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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1695話 ルクセリオン教国 ――依頼――

 ルクセリオン教国にある、元マルス帝国中央研究所。今は教国にて研究所として活用されているその施設であったが、一部のエリアはマルス帝国時代に封鎖された状態だった。

 そんな施設であったが、そこで開発されたホタルの認証コードを使用する事で内部への潜入に成功する。が、それと時同じくして、カイトは教国が暗躍している可能性も見え隠れしている事を理解する。それを受け、カイトは一度冒険部の指揮をティナに任せると、一人一回の冒険者として活動を開始していた。


「おーっす、ソーニャちゃん元気?」

「また貴方ですか?」

「おう、またオレだ」


 ソーニャ。どうやら初日にカイトに対して辛辣な目を向けていたユニオンの受付は、そんな名前の女の子らしい。相変わらず辛辣な目をしている様子だった。


「で、今日はなんですか? しかもこんな時間に……」

「つれないね。ま、冒険者が受付に来てるんだから、要件なんぞ一つだろう。お仕事ちょーだい」

「ダメ男ですか、貴方は」

「お金じゃないんだからいーでしょ」


 楽しげに、カイトはソーニャへと笑いかける。が、そんな彼に対して、ソーニャの目は冷たかった。


「今頃ですか? 朝一番のかき入れ時は全部終わっちゃいましたよ」

「あっはははは。昨日深酒しちまってさー。飲みすぎて気付いたらさっきだったのよ」

「……」


 うわー。ソーニャはカイトに対して、生ゴミか養豚場の豚でも見るかの様な目を向ける。


「おいおい……そんな目で見つめられると興奮するじゃねぇか。何、欲求不満? 何だったら今夜お邪魔しようか?」

「……で? おっしゃりたい事はそれだけですか?」

「あはは」

「はぁ……はい、これが今日貴方が受けられそうな物のリストです」


 ソーニャもカイトの言動が冗談だという事は分かっているのだろう。故に何かを言う事もなく、ため息一つで事務的な話に入る事にする。


「ふむ……」


 やはりここからは仕事だからだろう。今までおちゃらけた男の顔を覗かせていたカイトであったが、一転して真剣な顔をする。流石に演技を見せるカイトでも、実戦になると下手な事は出来ないと演技からは離れる様子だった。こういうのも冒険者としてはよくある姿と言える。


「……」


 この男、こうやって真剣な顔をしていれば見れるのに。ソーニャはそう思う。そもそもなんだかんだカイトの受付をやっているのは、ローラントが一目置いたという事がある。

 とはいえ曲がりなりにもユニオンの受付嬢として、依頼を確認している間の冒険者に対して何かを言う事はなかった。それに下手にそんな事を口にすれば調子づく。口にしない様にしよう、と思ったらしかった。


「ふむ……今日は失せ物探し系が多いな……」

「どこぞの誰かさんが大遅刻をかましましたので」

「うーん……」


 別に失せ物探しが嫌なわけではないが、時間が掛かり過ぎると冒険部側に何かがあった時に面倒だ。自身なら手早く終わらせられて、なおかつ普通には時間が掛かりそうな戦闘系の依頼を受けたい所であった。と、そんなわけで丁度よい依頼はないか、と確認していたわけであったが、そこでユニオンの扉が大きく開かれる事になった。


「ん?」

「はぁ……はぁ……急ぎの依頼だ! 緊急で頼む!」


 カイトが振り向いたとほぼ同時に、大慌てで駆け込んできた男が声を張り上げる。それを受けて、受付の一人が立ち上がった。


「そいつをこっちに通してくれ! 他、一旦受注は停止!」


 やはり依頼人と思しき人物が駆け込んできたからだろう。ユニオンの支部に依頼人が駆け込んでくる時は大抵、何か大問題が起きたという場合が多い。なので基本的にはその場に居る冒険者はすでに依頼を受けていた場合を除いて、一旦依頼の受注を停止する事が多かった。緊急性が高いかもしれないからだ。

 と、そんなわけでカイトもソーニャと共に成り行きを見守っていると、しばらくしてソーニャの後ろからユニオンの職員が現れて紙が回ってきた。


「ソーニャ。これ。緊急よ。受けられる冒険者に依頼を回して」

「はい」


 どうやら案の定、緊急性の高い依頼だったらしい。依頼書を読み込むソーニャの顔が険しい物に変わっていた。


「仕事か?」

「……」


 どこか楽しげなカイトの問い掛けに、ソーニャは嫌そうな顔を浮かべる。確かにカイトとしてもこういった緊急性の高い依頼は受けたくはない――大抵が多人数なので抜けられない――が、人命には替えられない。さらには下手に悪評を立てるとここから先の調査にも差し障る。信頼は築くのに時間が掛かるが、失うのは一瞬なのだ。


「はぁ……仕事です。依頼人は聖教学園。緊急性は最上位。どうされますか?」

「受けよう。寝坊したのもなんかの縁だろうさ」

「はぁ……まぁ、今ばかりはその言葉を良しとしておきましょう」


 何はともあれ、ここにカイトが居るのは表向き深酒をして寝坊したから、だ。そして一応カイトはローラントが認めるほどの腕利きとして認識されている。その腕利きが依頼を受けるというのだ。ユニオン側からしても良い話と言えただろう。というわけで、ソーニャが依頼の詳細を話し始めた。


「本日、聖教学園の生徒達が外地において実習を行っておりました。そこで、アンデッド系の魔物に襲われたそうです。現在はヴァイスリッター家のご令嬢二人を中心として、なんとか堪えている様子。ですが長くは保たないでしょう」

「む……」


 ヴァイスリッター家のご令嬢二人。カイトはアリスからヴァイスリッター本家にはもう一人妹が居る事を聞いていた。であれば、この二人はアリスとそのもう一人の妹というわけなのだろう。故に、カイトはわずかに顔を顰める。


「なんですか? まさかお知り合いになれるかも、とか思ってませんか?」

「学生二人じゃ保たんぞ。聖教学園といえば、教国最大の学園。騎士団の飛空艇艦隊がすぐに向かうべきだろう」

「……」


 この男は本当に何なのだろう。真剣に提案するカイトに対して、ソーニャはそう思う。おちゃらけているかと思えば、熟練の冒険者の視点を見せるのだ。判断しかねた。とはいえ、カイトの指摘は尤もだ。故に、彼女は内情を明かす事にした。


「現在、即応可能な騎士団である<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>はルクセリオ近郊にて大規模な作戦行動中です。ルクセリオからの艦隊派遣は出来ません。結果、足の早い冒険者へと依頼が来た形となります」

「なるほどね……わかった。とりあえずは急ぐべきだろうな」

「わかりました。では、受領手続きを行いますのでしばらくお待ち下さい」


 知っていた話だが。カイトは内心でそう思いながらも、一応は納得を見せておく。現在即応性に優れた<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>は中央研究所の一件に掛り切りだ。ルクセリオの危機と学生の危機ではどうしても前者が優先されてしまうのは致し方がない事だった。


「にしても……」


 ソーニャが依頼の受領手続きを行う間、カイトは少しだけ考える。確かアリスは現状、一週間の休みが与えられていたはずだ。その彼女がなぜそちらに同行しているのか、と気になる所だった。

 が、ここ数日彼女の話は聞いていない。なので彼女の側にも何らかの事情があったと捉えるべきなのだろう。それについては聞けるのなら聞いておくだけだ。と、そんな事を考えていると、ソーニャがユニオンの受付のコンソールから手を離して一つ頷いた。


「終わりました。こちらが依頼の受領書になります」

「あいよ。今回、行くのは何人ぐらいになる?」

「現在、お声がけをさせて頂いているのは貴方の他に三名となります。全員がランクB以上の冒険者です。出発は一時間後となります。おそらくその時点では更に増える事になるかと」

「ふむ……」


 それならかなり駆け足で進んで大丈夫か。カイトは現状の戦力を鑑みて、そう判断する。幸い彼にとってアンデッド系の魔物は相性が良い。間に合いさえすれば、十分に救えるだろう。

 そして一時間後の出発というのは、かなり急いだものと見て良い。それだけ教国側も聖教学園とやらを重要視しているのだと考えられた。金に糸目をつけないものと考えて良い。と、そんな事を考えていたカイトであったが、ソーニャが何故か受付の終了札を出したのを見て首を傾げた。


「ん? 昼か?」

「本作戦には私も同行します」

「え゛?」

「なんです、その顔は」

「いや、お前の顔の方が凄いぞ……?」


 心底嫌そうな顔を見せたソーニャに、カイトがわずかにしかめっ面で問い掛ける。とはいえ、ユニオンの受付嬢が戦闘に同行するというのだ。普通は疑問に思われない方が可怪しい。というわけで、ソーニャがさらっと教えてくれた。


「A級の除霊師としての資格を持っています」

「へ?」


 A級の除霊師。それは滅多に居ない除霊師の資格の中でも最上位の資格だ。それを一介のユニオン職員が持ち合わせている事が驚きだった。


「……何か?」

「いや……なんでこんな所でユニオンの受付を?」

「……別に貴方には関係ありません」

「まぁ、そりゃそうだが……いや、今はそんな場合じゃないな」


 除霊師の資格は取ろうとして取れる資格ではないのだ。カイト然りで、かなり特殊な才能が必要となる。それを鑑みれば魔術師としてもかなりの才能を持っている筈だが、今気にするべき事ではなかった。というわけで、カイトは立ち上がる。時間は限られる。戦闘の支度もしておくべきだろう。


「じゃ、また一時間後」

「はい」


 手を振って立ち上がったカイトの言葉に、ソーニャもまた手を振って応える。そうして、カイトは一度仮宿として利用している宿屋に入る。


「ふむ……色々と気になる事はあるが」


 さて、何をどう考えるべきか。まず気になる事は、現在公務もあって一週間の休暇に入っているアリスがどうして遠征に加わっているかということ。


(これについては、まぁ……遠征という事で参加要請があった可能性はあるか。アリスの性格を鑑みても、参加はした可能性はある)


 兄にクソ真面目だバカ真面目だと苦言を呈するアリスであるが、彼女も彼女で真面目な気質だ。そこらを鑑みれば遠征があり、万が一に備えて参加していても不思議はない。

 彼女はまだ冒険者としてみればランクC程度であるが、ランクCとは冒険者としては一番層の厚い領域でもある。逆説的に言えば、彼女は本来は冒険者としても一人前程度にはあるのだ。一般の兵士がランクC~D程度である事を考えれば、学生としては非常に異例と言って良い。十分に要請されても不思議はない。


(で、次だが……ソーニャか)


 ソーニャはA級の除霊師だという。それがなぜ、ユニオンの支部にて受付嬢なぞやっているのか。これが気になった。


(才能があっても興味本位で取れる除霊師の資格はランクCが限度……B級以上の取得には実務経験が必要だ。それが、ランクA……つまり、彼女はオレと同じで公的な依頼を受けられる領域の除霊師というわけだ)


 かつてカイト自身も何度か公言していたが、カイトもまた最上位の除霊師だ。きちんとした認定試験を受けている。ここらの国際資格はカイトが立ち上げに関わっているので、その合格基準は知っている。それ故、どうしても訝しむしかなかったのだ。


「ふむ……」


 何かがあるのだろうが。ランクA級の除霊師がギルドの受付嬢としてくすぶっている。この事実を自領で公爵としてのカイトが聞けば、おそらく激怒して大慌てでマクダウェル家に引き入れるだろう。

 今だって勧誘したくて食指が動いている。間違いなく、ここが教国で今が任務中でなければバルフレアと掛け合って引き入れるだろう。


(実務経験があるとなると……おそらく元教国の特務機関に所属していたのだろうな……ふむ……となると……)


 おそらくソーニャの事を知っているだろう人物が一人居る。カイトはそう考える。それ故、彼は持ち込んでいる通信機を起動させた。


「あー、あー……こちらブルー」

『こちらゴールド。何じゃ?』

「少し知りたい事が出来た。おそらく本題に関わる事ではないと思うが……少し気になってな」

『なんじゃ?』


 若干歯切れの悪いカイトの言葉に、ティナが先を促す。それを受けて、カイトは改めてソーニャの事を語る。


「と、言うわけなんだ。実務経験の多さを鑑みれば、おそらく元々は教国の特務機関の所属だ。一級の除霊師がなぜこんな所で受付嬢なぞしているのか。気にならないか?」

『ふむ……まぁ、当人がこちらが良いと望んだ可能性もあるが……A級の除霊師が受付嬢なぞやっておるのは確かに疑問じゃのう』


 なんでもそうであるが、国際資格ともなるとどうしても座学も必要になる。そこらを考えれば確かに受付嬢は出来ないではないが、教養の度合いを考えれば国関連の事務も出来るはずだ。

 元職を考えても関わっていただろう案件を鑑みれば、そちらの口利きは多いはずだ。無論、今より給与は遥かに多い。なぜわざわざこちらに、と疑問にしかならなかった。


「どうにかして、アユル枢機卿に少し聞いてみようと思う。丁度アリスがこの一件に巻き込まれているそうだ」

『む?』

「何があったかまではわからん。が、少なくとも明日か明後日あたりにルーファウスからアリスの事をそれとなく聞けば、除霊師について話を聞けるだろう。元々アユル卿はそちらの関係が専門だ。話は出来る」

『ふむ……分かった。そちらは余が取り計らうか?』

「話そのものはオレがやろう。が、お前も同席はしておいてくれ」

『わかった。そこら、調整はこちらでやっておこう』

「頼む」


 ティナの理解と同意を得て、カイトは一つ頷いた。彼が考えた知っていそうな人物とは、アユルの事だ。彼女は以前カイトに対して、除霊師等を統括する部署にて功績を上げた事を言外に告げていた。

 そしてソーニャの若さだ。彼女が教国の特務機関の所属であれば、アユルが元上司である可能性は非常に高かった。そうして、カイトはふとした事で得た疑問を解き明かすべく、別途動く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1696話『ルクセリオン教国』

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