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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1680話 ルクセリオン教国 ――謁見直前――

 カイトらが教国の首都ルクセリオに到着し、ホテルへと案内されて少し。この話は当然だが、すぐに教皇ユナルへと上げられていた。


「そうか。到着したか」

「はい。皆、教皇猊下の御慈悲に感謝を示しておりました」


 カイトを出迎えたイアサントは、教皇ユナルの求めに応じて報告を行っていた。彼の立場は枢機卿の補佐官。日本で例えれば事務次官という所だろう。なので教皇に直々に報告出来る地位だった。これを考えれば、教国がどれだけカイト達を厚遇してくれているかわかろうものだった。


「そうか……それで、件の少年はどの様な反応を示していたかね」

「は……それはもう、驚いている様子でした」

「そうか」


 教皇としての柔和な表情で、教皇ユナルは満足げに頷いた。先にも言われていたが、カイト達のホテルを選んだのは彼だ。それ故に満足げだったのだろう。と、そんな彼はふと僅かな心配を覗かせて問い掛ける。


「そういえば……確か彼は今、目を怪我しているという話であったな。それに合わせ、医師の同行も申請していた様子であったが……具合はどう見えた?」

「ええ……元々の申告にもありました通り、今は眼帯を身に着けている様子でした。が、行動によどみはなく、日常生活に支障を来している様子は特には。無論、眼帯は医療用の封印措置の施された物。此度の仕事は彼らにとって重要な物。彼自身が陣頭指揮を取るのが妥当である以上、医師の同行は当然の事でしょう」


 教皇ユナルの問い掛けは特に不思議のあるものではない。今回、彼はカイトを客として招いている。立場上カイトも出席する事になっているが、それでも怪我の塩梅を予め知っておくのは重要だろう。と、そんな所にライフがやって来た。


「猊下……っと、失礼致しました。報告の最中でしたか」

「おぉ、ライフか。いや、良い。丁度報告も聞きたい事は大半聞き終えた所でな。それにピーリスの補佐官を儂があまり長々と引き止めるわけにもいくまい……イアサント、報告書はピーリスと共に私にも渡してくれ」

「はい、かしこまりました」


 頭を下げてその場を辞そうとしたライフに対して、教皇ユナルは笑って一つ頷いてそのまま待つ様に指示を出す。そうして合わせて指示を受けたイアサントが下がった所で、ライフが進み出た。


「猊下。一件、報告が」

「どちらの報告だ?」

「表です」

「そうか……であれば、このまま聞こう」


 ライフの言葉を受けて、教皇ユナルは柔和な表情のまま先を促す。それを受けて、ライフもまたそのまま報告を開始した。


「ヴァイスリッター兄妹が帰還したとの事です」

「おぉ、そうか。であれば、私の前に来る様に告げよ。二人からも直々に話を聞かねばな」

「かしこまりました。手配致します」


 少し楽しげな教皇ユナルの申し出を受け、ライフもまた一つ頷いて手配に入る。そうしてしばらくの後。軍が管理するエリアで報告を行っていたルーファウスと、それに同行してやり方を学んでいたアリスが彼の前へとやって来た。


「「教皇猊下」」


 教皇ユナルの前に進み出て、二人が跪いて頭を下げる。それに、教皇ユナルはねぎらいを送った。


「長きに渡る任務、ご苦労であった。遠く異郷の地、そして異教の地でもある。身体は大丈夫かね?」

「「ありがとうございます。問題ありません」」


 ルーファウスとアリスは声を揃えて、大丈夫である事を明言する。それに、教皇ユナルは一つ頷いた。


「そうか……二人共、学ぶものが多い旅路であれば私としても良き事だと思う。どうであった?」

「は……カイト殿の運営の手腕、私としても今後父の後を継ぐにあたり、只々感服するばかりでした。また、それから父の偉大さを学ぶ事も出来ました。私も、そして妹にとっても得ることの多い任務であったかと」

「そうかそうか」


 ルーファウスの報告に、教皇ユナルが慈愛に満ちた表情で頷いた。そんな彼はルーファウスの返答に満足すると、更にねぎらいの言葉を掛ける。


「まぁ、本来であれば数日の休養を取らせたい所なのであるが……すまんが、この後私も彼らと会わねばならん。なので少しは知っておくのが、教皇としての仕事でね。少しばかり、彼らの事を教えて欲しい。イアサントからも所感を聞きはしたが……やはり共に暮らした君達だからこそ、分かっている事もあるだろう。疲れている所に申し訳ないが、少しだけ時間を貰えないかね?」

「滅相もないお言葉です。と言いましても、何をお話すれば良いか……」

「良い良い。私が聞くので、君やアリスが答えてくれれば良い」

「はい」


 教皇ユナルの言葉に、ルーファウスが頷いて了承を示した。そうして、二人はその後はしばらく教皇ユナルの求めに応じて、カイト達の事を語っていくのだった。




 それから、数時間。カイトは桜と瞬の天桜学園の生徒のまとめ役、教頭と灯里といった学園教師陣の今回の責任者と共に馬車に乗ってルクセリオ中央にある教会に向かっていた。そんな中、カイトは道行く巡礼者達を見ながら、僅かに物憂げだった。


「……」

「どうしたんですか?」

「色々とあるからね。ここは、ルクスの生まれた場所だから」


 桜の問い掛けに、フードの中に潜んだユリィがカイトの心情を代弁する。ここは自らの親友の生まれ故郷だ。数えるほどしか来た事がないが、それでも様々な想いがあった。そうしてそんな代弁を聞いた彼は、少しの事情で停止した馬車の中から、小さな教会を指差した。


「……あぁ、あの教会だ。ウィルが悩んでたルクスを叱りつけたんだ」

「叱りつけた?」

「ああ……懐かしいな。ルシアとの事で悩んでて、でも戦いは起きてて……あいつ、どうすれば良いかわからなくなってたんだ」


 かつて言われていたが、ルクスとその許嫁であるルシアの仲を取り持ったのはある意味ではウィルだ。あの時、色々な理由からルシアが妖精族との混血である事を知った彼は、教義と自らの恋心の板挟みとなっていた。その彼の恋路に最終的な問い掛けをしたのが、ウィルだった。


「この街から、オレ達三人は全てを始めたんだ」


 どこか楽しげに、どこか嬉しそうにカイトは語る。と、そんな感傷は置き去りにして、馬車が再び走り出す。そうして馬車は教皇ユナルが待つ大教会へと近付いていく。と、そんな中でふと瞬が問い掛けた。


「そういえば、あの大教会は何ていう名前なんだ? ルーファウスから大教会とは聞いていたんだが……正式名称は聞き忘れてな」

「あれか? あれはセント・アンジェリカ教会。開祖の名を冠した教会だ。まぁ、正式名称より大教会や大聖堂と呼ぶ方が一般的だ。多いのは後者だな」

「そうなんですか?」

「開祖の名を呼ぶのは恐れ多い、という事でな。三百年前の記憶で悪いが……聖堂の中でもあれ以上の物はエネフィアには存在していなかった。だから、ルクセリオ教の信徒達は敬意を表して大聖堂と呼んだんだ」


 瞬に続けた桜の問い掛けに、カイトはざっとしたルクセリオ教の総本山となる大聖堂の来歴を語る。そんな大聖堂はやはり多くの巡礼者が訪れている様子で、警護に関してもあまり巡礼者達を威圧しない様に配慮がなされていた。と、そんな解説が終わった頃に、馬車がゆっくりと停車する。そうして、馬車の扉が開いた。そこに待っていたのは、ライフだった。


「お待ちしておりました。本大聖堂の司教でライフと申します」

「ありがとうございます。カイト・天音です」

「ユリィでーす」


 カイトが馬車を降りるのに合わせて、ライフが手を差し出した。それに、カイトも握手を交わす。なお、教頭が一緒なのにカイトが先んじたのは、今回の来訪はあくまでもカイト率いる冒険部という形で招いているからだ。そうして握手を交わしたライフであるが、続けたユリィの挨拶に柔和に笑って頭を下げた。


「はい、小さい方もようこそいらっしゃいました。他の皆様も、ようこそおいでくださいました」

「ありがとうございます」


 ライフの挨拶に、教頭が頭を下げる。そんな二人を横目に、カイトは僅かに驚きを得ていた。ユリィが出て来たのは無論、ここから教皇ユナルと謁見するにあたり彼女が隠れ潜むのは明らかな悪手だからだ。

 が、同時に今の一連の流れは相手がどういう対応をするか、というのを見定める為でもある。もう少し風当たりが強いかと思っていたらしかった。

 とはいえ、風当たりが弱いのであればそれはそれで良い事だ。それに相手とて政治家の側面もある。それを考えれば、不思議はないのかもしれない。カイトはそう考えた。


「では、こちらへ。昼食会の前に、教皇猊下が一度お会いになりたいそうです」

「ありがとうございます」


 ライフの申し出に、カイトは笑顔で頷いて彼の後ろに歩いていく。教皇との謁見は信者であれば聖堂の中にある礼拝堂で行われるのが通例となっているが、今回カイト達は信者ではない。というわけで、巡礼者達に混じって大聖堂の礼拝堂前までは進むが、その前にある小部屋で立ち止まる事となった。


「通例なら、教皇猊下が礼拝堂にて説法を行われるのですが……今回は皆さんは信者ではないという事ですので、謁見の間へとご案内します。とはいえ礼拝堂は基本、自由に出入り出来ますので……よろしければ、帰りにでも御覧ください」

「すごいですね。ここまで荘厳な教会は地球広しと言えども無いかもしれません」

「そうでしょうか。ありがとうございます」


 礼拝堂を外から観察したカイトの称賛に、ライフは笑顔で小さく頭を下げる。そうして礼拝堂を横手に、礼拝堂に入る前の小部屋の左右にある扉の右側を通って更に奥へと進んでいく。その最中、カイトがライフへと問い掛けた。


「随分と慕われているのですね」

「あはは……私の功績ではありませんよ。先代の父が素晴らしい方でしたので……私は所詮、その七光りです」

「それだけではないかと。皆さん、司教の名をお呼びになり、祈りを捧げておりました。貴方自身の功徳があればこそ、皆も敬われているのだと思います」

「そうであれば、有り難いことです」


 どうやらライフはかなり慕われている様子で、礼拝堂の前で彼を見るとありがたそうに祈りを捧げる巡礼者の姿があった。そんな巡礼者達に対して彼は笑って感謝を述べる。

 そうして更にしばらく歩くと、次第に巡礼者より教会で働く修道士や騎士達が増えていく。基本的にここも教会には違いがない。なので今でも普通に修道士達が暮らしているそうだ。そこでもやはりライフは実質的には枢機卿として敬われている様子だった。


「こちらが謁見の間となっております。と、言いましても少々、教皇猊下にお時間が必要でして。謁見にはまだしばらく時間がありますので、この横の部屋でお待ち下さい」


 つまりは身だしなみを整えておけ、という事か。カイトはライフの言葉の意味をしっかりと理解する。というわけで通された部屋に一同は入ると、そこで一旦身だしなみを整える事にする。というわけで入った所で、瞬が口を開いた。


「えらく柔和な方だったな」

「曲がりなりにも司教というわけなんだろう。以前の大陸間会議の時もレオンハルト皇帝陛下に申し入れをしたのが、彼だったと聞く。若いアユル卿に対して彼は実質的な統率者というわけだったらしいが……独断で皇国に申し入れをしたり、と現実主義者なのかもしれん」

「穏健派、という事か?」

「さぁ? オレにはなんとも言えん。なにせ今会ったばかりだからな」


 瞬の問い掛けに、カイトは首を振る。当然だが、この部屋も見張られている。それはいくら宗教国家と言えど国家。これから国家元首が会おうという客を完全に信用するわけにはいかないのだ。

 なのでカイトもまたマクダウェル公カイトとして知り得る情報は知らない体で話すしかなかった。と、そうして少しの間身だしなみを整えていると、再びライフがやって来た。


「おまたせ致しました。教皇猊下のご用意が整いましたので、隣室へとご案内致します」

「わかりました」


 ライフの言葉に、カイトは全員の顔を一通り見回して、同意を得て立ち上がる。そうして、一同は教皇ユナルと会うべく謁見の間へと向かうのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1781話『ルクセリオン教国』

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