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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1681話 ルクセリオン教国 ――謁見――

 ルクセリオン教国へとマルス帝国時代の研究所を調査するべくやって来ていたカイト達。そんな彼らは教皇ユナルの希望により、彼との謁見に臨む事となっていた。

 そうして彼が起居し、ルクセリオン教国の中枢ともなる大聖堂へとやって来たカイトは、司教の一人であるライフの案内を受けて教皇ユナルの待つ謁見の間へとやって来ていた。


「こちらで、お待ち下さい」


 謁見の間へと入ってすぐ。ライフはカイト達へとそう告げると、彼らを残して部屋を後にする。


「……」


 教皇ユナルを待つ間、カイトは一度謁見の間を観察する。謁見の間はやはり礼拝堂に比べて質素だったが、やはりそれでも客を出迎える場所だからだろう。神聖さとは別に品の良さが見受けられた。

 部屋の中にあるのは歴代の教皇が客と会う為に使っていただろう、それなりには豪奢な椅子が一つあるぐらいだ。基本的にはミニ版のよくある謁見の間という所だ。そんな部屋にて待っていると、謁見の間の側面の扉からピーリスと共に教皇ユナルがやって来た。


「おぉ、待たせたね。よく来てくれた」

「「「猊下」」」


 柔和に笑いながら自席へと歩いていく教皇ユナルに対して、カイトは改めて深く頭を下げる。そうして気配で彼が着席したのを察すると、そのまま彼の言葉を待つ事にする。


「顔を上げてくれ。いや、すまないね。昼食会だけのはずが急に来てもらって……」

「いえ、猊下。多忙な中でお時間を割いてくださった猊下の御慈悲に感謝しかありません」

「ははは。そう言ってくれれば幸いだ……いや、何。なにか聞きたい事や話したい事があるというわけではなくてね。挨拶も無しに昼食に入るのはどうか、と思い幸いにして少し時間が空いたので、先んじて君達に会っておこう、と思ったのだ」


 教皇ユナルはカイトの言葉に、笑ってそう告げる。元々今回は昼食会しか企画されていなかった。無論、だからと言って昼食会ギリギリにやって来るのはマナー違反だ。

 なので相手の事や最後の調整も必要だろうと一時間以上前に入っていたのだが、それ故に彼は時間が空いたので一度顔合わせを行っておこう、という事だったのだろう。そんな彼に、カイトが改めて頭を下げる。


「ありがとうございます」

「うむ……それで、向こうのエードラムより話は聞いている。娘より手紙を預かってくれているのだとか」

「は……こちらとなります」

「そうか」


 カイトの取り出した手紙を見て、教皇ユナルは側に控えていた修道士に一つ頷いた。そうしてその意を受けて、修道士がカイトより手紙を受け取って、教皇ユナルへと手渡した。


「おぉ、これは間違いなく娘の字だ。相も変わらず几帳面な娘でね……字にもそれが表れている。懐かしい。娘から手紙なぞ貰ったのは何時以来だったか。ありがとう」

「いえ。お役に立てたのなら幸いです」


 嬉しそうな笑顔を浮かべた教皇ユナルの感謝の言葉に、カイトが再度頭を下げる。そうして彼は手紙を確認した後、それをピーリスに手渡して再び口を開いた。公私を分別し後で読む、という事なのだろう。


「それで、話は聞いた。娘よりトレーフルの写真を撮ってきて欲しいという事だったね」

「は……先の一件において猊下の御慈悲により付近を通りました事をお話しました所、アユル様は大層懐かしがられておりました。それで不躾ですが、私より良ければ、と申し出させて頂いた次第です」

「すまないね、娘のわがままに付き合ってもらって……」


 改めてカイトの口から語られた事情に、教皇ユナルが詫びを述べる。今回のものは確かにわがままと言えば、わがままと言える。親として詫びた、というわけなのだろう。


「いえ。私も私が率いるギルドも共にアユル様にはお世話になっております。この程度のご恩返しでしたら、苦にもなりません」

「ありがとう。私としてもあの子に負担を掛けている事は分かっているのだが……これも職務と飲んでもらっている。滅多にわがままなぞ言わぬ娘たっての願いだ。もちろん、君の渡航を許可しよう」


 カイトの明言に感謝を示した教皇ユナルはアユルの依頼に関して柔和に笑って快諾を示す。そうして、彼が告げる。


「とはいえ、やはり道案内が必要だろう。それについては私が行こう」

「は? い、いえ、ですが……」

「ははは。いや、これでも私も故郷に戻るのはもう十数年ぶりでね。娘に言われて、私も少し懐かしくなったのだよ。妻の墓にももう長いこと行けていない。たまさかの墓参り、という所だ。きちんと予定も調整しているので、気にしないでくれ」


 驚きを露わにしたカイトの顔を見て、教皇ユナルは笑いながら同行を告げる。これに周囲に立っていたピーリスやライフが驚きを露わにしていない所を見ると、どうやら突発に思い立った事ではなくきちんと調整しての事だったのだろう。それを、カイトも理解した。


「は、はぁ……猊下がよろしいのでしたら、私としても願ってもない事です」

「うむ。なぁに、私にとっても渡りに船という申し出でね。気にしないでくれたまえ。それに、久方ぶりに私が写真を撮るというのも悪くない。これでも昔は妻と娘の写真を撮ったりしていてね。なかなかの腕だと思うのだよ」

「はぁ……」


 まぁ、確かにトレーフルは教国でも僻地に近い。激務である教皇の業務を考えれば、帰れていなくても仕方がない。これを機に、というのは分からないわけではなかった。というわけで、カイトは呆気に取られながらも了解を示す。


「そう言えば、カイトくん」

「は……」

「聞いていたより目の眼帯が大きかったのだが……本当に大丈夫かね?」

「は。ありがとうございます。魔眼の暴走と言いましても、軽度の暴走。スイッチが押し込まれている、という程度。何もしない分には問題はありません。この眼帯も万が一が無い様に、というだけです」


 教皇ユナルの言葉に、カイトは感謝を示した。確かにカイトの眼帯は例えば創作物における伊達政宗の眼帯の様な眼帯を想像している者達からすれば、かなり大きいのだ。

 冒険部でも眼帯と言われてそれを想像していた者は多く、大いに驚いていた者も少なくなかった。これは魔眼について詳しくなければ仕方がない事で、聖職者でも魔眼系に詳しくないのであれば当然の事だろう。


「そうかね。どの様な魔眼なのだ? 何分、私は魔眼については詳しくなくてね。何々の魔眼、と言われてもピンとは来なくてね」

「は……これは所謂遠見……遠くを見る為の魔眼です。役職上、多くの者を指揮する事もあります。そういった際、細やかな指示を出せる様に習得したのですが……此度は軍との合同という事で使っていたのですが、結果としてそれが悪く働いた、と」


 教皇ユナルの問い掛けを受け、カイトは公的に発表している魔眼と暴走した理由について改めて説明する。これに、教皇ユナルが重ねて問い掛けた。


「ほぉ……その様な事を。一般的なのかね?」

「いえ……やはり皆で共に帰ると約束したのです。ですのでこれがあれば生還率を上げられるだろう、と思い習得しました」

「おぉ、そうか。それは素晴らしい心がけだ。君の様な指揮官に恵まれ、君の仲間達は幸運だったろう」

「いえ……此度にせよ、まだまだ不出来な所は多くございます。ただ、精進あるのみと思うばかりです」


 カイトの言葉に嘘はない。彼は確かに最強を謳われているが、決して自らがどんな条件でも勝てると自惚れているわけではない。無敵と最強は違う。それが、彼の言葉だ。故に謙遜ではない彼の言葉に、教皇ユナルも相好を崩す。


「そうか。君はまだまだ上を目指すか。良い事だ。我々も常に精進を忘れず、昨日よりより純粋に神に祈れる様にたゆまぬ努力を行っている。その君の姿は、我らにも通ずる物がある」

「ありがとうございます」


 相好を崩した教皇ユナルの称賛に、カイトは少しだけ照れた様な顔を作って頭を下げる。と、そんな所でふと、教皇ユナルが申し出た。


「そうだ。そういう事であれば、その眼帯を外せぬのか? 封印はされているという。危険は無いのだろう?」

「は?」

「いや、何。魔眼の中には目の色が変わる魔眼があると聞く。実はそういう物を見たことがなくてね。見れるのなら、見たいと思うたのだよ」

「え、いや、は、はぁ……確かに危険は無いと断言出来ますが……」


 教皇ユナルの申し出に、カイトは困惑を露わにする。確かに今の彼の魔眼は魔眼封じの眼帯以外にも封印が効いているし、意図的に解放しない限りは特段の力は発生しない。

 が、それでも万が一を考えれば安易に眼帯を外すべきではないだろう。困惑も致し方がない事だった。と、そんな困惑するカイトであったが、彼が何かを言う前にライフが口を開いた。


「猊下。あまりお戯れはおやめ下さい。確かに彼の目については封印がされている様子ですが、万が一が起き得ないとも限りません。猊下は猊下の失態故に問題は無いかもしれませんが、もし猊下になにかがあれば、彼の風評に関わります」

「そうか?」

「はい。もし魔眼を見たいのであれば、また騎士に良い者を見繕います。どうか、そちらお申し付け下さいませ」

「そうか……まぁ、それもそうか。すまないね、妙な申し出をしてしまって。少し興味が湧いてしまっただけの事だ。気にしないでくれ」


 ライフの諫言を受けた教皇ユナルは僅かに残念そうながらも、その言葉に道理を見たのか自らの提案を取り下げた。それを受け、カイトも困惑気味ながらも頷いた。


「はぁ……」

「うむ……っと、あまり長々と雑談をするわけにもいくまいな。本来は昼食会で話そうかとも思ったのであるが、折角の食事を事務的な話で終わらせる必要もない。ここで終わらせておこう」


 どうやら教皇ユナルはライフの諫言に気を取り直して改めて話を開始する。これについては彼の言う通りの側面もあったので、カイトもそれに合わせる事にした。


「君達が行きたいと望んでいた中央研究所……これについては改めて、君たちの入所を許可しよう」

「ありがとうございます」

「うむ。まぁ、我々としてもさほど解析は出来ていなくてね。何か手助けが出来る事はないのだが……それでよければ、入りたまえ」

「ありがとうございます。それでも、我々は少しでも手がかりとなるのであれば進みたいのです」


 教皇ユナルの改めての立ち入りの許可に、カイトもまた改めて感謝を示す。それに、教皇ユナルが頷いた。


「うむ……聞けば、君たちはかつてマルス帝国が作ったというゴーレムを持っているという。それがあれば、何かわかるかもしれん。我々としても何かがわかれば有り難い。我々の方の研究者も君たちに協力する様に言っている故、何かがあれば彼らに協力を申し出てくれたまえ」

「はい、ありがとうございます」


 これはルーファウスも言っていたが、マルス帝国の中央研究所の施設は完全に復旧出来ているわけではない。なのでホタルの存在は彼らにとっても有り難いのだろう。というわけで、これについては彼らもまた利益がある事だったらしい。


「それで、あの中央研究所だが……今でも幾つかのゴーレムは動いている。おそらくもし未知の領域を見付けた場合、それとの交戦もあり得るだろう。これについては破壊しても構わない」

「よろしいのですか?」

「うむ。とはいえ、出来ればあまり破壊しない様にしてくれると有り難い。後に持ち帰って研究したいのでね」

「わかりました」


 教皇ユナルの言葉に、カイトはそれをしっかりと覚えておく。そうして、その後はしばらく事務的な話を行う事となる。が、それも少しした所で、神官の一人が教皇ユナルへと耳打ちした。


「おぉ、そうか。丁度昼食会の用意が整ったそうだ。では、行くとしよう。結局君とばかり話してしまったが……昼食会では他の皆とも話そう」

「はい」


 教皇ユナルの言葉に従って、カイトもまた立ち上がる。そうして、一同は教皇ユナルに案内されて昼食会の会場へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1682話『ルクセリオン教国』

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