌の様子のルードヴィッヒに、カイトが首を傾げて問い掛ける。それに、彼は上機嫌の理由を教えてくれた。


「ああ、今しがた妻から連絡があってね。アリスが帰ってきたという事だ」

「はぁ……学校から、ですか?」

「ん? ああ、いや。ああ、そうか。君は知らないのだったね」


 当然だがカイトはアリスが先程までどこに行っていたかを知っている。というより、その旅路に同行していたのだから当然だ。が、それは冒険者カイトであって、今のカイトではない。


「実は一昨日から学校は一週間の休みが与えられていてね。それで少し理由があって退魔の力の修行に出たい、と冒険者として活動に出たんだが……まさかあの依頼を受ける一団に加わっていたとは思いもしなかった」

「どんな依頼なのですか?」

「ああ。実はここから北にかなり行った所に廃村があってね……」


 どうやら、アリスが帰ってきた事と同時にルードヴィッヒにも報告が入っていたらしい。なお、後に聞いた所によると、シェイラが一応気を回してきちんと帰還した事を彼へと伝えていたらしかった。で、その際にオーリムの依頼を受けていた事を知らされ、大いに驚き娘の成長を喜んだというわけであった。


「君から世話になったとは聞いていたが……ここまで成長していたのは君のおかげと言って良いのだろう。ありがとう」

「いえ……お役に立てたのなら幸いです」


 アリスが実績を挙げられた事により、間接的にカイトの評価も上がったらしい。ルードヴィッヒの嬉しそうな感謝に対して、カイトは少し照れくさそうに応じていた。と、そうしてそこらの話を終わらせた所で、カイトは改めて今日の打ち合わせに入る事にする。


「それで、ルードヴィッヒさん。今日はどうしますか?」

「ああ、昨日言った通り、残りのエリアの調査で良いだろう。幸い、今の所何か問題が発生した様な事は聞いていない。君たちの協力のおかげで戦闘についても問題なく進んでいる。このままで良いだろう」


 カイトの問い掛けに、ルードヴィッヒは改めて明言する。そうして、カイトは少しの打ち合わせの後、再び冒険部の戦闘員を引き連れて研究所の内部へと進む事にするのだった。




 さて、中央研究所の奥へと進む事になったカイト。そんな彼は数日ぶりに最深部に続く扉の前に立っていた。


「ふむ……ホタル。一応改めて聞いておくが、もうトラップは解除出来たんだな?」

「はい。昨日の内に研究所のシステムは緊急時における最高権限により終焉帝の命令として停止させました。残るのは自動防御のみ。そのかわりとして表層部の簡易なシステム以外は使えなくなりましたが……」

「それは良いだろう。どうせ研究者達もまだ戻っていない」


 やはり研究所で問題が起きていた以上、非武装の民間人に等しい研究者達をこの研究所に入れておく事は軍としても有り難くない。なので軍の補佐に必要となる人員のみを入れて、ほかは外で待機が常道だった。


「さて……行くか」


 ホタルの返答に一つ答えたカイトは、再度歩き出す。そうして今度は罠も無く研究所の奥へと入っていく。


「ふむ……」


 基本的な構造は奥も外も変わらない。変わるとすれば戦闘の形跡が見受けられるぐらいだろう。とはいえ、この戦闘の形跡は昨日一日の戦闘の傷で、後々修繕が行われる事だろう。というわけでそんな傷を見ながら進み続ける事少し。地下へ続く階段と上に続く階段が現れた。そこが、丁度研究所の中心だった。


「これが中央階段か」

「はい。ここから上に向かえば所長室に。下に行けば秘匿実験室や研究室にたどり着きます」

「お前の研究室も下か?」

「はい。当機の研究室は地下の最下層。最重要機密エリアになります」


 カイトの問い掛けにホタルが一つ頷いて、地下へ続く階段を指し示す。そんな階段の前には今は軍の兵士――<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>ではない普通の兵士――が資材を置いて守備している様子だった。そんな彼らはルードヴィッヒの姿を見るなり、敬礼で応ずる。


「ヴァイスリッター卿」

「ああ……状況の報告を」

「はい。上層階に居る<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>の騎士達より何か連絡は来ておりません。また、戦闘の音も聞こえておりません」

「そうか」


 兵士の報告を受けたルードヴィッヒは一つ頷いた。昨日は一日駆けて所長室に向かうべく、上層階の調査を行ったらしい。一応昨日一日で上層階の安全は確保出来たとは思うらしいのだが、それでも万が一がある。<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>の一団が二十四時間交代で二階部分に臨時の陣地を構築しているらしかった。


「ティルラ」

「はい」

「本陣の守りは昨日と同じくお前に任せる。ここの兵士は全て有効に使え」

「はい」


 ルードヴィッヒの指示に、一人の女性騎士が敬礼で了承を示す。彼女はヴァイスリッター家の分家の騎士らしく、<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>においてはルードヴィッヒの副官の一人らしい。彼が居ない場合のルーファウスの目付役でもあるらしかった。そうしてそんな女性騎士の頷きを得て、ルードヴィッヒはカイトを呼び寄せる。


「カイトくん! 来てくれ!」

「あ、はい! なんでしょう!」

「ああ……今朝打ち合わせた通り、これより本隊は地下に。別働隊は昨日に引き続き所長室の調査を行う。君たちの支度は良いか?」

「はい。問題ありません。私は昨日と同じく、ルードヴィッヒさんと一緒に地下で大丈夫ですか?」

「ああ。そのまま頼む」


 カイトの問い掛けにルードヴィッヒは一つ頷いた。カイトの腕――と言っても使い魔だが――は彼も昨日の内に目の当たりにしている。なので問題なく前線で戦えるだろうと判断したらしかった。


「わかりました」

「頼む……ルーファウス。お前も昨日と同じく前線だ。気を付けろ」

「はい」

「良し……では、総員! これより地下に向かう! 昨日と同じく戦闘が考えられる! 注意して進め!」


 やはりここでは何があるか分からないのだ。それ故に基本的に前線はカイトとルーファウスの二人に、瞬や<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>の腕利きが行う事になっている。

 とはいえ、それだけで全エリアを踏破するのはあまりに負担が大きすぎる。なので他の面子も適時前線に出て、不安が出る様ならカイト達が、と言う形だった。というわけで、ルードヴィッヒの号令の下、カイト達は地下へ向かう階段の前に立つ。まだ降りない。きちんと隊列を整えてから、だ。


「ホタル。研究所のセンサーは?」

「……常にこちらを捉えています。おそらく、地下に入り次第、地下を守るゴーレムが出動してくる事になるかと」

「そうか。自動防御だけで助かった」


 やはり戦力の逐次投入というのは戦略上あまり褒められた手ではない。が、研究所の自動防御では各階に到達次第各階層を守るゴーレムを逐次投入していく事になっていた様だ。と、隊列が組み上がるのを待つ間にそんな話をしていると、ルーファウスが口を挟んだ。


「そういえば……カイト殿。一つ良いか?」

「ん?」

「その魔眼で地下は見えないのか?」


 ルーファウスはカイトの右目を覆う眼帯を見ながら、興味深げに問い掛ける。一応、カイトの魔眼は<<千里眼>>系の魔眼だと公表してある。なので原理として出来るといえば、出来るだろう。


「まぁ、出来なくはないが……あまり推奨はされない」

「そうなのか」

「ああ。まぁ、どんな防備が施されているか分からないからな。基本的に<<千里眼>>等の遠見を行う魔眼はあまり施設の内部を見通したりはしたくないのが素直な所だ」

「なるほどな……分かれば、便利だと思ったのだが……そう上手くはいかないものか」

「そりゃそうだ。魔眼の存在がわかっていれば、誰だってそれへの対処はしようとする。現に最深部は未だ結界が展開されていて、覗けないらしいからな」


 カイトはルードヴィッヒとの会議で得た情報をルーファウスへと述べる。やはり魔眼がある以上、魔眼で内部を覗こうとした者は居たらしい。が、碌な事にはならなかったという事であった。

 今回の調査に際してユスティエルから聞いた所によると、どうやら魔眼に対して攻勢防御が行われる様になっているらしい。というわけで、カイトもただでさえ暴走状態にあるのにこれ以上面倒が起きてはたまらない、と使わない様にしているらしかった。


「ま、そういうわけで……地道に行くしかないさ」

「そうだな」

「カイト、ルーファウス」


 一頻り笑い合って同意した二人の所に、瞬が声を掛ける。彼は後ろでカイトがルードヴィッヒと話している間の冒険部の戦闘員の統率を取っていたが、隊列を組み直したのに合わせて前に出てきたのであった。


「ああ、来たか」

「瞬殿。おはよう」

「ああ、おはよう……さて、今日もまた戦いか」

「やる気に満ちあふれているな」

「まぁな」


 少し笑ったカイトの言葉に、瞬がやる気を漲らせる。やはりソラの一件以降、彼の中には負けん気が顔を覗かせている様子だった。と、そうして瞬が来た頃合いで、ルードヴィッヒが再度号令を下した。


「カイトくん! 隊列が整った! 進んでくれ!」

「はい! ユリィ。何か変わった事は?」

「問題無し」


 カイトは何時も通り己の肩に腰掛ける相棒に最後の確認を取り、一つ頷いて階段に足を踏み入れる。ここからは未踏破領域だ。油断は禁物だろう。というわけで、しばらくはカイトを先頭にルーファウス、瞬の順番で進んでいく。が、そんな一同は後一段で地下一階という所で、立ち止まった。


「……」

「「……」」


 手で停止を指示したカイトに合わせて、後ろの二人もまた停止する。ここから一歩踏み出せば、地下一階の警備システムが起動する。なので万全の状態で意思疎通が出来る最後のタイミングと言えた。


「行けるな?」

「「ああ」」


 カイトの問い掛けに、ルーファウスと瞬が揃って頷いた。それを受けて、カイトが最後の一歩を踏み出した瞬間。けたたましいアラーム音が鳴り響いた。そうして、研究所の壁に魔法陣が現れ、そこから無数のゴーレムが現れた。


「団体さん、ご来訪ー」

「ルーファウス! 先輩! 遅れずについて来い! 全員が降りれるだけの領域を確保するぞ!」

「「おう!」」


 ユリィの呑気な声を聞きながら、カイトがゴーレムの軍勢へと一気に肉薄する。そしてそれに合わせて、瞬とルーファウスの二人も一気に切り込んだ。そうして、この日の戦いがスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1714話『ルクセリオン教国』

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