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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1706話 ルクセリオン教国 ――廃村の戦い――

 ルクセリオン教国北部にあるオーリムという村。そこは二十年ほど前に、魔物による襲撃を受けて滅びた村だった。そんな村での大規模な討伐任務を請け負ったカイトは、ソーニャ、アリスとの間で霊的な接続を得ておくと、そのまま結界へと突入する。そうして入った結界の中は、薄暗い様相を呈していた。


「こりゃまた……どんよりとして気が滅入るという言葉が良く似合う」

「アンデッド共の巣窟だからな」

「確かに。それには最適か」


 敢えて一言で言えば、昼日中に雷雨が降ろうとしている様な様子。そんな感じだ。これなら、日光に弱いアンデッド達でも十分に生存出来るだろう。


「ふむ……荒らされている様子はさほど無いか」

「ああ。まぁ、アンデッド共は生者は襲うが、それ以外はさほど破壊はしない。それでも、『ボーン・ソードダンサー』の様な輩が戦えば破壊活動になってしまうが……」


 見えたオーリムの様子は、おおよそ二十年の劣化と戦闘による崩壊が見えた程度で、まだ幾つかの建物は雨風程度なら凌げる様子はあった。運が良ければ火も使えるかもしれない。無論、それでもアンデッド共が屯するこの村の施設を使いたいかどうかは話が別と言わなければならないだろうが、だ。


「さて……盛大な歓迎は無しか。折角滅多に人が訪れない村に客が来てやったのにな」

「ほしければ、後で嫌というほど来る。安心しろ」


 カイトとローラントは腰に帯びた剣の柄に手を起きながら、注意深く周囲を観察する。今回の作戦目標(元村長宅)まではおよそ1キロという所。見付かればそこからは強行突破だ。

 故に出来る限り見付からずに進みたい所だった。というわけで、一同は細い路地や物陰に隠れながら、進んでいく。が、それも長くは続かない。ここは崩壊して久しいのだ。そう都合よく物陰があるわけではない。


「……ここが限度か」


 崩壊した建物の陰にたどり着いて、ここから先どうやっても見付からずに進むことは出来ない事を一同は悟る。建物は広場だったらしい場所に面しており、広場には複数のゾンビに似た魔物が屯していた。ここから先、広場を突破しなければ進めなさそうだった。


「迂回するか?」

「ふむ……」


 カイトの提案に、ローラントが僅かに悩む。そんな彼は、シェイラに問い掛けた。


「シェイラ。使い魔はどうだ?」

「……ダメね。どうにせよ広場か公園には少なくない魔物が屯している。どこもかしこも一緒よ。どこかで必ず奴らには見つかるわ……敢えて言えるのなら、一直線に進めるか少し迂回して進むか、という程度ね」

「その付近で迂回や隠れて進めそうな」

「場所は無いわね。当然だけど、貴方達然りで戦うのなら開けた場所で戦う。となれば、その周辺は破壊されて開けた場所が広がるのよ……逆側からなら、まだ分からないけれど」


 ローラントの言葉を遮って、シェイラは無理を明言する。これは仕方がない事だ。当然だが戦うのであれば開けた場所で戦いたい。特に人数が多いのなら、それは顕著だ。そうなると広場や公園などの開けた場が選ばれる事となり、結果としてそういった場所の周囲は必然として更に見通しがよくなってしまうのであった。


「……逆側も一緒だろう。二十年の間、少なくない部隊がここに挑んでいる。そういった所が迂回していれば、必然としてどこもかしこも一緒になる」


 もう二十年もこの依頼は誰も達成出来ないままにだったのだ。であれば、当然だが迂回は誰もが考える事でそこかしこが崩壊している事は想像に難くない。であれば、とローラントは腹をくくった。


「カイト。このまま一直線に行くのと、更に迂回路を探して近くまで行くの。どちらが良い」

「ふむ……まぁ、そのまま一直線で良いだろう。この程度の雑魚なら目でもないし、よしんば『ボーン・ソードダンサー』が来たのならいっそここの方が戦いやすい。」


 迂回と一直線に進むの。どちらが良いかと言われればそれは悩みどころだろう。が、ここでカイトは一直線に進む事を進言する。以前の戦いでも『ボーン・ソードダンサー』は中々の戦闘力を見せていた。狭い路地で奴と戦えばカイトは兎も角アリスに不備が出る可能性も無くはない。なら、広い場所で満足に支援ができる状態で戦いたい所だった。と、そんな彼は更に問い掛ける。


「シェイラさん。ここより広い路地は?」

「……それは無いわね。地図によれば、ここは中央の一番大きな道路。」

「なら、ここを突破するのが一番戦いやすい。無論、敵の数も多いだろうが……こちらは雑魚なら相手にならん。だろう?」

「……そうだな。全員、異論は?」


 カイトの問い掛けを受けたローラントは一つ頷いて、一度全員に問い掛ける。それに、全員がただ首を振る。異論は無いらしい。まぁ、どうせ戦うのなら開けた場所で戦いたいのは全員が一緒だ。なら、ここらで覚悟を決めるべきだろう。というわけで、一同の同意を得たカイトは物陰から立ち上がる。


「……さて。オレが先陣を切る。まぁ、あの程度なら一瞬でやれるが……ここからは一気に駆け抜けるべきだろうな」

「わかった……全員、遅れるなよ」


 カイトに合わせてローラントもまた立ち上がる。それに合わせて、全員が立ち上がった。


「ソーニャ。アリス。二人共、オレの後ろへ続け。道中の敵はオレが蹴散らす。雑魚は相手にするな。強敵が来るかどうかだけに注意しておけ。アリスはソーニャの近接支援を行え。ソーニャは基本はアリスの支援を。雑魚ならオレ単独で問題は出ん」

「「はい」」


 カイトの指示を受け、アリスとソーニャの二人が頷いた。そうして二人への指示を出したカイトは、一つだけ深呼吸をする。


「ふぅ……」


 今の所、問題は出ていない。ここから一直線に進めば、元村長宅へとたどり着ける。距離はおよそ700メートル。一気に行けるのなら数分も掛からない。無論、この大通りにも無数の魔物達が屯しており、一気に行ける事はない。強行突破するしかない。


「……良し」


 覚悟は定まった。そんなカイトは一つ腹に気合を入れると、一気に物陰から躍り出る。そんな彼に、ゾンビに似た魔物達も気が付いた。


『『『あぁあああ……』』』


 ゾンビに似た魔物達の口からうめき声に似た声があがり、ゆっくりと動き出す。それに対して、カイトは一気に肉薄。一刀両断に全てを斬り伏せた。


「はっ!」


 ただ一太刀で全てまとめて斬り伏せたカイトは一つ頷いて、全員を呼び寄せる。それを受けてローラントを先頭にした四人が来るのを背に見ながら、カイトは周囲で動き出した魔物達に気が付いていた。


「まぁ、来るか」


 今の今まで魔物達に気付かれていなかったのは、息を潜めなるべく力を放出しなかったからだ。が、今カイトは戦闘行動に入った。その時点で魔物達は違和感に気付いた事だろう。遠からず、この広場には村の各地から大挙してアンデッド系の魔物達が集まってくる事だろう。


「さて……行くか」


 留まっていれば留まっているだけ、面倒になるだけだ。それを理解していたカイトは駆けてくる一同を背に感じながら、再び走り出す。


「ソーニャ! この程度の敵ならまだバフは必要ない! 今は力は温存しておけ!」

「はい!」


 兎にも角にも、敵が集まるより前に村長宅にたどり着ければカイト達の勝ちだ。が、重要施設には強大な魔物が配置されている事を考えれば、そう簡単には行かないだろう事は明白だ。故の指示にソーニャも頷いて、僅かに力を抑える事にする。そうして、大通りを突き進む事しばらく。一同の前に、巨大な骨の魔物が立ちふさがった。


「『ボーン・ジャイアント』! ちっ!」

「ランクAの一体か! 面倒なのが来たか!」


 おおよそ五メートルほどもある巨大な骨の魔物に、カイトとローラントは思わず顔を顰める。わかりやすく言えば骨の巨人種だ。アンデッド系の魔物の中でも輪をかけて遅い種だが、その分攻撃力と防御力は折り紙付きだ。まともには戦いたくなかった。が、やるしかない。


「ソーニャ!」

「はい!」


 こいつに足止めされているわけにはいかない。故にカイトは一撃で仕留める事を決める。そうして駆け出したカイトに向けて、ソーニャの霊力が融通される。そして、それと同時。シェイラが杖で地面を叩いた。


「<<青薔薇の拘束ブルーローズ・バインド>>!」

「良し!」


 青の茨により雁字搦めに拘束された『ボーン・ジャイアント』を前に、カイトは地面を蹴って跳び上がる。そうして『ボーン・ジャイアント』の巨大な顔面の前で、大きく拳を振りかぶった。


「おらぁ!」


 がらん、と乾いた音を立てて、『ボーン・ジャイアント』の顔面が砕け散る。そうして、カイトはその顔面の中心部に収められていたコアを見つけ出す。


「アリス!」

「はい!」


 カイトの声掛けを受けて、アリスがコア目掛けて跳び上がる。その刀身にはソーニャの力が上乗せされた退魔の力が宿っており、強固な守りが破壊された今なら相手が遥か格上でも十分に通用するだろう。が、その刃が届くか否かのその直前。カイトが虚空を蹴って、アリスをおもむろに突き飛ばした。


「っ!」

「ぐほっ!」

「「カイトさん!?」」


 『ボーン・ジャイアント』の巨腕で殴り飛ばされ、瓦礫の中に消えたカイトへ少女二人の悲鳴にも似た声が響く。それに対して、ローラントもシェイラもやはり熟達だ。カイトがこの程度では死なない事は理解していた。


「カイトならあの程度では死なん! ひとまず周囲の敵をなんとかしろ!」

「<<ジャッジメント・レイ>>!」


 ローラントは青白い炎を纏い砕かれた顔面を再生させる『ボーン・ジャイアント』の進撃を食い止め、シェイラは集まりつつあるアンデッド系の魔物の大群に向けて広範囲に及ぶ魔術による砲撃を敢行する。そんな音を聞きながら、カイトが瓦礫の山を吹き飛ばした。


「ちっ……やってくれるじゃねぇか」


 カイトがアリスを突き飛ばした理由は簡単だ。青白い炎の予兆に気付いて、腕が動いた事に気付いたのだ。流石にアリスではランクAの魔物の一撃は耐えきれない。幸い単なる殴りだったので死にはしないだろうが、それでも怪我は免れない。


「青白い炎を上げて再生、なんぞ『ボーン・ジャイアント』の技じゃねぇな……ボスか」

「カイト。無事だな?」

「ああ。どうやら、長年攻略出来ないには出来ないなりの理由があるのは間違いなさそうだな」

「わかりきっていた話だ」


 『ボーン・ジャイアント』の進撃を単身食い止めていたローラントは、カイトの言葉に苦笑する。おそらくこの青白い炎はここら一帯を治めるボスの何らかの力。そしてこの『ボーン・ジャイアント』はその幹部格というわけなのだろう。


(ソーニャ)

(はい)

(一度力はアリスの保護に回せ。中々に面倒そうだ。雑魚をなんとかしてもらいたい)

(はい)


 カイトの指示に、ソーニャはアリスに回す力の配分を多くする。それを横目に、カイトは改めて『ボーン・ジャイアント』を観察する。


(青白い炎による再生……奴には無い力だな。ふむ……)


 この青白い炎がどういう力を持つのか知らない事には、まともに戦っていられない。しかも悪い事に、この魔物には魔術に対する耐性まである。が、アンデッド系にはもう一つだけ、弱点があった。


「……良し。すぅ……」


 瓦礫の上で、カイトは一度だけ呼吸を整える。アンデッド。和名にして不死者。が、死のない者と死してなお動く者では明白な差が存在している。そしてこれは後者。死してなお動く者だ。故に、生命力による攻撃と言われる気には殊更、弱かった。


「……」


 とんっ、とカイトが軽い感じで瓦礫を蹴る。そうして数度蹴鞠の様に瓦礫を蹴り上げた彼は、自らの浮かび上がって瓦礫を『ボーン・ジャイアント』に向けて蹴っ飛ばした。


『おぉおおおおお!』


 飛ばされてきた瓦礫に向けて、『ボーン・ジャイアント』は雄叫びを上げて殴り掛かる。ランクAの魔物と単なる瓦礫だ。この勝敗なぞ見えている。故にカイトはこの瓦礫を隠れ蓑に、地面を縫う様にして『ボーン・ジャイアント』の足元へと肉薄していた。


「足元が、お留守だぜ?」


 ぴたり、と『ボーン・ジャイアント』の脛あたりに触れたカイトが笑う。そうして、彼は気合を入れて気の力を叩き込んだ。


「はぁあああああ!」

『!?』


 唐突に注ぎ込まれた膨大な生命力に、『ボーン・ジャイアント』の巨体が驚きに似た感情を浮かべる。が、相手は世界最強と呼ばれる男だ。その膨大な生命力に抗う事は出来ず、膝から崩れ去る様にバラバラになった。が、崩れ落ちたそばから、青白い炎が骨の欠片に宿った。


「……甘い。遠隔でなんとか出来るのは一度だけだ……アリス!」

「はい! <<聖なる矢(セイント・アロー)>>!」


 崩れ落ちた骨の山の中から『ボーン・ジャイアント』のコアを二つ見つけ出したカイトはそれを放り投げると、それを見定めてアリスが光の矢を編み出して、発射する。それは『ボーン・ジャイアント』のコアを貫くと、遥か彼方へと消え去った。


「良し……さて」


 『ボーン・ジャイアント』の復活を阻止して、カイトは一つ頷いた。だがこれで終わりというわけではない。故に彼は再度刀を構えて、元村長宅へ向けて進んでいくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1707話『ルクセリオン教国』

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