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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1708話 ルクセリオン教国 ――不可思議の事態――

 ルクセリオン教国にあるオーリムという村。そんな村に二十年前に訪れた魔物の群れの討伐任務を請け負ったカイトは、なんとか結界があると思われる村中心にある元村長宅へとたどり着いていた。そんな元村長宅へとたどり着いて、カイトはローラント、アリスの両名と共に結界の制御を司る魔石のある隠し部屋を探し始めていた。


「ふむ……」


 元村長宅にしては大きめの書庫の中で、カイトは何か変わった所はないかと調査を行っていた。隠し部屋はやはりすぐに見つかるものではない。

 皇国や教国等の治安が良い場所では無いが、昔は治安の悪い場所では盗賊と内通した者が故意に結界を解除して盗賊の襲撃を手引したりした事もあるそうだ。なので必然として結界を制御する魔石は村長宅や教会等の村の中心となる建物の地下に設けられる事になったそうだ。


「設置するのなら、ここらの筈なんだが……」


 やはり領主をしているからだろう。基本的にカイトの所には各地の村長宅の設計図が持ち込まれていて、その認可も下している。これは村長宅がある種の公的機関も兼ねているから、改装や改築に際して領主の許可が必要となるからだ。

 下手に魔術的に問題のある構造にされても困る為、ある程度の統一した設計になる様にティナが指示していたのである。なのでその兼ね合いでカイトも構造の不備が出ない様にある程度の理論を把握しており、おおよそ設置するのならどこかと分かっていたのである。と、そんなわけで隠し部屋を探すカイトに、アリスが問い掛けた。


「……真ん中、ですか?」

「ああ。基本的にもし隠し部屋……いや、この場合は結界を制御する魔石か。それを設置するのなら、部屋の中央に隠し部屋へ続く階段を設置するんだ」

「壁際の方が階段を設置しやすいのでは?」


 カイトの言葉に首を傾げながら、アリスが問い掛ける。やはり隠し扉となると、本棚そのものが扉の役割を果たしているのが彼女の想像だ。故にそう思ったのだろう。


「いや、今回は地下への階段だ。故にこういう風に、両側にある程度のスペースがある本棚の下も意外と設置しやすくてな。ここまで広い書庫だと、中央に設けている可能性が高いんだ」

「そうなんですか?」

「ああ……そうだな。アリス。神殿都市の衛星都市の光都には行ったか?」

「あ、はい。丁度神殿都市の収穫祭の時にいましたので……教団の歴史書が収められてているという書庫を目当てに」


 カイトの問い掛けに、アリスが一つ頷いた。神殿都市にある八個の衛星都市。その中の幾つかに、アリスは訪れていた。その理由は彼女が言った通り、ルクセリオ教の歴史を知る為だ。

 やはり彼女も自国の宗教が他国でどの様な歴史を辿ったのか、というのは興味深い所であった。幸い衛星都市までは馬車で一時間程度だ。定期便も出ている。さらにはアリスは勉学の面からも学校から課題という形で与えられていたらしく、アリス――というより予定が合わなかったルーファウス――に頼まれたカイトも一緒に一度訪れていた。


「大書庫は覚えているな?」

「はい」

「その大書庫の中央には実は隠し部屋に通じる隠し階段があってな。ここまで大きな書庫は村長宅には不釣り合いだ。なら、この書庫の広さはその為にあると推測した」

「へー……」


 色々と知っているんだな。アリスはカイトの言葉に感心した様に頷いた。とまぁ、そういうわけらしい。一介の村長宅にしては大きな書庫だな、と思ったカイトはこの床を使って街全域に至る結界の増幅を行っているのではと思ったのだ。

 もし魔眼の解放が出来るかティナが居れば一発で分かったのだが、魔眼を使うわけにはいかないので地道に調べるしかなかった。と、そんなわけで書庫の中を調べていた二人であるが、唐突にカイトがアリスを抱き寄せた。それは丁度、別の通路に入ろうとした所での事であった。


「っ」

「しっ」


 何をするんですか。そう問いかけようとしたアリスに対して、カイトが即座に口に手を当ててそれを制止する。


(声は出すな。そのまま耳を澄ませろ)

(……)


 ソーニャを介して霊的な接続で告げたカイトの言葉に、アリスもまた息を潜め耳を澄ませる。すると、カイトが何故自身を抱き寄せたかが理解できた。


(音……何かが……動いてる?)

(ああ……可怪しいとは思ったが……流石にそう都合よくはいかんか)


 どうやら書庫の中には魔物が居たらしい。幸いにしてこちらには気付いていない様子だったが、通路を彷徨く音が聞こえていた。


(アリス。他にも居るかもしれない。静かに仕留める)

(はい……どうするんですか?)

(音を聞く限り、数は三体。オレが二体同時に仕留める。お前が一体仕留めろ。気配を鑑みる限り、お前なら一撃で仕留められる程度の雑魚だ。上からの奇襲で仕留める。そのまま抱き着いておけ)

(はい)


 カイトの指示に、アリスが無言で頷いた。そうして、カイトは魔糸を器用に操って本棚の上へと静かに移動する。そうして本棚の上に音もなく着地した二人は、自分達とは本棚を挟んで逆側に居た魔物の群れを確認した。


(ゾンビ系が三体か……全員バラけているな)

(どうしますか? 同時には倒せそうにありませんが……)

(問題はない。同時に倒す……アリス。あの端の一体。分かるか?)


 どうやら三体の内の一体はアリスの僅かに見えた姿に気付いた様だ。ゆっくりとした動きだが、そちらへと向かっている様子だった。更には別の一体も逆側から先程まで二人が居た通路へと向かっている様子だ。残る一体はそのまま残っていた。


(はい)

(あれを頼む。オレはこっちの二体をやる)

(……わかりました)

(良し……タイミングを合わせろ)


 カイトは静かに本棚の上を移動して、自身が出ようとしていた方から通路を確認していたゾンビ型の魔物へと近付いていく。そうして彼女が配置に着いた所で、カイトがカウントダウンを開始した。


(3……2……1……今)


 カイトの合図と同時に、アリスが本棚の上から飛び降りて同時に抜いていた剣を深々とゾンビ型の魔物の鎖骨付近へと突き立てる。そうして退魔の力を直接内側へと流し込むのを横目に見ながら、カイトは残り二体の丁度真ん中に降り立った。


「はっ」


 着地したカイトであるが、彼は着地と同時に使い捨てのナイフを左右の二体に向けて投擲する。そのナイフの柄には、彼の魔糸が絡みついていた。

 そうして投擲した使い捨てナイフがゾンビ型の魔物に突き刺さったと同時。魔糸を通してゾンビ型の魔物に向けて退魔の力が流し込まれ、白炎を上げて音もなく燃え尽きた。


「ふぅ……」

「凄い……どうやったんですか?」

「魔糸を使っただけだ。今のアリスなら、十分に可能だろう」


 丁度道すがらにあった使い捨てのナイフを回収してくれたアリスに向けて、カイトが簡単に原理を説明する。


「ああ、良い。どうせ使い捨てだ。君が使え」

「はぁ……」


 カイトに返却しようとしたアリスであるが、カイトの言葉に有り難く頂戴しておく事にする。確かに使い捨てだ。費用としては一つ銀貨一枚にも満たないもので、カイトほどの領域の冒険者であれば別に一つ二つあげた所で気にもならないのだろう。というわけで、アリスは有り難く頂戴しておく事にする。と、そんな所にローラントからの連絡が入ってきた。


『カイト。俺だ』

「ああ、どうした?」

『今、大丈夫か?』

「ああ。丁度、書庫に居た魔物を倒した所だ」


 気になって気配を読んでみたが、これ以上書庫に魔物が居る気配はなかった。とはいえ、ここは戦場と言える。故に周囲には殺気立った魔物が無数に屯しており、いくらカイトでも休眠状態にでもあれば読みきれない。なのであくまでも参考程度――それ故に気配を読んでなかった――にしかならなかった。と、そんなカイトへと、ローラントが告げる。


『今、金庫の破壊に成功した。やはり案の定、見取り図が入っていた』

「やはりか。地下室の場所はあったか?」

『ああ。書庫の中央に隠し階段がある様だ』

「やはりか。丁度、その付近に魔物が居た」

『なるほど……こちらは引き続き調査を行う。何かが分かったら連絡をくれ』

「あいよ」


 どうやらカイトの想定は正しかったらしい。ローラントの連絡を受けて、カイトと同じ様にヘッドセットで連絡を聞いていたアリスとカイトは頷きあう。


「さて……アリス。この周辺を重点的に調べる。何か見付かったら教えてくれ」

「はい」


 兎にも角にもこの近辺に地下へ続く隠し扉があるらしい。二人はローラントからの報告を頼りに、周辺の探索を開始する。まぁ、もう二十年も昔に放棄された建物だ。流石に何か痕跡があるようには、見えなかった。


「……」

「……あの」

「ん?」


 何か険しい顔で周辺の探索を行っていたカイトへと、アリスが声を掛ける。それに、カイトも顔を上げた。


「どうされたんですか? 何か険しい顔でしたが……」

「あ、ああ。いや、気にしないでくれ。少し気になった事があったんだが……あくまでも推測でな。迂闊な事を口にする必要もないか、と思っているだけだ」

「はぁ……」


 何かがカイトには掴めているらしい。険しい顔のカイトの様子から、アリスはそれを察する。とはいえ、今語る事ではないとも理解したらしく、再度調査に戻る事にする。と、そんな彼女であるが、ふと持っていた本を戻して違和感に気が付いた。


「……これは……」

「どうした?」

「あ、はい。その、妙な違和感が……」

「違和感?」

「はい……この本をここに仕舞うと……」


 カイトの問い掛けを受けたアリスが先程自身が持っていた本――偶然に落ちていたらしい――を空いたスペースへとしまい込む。それを見て、カイトも試しにその本を手にとって見た。すると、違和感の原因を理解できた。


「ああ、なるほど。これは本じゃない」

「え?」

「本に上手く偽装しているが……ほら、よく見てみろ」


 カイトはアリスが手に取った本らしき物を開いて、彼女へと見せる。すると、彼女にもそれが本ではない事が理解できた。


「あ……中に、魔石が……」

「ああ。これは鍵だ……どうやら、本棚はこれが当たりらしいな。アリスが仕舞う時に感じた違和感は、鍵が嵌った際の違和感か」


 カイトはアリスが本を仕舞った本棚を見上げる。そこには無数の本が仕舞われており、どれがこれと同じ鍵なのかは皆目検討は付かなかった。が、別にちまちまと調べる必要はないし、そもそもそんな時間も無い。なのでカイトは少し裏技を使う事にした。


「アリス。少し離れてくれ」

「はい」

「良し……ちょっと卑怯くさいが……」


 アリスに少しだけ距離を取らせたカイトは、自身もまた少し下がって本棚から距離を取る。そうして、彼は無数の魔糸を生み出して本の一冊一冊に接続した。


「わ……」


 山程の本の一冊一冊に魔糸を接続してみせたカイトに、アリスが思わず感嘆の声を上げる。それにカイトは僅かに咲いながら、即座に一冊一冊を精査。当たりだけを抜き取った。


「この五冊が、当たりだな」

「はぁ……それで、それをどうすれば?」

「それは分からない」


 アリスの問い掛けに、カイトは笑いながらはっきりと首を振る。五冊が鍵である事までは突き止めたが、それをどうすれば隠し部屋へ通じる扉を開けるのかは分からない。


「というわけで、一緒に考えるしかない。さて、アリス。何か分かる事は?」

「はぁ……」


 カイトの言葉に、アリスは改めて本棚を見る。本棚の棚の数は丁度鍵の数と同じ五段。とはいえ、本棚の下部には物を収納したり大きめの本を収納したり出来る様に拡張性が設けられており、この本棚にはそのどちらもなかった。


「多分……一段につき一冊収めるのだと思います」

「ああ。それは確定だろう。問題は、どこにどれをどう並べるか、だ」

「うーん……」


 カイトの言葉に、アリスは本棚と鍵を見比べる。と、そんな彼女がふと、気が付いた。


「あ……」

「ん?」

「あの、この本。一冊一冊のタイトルが……」

「ふむ……?」


 アリスの言葉に、カイトは改めて本の背表紙を見る。が、何か規則性は見受けられなかった。


「何も無いが……」

「え? あ……そっか……」

「どうした?」

「いえ。これはカイトさんだと分からないんだと思います。貸して貰えますか?」


 アリスはカイトが分からない様子に納得できたらしい。彼女はそう言うと、カイトから鍵を全て受け取り、何らかの規則性に従って上から順番に仕舞っていく。


「えっと……これがここで……これはここで……」

「……」


 カイトの見ている限りでは、アリスの仕舞う本に規則性は見受けられない。が、彼女の手付きには迷いが無く、はっきりとした自信が感じられた。


「できました。あ……」

「ほぉ……お手柄だな」

「ありがとうございます」


 音を立てて動き出した本棚を見てのカイトの称賛に、アリスが恥ずかしげに頭を下げる。そうして地下室への扉を見つけ出した二人は、とりあえずローラントへと連絡を入れる事にした。


「ローラント。カイトだ。大丈夫か?」

『ああ。どうした? ああ、そうだ。こちらも一つ報告がある』

「ああ、いや。こちらはなんとか隠し扉を見付けた。地下へ行ける」

『何?』

「アリスがお手柄でな」

『そうか……とりあえず、俺もそちらに向かう。地下で合流しよう』

「わかった」


 カイトはローラントの提案に一つ頷くと、アリスと共に地下へと向かっていく。と、その道中、カイトはアリスへと問い掛けた。


「にしても……どうして分かったんだ? 規則性は無い様に思えたが……」

「あ……それはその……多分、カイトさんの場合は中津国系の言語で翻訳されてしまった為かと」

「? ああ、なるほど……それは確かに無理だ」


 アリスの指摘に、カイトはそれは自分ではどう足掻いても無理だ、と納得する。エネフィアでは基本的に言語は魔術で大半が翻訳される。これを切る事はまず無い。が、その結果それは問答無用で働いており、他言語を操る者にはその翻訳された結果が認識されるわけだ。

 なので例えばアルファベットで書かれた表紙だったとて、日本人には日本語で認識される。結果、例えば『A→B→C』の順番で並んでいたとしても翻訳後で認識されてしまう為、別言語を操る者には正しい答えが導き出せないのだ。言語翻訳の魔術の盲点を突いた防御策だった。と、そんなわけでその解説を聞きながら少し地下へと下っていった二人であるが、少しすると最下層へとたどり着く。


「ここが……私、結界を制御する装置は見たことがないんですが……どんな物なんですか?」

「……大きな魔石、なんだが……やはりか」


 そこにあったのは、がらんどう。空っぽの地下室だ。そこには結界を制御する制御盤はあれど、肝心要の魔石はなかった。それを見て苦い顔のカイトの背後に、ローラントが現れた。


「これは……」

「どうやら、ここのボスが持ち去ったらしい。相当な切れ者らしいな、ここのボスは」

「ふむ……」


 がらんどうの地下室を見て、ローラントが苦い顔を浮かべる。


「魔物達がこの近辺を守っていた……その時点で可怪しいとは思ったんだがな」

「え?」

「分からないか? あいつらはここが重要だと分かっていたんだよ。が、それに反して警戒は薄かった。つまり……」

「ここから重要な物は持ち出された後だった、というわけか」


 目を丸くして困惑を露わにするアリスに対して、カイトの疑念を聞いたローラントが答えを述べる。そうして、カイト達は否が応でもこの状況下での群れのボスの討伐を敢行する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1709話『ルクセリオン教国』

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