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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1703話 ルクセリオン教国 ――廃村へ――

 ルクセリオン教国の闇を調べるべく、刀を直せる鍛冶屋の情報を得るべく動き出したカイト。彼は先日の依頼にて懇意になったソーニャの所で依頼を見ていたが、そこにローラントが現れる。

 そんなローラントの頼みを受けて、カイトは一路二十年もの間誰も達成者が居なかった依頼を受ける事となっていた。そうして彼はその依頼の支度として、まずはティナと打ち合わせを行っていた。


「というわけで、明日はルクセリオから離れる。その間の手配は任せた。明後日の昼過ぎには帰還する予定だ」

『わーった。こちらはこちらで手配しておこう。まぁ、今の所の予定では明日はほぼ全て討伐になりそうじゃしのう。問題は無かろう』


 やはりマルス帝国の中央研究所は広大な敷地面積を誇る。今は軍部が再調査に向けた会議を行っているが、カイト達もそれに加わる見込みが高い。まぁ、加われなくともどちらにせよその間は中に入れる事はない。

 もし入れなかった場合はこちらで暇潰しに簡易な依頼を受けるか、肩慣らしをしているだけとなる。入った所で軍の指揮下に入って戦闘、入らなかったとてその時は個別で任務だ。カイトが居なくとも問題は無かった。


「頼む。まぁ、オレも明日は単に肩慣らしをするだけだ。どちらも怪我が無ければ良いか、という所だろう」

『きーつけろよ。お主の方は曲がりなりにも二十年誰も突破しておらぬ依頼じゃ。得てしてそういう依頼は』

「わーってる。伊達にオレとて冒険者やってねぇよ。これでもミレニアムも攻略実績持ってるよ。高々二十年だから、と油断はしねぇさ。それが喩え単なる討伐依頼に見えてもな」


 カイトの明言に、ティナは笑う。ミレニアム、というのは百年もの間誰も達成実績の無い依頼だ。この理由は様々で、魔物の討伐であれば例えば逆に月日の経過により魔物が強化されてしまい、依頼の達成が困難になってしまう様な事もある。他にも難易度の高い迷宮(ダンジョン)を攻略、という腕試しもあったりして、どれもこれもが一癖も二癖もある物だった。


『釈迦に説法じゃったか』

「そういう事……ま、そっちも気を付けてな。何があるか分からない、という意味じゃあ、そっちも一緒だ」

『うむ』


 カイトの注意喚起にティナは一つ頷くと、通信を切断した。ひとまずこれで問題はないだろう。と、そんな支度を色々としていれば、あっという間に時間だった。


「良し、行くか」


 支度を終えて、カイトが立ち上がる。そうして、彼は一路空港を目指して移動する事にするのだった。




 さて、空港へと移動したカイトであるが、そんな彼を待っていたのは当然ローラントだ。彼が今回の任務の受注を提起したのだ。それ故、全体的な手配を行ってくれていた。また、そういうわけなので今回のパーティのリーダーは発起人である彼となる。

 というわけで、彼の支度にはそこらも含まれており、先んじて来ていたのだろう。空港の集合場所――専用の待合室――にはまだ彼だけだった。


「オレが最初か?」

「俺を除けば、そうなる」

「ま、しょうがないか」


 集合時間には遅れずに到着していたカイトであるが、一応は大人として少し早めに来ていた。一番早いとは考えていなかったが、ここらは人それぞれという所なのだろう。というわけで、待合室に備え付けられていた椅子に腰掛け、他の面子を待つ事にする。


「そう言えば……今回は掃討戦という事だったな。いっそ、村を破壊したらどうなんだ?」

「無論、一度は軍も考えただろう。が、当時は飛空艇は無かった。爆撃、というわけにもいかなかったのだろう。陸戦で高度な魔術師が遠距離から破壊する事も考えられたのだろうが……」

「何か問題が?」

「……そうだな。もう少し来る事もなさそうだから、先に話しておくか」


 一度周囲を見回したローラントであったが、もうしばらくは来そうになかった事もありカイトと先んじて打ち合わせを行っておく事にした様だ。彼は一枚の地図を待合室の机に広げた。


「これは俺が独自に今回の廃村の周囲を調査した地図だ。地脈の流れ等も記している」

「何度か受けようとしたのか?」

「ああ……が、追い返されていてな。生半可な腕を集めては無駄だと判断した」

「ふむ……何かあるのか?」


 ローラントほどの腕利きがパーティを率いて失敗しているというのだ。であれば、何らかの事情があるだろう事は想像に難くない。


「どうやら村に設置されていた結界が魔物の長との間で共鳴を起こしたか誤作動を起こし、妙な力場が発生しているらしい。若干だが位相がズレている。超遠距離からの支援が通用しない。また、それと共にアンデッド系の魔物にとって生存に最適な場が出来ている。日光下でも生存が可能だ」

「なるほど……」


 それは二十年もの間、誰も達成出来ないわけだ。ローラントの語る事情を聞いて、カイトは納得して頷いた。敵の数が多い場合、最も有用なのは飛空艇や魔術師による遠距離からの砲撃だ。

 それが使えないとなると、今度は近接戦に優れた者達を集めて数で掃討するしかない。しかしそうなると、今度は先に問題視されていた取り分の問題が発生する。結果、十分な利益を得つつ達成出来るとなると、才能の有無さえ無視出来る腕利きか才能を持つ者の少数精鋭でなんとかせざるを得なかった。


「ということは、今回の最終目標は村の結界の破壊か」

「ああ。結界さえ破壊出来れば、後は大半が自然消滅すると見て良い。無論、そのためには可能な限りの掃討は行うつもりだ。どうにせよ、魔物の群れを率いている何かしらを倒す為にはある程度は討伐しなければならないだろう」

「なるほどね……こりゃ、デカイ案件だ。報酬も弾まれるわけだ」


 聞く限り、どう考えても軍が行けば被害が大きくなるとしか思えない。冒険者に依頼したのが最適だろう。


「そういうわけだ。それで、お前ほどの除霊師の力を持ちながら戦闘が可能な者を待っていた。元々二人は確定していたのでな」

「二人……ルクセリオ支部の支部長も除霊師なのか?」

「いや、彼女は普通の魔術師だ。古い知り合いでな。支部長になる前に組んでいた事がある。最もやりやすいのが、彼女というだけだ」

「腕は?」

「俺やお前より一段下という所と考えてくれ」

「ふむ……」


 ローラントは間違いなくランクAでも上位層に位置している。ランクAでもかなりの差がある事を考えれば、一段下というシェイラの腕はランクA相当という所だろう。十分ローラントが支援役として招いたとて不思議はない。


「にしても……よく支部長なんかを駆り出せるな」

「何度か、シェイラとは組んでいたと言っただろう? 別に支部長だからと依頼に出ないわけではない。お前は見た事が無いのか?」

「まぁ、無くはないな。珍しい事は珍しいが」

「フィールドワークが好きなのよ」


 珍しい。そう断言したカイトに対して、シェイラの声が聞こえてきた。そんな声に二人が顔を上げてみれば、シェイラとソーニャが揃って待合室の扉の前に立っていた。


「支部長さんとソーニャか」

「ええ。ローラントは兎も角、貴方も早かったのね」

「ああ。ま、ここらの地理にはまだ慣れてないからな。遅れない様に少し早めに来た」

「良い心掛けね」


 カイトの返答に頷いたシェイラは、ソーニャと共に待合室の椅子に腰掛ける。これで後はアリスだけだ。と、そんな噂をすれば影がさすとばかりに、アリスもすぐにやって来た。


「おまたせしました」

「これで、全員か。では、行くか」


 アリスが来た事を受け、ローラントが地図を袋の中にしまい込む。そうして、五人は廃村があるという場所に向かう飛空艇へと乗り込み、一路北を目指して進む事になるのだった。




 さて、五人がルクセリオを目指して出発して半日。夕刻を過ぎ夜になったあたりで、一同はルクセリオン教国北部有数のキエムという都市にやって来ていた。


「へー……こんな所もあるのか」


 見る限り、キエムは雑多な街と言って良い。まぁ、国風から異族は見受けられないが、それ故にどこか地球の都市と似た様な雰囲気があった。


「北部で第三の大きさとなるキエムだ。ここが件の廃村に一番近い」

「へー……」


 どうやらカイトは三百年前当時でもキエムには来た事はなかったらしい。感心した様に頷いていた。と、そんな彼であったが、そのままの流れでローラントへと問い掛ける。


「それで? これからどうするんだ? 野営か? それとも宿を取るのか?」

「こちらに来た時に得た知り合いが居てな。彼に宿の手配を頼んでいる。明日の朝一番に竜車を使って出れる様にしてくれているはずだ」

「そうか……」


 基本的にカイトはローラントに招かれ、戦闘に参加する事になっているだけだ。なので基本はおまかせと言ってよく、彼に従う事にする。そうしてしばらく待っていると、一人の若い男が現れた。


「ローラントさん。お待ちしてました」

「ああ、悪いな。急に話をして」

「いえ……にしても、本気ですか? 前回は二十人規模のキャラバンを組んで挑んだオーリムに、今度は半分どころかそれ以下の五人って……」


 どうやらこの彼も今回の任務の首尾については聞いているらしい。ローラントが伝えていた情報に顔を顰めていた。


「ああ。その代わり、腕利きと適性を持つ者を連れてきた。そこの刀使いは俺と同等の腕を持ちながら、除霊師としても有数の腕を持つ。他にもルクセリオ支部の支部長と、教国有数の除霊師、ヴァイスリッター家の令嬢だ」

「そ、それはまた……え? ヴァイスリッター家の令嬢?」


 それはまた凄まじい面子を揃えたものだ。そう驚いた若い男であったが、アリスが含まれていた事に大いに驚いていた。


「大丈夫なんですか?」

「ああ……問題はない。彼女も除霊師としての力を持っている。まだ芽の段階だが……冒険者としても数ヶ月の実務経験があるそうだ。複合的に見れば足手まといにはならん」

「はぁ……」


 まぁ、ローラントが良いと言うのなら、良いのだろう。若い男は彼の言葉に訝しげだが頷いた。と、そんな若い男であったが、ふと思い出した様にカイト達の方を向いて頭を下げた。


「あ、そうだ。すいません、名乗り遅れました。自分、ピアース・ワイルダーって言います。本職じゃないんですが御者もしていまして、今回も皆さんの御者を務めさせて頂きます」

「おう、よろしく」

「はい」


 気軽げなカイトの応答に、ピアースも笑顔で頭を下げた。そうして彼の自己紹介が終わった所で、再び一同は歩き出す。


「あ、そうだ。ローラントさん。前に頼まれていた地図。なんとか見付かりましたよ。図書館の書庫になんとか残っていたみたいです」

「そうか。悪いな」

「大変でしたよ。なにせ二十年前の廃村の地図ですからね」


 労をねぎらうローラントに、ピアースは若干だが疲れ気味に笑っていた。どうやらこれはその廃村の地図というわけなのだろう。というわけで、そんな彼に案内されて一同は今日の宿へとたどり着いた。そうしてチェックインを済ませると、一度部屋に入って休む前に明日の打ち合わせを行う事にする。


「さて……それで自分が事前調査した限りの情報を皆さんにお伝えします」

「なぁ、ピアースの本職は何なんだ?」

「あ、自分ですか? 自分は所謂なんでも屋ですよ。といっても、皆さんみたいに戦闘はしません。危険が出ない程度の事前調査や、今回の様な手配なんかの代行をする仕事です」

「なんだ。代行業者か」

「はい。今回は宿の手配と御者を頼まれていたんですが……前回からの引き続きでオーリムの定期的な調査も頼まれていたんですよ」


 カイトの納得を受けて、ピアースは自身が何故情報を持っているのか、という理由を語る。こういったなんでも屋の様な職業は意外と需要がある。冒険者は時として依頼を受け、たった数日で数百キロを往復しなければならない事もある。

 そんな時、逐一自分だけで色々な手配をしていれば手間だ。夜に到着して宿が手配出来ない事もあるかもしれない。というわけで、ピアースの様な代行業者が居るのである。ユニオンとも提携している所も多いので、信頼もできる。カイトも何度か利用させてもらった事はあった。


「良し。じゃあ、情報を頼む」

「はい……これが、今回皆さんが向かわれる廃村……当時オーリムと呼ばれていた村の地図となります」


 ピアースは机の上に一枚の古ぼけた地図を広げる。それを見て、カイトが意外そうに目を見開いた。


「広いな」

「ええ……規模としては中規模の村と言って良いでしょう。当時の人口は五百人。戸数としても百戸ほどの村です」

「ふむ……」


 そんな村が壊滅か。どうやらかなり大規模な襲撃を受けたらしい。これは相当な激戦を想定しなければならないかもしれない。カイトは一つ気合を入れる事にする。そうして、彼はその後しばらくの間、オーリムという村の討伐任務の打ち合わせを行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1704話『ルクセリオン教国』

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