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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1688話 ルクセリオン教国 ――接続――

 旧文明の調査の為、大陸の大半を手中に収めたと言われるマルス帝国で最大となるマルス帝国中央研究所へとやって来ていたカイト率いる冒険部遠征隊。そんな彼らはクロディという研究者の出迎えを受けると、一旦の中座を挟んで改めて彼女と合流するに至っていた。


「へー……皇国では面白い魔道具を開発しているのね。旧文明のコンソールに似てるけれど……」

「先に言っていた地球のパソコンを原案にして作った物です。基本的な動作はパソコンと変わりません。我々はこちらの方が使いやすいので……」

「これが、ねぇ……」


 カイトの言葉に、クロディはノートパソコン型の魔道具を興味深げに観察する。基本的にやはり旧文明の後継である為、今のどこの国でもパソコンに似た魔道具は存在している。

 と言ってもその原理等は若干異なっており、キーボードはやはり無い。コンソールに手を置いてそれで使用者の意志を読み取り、それを文章化している形だ。そして更には現代文明にはシミュレーションという概念が無い為、演算機というよりは文章を書く為のワードプロセッサに近い。

 一応これ以外にも地図を呼び出してのオペレート等にも使われている――カイトが作らせた――為、似た様な事は出来るが地球のパソコンほどの多機能さは無い。無論、持ち運ぶという発想はあっても技術的に困難なのでノートパソコン型やウェアラブルデバイスはマクダウェル家が持つのみで一般的ではなかった。


「基本的にはウチはこれを使って情報を管理しています。元々旧文明との互換性も以前請け負った調査で確保しましたので……便利ですよ。性能は落ちますが」

「へー……まぁ、そこらのやり方はあなた達が考えて行動するべきで、私がとやかく言う事ではないわね。ひとまず、所長の所に案内しましょう。先の地図の一件で、会いたいそうなのよ」

「わかりました……桜、後は頼む。少し所長と会ってくる」

「はい」


 クロディの要請を受けて、カイトは一旦桜に統率を任せて自身はホタルを伴ってクロディに従って歩いていく。そうして幾つかの区画を経て、最上階の所長室へとやって来た。と、部屋の前に立った所で三人は立ち止まり、クロディが扉をノックした。


「所長。客人をお連れしました」

『ああ、入ってくれ』


 部屋の扉をノックしたクロディの言葉を聞いて、中から男性の声が響いてくる。それを受け、クロディが扉を開いた。


「失礼します」

「ああ……よく来てくれたな」

「ありがとうございます」


 クロディが開いた扉から入ってきたカイトに、一人の老齢の男性が手を差し出した。それにカイトも手を差し出して握手を行う。


「この研究所の所長を務めているアンセルム・ラフォンだ」


 アンセルム。そう名乗った男性はおおよそ年の頃は六十前後という所で、髪色はかなり白髪が混じった銀色。が、背筋はしっかりと伸びており、衰えはさほど感じさせない。

 後に聞けば彼も彼自身の研究室を持っており、研究所の運営に関しては別の者が携わっているらしい。その関係でフィールドワークも多く、必然として歩き回るので衰えが見えないのだろう、という事だった。正確に言えば研究者達の頂点、と言う感じらしかった。


「はじめまして。カイト・天音です」

「聞いている。まずは、情報の提供に感謝しよう」

「いえ……我々が持っていた所で、という情報ですし……ご助力をいただくのなら、この情報はお互いに有益かと」

「ありがとう……あぁ、クロディ。案内、ご苦労だった」

「はい」


 カイトに改めて礼を言ったアンセルムは、クロディにねぎらいの言葉を掛けるとカイトを応接用の椅子へと案内する。そうして二人が椅子に腰掛けた所で、改めて話をスタートした。


「それで、彼女が件の?」

「はい。かつてこの研究所のゴーレム開発室に勤めていた何者かが、マルス帝国崩壊の際に彼女を奪取。その後長い改良を施された物となります。それを……」


 アンセルムの疑問を受けて、カイトはホタルを手に入れるに至った経緯を軽く説明する。流石に教国としてもこの所有権を宣言する事は出来ない。そもそもこれはマルス帝国の物。帝国が崩壊している以上、後継でもない教国が所有権を持つわけがない。


「なるほど……それを初代皇王イクスフォスが」

「はい。とはいえ、何時か誰かの役に立つだろう、とそのまま残して行かれたご様子です」

「それが、偶然にも皇女救援に向かった君たちの手に、か」

「はい……まぁ、私が強ければ破壊も出来たのでしょうが。我々救援部隊と互角となり、機能停止による鹵獲が精一杯でした。その後は私の管理下に」


 ここらに嘘はない。ただ語っていない事があるというだけだ。語らず、誤解を招く様に誘導する。相変わらずのカイトの手腕であった。というわけで、一通り筋の通った話を聞いて、アンセルムは頷いた。


「そうか……まぁ、我々としてもマルス帝国でない以上、その子の所有権を争えはしまい。君が隷属させているというのであれば、君がそのまま使うのが筋という所だろう」

「ご理解、ありがとうございます」

「いや……それで、地図については見させて貰った。それで話し合ったのだが、少しだけ予定を早めたい」


 自身の理解に感謝を示したカイトへと、アンセルムがそう提案する。どうやらこの提案をせんがため、カイトを呼び出したというわけなのだろう。そんな提案に対して、カイトは一つ頷くだけだ。


「はぁ……」

「まぁ、兎にも角にも詳細を聞かねば話は出来ないだろう」


 カイトの反応にクロディは応接用の机をとんとん、と叩く。すると、モニターが浮かび上がった。そこには、現在のカイト達との調査の予定が書かれていた。


「今の所の予定では明日に接続を行い、明後日に開封となっている。ここまでは良いかね?」

「はい」

「この予定を一日早めたい。今日中に接続の試験を行い、明日に開封としたい」

「はぁ……我々は別段構いませんが、よろしいのですか?」


 冒険部としては予定が早く終われば帰還するだけだし、教国に滞在しなければならない理由はカイトの受けた依頼となる教皇ユナルの日程のみだ。彼一人が残れば最悪は問題無い。なので拒絶する理由は無かった。


「うむ。まぁ、君には関係のない話かもしれんが……我々にも色々とあってね。特にあの中に関する事となると、誰もが興奮を抑えられんのだよ」

「はぁ……そこらは私には分からない事なのですが……安全面等について問題は?」

「うむ。それについてクロディから話は聞いた。ドローンとやらを使っていると……すまないが、その理論を語れる限りで語ってはくれないか?」


 アンセルムはカイトに対して、そう問い掛ける。それを受け、カイトはざっとしたドローンの原理とそこに搭載されている仮想OSの理論を語る。


「なるほど……擬似的にコピーを」

「はい。研究所には彼女はそこに居る、と誤解させて居るわけです。と言っても、流石に我々の技術では彼女のコアシステムを全部移植する事は出来ませんでしたので、接続する度にコピーを再構築している様な形です」

「それは何機持っているのかね」

「一応、予備を含めて二機、研究所には持ち込んでいます。実際の行動の際には、二機共使う事にしています」


 アンセルムの問い掛けに答えたカイトであるが、実はこれは本当の事は言っていない。いや、何時も通り嘘も言っていない。確かにこの研究所に持ち込んでいるのは二機だが、実は教国には更に幾つものドローンを持ち込んでいる。教国を完全に信頼も信用もしていないからこそ、敢えて真実を言わなかったのだ。


「右腰と左腰のかね?」

「ええ。サイズと技術の関係でドローンはバッテリー駆動ですので……充電ユニットも兼ねています」


 カイト達が今回持ち込んだドローンは、地球で一般的なドローンと同じプロペラで浮力を得ているタイプだ。超小型の飛翔機は搭載していない。あくまでも、地球の技術をエネフィアの技術で再現したものとなっている。そして機能も最低限だ。


「そうか……まぁ、そこらは良いだろう。興味が無いわけではないが、今の話に関係があるわけではない。そういう理論であれば、ひとまずは安全だろう」

「良いのですか?」

「少なくとも、君が述べた理論に瑕疵はない。更に言えば技術的に問題点が無いではないが……予備を一度借りれるかね?」

「返却して頂けるのでしたら」


 アンセルムの問い掛けに、カイトは一つ前提を告げる。これに、アンセルムははっきりと頷いた。


「無論、返却するとも。何、特に何かを知りたいわけではない。きちんと君の言う通りの動作をするか、というのが知りたくてね」

「わかりました……ホタル。左側の予備を」

「はい」


 カイトの指示を受けたホタルが、アンセルムへとドローンを差し出した。このドローンに使われている理論は、さほど隠す必要の無いものだ。これへのコピー等についてはホタルが担っている為、内部に搭載されているのは記録媒体とドローンの操作に関する機能だけだ。

 あくまでも、ここでの冒険部はマクダウェル家より支援を受ける一介のギルドに過ぎない。過分な技術は保有していない風を装う必要があった。


「ありがとう。16時には返却する」

「わかりました。であれば、その時に一度接続と?」

「ああ……と言っても、若干前後するのは許してくれ。まだこれは計画段階だ。実際にこのドローンを鑑みて延期する可能性は無いではない」

「承知しております」


 別にカイトとしても日程が遅れた所で問題はない。元々日程については若干前後する事を予め予定に入れており、残留の面々を統率するソラもそれを含めた上で行動している。

 というわけで、カイトはその後はしばらく少しの間、アンセルムより今後の予定の説明を受け、改めて調査に備えた支度に取り掛かる事にするのだった。




 さて、カイトがアンセルムと出会ってから、およそ6時間。17時ごろになり、カイトはアンセルムより再度の呼び出しを受けていた。


「いや、すまないな。一時間も遅れてしまって……」

「いえ。こちらとしてもその間に研究所各所の案内を受けられましたので……見直す時間等に割り当てられました」

「そうか。ひとまず、君から預かったこのドローンは君に返そう」

「ありがとうございます」


 カイトはドローンを返却されると、ホタルへと一つ頷いて彼女へと収納しておく様に指示する。そうしてそれを横目に、カイトは改めてアンセルムへと問い掛けた。


「それで、計画については?」

「ああ。それについては君さえ問題無ければ、今から行う事にしたい」

「ホタル、問題は?」

「本機に問題はありません」


 どうやら職務になるからだろう。ホタルは一人称を仕事向けに変えて、カイトの確認に明言する。それを受けて、カイトは一つ頷いた。


「問題ありません。一応、確認させて頂きたいのですが……リンクを確認するだけですよね?」

「もちろん。我々も開かずの扉を開けるのなら、万全の準備はしておきたい。軍にも協力を要請しているが……流石に軍に今日決めて今日突入、とはいくら私の権限でも頼めなくてね。明日の昼以降にしてもらうのが精一杯だった」

「なら、大丈夫です」


 今回確認するのはホタルと研究所のリンクの確認だけだ。であれば、ホタルさえ操られない限りは戦闘が起きる可能性はない。そしてホタルが操られる可能性というのは、多重に張り巡らせた対策によって起きないとティナが太鼓判を押している。なら、カイトはそれを信じて返答するだけであった。


「そうか。であれば、来たまえ」


 カイトの返答に頷いたアンセルムは立ち上がると、カイトへとついてくる様に指示を出す。どうやら開かずの扉に関する調査は彼が直々に主導しており、今回のリンクもその一環として彼が立ち会うらしかった。そうして、カイトとホタルは彼に案内されて実験室の一室へと通される。


『あー……あー……カイトくん。聞こえているかね?』

「大丈夫です」


 実験室は戦闘に耐えられる物のようで、昔ここで開発されていた頃のホタルも戦闘訓練で利用していたらしい。そこからここでなら万が一暴走があっても大丈夫だろう、と判断されたようだ。


『良し。では、リンクを確立してくれ』

「はい……ホタル」

「了解」


 カイトの指示を受けて、ホタルが二機のドローンを起動させる。そうして、彼女の前に二機のドローンが滞空した。それを見て、カイトがコントロール・ルームで行動を見守るアンセルムに一つ頷いた。


「……いけます」

『うむ……では、開始』

「ホタル」

「了解……ドローンとのリンク、確立……ついで、研究所とのリンクを確立させます」


 カイトの指示を受けて、ホタルが研究所とのリンクに入る。そうして、数分。幾度かのチェックを行った後、実際に研究所とのリンクが確立された。


「……問題無し。攻性防御の類は確認出来ず」

「そうか……問題なく、リンク出来ている様子です」

『そうか……わかった。なら、そのまま扉を開く事は出来るかね?』

「ホタル」

「了解」


 カイトの要請を受けたホタルが、コントロール・ルームへ続く扉を開く。これで、彼女が現在この研究所のコントロールを一部持っていると証明出来たわけだ。というわけで、二人が実験室を出た所でアンセルムがカイトへと一つねぎらいの言葉を送った。


「ありがとう。これで明日には開かずの扉を開ける」

「いえ……お役に立てれば幸いです」

「ああ……では、君も明日に備えて今日はゆっくりと休んでくれ。君も今日は初日という事で色々と疲れただろう」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」


 アンセルムの指示をカイトは有り難く従わせてもらう事にする。そうして、彼はホタルと共にホテルへと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1688話『ルクセリオン教国』

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