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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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題1691話 ルクセリオン教国 ――第六のゴーレム――

 すいません。少々のトラブルで、投稿が僅かに遅れました。

 ルクセリオン教国へとマルス帝国時代の中央研究所の調査にやって来ていたカイト。彼は教国側と共同で鹵獲した形となっているホタルの認証コードを使い、中央研究所の最深部へと乗り込む事になっていた。

 そうして最深部へと乗り込んだ彼であったが、そこで警備システムが起動し、ルーファウス、ホタルの二人と共に中央研究所の地下にあるという実験場へと飛ばされる事になってしまう。そんな彼らを出迎えたのは、かつてホタルを捕らえた研究施設の地下で遭遇したゴーレムの一団と、ホタルの姉妹機となる六番機だった。


「ですよね!」


 交戦を開始した直後。開いた壁の先から現れるなり魔銃を連射しながら左右に展開するゴーレムの一団に、カイトは大慌てでその場を飛び退いた。

 ゴーレム達は機械と一緒。その狙いは正確無比だ。立ち止まっていればたちまち狙い撃ちになるだけだった。と、そんな彼は飛び退くと同時、その場に足を踏みしめて防御の姿勢を見せているルーファウスに向けて声を荒げた。


「ルーファウス! 立ち止まるな! 前に教えただろう! こいつらを並のゴーレムと一緒にするな! チャージさせると、戦艦の主砲級の一撃が飛んでくるぞ!」

「っ!」


 カイトの視線の先にあったのは、瑞樹が使う大剣型魔銃の原型となった物だ。あの100%での威力は凄まじく、現代でも戦艦の主砲クラスの威力があった。これを何度も食らえば、流石にルーファウスでもひとたまりもない。


「そういえばあれはマルス帝国の遺跡で手に入れたという話だったか!」


 忘れていた。ルーファウスはカイトの喚起にかつて冒険部で説明を受けていた内容を思い出して、慌てて地面を蹴って敵陣へと突き進む。瑞樹の全力での砲撃は彼も一度見た事がある。あれに匹敵するのであれば、自分でもそう何度も受けきれないと理解できた。


「はぁああああ!」


 ゴーレム達は魔銃を構えている。遠距離は敵の土俵だ。そして思考の柔軟さのあるアルとは違い、生真面目なルーファウスには搦め手が無い。であれば、接近して大火力の一撃を放たれない様にするしかない。


「やるな……っと! 逃げろ逃げろ!」


 ルーファウスが駆け抜けた一方、カイトは天井を天地逆に駆けて魔弾を回避しながら、自らの魔力で編んだ武器を投じて正確に動力炉を破壊していく。アンセルムからはなるべくゴーレムは破壊しないでくれ、と頼まれている。

 なら、その方向性で進めるだけだ。そうして量産型ゴーレムとの戦いを続けるカイトとルーファウスの一方、ホタルはというと自らの姉妹機と相対していた。


「……」

「……」


 自意識のあるホタルに対して、六番機は特段の自意識は無い様子だ。故に寝返ったとも言えるホタルに対して、六番機は何も告げない。一応、軍事行動に必要なので発声機能はあるらしいが、説得の意味を持たないのだろう。何より、ゴーレム相手に説得というのが必要性が一切感じられない。


(スペック表示……六番機)


 敵を知り己を知れば百戦殆うからず。ホタルは戦闘に入る前に、六番機の情報を自らの脳裏に展開する。基本的な性能はやはりホタルの方が上だ。が、それで決してホタルの方が強いか、というとそういうわけではない。六番機から七番機に至るまでに変更された物は幾つかある。


(六番機……魔術搭載型の初号機。スペックシート上の身体スペックは大差無し)


 ホタル曰く、一番機から三番機については当時のゴーレム技術の洗練と集約。四番機と五番機の二機が近接戦闘の技術の蓄積。六番機と七番機、つまりホタルが五番機が洗練したゴーレム用戦闘技術に加え、魔術ありでの戦闘技術を蓄積した物とされているそうだ。

 そのうち六番機は必要と思われる魔術を試験的に実装し、その結果をベースにホタルには必要と判断された技術が実装されている。それ故、ホタルはこれを不確定要素として頭に入れる。


(不確定要素確認……六番機には本機に搭載されていない機能が搭載されている可能性、大。対処……可能)


 不確定要素を鑑みたホタルであるが、対処は可能と推測する。それ故、彼女は勝率は高いと判断して戦闘行動に入る事にした。


(武装選択……双剣を選択)


 近接戦闘における技量であれば、ホタルも六番機も大差はない。無論、ホタルは六番機に比べて戦闘経験が豊富になっている。とはいえ、油断出来ないのも確かだ。故に彼女は手堅く行くべく、双剣を顕現させる。そうして、地面を滑る様に六番機へと突撃した。


「……」


 双剣を片手に一直線に自身に向かってくるホタルに、六番機も無言で双剣を構える。ホタルの出来る戦いは六番機も出来る。そして自意識を得たホタルに対して、六番機は自意識を持ち合わせない。故に彼女はただ機械的に、双剣を選択する。


「……」

「……」


 二人のゴーレム少女が、無言で双剣を激突させる。ゴーレムとゴーレムのぶつかり合いにも関わらず、その速度は熟練の冒険者をも上回る。そうして、剣戟の音が無数に鳴り響いた。その最中。ホタルは双剣を交えながら、次の一手を模索する。


(六番機の近接技術……本機と大差無し。必然と判断)


 ホタルも六番機も五番機の蓄積した戦闘技術をベースに搭載されている。そこに差は一切無い。故に近接戦闘における有利不利は無いと判断し、ホタルは即座にバックステップで距離を取る。そしてその際に双剣を放り投げる様に異空間にしまい込むと、ティナ作の双銃を取り出して六番機へと銃口を向けた。


「……」


 未知の武器を見た六番機であったが、それ故にこそ一瞬だけ思考のラグを生じさせる。基本的に六番機は七番機となるホタルとの戦いにおいて、過去の情報に基づいて戦っている。

 故に未知の兵装を見た場合、どうすれば最適なのかを思考せねばならないのだ。とはいえ、これに対して六番機も即座に双銃を異空間へと収納。同じく双銃を取り出した。


「……」

「……」


 ほぼ同時に、ホタルと六番機は引き金を引く。この優劣であるが、これはホタルの持つティナ作の魔銃の勝利となる。そうしてホタルの魔弾が六番機の魔弾を貫通し、それを受けて六番機がこちらも滑る様に左手側に回避する。これに対して、ホタルもまた同じ方向に移動しながら双銃の乱射を行った。


「……」

「……」


 双銃の乱射が不利な事を悟った六番機は、今度は双銃を収納。自身の記憶領域に記載されている魔術を展開する。


(六番機の使用可能魔術……リストアップ完了。消費魔力等計測開始)


 双銃で六番機の魔術を防ぐ事は出来ない。それ故ホタルもまた双銃を収納すると、こちらは六番機の解析を開始する。魔術に魔術をぶつけて、もし干渉による大破壊が起きれば下手をするとこの地下実験場が吹き飛ぶかもしれない。

 ホタルは自身に搭載されている小型魔導炉と六番機の小型魔導炉の出力を鑑みて、解呪(ディスペル)もしくは防御を選択していた。現在のスペックであれば、ティナの手も加わり自意識まで手に入れた彼女の方が上なのだ。十分可能だと判断していた。


(計測終了。使用魔術……上級中位程度と推測)


 六番機に内蔵されている小型魔導炉から放たれる魔力の量から、ホタルは十分に解呪(ディスペル)か防御が可能と判断する。そうして、その直後。六番機の直前に巨大な純白の矢が現れた。それを見て、ホタルが一気に魔術の解析を開始した。


(解析……情報に無し。開発者達が搭載した未知の魔術と判断。不用意な解呪(ディスペル)は却下)


 魔術の解析を始めたホタルであるが、即座に既存の情報に無い事を把握する。ここら、六番機と七番機の差と言える。基本的にホタルの方が高性能に纏められているわけであるが、実は六番機は六番機だからこその運用がされていた。

 それはホタルの戦闘試験において、未知の戦闘力を保有する相手と戦う場合を想定した試験が行われていた。その際、六番機にはそのホタルの保有しない戦闘技術が搭載されていたのである。

 とはいえ、ホタルの戦闘試験はもう終わっていた。であれば、これは後続機となるアクアとスカーレットの開発において使われた魔術というわけなのだろう。当時すでに家庭用ゴーレムとして改造を受けていたホタルが知らないでも無理はない。


「シールド展開」


 解呪(ディスペル)が無理と悟ったホタルは、手を前に出して障壁を展開する。それに、六番機が放った純白の矢が衝突する。と、その直後だ。彼女の背後に、六番機が回り込んだ。


「っ」


 転移術。それを把握すると、ホタルは今の攻撃が囮だった事を理解した。彼女らはゴーレム。転移術の際に生ずる、肉体と障壁の転移のズレという僅かなラグが存在しない。故に彼女らにとって転移術のデメリットはデメリットになり得ない。


(未知の魔術を囮として防御を誘導し、転移術でコアを貫くつもりですか)


 ホタルは即座に六番機の行動を読み取ると、次の一手を即座に考察する。そうして彼女が導き出したのは、自身もまた転移術を行使するという事だ。

 とはいえ、六番機の背後には回り込まない。それは六番機を相手にした模擬戦で何度もやっていて、この状況下であれば通用しない事を彼女自身が把握している。故にこれは仕切り直しの為の転移だ。


「……」


 転移術で六番機から距離を取り、ホタルは牽制となる様に各種属性の魔術を展開する。その行動はかつて彼女が何度と無く繰り返してきた動作だ。そんな事をしていたから、だろう。ホタルの顔に僅かな笑みが浮かんでいた。


「ふふ……」


 懐かしい。この地下実験場は特段の思い出なぞ無い場所であったが、それでも思い出してみれば幾つもの出来事があった。ホタルはそうふと思った。

 無論、あの時は彼女には自意識の萌芽は無く、単なるゴーレムとして過ごしていただけだ。今の彼女に宿る自我というのは、付喪神と似た様な原理で生まれたに過ぎない。が、それでも過ごした事実は消えない。故に僅かな懐かしさが、去来したのである。


「……」


 僅かな懐かしさが去来したホタルであるが、戦闘の手は緩まない。それどころか、過去の記録の復元が成されればこそ、更に動きは洗練されていく。故に彼女は各種属性の魔術を隠れ蓑に、<<縮地(しゅくち)>>で一気に距離を詰める。その手には小太刀と魔銃が握られていた。


「……」


 自らに肉薄するホタルに対して、六番機は僅かな思考を開始する。このホタルの戦闘スタイルはマルス帝国の開発者達が搭載したものではない。カイトに仕える様になり、彼女自身が編み出した戦闘技術だ。故に六番機には未知の攻撃だ。最適解を導き出す必要があった。


(この場合六番機が選ぶ手は……)


 一瞬の考察と対策を繰り返す六番機に対して、ホタルは更にその対処の最善の一手を彼女自身で考察。それが来た場合にはどう対処するべきか、と思案していく。

 七百年前に繰り返した、かつてと変わらぬ戦い。変わったのはお互いの立場。それに、ホタルはついに六番機にはっきり分かるほどの笑みを浮かべていた。


「……」


 右手の小太刀で襲いかかったホタルに対して、六番機は盾と剣を装備する。そうして、片や魔銃と小太刀。片や片手剣と盾の組み合わせでの近接戦闘が開始した。と、その中での事だ。今まで一度も口を開かなかった六番機が、ふと口を開いた。


「ゼロナナ」

「……なんですか、ゼロロク」


 機械的。ゴーレムであった事にこだわっていたホタルがそう思うほどに、六番機の声は機械的だった。これを聞けばまだ自我を認められていなかった当時でも否が応でもホタル自身が自我を認識せねばならなかっただろうほどに、だ。


「……その笑みの理由は何?」

「笑み……?」


 六番機の問い掛けに、ホタルはようやく自身が笑っていた事に気が付いた。それ故、彼女の顔には驚きが浮かぶ。


「笑って……」


 剣戟と弾丸、魔術を交えながらホタルは自分が笑っていた事に僅かな困惑を得る。


「気付いていなかったのですか?」

「……肯定します」

「……やはり貴方は乗っ取られていると判断します」


 僅かな間が空いて、六番機がそう結論を下す。これに、ホタルは否定し難かった。彼女自身、今の自身のコアは魔石に宿る自我だと認識している。言ってしまえばこの魔石が、マルス帝国最高傑作の試作七番機を操っている、と言っても良い。それ故、彼女は沈黙する。


「……」


 どうするべきなのだろうか。一度自我を改めて認識してしまえば、そこに悩みと迷いが生まれる。今の今までは、彼女にとって六番機は単なる敵と認識していた。

 故に破壊しても特に気にしないと思っていたし、気にならないはずだった。が、僅かな同胞意識を得ている事を自覚してしまった。同僚、とでも言えば良いのだろう。六番機に僅かな愛着があった事に、彼女は気が付いた。


(ここで私が六番機を破壊した場合……)


 どうなるのだろうか。ホタルはそれを考える。まぁ、これは考える必要もない。六番機はマルス帝国の最高傑作の一つ。ホタルよりスペックは落ちるが、それでも傑作には違いない。


(解体される……?)


 それを考えたから、何なのだろうか。ホタルはそう思う。六番機は単なるゴーレムで、単なる敵だ。主からの命令は敵の撃破。六番機を倒さない限りはここからの脱出も困難だ。なんとかはせなばならない。と、そんな悩みを見せるホタルに、カイトは僅かに笑みを浮かべる。


(悩め。大いに悩め)


 良い兆候だ。カイトはホタルに対して、そう思っていた。かつて彼はホタルに自分の意志で考える存在になれ、と告げた。これはその一つだ。悩み、苦しみ、そして答えを出せば良い。そう思っていた。そうして、そんな彼が見守る中で、ホタルは悩みながら戦いを続けていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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