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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1664話 受け継がれし遺志 ――賢者の墓――

 ミニエーラ公国における脱出戦より二日。その日の朝一番にやって来たミニエーラ公国の艦隊にコンラートらミニエーラ公国の出身者や教国と皇国以外の出身者を引き渡すと、ソラはようやくミニエーラ公国を後にしていた。そうして教国に入り一直線に入り、丁度教国の総本山となるルクセリオなる街の側で、艦隊は二つに別れることなった。


『では、エルロード卿。また会える時を楽しみにしている』

「ああ。こちらもまた会える日を楽しみにしよう」


 ルードヴィッヒの別れの言葉に、エルロードもまた頷いた。そうして別れの挨拶がかわされた後、ルードヴィッヒがカイトへと声を掛ける。


『では、カイトくん。また会う日を楽しみにしよう。ぜひ、我が家を訪ねてくれたまえ』

「ありがとうございます。では、話はその時にでも」

『そうだな……ルー。今回はアリスとは会えなかったが……二人とも、カイトくんには迷惑は掛けない様にな。まぁ、また数週間後には会う事になるが……』

「わかっている、父さん」

『うむ……では、私はこれから教皇猊下にヴィクター卿の生存を報告せねばならん。またな』


 カイトとルーファウスの二人に別れの挨拶を送ったルードヴィッヒは、そのまま一つ頷いて通信を途絶させる。そしてそれに合わせて、教国の艦隊が北へと向かっていった。


「……」


 北へ向かう教国のヴァイスリッター艦隊を、カイトは僅かに険しい顔で見守った。


(この先、何が待ち受けているか……)


 ここから北には、教皇ユナルが居るという。何を考えているかわからない、最も注意している相手。今回の行動そのものに裏はないだろう。ブロンザイトも手紙では単に人道的な側面からの行動だろうし、特に気にする必要もないだろう、と述べていた。

 確かにカイトからしても、不法に捕らえられた自国民の返還を求めるのは国として当然だとは思っている。そして内容からヴァイスリッター家という腹心中の腹心に命令が出ても不思議はない。が、だからと簡単に油断出来る相手というわけでは、なかった。


「カイト殿。どうした?」

「ん? 何がだ?」

「いや、険しい顔をしていた様に見えたのだが……」

「眼帯でそう見えただけだろ」


 ルーファウスの問い掛けに、カイトが一つ笑う。丁度彼が立っていたのはカイトの右側。そして彼の右目には今、眼帯がある。どうしても僅かに引っ張られる様な感じが拭えないのは事実だ。故に、そう見えただけと嘯いていた。


「そういえば、そうだったか。失礼した」

「いや、良いさ……さ、戻ろう。ここに居ても邪魔なだけだしな」

「ああ」


 カイトの促しに、ルーファウスもまた頷いた。そうして、二人は共に後部にある冒険部の為の一角へと戻る事にするのだった。




 カイト達がルードヴィッヒ率いる艦隊と別れ、更に一日。朝一番に、艦隊は皇国のとある貴族の地にたどり着いていた。そこに、ブロンザイトの墓は用意されていた。そうして艦隊を一時的に停泊させて貰い、カイトは冒険部の代表兼公爵家代表――ユリィが一応の名代として来ているが――として地上に降り立っていた。


「これからどこに向かうんだ?」

「ここから北に、とある丘があってな。そこに、ブロンザイト殿の墓が用意されている」


 飛空艇を降りてすぐに用意されていた馬車に乗り込んだカイトは、最後の弟子として同行する事になっていたソラの問い掛けにそう答える。一同が降り立ったのは、長閑な草原地帯の一角にある交易の中心地だった。そこから馬車で十数分の所が、目的地だった。そうして、馬車に揺られること少し。人だかりが一同の目に見えてきた。


「あれは……」

「ブロンザイト殿のご兄弟や、彼の弟子達だ。話を聞いて、駆けつけてくださった。ソラ……身だしなみは、きちんと出来てるか?」

「……ああ。ナナミにきちんと整えてもらってるよ。髪は流石に切れてないけど……」

「それは仕方がない……うん。まぁ、喪服としては正しいし、大丈夫だな」


 カイトは後少しで到着する事を確認して、ソラに一つ頷いた、無精髭等は剃っているが、長く伸びた髪だけはどうにもならなかった。一応強制労働施設でもハサミで切ってはいたが、それも少し前の事で今は仕方がないので軽く後ろで紐で束ねている感じだった。こればかりは事情が事情だ。仕方がない。そうして、そんな会話からすぐ。馬車がゆっくりと停止した。


「カイト殿」

「アコヤ殿。カルサイトさん」

「この度は長兄の為、骨を折って頂きまことに、感謝します」

「……」


 馬車を降りたカイトを出迎えたアコヤの言葉に合わせて、カルサもまた頭を下げる。今回、ブロンザイトの葬儀の喪主はアコヤが行う事になっていた。

 本来立場としてはトリンが行っても良いのであるが、珠族の流儀に則った葬儀の仕方をトリンは知らない。なのでブロンザイトが予め万が一の場合には、と弟にして族長であるアコヤに喪主を頼んでおり、これを彼への最後の授業としたのである。


「いえ……こちらこそ、間に合わず申し訳ありません」

「いえ……話はカルサイトより伺いました。変わらず、貴方らしい詭弁だったと」


 頭を下げたカイトに、アコアが一つ笑う。ここらは、やはりカイトだ。ブロンザイトの策を認めるにあたり、幾つかの条件を出した。その一つが、期限を区切っていた事らしい。

 なので彼はその期限と同時にプランBにて介入出来る様にしていたのであるが、その期限ぴったりに雪が降ったのだ。どうしようもなかった。


「それで、トリンくんは?」

「……トリン」

「はい」


 カイトの促しを受けて、馬車の中からトリンが現れる。その手には、骨壷が大切そうに抱えられていた。


「ありがとう……ひとまず、それはこちらで預かろう。この様な形でも、最後の別れを交わしたい者も多い」

「はい……」

「君も、準備が整ったら来てくれ。兄さんの頼みだ。君に、我々のやり方を全部教えよう」

「……ありがとうございます。じゃあ、カイトさん。僕は一度、これで」

「ああ。オレは一般参加の席から見ている。ソラも弟子の席に座る事になるから……補佐はしてやってくれ」


 トリンの言葉に頷いたカイトは、ひとまずはトリンと別れソラと共に葬儀像へと向かう事にする。まぁ、葬儀場といっても、ここは大草原のど真ん中。一応、ここは安全地帯らしく周辺の住人達が来る事もあるので柵や道は整えられているが、今ここにあるのはテントや来客用の椅子だけだ。そうして、二人は一度参列者の為に用意されていた一角にて待機する事にする。


「……」

「……」


 流石に葬儀で無駄話をするつもりは、二人にはない。というわけで、二人は暫く黙る事になる。と、そんな所に、一人の壮年の男性が現れた。


「失礼……少々、よろしいですか?」

「これは……ツェーザル殿。久方ぶりです」

「ん? どこかで……会ったかね?」


 立ち上がって頭を下げたカイトに、ツェーザルと呼ばれた壮年の男性が首を傾げる。これに、カイトが笑った。


「あぁ、この姿ではわかりませんか……オレです。カイト……カイト・マクダウェルです。今は少々、この姿で動いておりまして……」

「カイト殿? まさか、ご帰還されていたので?」

「ええ……」


 目を見開いたツェーザルに、カイトは朗らかに笑って事情を語る。そうしてそれを聞いて、彼が一つ頷いた。


「なるほど……納得です。それで、お師匠様が……にしても、貴方こそよく私が誰かわかりましたね。三百年で随分と私も変わったと思うのですが……」

「あはは。ブロンザイト殿の弟子に加護を持っている者は多い。でも、泣きぼくろの様に頬に風の加護の紋章のあるブロンザイト殿の弟子なぞ、私は貴方しか知りませんからね」

「なるほど。確かに、それはそうだ」


 懐かしげに笑ったツェザールに、カイトもまた懐かしげに笑う。そうして、一人置いてきぼりを食らっていたソラに、カイトが紹介した。


「ソラ。彼はツェザール殿。お前やトリンの兄弟子に当たる方だ。今は著名な考古学者でもあらせられる」

「あ、はじめまして。ソラ。天城です」

「ああ。私はツェザール・ノースブルック。君の三百年ほど昔に、お師匠様に弟子入りしていてね。と言っても、トリンくんの様に軍略ではなくて、考古学者としてのお師匠様に弟子入りしていたんだ」


 ソラから差し出された手を握りながら、ツェザールが笑う。どうやら偶然にもカイトが活躍していた時代のブロンザイトの弟子がこちらに来ていたそうだ。そんな彼に、カイトが問いかける。


「それで、どうしました? その様子だと私に用事というわけではなかったのでしょうが……」

「ああ、そうだった……ソラくんに用事でして……ソラくん。向こうでトリンくん以外の弟子が集まっていてね。トリンくんが来た時、偶然もう一人最後の弟子が居ると聞いてね、是非とも、話を聞かせて欲しい」

「え、あ、はい」


 一瞬だけためらったソラだが、覚悟を決めて頷いた。そんな彼に、ツェーザルが笑った。


「ああ、安心してくれ。誰もが、お師匠様の弟子だ。守れなかったと悔いているのなら、その心配は無用さ。お師匠様の事だ。自分が死ぬ事も考慮に入れて動いてらっしゃっただろうからね。でもだから、聞きたいんだ。お師匠様の最後の策が、ね」

「あ……はい」


 見透かされていた。ソラは自分の内心を言い当てたツェザールに、僅かに恥ずかしげに頷いた。そうして、ソラは他の弟子達の所へと歩いていった。


「さて……」


 これで、ひとまずブロンザイト殿に関する幾つかの出来事は終わりか。カイトは一人になり、今までの事を思い直す。


「……」


 どうするかな。カイトはブロンザイトより明かされていた、トリンさえ知らない最後の秘密について考える。そのうち一つについては、今頃彼も聞いている事だろうとは思う。が、もう一つの秘密を、彼は聞いていた。と、そんな事を考えている所に、カルサがやって来た。


「カイト」

「カルサさん」

「こっちのその後、とりあえず報告しておかねぇとな」


 先程までソラが腰掛けていた椅子に、カルサが腰掛ける。そうして、彼が語り始めた。


「……とりあえず、お前の読み通り飛空艇が通り掛かった。んで、落としといた……落とし前も、付けといた」

「そうですか……後は、ミニエーラ公国が考える事ですか」


 カルサからの報告に、カイトが一つため息を吐いた。あの脱出戦の際、カルサはカイトからの要請でまた別の所へ向かっていた。その向かった先とは、アビエルの乗った飛空艇の所だ。

 彼はカイトと別れて別の所からアビエルの乗った飛空艇の出立を見守ると、そのまま一時間ほど追尾してソラ達の暴動の発生と共に撃墜したのである。アビエルの側近達がアビエルに連絡が取れなかったのは、そういう理由からだった。


「ああ……」

「そういえば、カルサさん。貴方はこれからどうするんですか?」

「ん? そうだなぁ……とりあえず暫くは自由にやるぜ。兄貴に最後の最後で振り回されちまったからな。暫くは、自由に羽でも伸ばすさ」

「あはは……暫くは、という事はまた何かご予定で?」


 暫くは、とはっきりと言ったカルサに、カイトが問い掛ける。それに、カルサが一つ頷いた。


「ああ……この間、ユニオンの全体会合の通知、来ただろ?」

「ええ……あれに参加するつもりで?」

「ああ……つい今朝方、今回の一件でバルフレアの小僧が話聞きたいって連絡が来てな。まぁ、今の所予定も無いし、行ってやるかってな」

「なるほど……」


 どうやら、ようやくユニオンの八大ギルドの頂点達の予定の調整が出来たらしい。ソラが不在にした一ヶ月の間に各地のギルドや冒険者達に向けて、ユニオンの全体会合が開かれるという通達が飛んでいた。そしてその後すぐに、暗黒大陸へ向けて出立だ。かなり忙しくなる事が予想された。


「お前さんはどうせ参加だろ?」

「ええ……とりあえず、そちらに参加しないといけないので……」

「その前はどうするんだ?」

「とりあえずこれからすぐに、教国入りですね。今回の一件含め、教皇猊下に話をしないといけないので……」

「そうかぁ……そっちはすまねぇな、面倒事丸投げで」

「いえ、構いませんよ」


 カルサの感謝に対して、カイトは一つ首を振った。これぐらいは覚悟の上だ。そんな彼に、カルサイトが問いかける。


「っと、そういや少し思ったんだけどよ」

「どうしました?」

「今のソラの小僧の腕なら、『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』に出て良い所行けるんじゃねぇか?」

「あはは……行けるでしょうね。でもまぁ……どうでしょう。とりあえず、オレもシード権持ってるんで行きますが……」

「シード? お前さん……出たのか?」

「取ったんですよ」


 目を丸くしたカルサに、カイトは以前の地方大会での事を告げる。あそこで、彼は『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』のシード権を得ていた。少し前に使者が来て、『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』はユニオンの全体会合の少し前に開催される事が決定していた。

 というわけで、あちらに参加して一度中津国で羽を休め、再びアニエス大陸に向かうか、というのがカイト達の大まかな予定だった。


「なるほどな……確かに、今の時期なら仕官希望の戦士は多く見付かりそうか。相変わらず抜け目のねぇねぇちゃんだ」

「あはは……まぁ、今の所決まってるのはそんな所ですかね」

「そうかぁ……ま、俺はそっちにゃ興味ねぇからな。次はまたアニエスか」

「そうですね」

「っと、アコヤの奴が呼んでるな。じゃあな」

「はい」


 アコヤの呼び出しを受けて立ち上がったカルサに、カイトも一つ頷いて見送った。そうして、カイトもその後も少しの間自分の事を知る者との間で会話を行い、ブロンザイトの葬儀に参加するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1665話『受け継がれし遺志』

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