表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1720/3935

第1689話 ルクセリオン教国 ――崩壊の歴史――

 ルクセリオン教国は中央研究所。かつてマルス帝国の中央研究所でもあったそこは、今ではルクセリオン教国によって解析が進められる教国の中央研究所と成っていた。

 そんな研究所に旧文明の情報を求めて足を踏み入れたカイトであったが、幾つかのやり取りの結果予定を繰り上げて初日にホタルと研究所のリンクを設ける事となっていた。そうして、リンクを確立させた後。カイトはホテルへ戻ると、部屋の椅子に腰掛けて少しだけほくそ笑む。


「さて……鬼が出るか、蛇が出るか……」

「明日の話か?」


 カイトのつぶやきに、瞬が首を傾げる。すでにアンセルムとの一度目の会合の時点で彼ら上層部には明日の昼以降で内部に潜入する事を明言している。カイトの言葉はそうとも考えられた。


「ふむ……まぁ、そうではあるがな」


 そんな瞬の問い掛けに対して、カイトは一つ考える。確かに、開かずの扉の先から何が出て来るかというのは気になる所だ。現状、この研究所は侵入者だらけと言っても過言ではない。

 現に三百年前当時のルクスからはこの研究所の警備ゴーレムは基本的に敵対している、と明言されていた。カイト自身、一度入った時には交戦した記憶がある。であれば、あの奥も確実に敵対したゴーレムが居る事だろう。


「ホタル。一応確認は取っておくが、お前の姉妹機は何機現存していたんだ?」

「マルス帝国敗戦時までに、私を含めて九機が開発され、内二機は皇国が奪取。残る六機の内、三番機までは破壊されている事を確認しております」

「残り、三機か」


 ホタルの報告に、カイトは改めてホタルの姉妹機の現状を考える。ホタルは完成機となる八番機と九番機、通称アクアとスカーレットの二機が完成する前の最後の試作実験機だ。なのでマルス帝国側からしてみれば、研究の成果のみ奪取された物と考えて良いだろう。

 まぁ、ホタルについては皇国への復讐に使われ、しかし結果としてカイトに奪取。改造した者の意図から外れ、本来の意図で動いているだけだ。その際、主が結果として皇国貴族であるカイトであった、というだけだろう。と、そんな事を考えたカイトに対して、ホタルが口を開いた。


「マスター。そう言えば先の接続の折り、一度情報のバックアップから情報の補完がされました」

「ん? お前、確か情報だと最後の最後まであの研究所に居たんだろ?」

「はい……その筈でしたが、記録によれば混乱期に何度か残党兵が研究所へ入っていた模様。奥に入れない様にしたのは、その彼らの様子です」

「なるほどな……今でこそ教国の首都だが……ルクセリオは一度混乱に陥っているからな。その際に奪取されていたか」


 考えれば道理といえば道理だ。今カイト達が居る場所は元々はマルス帝国の首都。帝国内乱にて終焉帝が死んだわけであるが、当然のことそれで一瞬で崩壊とはならなかった。と、そこらの歴史を知っているのはカイトやティナ、ユリィぐらいなもので、ほかは詳しくはなかったようだ。というわけで、皐月が問い掛ける。


「結局、その頃には何があったわけ? 私達、何時もマルス帝国が崩壊した、ぐらいしか聞いてないし……そもそも皇国だし」

「ん……まぁ、そうだな。丁度良いし、必要だから語っておくか。ティナ、ドローンの確認は任せて良いか?」

「うむ。ホタル、お主はこちらに手を貸せ」

「了解」


 皐月の問い掛けは尤もと言えた。なのでカイトは深く腰掛けていた椅子から僅かに身を起こすと、ティナとホタルに作業を任せて改めてマルス帝国の崩壊の歴史を語る事にする。


「さて……一般的にマルス帝国は今より七百年前。終焉帝の代で終わりを迎える事となる。これについては共通の認識で良いな?」


 ここらは、以前に皇国の歴史が語られた際に誰もが聞き及んでいた事だ。なので誰からも疑問は出ること無く、カイトは改めて話を進める事にした。


「とはいえ、だ」

「うん。実はこれ、正確じゃないんだよね。実はその後にも一代だけ、帝王が居るの」

「帝王が居るのに、その終焉帝が最後なんですか?」


 カイトの言葉を引き継いだユリィの言葉に、桜が首を傾げる。終焉とは終わりの事。最後だから、終焉帝と言われているのだ。だのにまだ一人居るとはどういうわけなのだろう、と疑問になっても不思議はない。そうして、彼女は更に続ける。


「まぁ、実際マルス帝国が完全に崩壊するまでにイクスフォス陛下の最終決戦から数ヶ月だったし、臨時的な措置だからね。即位の儀も簡易なものだったそうだね。だから一応帝王の数には数えられるけど、実質的な即位とは見做さない、というのが今の歴史家の大半だよ」

「帝王が死んだから、とそれで即座に国の崩壊とはならないさ。後継者が居れば当然、それが即位する。当然だろ?」


 確かに。カイトの問い掛けに、全員が頷くしかなかった。王とは象徴だ。それが敗死している時点で、国としては敗北と見做せる。それが内乱で、少し先に国そのものが崩壊しているのならなおさらだ。

 とはいえ、王の敗死が即座に国の崩壊となるかというと、そうではない。現に皇国は三百年前、ウィルの祖父は敗死したものの、ウィルの父が即位してなんとか耐えきった。

 この様に王の敗死それ即ち国の崩壊というわけではないのだ。その後の混乱等に耐えられるかは国力次第としか言えない。その点、マルス帝国は耐えきれる国力は残っていなかったというわけなのだろう。


「で、その崩壊までの数ヶ月に即位していた某という帝王が居るというわけさ」

「まぁ、それはイクスフォス陛下とは別の叛乱軍が、叛乱軍の主力部隊の疲弊を見て第二陣を送ろうとした帝国軍を背後を強襲して、首都の崩壊となるわけ。で、そこで第二陣は混乱。脱走が相次いで崩壊は一気に加速、という所かな」

「その別働隊が、今のルクセリオン教国の基礎となるわけか?」

「違うよ」


 瞬の問い掛けに対して、ユリィは少し苦笑気味に首を振る。ここからは、少し複雑になるらしい。


「首都を陥落させたまた別の叛乱軍だけど、どうにもここは漁夫の利狙いで皇王陛下の要請に応じなかった所らしくて、素行が良くなかったみたいで。帝都は制圧したけど、かなり治安が悪化したみたい。で、結果として住民たちの反乱を招くの」

「そこで介入したのが、ルクセリオ教だ。当時主流宗教の一つだったルクセリオ教は、それ故に騎士団という形で兵力を保有していてな。王国時代から繋がりもあった事で、ここにも大きな教会を保有していた。無論、それでも時代柄多くはなかったが……それでも、統率の取れていない叛乱軍を撃退する程度の余力はあったらしい。騎士達に介入させて、治安維持に務めたんだ」

「それで、今ここをルクセリオン教国が治める事となった、と」

「そういう事だな」


 桜の総括に、カイトは一つ頷いた。そうして、彼は続ける。


「とはいえ、だ。そう言っても流石に当時の教会の騎士達ではあんな巨大な研究所を守り抜くには手が足りない。で、放置された際に残党兵が入り込んだんだろう」

「はい……研究所の記録によれば私に改造を施した者も、その混乱に乗じてなんとか研究所に逃げ延びたと記録されております。その際、非常用のシステムで起動した私が脱出させていた様子です」

「記録に無いのか?」


 丁度手が空いたらしいホタルが口を挟んだのを受けて、カイトが問い掛ける。基本的に彼女にはこの時代の記録も残っているのであるが、この話はカイトも初耳だった。


「はい。私の起動は終焉帝か当時の研究所所長の許可無く行う事は出来ませんでした。が、混乱の折りに研究所が攻撃され、非常システムが作動。簡易な命令は下せた様子です。と言っても、戦闘システムをオミットされておりましたので待機状態のままでしたが……」

「お前自身、交戦は?」

「当時は非武装状態でしたので……転移術での離脱が精一杯だった模様です。詳しくは知りませんが、彼は義体を引きずり、私を起動させておりました」


 当時のホタルは完成機となるアクアとスカーレットの二機が完成していた為、家庭用のゴーレムとしての開発・実験に使われていた。それに合わせて戦闘システムは不要だろう、と戦闘に関する記録ユニットが取り外されていたそうだ。

 とはいえ、生活に必要となる事もあるので魔術の使用は変わらず可能となっており、それ故に転移術等は非常時には使えた――削除は手間だし何か面倒が起きると困るのでされなかったそうだ――そうである。それを使い、件の研究者は命からがら脱出したのだろう。


「ふむ……いや、それは良いか。兎にも角にも、そういうわけでな。実際にマルス帝国の崩壊までは数ヶ月のラグがあるんだ」

「わかりやすく言うと、立て直しに失敗した形だね。まぁ、マルス帝国の主力にも近かったエンテシア家が当主の出奔という形で大混乱になっちゃってたから当然は当然なんだけど」


 こればかりは、マルス帝国にとって不運だったとしか言えない。ユスティーツィアの中央研究所の主任としての地位は実力を考えても何ら問題のない就任だ。

 そして家の事を考えれば、ああいう重要な研究を任されていても不思議はない。が、それ故にイクスフォスと出会い、恋に落ちる。これが、マルス帝国崩壊に関する全ての原因と言える。と、そんなユリィの言葉に、瞬が疑問を得た。


「エンテシア家はそこまで重要だったのか?」

「うん、かなりね。エンテシア家はマルス王国時代からマルス帝国の技術を支え続けた最大の名家の一つなの。マルス帝国の魔女は大半がエンテシアの魔女と言われるぐらいにはね」

「なのに、裏切ったと」

「あはは……それはね」


 瞬の改めての指摘に、ユリィもまた苦笑気味に頷いた。と、そんな所に更にドローンの検査をしながらティナが口を開いた。


「まー、それに大婆様の出奔、その前にはユスティーツィア殿の出奔の際にイクスフォス殿が大暴れして中央研究所が半壊したそうじゃからのう。そこで技術が大幅に失われたそうじゃ」

「は、半壊……」


 あの巨大な研究所が半壊だ。どれだけの戦闘が起きたのか、というのは想像出来なかった。なお、当然であるが、当時のイクスフォスにそこまでの力はない。なので実際は他に捕らえられていた者達が暴れに暴れまわった結果だ。

 まぁ、それはさておいても。その結果、ただでさえ国家の末期状態になっていたマルス帝国は一千年に渡って培ってきた技術という地力さえも失う事になる。


「そこでリル殿の所で修行中じゃった大婆様を呼び戻し、再建に当たらせたそうじゃが……そこで終焉帝がやらかしおってのう」

「やらかした?」

「当然じゃが、修行中の大婆様じゃ。あんな研究所の再建なぞ出来ようはずもない。そこで終焉帝はリル殿を強制徴用しようとしたそうじゃ。が、流石に相手はあのリル殿。捕まえられるはずもなし。で、この世界から出る際に大婆様に挨拶に行って、事情を暴露したそうじゃ。それを知った大婆様も流石に許せぬと、その直後に出奔というわけじゃ」

「あらー……」


 そりゃダメだ。ティナから語られた終焉帝の失態の一つに、皐月が苦笑を浮かべる。まずここでの失点は幾つかあるが、まずリルが強制徴用で従う様な相手でない事を分かっていない。更には尊敬する師に対してそんな無法を働いてはユスティエルの立つ瀬もない。

 更にこの時は語られなかったが、姉への暗殺者やらの派遣なども聞いて、マルス帝国を最初期から支え続けたエンテシア家の当代二人が出奔するという事態になったのである。

 そしてエンテシア家としてもリルという魔女族の偉人に対する無法だ。魔女族として見過ごせぬ、と帝国からの離脱はなかったものの、一時的に帝室とは距離を取る事になったそうである。しかも流石の終焉帝も周囲の言葉があり、初代皇帝の御世から帝国を支えてきたエンテシア家に無茶は働けなかったらしかった。


「ま、その後は大婆様が出奔した後にリル殿は帰還。一時叛乱軍にてユスティーツィア殿と共にリル殿の下で修行を続けたそうじゃのう」


 ここらは、カイト達も知らない事だったらしい。リルが来て初めて知った事だ。そしてそういうわけなので『導きの双玉』についても彼女の助力があっての事だったらしい。が、あまり有名になりたくない彼女の意向があり、そこについては隠されていたそうだ。


「とまぁ、そんなこんなと失策が続いた結果、立て直せぬままに終わったというわけじゃな」

「そういうこった。なんであの中央研究所も規格としてはおそらくこの間のエンテシア家の遺跡と同一と目されている。そこらもあって、オレ達がというわけだな」


 なるほど。カイトの言葉に、全員がようやくおおよその裏を理解して頷いた。そうして、この後もしばらくは中央研究所の事に関する解説が行われる事になり、その日はそのまま終わりを迎える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1690話『ルクセリオン教国』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ