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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1687話 ルクセリオン教国 ――中央研究所――

 旧文明の遺跡に関する調査の為、ルクセリオン教国へとやって来ていたカイト率いる冒険部遠征隊。彼らはひとまず教皇ユナルとの謁見を行うと、その翌日になり元マルス帝国中央研究所へとやって来ていた。

 そんな彼らは教国側から出迎えに来てくれたクロディという女性研究者より幾つかの注意事項の説明を受けると、入退室に使うというカードキーを遠征隊一同に配布していた。というわけで、その確認も終わった事でカイトは改めて研究室へとやって来ていた。


「さて……では改めて実務に関する話し合いをしましょうか」


 カイト達に与えられた研究室に戻ってきたクロディは改めて、そう口にする。簡易な打ち合わせは昨日の段階で行っていたが、細々とした打ち合わせはまだ行っていない。というわけで、カイトは冒険部のギルドメンバー達に研究室の備品等の確認をさせる一方、自身は彼女との打ち合わせを行う事にした。


「まず、この研究所だけれど……さっきも言った通り、とても広いの。基本的な構造はマルス帝国時代から引き継いでいるのだけれど……三分の一ぐらいはまだ未踏破領域で」

「三分の一……多いのか少ないのかわかりませんね」

「これでも進んでいる方よ。二百年前の総長が居なかったらどうなっていた事やら」


 やれやれ、とクロディは呆れ返る。超巨大な研究所の三分の二が調査済みと言えば案外解析が進んでいる様に思えるが、実際に残る三分の一は重要な設備や研究がされていたのだろうというのが、大勢の見方だ。

 カードキーの関係からデータの閲覧も可能な限りしか出来ない為、ある意味では彼女が言っていた表層を爪で引っ掻いた程度というのも頷ける。


「とはいえ、分かっている部分に関してはほぼ全て把握していると言って良いわ。ということで、これね」


 ぽすん。クロディは軽い感じで一枚のパンフレットの様な薄い冊子を取り出した。そうしてクロディがそれを広げる。


「分かっている限りについてをマッピングした地図よ。ここの扉、分かる?」

「開かずの扉……ですか?」

「そう。こことこことことにある三つの扉ね」


 カイトの問い掛けにクロディは楽しげに頷いた。それは研究所の中央付近に繋がる三つの扉で、それを中心として内側は真っ黒になっていた。此処から先は分かっていないというわけなのだろう。


「これ以上先に進めないから、もう誰もが開かずの扉と茶化すのよ。というわけで、ここが最奥に続くわけね」

「しかし明後日には開く、と」

「そうであって欲しいわね。この研究所がほぼ総出で貴方の支援をすると考えて頂戴……なんだかんだ言いながらも、反対派もこの内側に興味がある事は変わらないのよ。まぁ、支援というより自分が知りたいだけなのだけど」


 確かに、道理といえば道理なのだろう。教国や皇国、地球やエネフィアという差はあれど、彼女らは学者という点では共通している。であればそこに未知があり手が届くかもしれない以上、知りたいという欲求はどうしても拭えない様子だった。


「で、教皇猊下が直々に言及されたとは聞いたのだけど……改めて言うわ。この先はおそらく、まだ警備のゴーレムが存在しているわ。それについて、覚悟は?」

「覚悟ですか?」

「貴方が、最前線になるのよ? 覚悟は聞いておかないとね」

「なるほど」


 基本的に、この中央研究所ではホタルはカイトの側に待機する事になっている。一応彼女は法律上は冒険部の備品のゴーレムとなる。というわけで、主であるカイトが常に側に居る様に命ぜられていたのである。無論、これは備品が勝手に動かないという道理と共に、万が一の場合は抑え込める可能性のあるカイトが居るべき、という安全保障上の観点もある。


「問題はありません。ホタルを鹵獲したマルス帝国の遺跡でカスタムされたゴーレムと交戦していますし、先日もマルス帝国時代のエンテシア家の遺跡の調査にも立ち会っています。他にも旧文明のゴーレムとも何度か交戦経験が」

「い、意外と経験豊富なのね……」

「そ、そうですね……」


 言ってみて自身もびっくりするしかなかったが、なにげにカイトは大半の冒険者達より多くの遺跡に立ち入っていた。この一年であれば、おそらくギルドを率いての活動なら現状最多をマーク出来るだろう。とはいえ、それならそれで良かった。


「まぁ、それなら不意打ちを食らう事はないでしょう。最奥だから気にするべきは気にするべきでしょうけど……あ、そうだ。そう言えばホタルちゃん」

「は……なんでしょう」

「貴方、この研究所の地図のデータって持ってないの?」


 そう言えば、とクロディがホタルへと問い掛ける。これに、ホタルは一度カイトに目で対処を問い掛ける。


「構わんさ。隠しているわけじゃないからな」

「は……保有しておりますが、それが」

「やっぱり! そうよ! それがあるならそれをコピーさせて!」


 どうやら、ホタルがこの研究所で作られた事を思い出し、クロディはもしかしたら製造目的等から研究所の地図もあるのでは、と思ったそうだ。それに、ホタルは再度カイトを見る。


「構わん。そもそもオレもそれを使う予定だっただろ?」

「はぁ……外部出力機器はありますか?」

「あれを使って頂戴」


 クロディはホタルの問い掛けを受けて、部屋に備え付けのプリンターを指差した。それに、ホタルは自身の腰に取り付けた小箱に接続。ティナ作の小型ドローンを飛ばして、プリンターへと自身を接続した。


「何、あれ」

「遠隔操作型の中継機です。初使用の前に試験運用を命ぜられておりましたので、ついでに」

「?」


 何を言っているかさっぱりだ。クロディはそんな様子で首を傾げる。それに、カイトが口を開いた。


「今回、基本的に彼女の接続はあれを介して行うつもりです。研究所側から何らかのバックロードがあると面倒ですので……もし何か良くない反応があった場合、あれが自壊してホタルが操られるのを防ぐ事になっています」

「……どうやって?」

「少々、説明がし難いのですが……地球のパソコンの技術に仮想OSという物がありまして。あの中に彼女が居ると誤認させている様なもの、と言うべきかと」

「……ごめんなさい。そもそもパソコンって何?」


 当然といえば当然であるが、エネフィアにパソコンはない。一応それに似た物はあるが、パソコンをどれだけの者が知っているか、と言われるとおそらく一千も行かないだろう。


「所謂電子計算機、なのですが……と言いたいのですが、そもそも電子計算機そのものが無いですからね。説明は難しいかと。わかりやすく言うと、計算や演算、シミュレーションを行う高度な機械と言えるのですが……少なくとも、一言で説明が終わる事は無いでしょう」

「そうみたいね。今ここで聞いている時間もなさそうだし……今回は諦めるわ」


 今行うべきなのは、今後の調査における打ち合わせだ。それを考えればここで長々とパソコンの理論を聞いているわけにはいかないだろう。というわけで現状での理解を諦めたクロディにカイトも説明を取り止める。と、そんな事を話していると印刷が終わったらしく、プリントアウトされた数枚の地図を片手にホタルが戻ってきた。


「マスター」

「ああ……ふむ。やはり少し構造は変わっているか」

「流石に補修工事はしているもの」

「修繕用のゴーレムはどうなっているのですか?」


 基本的に、マルス帝国にも建物の補修等を行うゴーレムが居るらしい。基本的な施設の修繕は彼らが行うらしく、大規模な補修工事をやる事は滅多に無い。それを知るホタルの疑問に、クロディが肩を竦めた。


「三百年前の大戦で外側で動いていた修繕用のゴーレムは回収されたのよ。で、一台も無いわ。この内側にあるかどうかは、分からないけれど」

「あー……」


 そう言えばルクスも言ってたなー。カイトはルクセリオの大聖堂を修復するゴーレムに疑問を持った時の事を思い出す。当時はどこもかしこも人手不足だったのだ。それ故、補修工事が可能なゴーレムは教国としても有り難く、ルクスも数度鹵獲した事があるそうだった。


「ホタル。外部の構造のマッピングをこれに合わせてお前の持つ地図データを修正出来るか?」

「了解。少々、お待ち下さい」

「頼む」


 ひとまず、今後基本的にカイトはホタルの案内を受けながら動く事になる。それを考えた場合、正確な地図が分かっている以上そちらに合わせるべきだろう。というわけで、ホタルが自身に内蔵されているデータを修正している傍ら、改めて開かずの扉の内側についての話し合いを行う事にする。


「やっぱり内部にも幾つかの実験室があるわね。これは……ああ、これが多分、この子の開発を行っていた部屋かしら」

「ゴーレム開発室……ホタル」

「肯定します。外的には別の名前で通っておりましたが、私の保有する地図には全研究室の正確な名前が記されております」


 ここらは先に言われていた通り、現在教国が保有する認証キーは最高位の情報を手に入れられないクラスだ。なので部屋の名前等についても偽装されている場合は偽装されて表示される事になっている。なのでホタルの持つ地図の方が非常に正確だったそうだ。


「当然か。変な話だが」

「情けない話とも言えるわ」

「どっちでも良いですよ。特に意味はないですし」


 クロディの言葉に、カイトは僅かに苦笑する。何が情けないかというと、自分達が道具であるゴーレムの持つ権限より下の権限しか持ち合わせていない事だ。


「まぁ、敢えて言うのであれば、逆説的に言えばそれほど終焉帝は他者を信用していなかったとも言えます。実際、古書等で窺い知れる情報を読み解く限り、彼が生き物として信頼していたのはごく限られた者達だけと言って良いでしょうからね」

「良く知ってるわね」

「職業柄、遺跡探索が専門なので。マルス帝国の最後となる終焉帝の情報は知っておかないと」

「なるほど。『遺跡探索者(ルイン・シーカー)』として当然というわけ」


 カイトの返答に、僅かに驚いた様子を見せていたクロディは道理を見て一つ頷いた。何度か言われているが、冒険者にも専門や得意分野がある。

 そのうちカイト達冒険部は公的に見れば遺跡探索を専門としたギルドと言える。であれば、マルス帝国について知っていても不思議はない、と思われたのだろう。


「そうね。ウチは実はマルス帝国時代から学者をやっていた家系なのだけど……当時の研究者の手記を見る限り、かなり他人を信じていなかったそうよ。ご先祖様も直に見たのは一度っきりという話だし……」

「でしょうね。行幸した、という話は聞いたことがありませんし……」

「らしいわね。他にも親衛隊をゴーレムで構成しようとしていた、という話ね」


 カイトの言葉を聞きながら、クロディはホタルを見ながら同意を示す。すでにカイトも知っているが、ホタルの製造理由は終焉帝の警護の為だ。そして今の彼女の発言を鑑みれば、ゆくはゴーレムによる親衛隊も作ろうとしていた、というわけなのだろう。と、そんな彼女は改めて気を取り直した。


「まぁ、とりあえず。この印刷した地図はそのまま貰って大丈夫?」

「あ、はい。どうぞ」

「ありがとう。貴方達も調査を開始するにしても準備に時間が必要でしょう。そこに私は必要がないだろうから、ひとまずこれを所長に持っていくわ。その後も話し合う必要があるし」

「わかりました」


 折角手に入った内部の地図だ。精査は必要だろうが、その精査は他人に任せてクロディは引き続きカイト達の応対を行えば良い。そこらを話し合うのなら所長と話す必要があるのだろう。

 というわけで、クロディは一度カイト達に与えられた研究室を後にして、一方のカイトは冒険部に与えられた研究室の備品の状況を確認し、彼女が帰って来た時点で作業に取りかかれる様に支度を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1688話『ルクセリオン教国』

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