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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1700話 ルクセリオン教国 ――疑念――

 ルクセリオン教国聖堂教会付属の学校の実地演習において起きた事件を片付け、学生達が拠点にて軍の救援を待つのに同席したカイト。彼は軍に引き取られ聖教学園の生徒達が帰還するのを見送ると、乗ってきた天竜のコンテナに乗ってルクセリオへと帰還する。そんな彼は依頼の完了の手続きをユニオンのルクセリオ支部にて終わらせると、即座に宿屋に入って使い魔と入れ替わった。


「ティナ。少し良いか?」

『む? なんじゃ』


 使い魔と入れ替わったカイトは、ひとまずティナと合流する事にする。とはいえ、その為にはまず彼女の現在地を把握しておかねばならないだろう。というわけでの問い掛けに対して、現状を知らないティナが首を傾げた。


「少し調べてもらいたい事が出来た。今どこだ?」

『まだ飛空艇じゃ。<<X-ブラスター>>の調整に手間取っておってのう。まぁ、徹夜にならぬ程度には抑える』

「そうか。なら丁度良い。オレもそちらに向かう」

『む?』

「詳細はそちらに着いてから話すよ」


 カイトは今回の戦闘で使用した特殊弾を片手に、ひとまずは飛空艇を目指す事にする。幸いにして彼の立場はギルドマスター。ギルドメンバーの一人が飛空艇に入ったまま帰ってこないのであれば、それを訝しんで来たという言い訳が通用する。というわけで、カイトは空港にてその旨を伝えると自分達が乗ってきた飛空艇に乗り込んだ。


「ティナ。まだ作業中か?」

「うむ。使用した以上、そしてこれが超科学・超魔術の産物である以上、厳重に確認はせねばならぬ。もし原素の消失なぞ見受けられれば事じゃからのう」

「作った者の務め、か」

「うむ。作った者は如何なる失敗であれ、作った事は認めてやらねばならぬ。そしてそれを否定してもならぬ。それが、生んだ者の最低限の義務よ。まぁ、それと共に暴走したのであれば、暴走を止めてもやらねばならんな」


 ティナはコンソールと解析結果のにらめっこを繰り返しながら、自身の製作者としての考えを語る。と、そんな彼女の横にカイトは使用した特殊弾を置いた。


「む?」

「これの解析を頼む。先程まで出ていてな。そこで使ったんだ」

「まぁ、これの解析であれば単に解析用の機器に掛けるだけじゃから構わんが……何に使ったんじゃ?」

「ひとまず、先入観無しでお前の所感を聞きたい」


 カイトは深くは話さず、ティナへとひとまずの解析を依頼する。それを受けて、ティナは使い魔を使って専用の解析装置に掛ける。すると、数分で結果が出て来た。


「出たぞ……ふむ……結果じゃが。ゾンビ系の魔物じゃろう。とはいえ、これは……ふむ……」

「遺体に憑依した形、か?」

「なんじゃ。分かっておったのか」

「ああ……遺体は何時頃亡くなったと推測される?」

「そうじゃのう……おおよそ一年以内と言うて良かろう。とはいえ、そこまで遠くもない。かといって、近くもない……最低でも半年は経過しておろう」


 カイトの問い掛けを受けて、ティナが解析結果を報告する。それで、カイトは違和感を強める事となった。


「ふむ……やはり、か」

「で? 一体何があったんじゃ」

「ああ。実はさっき……」


 カイトはティナの求めを受けて、先程まで自身が取り掛かっていた案件についてを彼女へと報告する。そうして更に、自身の推測を語った。


「誰かが意図的にあそこにこいつを配置したんじゃないか……そう思って、お前に解析を依頼したんだ」

「ふむ……確かに、可怪しいのう」


 カイトの推測を聞いて、ティナも僅かな違和感を感じざるを得なかった。とはいえ、彼女はやはり学者性質と言える。なのであくまでも、と前提をつける事を忘れなかった。


「まぁ、当然の話であるが。遺体を媒体として魔物化するにしても、即座とはならぬ。調査から実地演習までの間に魔物化が起きたとて、いささかの不思議はない。これについては前提として設けておこう」

「それについてはまぁ、オレも否定はせんよ。が、どちらの方が可能性として高いか、と考えた時にな」

「それは余も否定はせん。意図的にそこに送られた可能性と、調査から実地演習までの数日の間に魔物化が起きる可能性であれば前者の方が遥かに高い。そもそも遺体の魔物化とは、土地に対して一切の整理がされておらぬ状況で起こるものよ。聞く限り、それを忘れたとは思いにくい」


 カイトの言葉に同意を示したティナは、やはりカイトと同じく人為的に魔物が送り込まれた可能性が高い事を明言する。


「やはり、か」

「うむ。結論としてはのう。とはいえ、やはり断定は出来ん。遺体を媒体とする形で魔物と化すというのは」

「比較的起きやすい、だろう? 分かっている。が、この場合は量を考えれば明らかにネクロマンス系の魔術の研究者だ。そうでないと、あそこまで大規模なアンデッド系の魔物の使役なぞ出来ん」

「むぅ……それは否定は出来ぬな。こんな首都近郊でのうのうと研究が出来るか、と言われると疑問は残る」


 カイトの指摘に対して、ティナは深いため息を吐いた。やはり色々と疑わしい点は尽きない。が、更に困るのは、やはりこれが何が狙いなのか分からない事だ。


「ふむ……事態が起きたタイミングから考えて、オレを呼び出す為とも考えられるが……流石にそこまで行くと穿ち過ぎか」

「まぁのう……とはいえ、あり得ぬとも言い難いのが難点じゃのう」

「はぁ……」


 どうしたもんか。カイトは深い溜息を吐いた。と、そんな彼にティナが一つ提案する。


「そう言えば来週、ルーファウスの招待でヴァイスリッター本家に向かうのではなかったか?」

「ん? ああ、それな。呼ばれているから行く……まぁ、三百年ぶりのダチの家だ。先代さんにも世話になった。花の一輪でも備えにゃなるまいよ」


 ティナの問い掛けに対して、カイトはわずかに苦笑を浮かべる。この先代さん、というのはルクスの父親の事だ。カイトは公的な会合を除けば数度しか会った事はなかったが、一度生命を救われた経験もある。それ故、義理として花の一つも手向けるか、と考えているらしかった。

 表向きはアル――ひいては彼の実家――からの依頼としてあるし、すでにルードヴィッヒにもその旨のアポイントを取っている。これは確定としてよかった。


「であれば、その際に調査の報告でも聞いてみれば良かろう。そも、アリスの件等は聞くつもりじゃったんじゃろ? であれば、少しそれとなく聞いてみれば良い」

「なるほどな。確かに、そのとおりか。すまん、助かる」

「うむ。まぁ、この特殊弾については改めて詳細な解析もしておこう。お主はそちら方面から確認せよ」

「ああ」


 兎にも角にも、迂闊に動けない事は動けないのだ。もしこれがカイトを呼び出す為の策だった場合、すでに冒険者としてのカイトも敵の監視下にあるという事だ。狙いを探り、行動を予測する必要があった。とはいえ、そうなるとそうなったで面倒もある。


「まぁ、しばらくは待ちの日々となるか」

「しか、あるまい。基本的には今はまだ気付いておらぬ風を見せるべきじゃろう。少なくとも、尾行は無いんじゃろう?」

「それは無いと断言しよう。気配を読むのであれば、オレの才能を信用してくれて構わん」

「であれば、今後しばらくは迂闊に動かず、何時でも返す刀を叩き込める様にしておくのが肝要じゃろう」


 今はまだ監視されていると決まったわけではない。わけではないが、監視されていると分かって動き出せばその時点で監視者に監視がバレている事を気付かせる結果となる。後々になって捕らえられればよかった、と思っても遅いのだ。なら、しばらくは監視に注意しながら相手の出方を窺うしかなかった。


「そうだな……で。終わらないのか?」

「むぅ……<<X-ブラスター>>の調整はまぁ、順調なんじゃが」

「じゃあ、何が問題なんだ?」

「いや、想定より少し結界の強度が弱くてのう。相転移砲の理論は」

「聞きたくない」


 朝から晩まであれだけの大立ち回りをした上に、この上に相転移の理論なぞカイトは聞きたくなかったらしい。学術的な解説が入るより前にティナの言葉に割って入り、即座に切り捨てた。それに、ティナが不貞腐れた顔をする。


「むぅ……」

「前に聞いただろ。二度も三度も説明されんでも大丈夫だ。相転移砲は対象の一部を相転移でエネルギーに変換。それで敵を焼き尽くす……だろ?」

「うむ。まぁ、相転移砲では数ミリの水滴を相転移させるだけでも、広大な範囲を焼き尽くせる。実際、ホタルも相転移させておるのは敵を焼き尽くせる程度にきちんと調整しておるからのう。とはいえ、それでも周囲への被害は甚大となる。故に周囲に破壊を巻き散らかさぬ様に、結界で包んでおるわけじゃな」


 カイトがきちんと理解している事に満足気に頷いたティナであったが、更に続けて一応の簡単な理論を述べておく。そして彼女が今調整していたのは、この結界の部分だった。ここは周囲の被害に直結する為、何より彼女が重要視している所だった。


「で、今はその結界の調整中と」

「うむ……まぁ、こんなもん滅多に使うもんではなかろうが……使うとなって困るより、今なんとかする方が良いからのう」

「まぁ、そりゃ良いんだが……お前、時間分かってるか?」

「む?」


 どうやら案の定、ティナは今が何時頃か分かっていなかったらしい。何時もの事と言えば何時もの事だ。普段ならホタルが居る時は彼女が指摘してくれるが、現在の彼女は演算領域を含めたメンテナンス中という事もあり、パソコンで例えればスリープモードだ。指摘が無かったのだろう。


「むぅ……しゃーない。今回はここまでにしておくかのう」

「どっちにしろ対処しようにもここには機材も無いだろう? なら、ひとまずここで対処しようとせずに帰還後にしろよ」

「それもそうじゃのう。どちらにせよ結界の強度を上げるのであれば、色々と魔導炉に改良を施さねばならぬか。うむ、ではホタルを再起動させるか」


 カイトの指摘にティナは道理を見ると、早速ホタルの再起動へ向けて作業を開始する。そうして数分。自己診断テストを終えたホタルが再起動を果たした。


『おはようございます』

「うむ。ホタル、調子はどうじゃ?」

『……自己診断テストに異常は無し。<<X-ブラスター>>の砲身の状態、出撃前と変化なし。また、魔導炉も安定しております』

「うむ。こちらの結果でもそう出ておる……良し。これで出られるぞ」

「ありがとうございます、マザー」


 ティナがホタル専用のメンテナンスカプセルの側面のスイッチを押してカプセルを開けて、それを受けてホタルが上体を起こす。そうして、彼女は数度手を握り感覚を確認する。


「……感覚器官に異常なし。戦闘行動にも問題はありません」

「うむ。あぁ、そうじゃ。<<X-ブラスター>>についてじゃが、現状では先の規模での展開に留めよ。最大範囲は禁止じゃ」

「何かありましたか?」

「お主のログを見て分かったが、結界の出力が若干想定より低い。まぁ、お主の内心が絡んでおる可能性は十分にあり得るが……技術的に未知の部分が多い。それ以外の要因は大いにあり得る。迂闊な事をして被害を生むのは馬鹿らしい」

「わかりました」


 ティナよりの診断結果を聞いて、ホタルが一つ頷いた。そもそも、<<X-ブラスター>>の使用はカイトの許可を得て行うべきものだ。それもなくぶっつけ本番で行っていたので、原因の究明にはまだしばらくの考察を必要としていたらしい。


「良し……さて、二人共。とりあえずホテルに戻るぞ。流石に一日に二件もデカイ案件に対処したら疲れた」

「うむ」

「はい」


 疲れた様に立ち上がったカイトの言葉を受けて、ティナとホタルが調整用に用意している一室から退去する。そうして、しっかりと部屋に封印を施して、三人は改めてホテルへと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1701話『ルクセリオン教国』

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