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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1678話 ルクセリオン教国 ――入国――

 ルクセリオン教国行きに向けて数々の手配を行っていたカイト。そんな彼はミニエーラ公国で保護した行商人ライサをギルドに引き入れると、その後も数々の手配を行っていた。そんなわけで教国行きやその後の活動の為に忙しなく動いていた彼であるが、それも教国行きの前日になると終わりだった。


「良し。こんな所か……まぁ、様式そのものは整えていたし……これで大丈夫か」


 一通りの書類の手配や遠征中に残るギルドメンバー達の活動内容の報告方法等をしたためた書類を作り終え、カイトが一つ頷いた。今回は一応形式上は教国から招かれた形であるが、同時に公的にはギルドとしての大規模な遠征となる。なので報告書の類はカイトが基本は作る形となるらしかった。


「さて……どうしたものかな」

「何が?」


 カイトの呟きにソラが首を傾げる。どうしたものか、と唐突に言われても何がなんだかさっぱりわからないのは当然だろう。


「色々だ。マルス帝国の中央研究所……七百年前にあった地獄の一つ。ホタルの生まれた場所……色々と厄介な事が多い」


 そして、ユスティーツィアとユスティエルの姉妹が研究者として勤めていた場所。カイトは最も厄介な内容を思い出す。そんな彼に、ソラが問い掛けた。


「やばい所なのか?」

「まさか。教国の公的な研究機関も入っている研究所だ。施設こそ今では半ば放棄されている様な形だが、未だに現役で動いているからな」


 先にカイト自身が言及していたが、このマルス帝国の中央研究所は一度は戦乱に焼かれたものの、教国が皇国との関係を断ち切った後に半分程度は普及している。それ以降は二百年に渡って補修工事等を行われて今でも現役だった。


「ほへー……すごい所なんだな」

「そりゃな……だが、そこで行われていた研究の半分程度は酸鼻を極めるものだったという。人道的な側面から、封印されている研究も多い」

「確かに、ヤバそうだな」

「やばいだろうな」


 ソラの言葉にカイトも笑いながら同意する。が、その笑みはどこか、神妙な面持ちだった。


「そういや、お前……行ったことあるのか?」

「ん? あぁ、中央研究所か。前に言った事なかったか?」

「俺にとっちゃ一年前の細々した話なんて覚えてれるかよ」

「おい……中に入った事はない。入れた事もな」


 ソラの返答に呆れながら、カイトははっきりと告げる。それに、ソラが疑問を呈した。


「ティナちゃん居ただろ。なんで調査しなかったんだ? 確かお前と教国揉めたのってお前がこっちに赴任してからの話だろ? 戦争中だったら、普通に協力求められたんじゃないのか?」

「それか……色々とあって入ってる時間が無かった、ってのが一番大きい。忘れがちかもしれんが、三百年前当時は飛空艇無いぞ?」

「いや、お前持ってただろ」

「あれが出来たのは後だ、後。こっちが反攻に転じてから」

「あ、なるほど……時間無いのか」


 やはり一年のブロンザイトの下での修行はソラの思考速度を加速させたらしい。更にはブロンザイトからカイトの戦争時代の功績や好んだ作戦等を聞いたからだろう。カイトがなぜ時間が無かった、と言ったのかわかったようだ。


「お前、確か電撃戦とか奇襲とか得意なんだっけ。納得っちゃ納得だけど」

「ブロンザイト殿から聞いたか。ああ、そういうわけでな。研究所に行ってる暇あったら、対策取られる前に敵を削る方を優先した」

「それでね」


 考えてみれば納得出来たようだ。ソラもそれで納得していた。


「で、今回は折角なのでティナちゃんが、か」

「そういうわけ。ま、あいつにしてもホタルの姉妹機に関する情報が手に入ればな、って思ってるらしい」

「そういや、まだ数機残ってるんだっけ」

「ああ……これについてはかなり厄介でな」


 ホタルについては、姉妹機にして完成機となるアクアとスカーレットの二機が現在、イクスフォスの護衛として異世界を渡り歩いている。

 これをティナは知らないが、これ以外にも数機現存している可能性が高いと言われており、ティナとしてもその行方が気になっていたらしい。教国に隠れて調査するか、と思っているらしかった。


「見付かったら、どうするんだ?」

「さぁ……自意識そのものはホタルぐらいなものだろうが、ベースの体躯そのものは非常に良い出来だろう、というのがあいつの言葉でな。取扱は結構面倒な事になるだろうな」

「まぁ、あれだけの性能だしなー……」


 当然だが、ソラもホタルの性能については知っている。自身を遥かに上回る性能。そのホタルの身体となるゴーレムはティナでさえ一つの芸術作品と言い切る領域だ。単なるゴーレムとしても途轍もない性能を有している。軍事品として、取扱は国家が関与してくるのだろう。


「まぁ、とりあえず。こっちに居る間はお前に任せる。そこらはオレが考える事だからな」

「だな……こっちはま、お師匠さんに教えられた事の実践練習でもやってみる。色々学んだしな」

「ああ……ま、頑張れや。戦闘員として瑞樹と魅衣、翔、凛ちゃんの四人は残していく。それに由利も居れば十分だろう」


 カイトは笑うソラに対して、一応の激励を残しておく。なお、この四人が残留となった理由は瑞樹は言うまでもなくレイアとの関係、魅衣は由利の補佐、翔は都市部かつ潜入工作は不要という判断。凛は公私共に相棒のアル――というか軍所属の全員――が残留の為だ。

 なお、これに加えてシャルロットとフロドとソレイユの兄妹も残留で、万が一に控えて貰っている。シャルロットはティナと同じく因子を抑えて入国を考えたが、万が一の場合を考えた時、カイトを呼び寄せられる彼女が残留した方が良いと判断されたのである。ソレイユ達はそもそも他ギルドの有名人で、偽れなかった。


「あいよ。ま、男の俺がここで書類仕事してるだけ、ってのもなんか妙な気もすっけどな」

「この世界じゃ男だ女だと言ってりゃ死ぬだけだ。休む時は休む」

「わーってる」


 カイトはカイトでやる事が多い、というのはソラも分かっている。というわけで、二人は適度に話を終わらせると、それからしばらくの間書類仕事に精を出し、最後の一日を終えるのだった。




 最後の書類仕事から、一日。カイトは冒険部の遠征隊を率いて、飛空艇に乗り込んでいた。


「さて……ルーファウス。道案内は任せる」

「ああ」


 操縦席に腰掛けたカイトの申し出に、コパイロットの席に腰掛けたルーファウスが頷いた。今回、形としてはギルドの遠征だ。なので基本的に飛空艇の運用はギルドで行う事になっていた。

 なお、ルーファウスも一応小型艇は操縦出来るらしいのだが、今回の様に大人数を乗せる大型の飛空艇は操縦出来ないらしい。道案内というより、どちらかというと国境を越えた後に出迎えるヴァイスリッター家の艦隊との間の仲介人という所だろう。


「そういえば……カイト殿。この飛空艇だとどれぐらい掛かるんだ?」

「ん? ああ、日数か。一応、一日で国境。そこで出入国の申請。ルードヴィッヒ殿の艦隊と合流後、教国入りだ。夜にはルードヴィッヒ殿の艦隊も到着出来る、と言っていたな」

「そうか」


 カイトの言葉に応ずるルーファウスの顔には、僅かな郷愁があった。これで長かった出向も終わりだ。そう思うと、どこか思う所があったのだろう。


「……」


 いや、今はまだ早いな。ルーファウスはそう思うと、操縦に専念する事にする。操縦は出来ないが、補佐ぐらいは出来る。というわけで、天桜学園の関係者達を乗せた飛空艇は緩やかに速度を上げて、西へと向かう事になるのだった。




 出発して、半日。夕方頃になり、飛空艇は国境の街に到着していた。そこで、カイト達は一度入国審査を受ける事となる。とはいえ、だ。これについてはそもそも何度にも渡って打ち合わせをしていた事であり、教国側も受け入れの姿勢を示している。なので特に問題もなく、終わる事となった。


「……はい。これで大丈夫です。全て申請通りですね」

「ありがとうございます」


 カイトは教国の入国審査官の差し出した書類を受け取ると、頭を下げた。数ヶ月前までの冷戦の最中であれば、冒険者であっても教国への入国には指紋の提出等が求められた。

 が、和平が結ばれた事と数ヶ月の間で目立った――起きてはいるが大規模で無いだけ――テロが起きていない事、今回カイト達を招いたのは教国側である為、特例として冒険部への指紋の提出は無しとされたようだ。

 なので手続きは簡素なもので、総勢で冒険者50人に学園関係者が5人――灯里ら責任者となる教師――であったが、すぐに終わる事が出来た。そうして入国許可を下ろした入国審査官の一人が、ルーファウスへと頭を下げた。


「ヴァイスリッター卿。お疲れ様です。我々はこれで戻ります」

「わかりました。後は、こちらで引き継ぎます」

「お願いします……あぁ、そうだ。審査が終わったらヴァイスリッター卿……お父君より何時もの番号で連絡を入れる様に、との言伝を預かっております」

「わかりました」


 入国審査官の伝言を受けて、ルーファウスが一つ頷いた。なお、基本的に教国では騎士と兵士の二種類しか軍人はいない。なので通例として騎士は卿を付けて呼び、騎士でない兵士は相手が目上や格上の場合は殿等の敬称を付けて呼ぶらしかった。

 とまぁ、それはさておき。言伝をルーファウスに告げた入国審査官が他の入国審査官と共に去っていった後、ルーファウスは通信機を起動する。


「団長。ルーファウスです」

『ルーか。久方ぶり……というほどではないか。こちらは後三十分もすれば到着する』

「……わかりました。一度カイト殿に代わります」


 ルーファウスはカイトの頷きを見て、父の言葉に一つ頷いて通信機の接続をカイトの側へと変更する。それを受け、カイトはマイクに向かって口を開いた。


「ルードヴィッヒ殿。お久しぶりです」

『おぉ、君か。この間ぶりだな』

「はい……ギュンター殿はどうですか? ソラが気にしておりましたので……」

『ああ。今は彼以外になんとか帰還出来た者達と共に、教国で療養しているよ。幸い、怪我はなんとかなる程度でね。今は失った体力を取り戻すべく、リハビリをしている所さ』


 カイトの問い掛けに、ルードヴィッヒは先のミニエーラ公国での一件で救い出した者達の事を言及する。まぁ、ここらはとりあえずの社交辞令という所だろう。そうして程々に社交辞令を交わした後、ルードヴィッヒが切り出した。


『さて……一応、君もおおよそのこれからの日程は聞いているだろうが、確認だけはしておこう。この後、飛空艇は進行方向をリンクさせ、基本的な操縦は我々が行うが……問題はないかね?』

「はい」


 ここらはルードヴィッヒも述べていた事だが、予め取り決めを行っていた事だ。というわけで、カイトは逐一話を進めていく。そうしてそんな事をしていると、あっという間に三十分が経過した。


『あぁ、今報告が入って、街が見えてきたようだ。そろそろリンク可能距離に入る。そちらの支度を頼む』

「わかりました」

『ああ……まぁ、後はゆっくり休んで、明日の猊下との謁見に備えてくれ。猊下も君と会える事を楽しみにしていたよ』

「ありがとうございます……リンクシステムを起動しました。これで、そちらにリンク出来ます」

『ああ……確認した』


 カイトの報告を受けたルードヴィッヒは部下に一つ指示を送ると、それを受けて部下が飛空艇の操縦をリンクさせる機能を始動。それを受けて、飛空艇はルードヴィッヒ率いるヴァイスリッター艦隊が動かせる様になる。


「……問題なし。では、後はお預け致します」

『ああ。後は任せたまえ……ルー。数日とはいえ、幾つか報告もあるだろう。お前は残ってそのまま報告を』

「はい」


 カイトの報告を受けたルードヴィッヒはカイトを下がらせ、更に引き続きルーファウスに報告を指示する。そうして、カイトは後のことはルーファウスと教国の艦隊にまかせて、明日に備えて休む事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1679話『ルクセリオン教国』

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