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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1711話 ルクセリオン教国 ――戦いを終えて――

 ルクセリオン教国北部の村オーリム。二十年も昔に魔物に襲われた村の解放の依頼を受けたカイトであるが、その戦いは各員の奮戦もありなんとか成功する。そうして『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』がカイトの一撃により消し飛んだ後、彼はしばらく上空で一瞬前の事を思い出していた。


『ありがとう』


 カイトの耳に聞こえたのは、そんな言葉だ。おそらく性別は男。それも非常に若い男の声だ。


「……」


 誰だ。そんな事を考えるのは野暮なのだろう。カイトは聞こえた声の主に対して、そう思う。あのタイミングで、念話でも無くあれだけ小声でカイトの耳に聞こえたのだ。であれば、答えはそう多くない。


(あの『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』は、誰かの遺体が使われていた……のではないのだろうな)


 一体何があったのか。気にならないといえば、嘘になる。が、今はただ静かに何者かの冥福を祈るだけだ。故にカイトは地面に降り立つと、小さく目を閉じて黙祷を捧げる。


「……」

「どうした?」

「いや……単にここで亡くなっただろう冒険者達に、な」


 小さく黙祷を捧げたカイトを訝しんだローラントに対して、カイトは僅かに苦笑気味にそう告げる。彼が何者なのか、というのは分からない。過去の詮索はしない。それが冒険者のマナーだ。故にカイトは当たり障りのない返答にとどめておく。それに、ローラントもまた一つ頷いた。


「……そう……だな。亡くなった者達に、聖なる神の慈しみあらん事を……」

「教国式か?」

「ん? ああ。俺も一応はルクセリオ教で祝福されているからな。どうしても、そこらはな」


 カイトの問い掛けに、ローラントは僅かに恥ずかしげに頷いた。動作の所作などでカイトも若干気が付いてはいたが、どうやら彼はかなり高度な教育を受けた上で冒険者になっている様子だった。作法はカイトがルクスから見聞きした所作を完璧にこなしていた。


「そうか……とはいえ、これで二十年ぶりに帰還出来るか」

「ああ……これで、なんとかなるだろう」


 二人は結界が破壊された事とそれを操っていた『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』が討伐された事で晴れ渡る蒼天を見上げる。これで、大半のアンデッド系の魔物は日光に当てられて消し飛ぶだろう。後に残るのは、それでも消し飛ばないランクB級以上のアンデッド系の魔物だけだ。

 が、いくら日光では消し飛ばないと言ってもアンデッド系には変わりはない。故にある程度の力の減衰は受ける事になる。今のこの面子であれば、十分に勝ちを得られるだろう。そうして、二人は改めて頷き合い、両手の指の数も残らない魔物達を最後まで討伐していくのだった。




 さて、カイト達が『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』の討伐を終わらせて数時間。建物の中に逃げ込んだり、日光でも仕留めきれなかったアンデッド系の魔物の討伐を進めていたカイト達であったが、それも夕暮れより少し前に終わりを迎える事となった。


「ふぅ……これで最後か。ソーニャ。何か感じるか?」

(いえ……全周囲何も。少し待って下さい。シェイラさんに状況を確認してもらってみます)

(頼む)


 カイトは霊的な繋がりを通して寄せられたソーニャの報告に一つ頷いて、一度その場で待機する事にする。彼女の霊媒体質としての感知能力は馬鹿にならないが、それでもあくまでも感覚的な話になる。それ故に村の上空から周囲を見回すシェイラの報告の方が頼りになった。そうしてしばらくすると、再度ソーニャから言葉が飛んできた。


(……シェイラさんからの報告が来ました。上空から見た限り、もう魔物の影は見受けられないようです)

(そうか……シェイラさんにローラントの作業はどうなっているか、聞いてみてくれ)

(はい)


 昼を過ぎて少しの間は残る魔物の討伐に加わっていたローラントであるが、それもしばらくした頃に村の結界を司る魔石を村の中心に持っていく事にしていた。

 このまま放置していれば、また魔物の住処になってしまうかもしれない。それを考えた場合、結界を展開して魔物が入り込まない様にしなければならなかった。


「ふぅ……これで、一通りは終わったな。アリス。どうだった? 久方ぶりに目一杯退魔の力を使った感じは」

「少し疲れました。ここしばらくは冒険者として戦いは繰り返したんですが……それとは少し違った感じで」

「そうか。とりあえず、お疲れ様」

「はい」


 笑ったカイトのねぎらいに、アリスは一つ頷いた。まぁ、途中で昼休みを挟んだものの、並の冒険者でもここまでの連戦は繰り返さない。今回は存分に戦ったと言って良いだろう。


「まぁ、それだけ戦えれば退魔師や除霊師としても十分に戦っていけるだろう。後は、ゆっくりと才能を開花させていけば良い」

「はい……ありがとうございました」

「ん? どうした、急に」

「いえ……何度か補佐して頂きましたので……」


 急に感謝の意を述べた自身に首を傾げたカイトに対して、アリスはその意図を語る。それを受け、カイトもそれなら、と一つ微笑んだ。


「そうか。それなら、有り難く受け取っておこう」

「……あ、はい。ありがとうございます」

「あはは。礼に対して礼を言われたのは、久しぶりだな」


 一瞬呆けたアリスに対して、カイトが笑う。と、そんな些細な一幕を経てしばらく待機していると、再び二人にソーニャが接続した。


(カイトさん、アリスさん。聞こえていますか?)

(ああ)

(はい)

(ローラントさんより、報告です。結界の展開は不十分ながらも成功。これで軍が到着するまではなんとかなるだろう、との事です)


 カイトとアリスの返事を受けたソーニャが状況を報告する。これで、撤退しても大丈夫だろう。後は軍が最終的な安全の確認を行い、それで問題無しと判断された時点で依頼は達成。報酬の振り込みとなる。


(そうか。分かった。では、丘の前で合流で良いか聞いてくれ。それでよければ、そちらで合流しよう)

(はい)


 討伐が全て終わって、更には必要な作業も終わったのだ。わざわざ廃村で長々と留まっておく必要はない。というわけで、カイトとアリスはローラントも問題無いという返答があり、一度丘を目指す事にする。


「さて……これで今回の仕事も終わりか。中々に今回はデカイ仕事だった」

「何時もこんな依頼を受けられているんですか?」

「いや、流石にここまでデカイ依頼は時々さ。まぁ、今回はローラントの要請という事もあったからな」


 アリスの問い掛けに、カイトは笑いながら首を振る。そんな彼に、アリスは重ねて問い掛けた。


「お二人は長いんですか?」

「いや? この間会ったばかりだ」

「え?」

「あっははは。冒険者だからな。一期一会は何時もの事。昨日あった奴に背中を預けるなんて、よくある事だ。勿論、無条件に信じるのと警戒しないのは話が違う。だから、お互いに心底相手の事を信じているわけじゃないさ……あ、これ当然だけど内緒な? お互い冒険者だから分かってはいるが……言うと角が立つからな」


 アリスの問い掛けに対して、カイトは笑いながら素直に正直な所を語る。これが冒険者の基本的な考え方だ。彼らは本来は旅をして過ごす者達だ。だから、決まった相手とコンビを組む方が本来は珍しいのだ。


「ま……それを言うと実はオレは少し人見知りなんだがね」

「そうなんですか?」


 にしては、自分にも普通に話しかけているし、ソーニャは口説いている。意外に思えた様だ。そんな彼女に、カイトは敢えて嘯いて見せた。


「ああ。ま、こういうと嘘だー、とか言われるんだけどな」

「あはは」


 なるほど。これはカイトなりの冗談か。アリスはそう受け取った様だ。と、そんな事を話していると、丘の麓にまでたどり着いた。


「さて……ここでとりあえず他の連中を待つか」

「はい」


 この丘の裏手に、ピアースが待っている。が、わざわざ別れて向かう必要も無いし、全員が全員の無事を確認してから帰還するのが良いだろう。というわけで少し待っていると、シェイラと彼女の杖に腰掛けたソーニャが現れ、最後に何時もの様に悠然とした様子で歩くローラントが現れる。


「全員、無事だな……良し。帰るぞ」


 自身が最後だった事を受け、ローラントが最後の号令を下す。そうして五人は丘を越えて、ピアースの待つ丘の向こう側にまで歩いていく。


「皆さん、おかえりなさい。最後まで完了ですか?」

「ああ。結界も無事展開した。これで、この依頼は完了だ」


 ピアースの問い掛けを受けたローラントが依頼の完遂を明言する。彼の所へは一度昼に顔を見せており、その際に『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』の討伐も告げていた。なので生還は確実と思っていたらしく、この程度だったようだ。


「じゃあ、皆さん。お乗り下さい。後は竜車に揺られているだけで、またキエムです」

「ああ……では、後は頼む。俺達は怪我の手当てや、武具の手入れを行う」

「はい」


 ローラントの要請に、ピアースが頷いて御者席に乗り込んでいく。それを横目に、カイト達もまた竜車へと乗り込んだ。


「さて……帰るまでが依頼ですよ、と」


 来た時と同じく竜車の壁にもたれ掛かる様にして腰掛けたカイトは、まずは傷の手当てを行う事にする。今回、地の利が敵に有利にあった事、更にはボスが『世界を憎悪する影(ヘイトリッド・ソウル)』であった事で彼も些か手傷を負っていた。簡易だが手当ては必要だった。

 無論、それは彼以外の全員が同じで、アリスとソーニャはシェイラに命ぜられて服を脱いで怪我の手当てをしていた。なので竜車の中は布で二分割されていた。その片側で、カイトとローラントが怪我の手当てを行っている形だった。と、そんな彼へとローラントが告げた。


「カイト。今回は世話になった。帰ったら一杯奢らせてくれ」

「ああ、良いね。ぜひ、受けよう」


 折角の申し出だ。カイトとしてもここらの情報は少し欲しい所ではあったので、受ける事にした。無論、酒好きの彼だ。教国の酒に興味があったという事もある。と、そんな所に布の先から声が響いた。


「それなら私も誘いなさいよー。ここしばらく依頼もこなさずに引っ込んでた支部長引っ張り出したんだから、一杯どころか二杯か三杯はおごりなさいー」

「はぁ……ああ、分かった。ついでだ。そちらのお嬢さん達にも奢ろう」


 やはり付き合いの長さであればカイトよりもシェイラの方が長い。なのでローラントは少し雑にシェイラの申し出にも応ずる。それに、カイトが笑った。


「あはは……ま、少しの打ち上げというのも悪くないさ。あ、つってもここらの店は分からないから、店の選定はお前に任せた」

「ああ。良い店を見繕おう」

「あいよ」


 ローラントの返答にカイトは一つ頷くと、流水で洗い流した傷口に回復薬を掛ける事にする。と、そうして何時もの小袋に手を伸ばした時の事だ。彼は自分の入れた記憶の無い何かが手に当たった事に気が付いた。


「ん?」

「どうした?」

「いや……何かが当たった様な……」


 ローラントの疑問に、カイトは小袋の中を確認する。そうして、彼は一つの手帳を取り出した。


「手帳? お前、そんな物をそんな所に入れていたのか?」

「いや、そんなつもりは無いんだが……」


 カイトが今回持ってきていたこの小袋には、回復薬や旅の便利グッズ程度しか入れていない。手帳も入ってはいるが、ユリィとおそろいの情報が書き記された手帳だ。

 が、これはそれではなかった。何より、彼が使っていた物より遥かに古ぼけた感じがあったのだ。とはいえ、彼には思い当たる節があった。故に彼は中身を確認せず、敢えて自分の物と振る舞う事にした。


「まぁ、おそらく荷物整理をしている所で間違って入れたんだろう。帰って荷物の整理、やり直さないとなぁ……」

「はぁ……案外ズボラなんだな」

「あっははは。几帳面なら冒険者なぞやってらんないだろう?」

「それもそうか」


 カイトの指摘に、ローラントも笑って同意する。そうして、二人は改めて傷の手当てや武具の手入れを行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1712話『ルクセリオン教国』

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