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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1694話 ルクセリオン教国 ――戦いの開始――

 マルス帝国中央研究所での戦いを終えて、事態を受けたルクセリオン教国の軍部により一度研究所の外へと出されたカイト。そんな彼は秘密兵器<<X-ブラスター>>を使ったホタルをひとまずティナの手に預け検査をしてもらうと、その間に今後の動きについて彼女と話し合っていた。と、そんな彼であったが、それもそこそこでふと思い出した事があった。


「そういえば、ティナ。確か交戦の直前に報告したい事がある、って言ってたな」

「む? おぉ、そういえばそうであったな」


 カイトが思い出したのは、空間の歪みが極大化して地下実験室に跳ばされる直前だ。ティナは確か面倒な事を掴んだ、と言っていた。それが何かと聞いておかねば次の行動を考えように考えられない。


「うむ……ホタルのドローンに対してハッキングが仕掛けられた形跡がある」

「ふむ……」


 ティナよりの報告に、カイトの目がすぼめられる。ハッキングというのはどう考えても真っ当な事とは思えない。


「研究所からのハッキングか?」

「うむ。接続後にすぐ、ホタルのシステムを書き換えようとした反応があった。ま、理論的に言えば余を舐め腐っておったので、放置してやったがのう。あの程度で余が防御を施したホタルを操ろうなぞ、余を何じゃと思うておる」

「ふむ……」


 カイトは僅かな憤慨を滲ませるティナの報告に、苦々しいものが浮かび上がるのが避けられなかった。とどのつまり、教国の何者かがカイト達に悪意を持ってホタルを操ろうとしたのだ。

 これについてはカイト達が教国側に伝えていた誤情報とホタルの改良を告げていなかった事やドローンの理論に嘘を混ぜた事により防げた様子だが、悪意ある者が居る事だけは確実と言って良いのだろう。それ故、カイトはため息混じりに首を振る。


「悪意ある存在の介在は確定、か」

「うむ……ドローンを解析された、としか思えん」

「やれやれ……」


 どうしたものかね。カイトはどうやら何者かが暗躍している事態を把握し、肩を竦めた。しかも悪いことに、この話により教国の嘘まで露呈してしまっていた。


「最深部には入れていない、という筈じゃなかったのかね」

「知らんじゃろ、あのクロディとやらは」

「知らないのなら嘘は言わないで良い、か」


 オレが良く使う手だ。カイトは自身が多用する手法である事を理解し、ため息を吐いた。ホタルを操るには、研究所の最深部から彼女へとアクセスするしか方法が無い。

 が、研究所からのアクセスは遠隔操作で常にモニタリングするティナが遮断出来る様にしていたし、実際一度目の際には何も起きていない。正常に機能していたと言って良いだろう。

 なのに、二度目にはハッキングされたというのだ。一度目の接触でドローンの情報を取得され、ドローンの解析結果と合わせてホタルへのハッキングを試みたと考えて良いだろう。明らかに、何かしらの人為的な行動だった。


「どうしたものかね。現状、教国が動いているだけと思いたいが……」

「難しいじゃろうのう。教国が動いていればまだ良い。が、彼奴(死魔将)らであれば、そう思わせるのが目的かもしれん」

「むぅ……」


 ティナの指摘に対して、カイトは苦々げに顔を顰める。ここで彼にとって災いしたのは、道化師がユスティーツァの認証コードを持っていた事だ。

 彼によればマルス帝国の崩壊に際して彼女の物を入手したという事であったが、であれば必然として中央研究所の最深部にも入れたという事だ。であれば、今も入れたとて不思議はない。


(奴らがハッキング? いや、それならティナがこの程度と言う技術なぞ使わんはずだ。本気で無い場合は疑心暗鬼を生ず為の見せ札か……? だが、もし教国が暗躍していた場合、これが当然と考えられる)


 カイトはこの悪意ある何者かの目的を推測しながら、幾つもの対策を練っていく。そんな彼であったが、それ故に更に情報を求める事にした。


「ティナ。一つ聞きたい」

「何じゃ?」

「ホタルへのハッキングは予め仕込まれていた物か? それともリアルタイムか?」

「リアルタイムじゃ。おそらく、下手人も研究所の中に潜んでおったと言って良かろう。流石に余らがどんな手段を用いて来るか、というのが分からぬ以上、ホタルのハッキングをオートで行う事は無理じゃな」

「ちっ……」


 これで予め仕込まれていたのであれば、道化師の可能性は高かったんだが。カイトはそう思い、舌打ちする。


(奴らの手勢が潜んでいる、か……? 奴らとてオレがここに来れるだろう事を知っている事は分かっているはずだ。疑心暗鬼を生じさせる事は容易い。いや、それならわざわざハッキングする意味がない……いや、無意味だからこそ、か? いや、それならこんなこそこそとした真似をしでかすより、堂々と出来レースでもやってみせれば良い。教国は無関係……なのか?)


 わからない。カイトは道化師の意図を測りかねて、一人頭を悩ませる。このユスティーツァの認証コードを持つ以上、必ず何かしらの意図があるはずなのだ。無論、ティナの正体に彼女自身が気付かれて困るという側面があることは事実だろう。

 であれば、この一手は悪手なのだ。確かにあの場では利害の一致から不戦となったが、本質的に両者が敵同士である事は変わらない。相手が言った事をすんなり受け入れるほど、カイトは純真ではない。


(教国が敵か、味方か……それ次第で面倒になるんだが……いや、そもそもの話として、ホタルを狙った理由はなんだ?)


 教国がもし敵であった場合のその思惑は何か。カイトはそれを推測しようとして、ふとそこでホタルが狙われた理由を考察する。


(奴らなら、ホタルを狙った所で操れない事は分かっていた話の筈だ。ホタルに施された改良を奴らが知るとは到底思えんが……それでも、ホタルを操れるとは到底思わないはずだ。技術力であれば、ウチが若干上。しかもホタルには最先端の技術がふんだんに使われるだろうというのは分かっているはずだ。ならば、なぜだ?)


 ハッキングが仕掛けられてば当然、現状であればカイトは教国と道化師達の繋がりを疑う事になる。これは物の道理だ。が、疑わせたくてやったとて、そもそも無意味な行動と分かっている。しかも今回のハッキングは明らかにドローンのシステムを解析した上での行動だ。


「どう思う?」

「ふむ……やはり彼奴らの介在を疑いたい所であるが……如何せん、現状が現状じゃからのう」


 カイトの問い掛けを受けたティナは、苦い顔で判断に迷っていた。何が困るか、というとやはりここ数百年の教国の情報が無かった事だ。現状、公的にはカイト達に対して優遇措置を取ってくれている教国であるが、国として絶対的に信じられているかというとそれは違うと子供でも分かる。

 なら、この奥にはいれている事を隠されていても不思議はない。そしてクロディも言っていたが、ホタルを強制的に徴用するべきでは、という一派が居た事もまた事実だろう。その一派の暴走とも考えられた。


「情報が足りぬ。現状、エネシア大陸においては教国は大国の一つじゃ。その大国の一つと皇国が揉めるという事は、避けられるのなら避けておきたい」

「それな……」


 ティナの言葉に、カイトは心底深い溜息を吐いた。教国が敵かもしれない。そう思っているカイトであるが、その内心では教国とは戦いたくないという心情が見え隠れしている。友の故国という一個人の心情を除いたとしても、為政者の一人として教国とは戦いたくないのだ。が、疑わねばならない要素が幾つもあるが故に、調査はせねばならなかった。


「優秀な敵より、無能な味方と信頼の出来ん味方の方がよほど厄介だ。特に教国は有能な味方……かもしれんからなぁ……」


 あー、嫌になる。カイトはため息を吐きながら、肩を落とす。教国が有能である事は、他の誰でも無く彼こそが一番良く知っている。ここと矛を交えるのは避けたいのだ。


「<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>を筆頭に<<紋章騎士団(エンブレム)>>や<<青騎士団(ブラウリッター)>>やら……各種騎士団の戦闘力は侮れん。ラグナ連邦の大統領直属部隊<<湖上の猟犬(ラーゴ・ソルダード)>>と教国の<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>、皇国のマクダウェル家とは戦うな。エネシア大陸の軍関係者では常識だ」

「まぁ、余らはそのマクダウェル家故に自分ちと戦う事はあり得まいが……その三つはのう」


 カイトの述べた三つは、どれもこれも大国の中にあって桁違いの武力を保有すると言われる組織だ。ある意味では大国の威信をかけた特殊部隊と言っても良いだろう。

 無論、これは対外的な知名度の問題もあって厳密に最強と言うわけではないが、それでも他国に要注意として伝わるほどの実力があると言っても良い。警戒すべき要因があるのに、それを無視するわけにはいかなかった。


「どうするかね」

「というより、どう出来るか、という所が大きいやもしれん」


 ここは皇国ではなく、他国だ。故にカイト達の自由は制限されている。特にカイトであれば、色々と行動は監視されている。探りを入れようにも、探りを入れるのは簡単ではなかった。


「そう言えば、お主のもう一つの身分はどうなんじゃ」

「あれな。一応、昨日は昨日で使い魔で行かせてみたが……まぁ、二日目で何か得られるわけもなし」

「そりゃそうか……」


 まだ来て三日目というのは、冒険者としてのカイトも一緒だ。初日にローラントと依頼を終わらせたわけであるが、それで全部なんとかなるわけではない。とはいえ、別の立場に立つ事で見える物もある。なにより、この地であればカイトにも一家言存在している。単独行動は可能だろう。


「ティナ。明日からしばらく、調査はお前にまかせて良いか?」

「良かろう。余の側で色々と取り図ろう」

「頼む」


 兎にも角にも、今欲しいのは情報だ。そしてここからしばらく研究所では普通の調査となる。カイトは立場上、冒険部の総指揮を担わねばならない。単独行動はもとより、研究所の外に出る事は不可能に近いだろう。となると、始めからその場に居なければ良い。というわけで、カイトはそうする事を決める。


「……はぁ。面倒ばかりか」

「しゃーない。今は、そういう時期じゃ」

「オレは、突撃兵なんだがね」

「総大将じゃ、バカモン」


 適当にカイトとティナはじゃれ合いながら、少しの間を潰す。が、それもそこそこでカイトは立ち上がった。


「しゃーない。行ってくる……色々と調べてくれ、とも言われているしな」

「頑張れよー。余は余でやっておるからなー」

「下手に研究所にハッキング仕掛けてバレるなんて事しないでくれよー」


 カイトはひらひらと手を振って、ティナへと一応の掣肘を行っておく。まぁ、幸いといえば幸いな事にティナ自身、研究所に何らかの敵対者が居る事を理解した事がある。迂闊にハッキングを仕掛けてユスティーツァの情報にたどり着かないだろうという事ぐらいだろう。

 そもそも、彼女とて是が非でも調べようとしているわけではない。分かれば良いな、という程度だ。なのでわざわざ学園に問題を引き起こす可能性を考えてまではやらないと言えた。というわけで、カイトはひとまずしばらくの危機の一つは避けられたと判断して、流れ者の冒険者としての活動を再開する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1695話『ルクセリオン教国』

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