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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1690話 ルクセリオン教国 ――開かずの扉の先へ――

 カイトがルクセリオン教国へやって来て三日。調査開始初日はルクセリオン教国側の研究者達との打ち合わせや施設の案内等を受けて過ごしたカイト達であったが、その翌日からは本格的な調査に乗り出していた。

 と言っても、何か特別な事をするわけではない。敢えて言えば、教国が持つ解析結果を閲覧させて貰い、もう一方で未解析の情報を解析する作業の手伝いだ。

 遠征隊の主力となる瞬らが活動する事になるのは、この更に後。本来なら明日からとなる筈の開かずの扉の先の事だった。というわけで、三日目の夕刻16時。その開かずの扉の前にカイトはやって来ていた。


「昨日、ここの案内は受けていたわね?」

「はい」


 クロディの問い掛けに、カイトは開かずの扉を見ながら頷いた。ここから先は教国側としても未知の領域で、何があるかは一切不明だ。おそらく敵は現れるだろうという想定で、ホタルを連れたカイト以外にも軍の精鋭部隊となる<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>が彼の少し後ろに控えていた。


「ルー。カイトくんの腕は確かなのだな?」

「下手をすると、自分以上です。いえ、総合力なら自分を超えているでしょう」

「そうか」


 そんな<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>には、ルーファウスとルードヴィッヒもまた一緒だった。まぁ、前者は兎も角後者はそもそも<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>の団長だ。今回の任務の性質上、彼が来ていても不思議はない。

 ルーファウスが休暇が一週間先だったのは、この一件があったからだ。彼の腕は教国でも有数だ。未知の状況が想定される以上、腕利きである彼が居た方が良いだろうと判断されたのである。

 なお、逆に冒険部の主力となる瞬達はここにはいない。何が起こるか分からないのはこの研究所全域に共通して言える事だ。なので万が一に備えて、冒険部の研究班の側に控えていたのである。


「ホタル。準備は?」

「何時でもいけます」

「よろしい」


 ホタルの返答にカイトは一つ頷くと、開かずの扉の開封の総指揮を担っているアンセルムへと一つ頷いた。それを受け、彼も一つ頷いて口を開く。


「良し……各種検査機及び各員の状況を報告せよ」

「は……各種検査機、異常無し。正常に反応を示しています」

「本研究所所属研究員、全員配置に就いています」

「良し」


 部下達からの最終報告に、アンセルムは一つ頷いた。今の所、ホタルと研究所をリンクさせて何も起きない事までは確認されている。

 が、ここから先。最重要エリアに乗り込むにあたって、彼女以外全員が不正規にこの研究所に入り込んでいる形だ。何が起きるか分からない。なので研究所の各所に軍の護衛を受けた研究者達が待機して検査機をモニターしているのである。


「ヴァイスリッター卿。ご支度のほどは?」

「問題はありません。何時でも大丈夫です」

「わかりました……カイトくん」

「はい……ホタル」


 軽く剣の柄に手を乗せたルードヴィッヒの返答を聞いたアンセルムが、カイトへと準備の完了を通達する。そしてそれを受け、カイトもまたホタルへと一つ頷いた。ここから先、本当にこの場の誰にも未知の領域だ。


「了解……研究所とのリンク……確立。正規の認証コード……確認」


 僅かな間、ホタルがドローンを介して研究所のコントロールを確立させていく。そうして、しばらく。最後の段階にたどり着いた所で、彼女は停止した。


「マスター」

「ああ……少しだけ、深呼吸の時間をくれ」


 後は扉を開くだけ。その段階にまで到達した所で、カイトは一度だけ呼吸を研ぎ澄ませるフリをする。そうして、精神を統一するフリをしながら、小さく小声でティナへと念話を飛ばした。


『ティナ。状況は?』

『ホタルに異常は無い。今の所は、じゃが』

『わかった。万が一には即座に自壊させろ』

『わーっておる』


 開かずの扉が守っているのは、この研究所で最も重要なエリアだ。であれば、そこの起動がされればホタルが乗っ取られる可能性はゼロとは言い切れない。故に彼女を守る為の最後の確認を行った所で、カイトは一つ頷いた。


「良し」

「開きます」


 ホタルの宣言に合わせて、七百年もの間閉じられていた扉にゆっくりと動力が流れていく。やはり七百年もの間閉じられていたからだろう。かなりガタが来ており、即座に開くという事はなかった。そうして何かががこん、と外れる様な音と共にゆっくりと唸り声の様な音を上げて大扉が動き出した。


「「「……」」」


 しばらくの間、一同は固唾を呑んで成り行きを見守っていく。そうして、扉は完全に開いてその全貌を露わにした。


「……ふぅ。何も確認出来ず」


 扉が完全に停止したのを見て、カイトは一つ頷いてはっきりと何も無い事を明言する。そして同様に扉の奥を目視で確認していた<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>の騎士達も、肩の力を抜いた。それを横目に、ルードヴィッヒが口を開いた。


「全員、第一種警戒態勢を解除……ラフォン殿。どうやら、びっくり箱ではなかった様子ですね」

「そのようだ……では、行こう」

「はい……総員、ここで何も無かったからと言って、ここから先何も無いとは限らん! 入った時点で警報が鳴るという事は何度もあった! 気を抜くなよ!」


 アンセルムの号令を受けて、ルードヴィッヒは号令を下して開いた大扉へと向かっていく。そうして彼は更に、カイトへも口を開いた。


「カイトくん。君も同行を」

「わかりました」

「ああ……君は私、ルーと共に先陣を切り、安全かどうか確認。その後、安全ならラフォン殿の護衛を頼む」

「はい」


 ルードヴィッヒの要請を受けて、カイトは歩き出す。そうしてルーファウスと共に隊列の最前線に立つと、大扉の前で一度立ち止まる。


「ルーファウス。問題は?」

「無い。何時でも良い」

「わかった……行くぞ」

「ああ」


 カイトの号令に合わせて、ルーファウスとホタルが彼と合わせて一歩を踏み出す。そうして、その瞬間。警報が鳴り響いた。


「「「っ!」」」

『警告! 最深部への不正規での侵入を確認! ゲストキーでの立ち入りは禁じられています!』

「っ! そこか!」


 扉さえ開けば、後は認証キーが無くても大丈夫だろう。そう考えていたらしいアンセルムの顔が歪む。が、どうやら認証キーは常に携帯していなければならない様子で、同時に入った時点でチェックがされる様子だった。


「二人共、今すぐそこから逃げろ! 今ならまだ」


 今ならまだなんとかなるかもしれない。そうルードヴィッヒが告げようとしたと同時だ。再度、けたたましい警告音が鳴り響いた。


『認証コードの書き換えを確認! 緊急事態発生! 緊急事態発生!』

「「「っ!?」」」


 アラームと共に響き渡ったアナウンスに、全員が目を見開いた。これは後に教国がカイト達にこの一件での事後報告という形で教えてくれた事であるが、どうやら不正規での認められていないエリアの立ち入りがあった時点で、各研究員の持つ認証キーが登録されている本人の物か確認される事になるそうだ。

 何人かの書き換えの処理が不十分で、そこから不正に書き換えられた事を掴まれたとの事であった。そして、これは戦闘は不可避と全員が一斉に武器に手を当てたと同時だ。カイトは空間の歪みを感じ取った。


「っ! ホタル!」

「不可能。すでに補足されています……対象、本機を含めマスターとルーファウスさん」

「っ! ルーファウス!」


 空間の歪みはどこかへと飛ばされる物だ。これがどこへ転移させられるかはまだ分からないが、それでもこの状況だ。明らかに何らかのトラップが起動したものだと察するには十分だった。

 と、そんな報告を受けたカイトが声を掛けずとも、ルーファウスはルーファウスで何が起きようとしているか理解出来ていた。


「ああ、聞いていたし、理解している! 団長!」

「ああ、こちらは任せろ! お前も気を付けろよ!」


 空間の歪みはすでに三人をすっぽりと覆い尽くす形で展開しており、かなり強引にやらねば突破は不可能だった。が、ここには無力な研究者達も多いのだ。そんな事をすれば彼らに被害が出る。

 今回の作戦が護衛である以上、そんな事は出来ようはずもなかった。故にルーファウスもルードヴィッヒも転移は不可避と諦めるしかなく、ルードヴィッヒも投げ掛けた言葉は激励だけだった。そうして空間の歪みが強大になっていく傍ら、カイトが僅かに苦々しげに呟いた。


「鬼が出るか蛇が出るか、と思っていたが……どうやら、虎の尾を踏んだらしいな」

『ティナ』

『うむ。掴んでおる……それと、面倒な物も一つ掴んだ。帰り次第、報告しよう』

『あいよ。そっちも問題無い様に頼む』

『うむ』


 現状、研究所全体が問題が起きている様な形だ。冒険部の側に敵襲が無いとは思えない。というわけで、カイトはティナと手短に会話を交わす。そしてそれが終わった頃合いで、空間の歪みが極大化して三人はどこかへと飛ばされたのだった。




 さて、中央研究所に仕掛けられた罠によってどこかへと飛ばされたカイト達であったが、そんな彼らが飛ばされたのはどこかの巨大な空間だった。

 その広さは本当に途轍もないもので、高さは50メートルほど、縦横には2キロ四方はありそうな感じだ。そのど真ん中に、三人は飛ばされたようだ。


「ここは……ホタル、見覚えは?」

「あります」

「どこだ?」

「中央研究所地下にある、大実験室です。戦闘用のゴーレム……その中でも本機の様な秘匿性の高いゴーレムの戦闘試験にて使っておりました。他にも局地戦用のゴーレムや、広さを必要とする実験を行う際にも使われたと記録されております」


 なるほどな。それならここまで広くとも納得できる。カイトはホタルの言葉に、そう納得する。そんな彼は、同じく転移させられたルーファウスへと問い掛けた。


「ルーファウス。問題は?」

「いや、無い。が、扉なら見付けた。あれだ」

「ん?」


 カイトがルーファウスの指差した方を見ると、たしかにそこには普通に扉が見受けられた。が、そんな扉を見ながら、カイトは一つ笑う。


「お帰りはあちらから、という所なんだろうが……まさかすんなり出してはくれないと思うぜ、オレは」

「俺も、そう思う」


 誰が何をどう考えれば、この状況ですんなり脱出出来るのか。二人共半ば笑いながら、おそらく来るだろう何らかに備えて武器に手を置いた。そうして、カイトがホタルへと問い掛ける。


「ホタル……ここの罠はどうなっている?」

「はい……まず第一に扉には封印が。そして第二はゴーレム部隊による攻撃」

「つまり、ゴーレムをなんとかしない限りは脱出は不可と」


 扉の封印程度なら、ホタルで解除可能だろう。が、そのためにはやはり時間は必要となる。そこらを考えた場合、ゴーレムと戦いながら彼女を守るのは非常に手間だ。であれば、これしかなかった。


「ルーファウス。ゴーレムを全部叩く。その後、ホタルに介入させて脱出しよう」

「ああ……それは良いが、ホタルでならなんとか出来ないのか?」

「……否定します。どうやら本機が潜入を手引きした形となってしまった為、本機のアカウントも一時的な凍結状態に陥っております」

「そうか」


 そもそも出来たのなら罠を踏み抜いた時点でなんとかするだろうしな。ルーファウスはそう思いながら、どこから何が来るか、と目ざとく確認する。


「ホタル。お前と戦った時のあれ。ここに配備は?」

「おそらく、それかと」

「そか」

「何か知っているのか?」


 主従二人だけで何かを理解したらしいカイトに、ルーファウスが問い掛ける。それに、カイトは少し楽しげに告げる。


「敵数は多い。おそらく、四方八方から来るだろうな。なかなかに高性能なゴーレムだ。油断はするなよ」

「そうか」


 ががががが、と音を立てて開いた壁の一角の先の闇を、ルーファウスはしっかりと見極める。あの一件の詳細は知らないが、その際に魔銃を手に入れていた事は聞いていた。なら、油断出来ない。

 そんな彼の見る闇の先には、赤く光る何かが無数に居た。そうして、三人は即座に円陣を組む。開いた壁は一つだけではない。前後左右全ての壁の一部が開いていた。


「っ……」

「……多いな」

「……マスター」

「何だ?」


 脱出口となる出入り口と真正面となる方向を見ていたホタルの声が、僅かに固くなっている事をカイトは理解する。


「……六番機、確認しました」

「っ……」


 マジか。六番機という言葉が意味する事は、一つしかない。ホタルの姉妹機。それが、ここに居るという事だろう。この状況でのそれは厄介と言えば厄介だった。しかもホタルの時とは違い、ここは完全にシールドされている。全力での戦闘にも耐えられるだろう。


「ルーファウス。オレ達で雑魚を仕留める。姉妹機なら、後継機であるホタルの方が上だ……ホタル、悪いが任せられるな?」

「了解。問題ありません」


 姉妹機をホタルに片付けさせるのはカイトとしても心苦しい所であったが、現状ルーファウスが居る以上、出せる力に限りがあるカイトより幾分勝率が高い。


「ルーファウス……異論は?」

「無い……では、行くか」

「ああ」


 ルーファウスの言葉に、カイトも一つ頷いた。そうして、マルス帝国の罠に嵌った三人の戦いが開始する事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1691話『ルクセリオン教国』

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