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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1661話 受け継がれし遺志 ――終幕――

 ソラ達が異空間にある強制労働施設を脱出し、再度強制労働施設に乗り込んでいた一方、その頃。ミニエーラ公国公都ミニエーラの王城は騒然となっていた。


「何が起こっている!」


 騒然となった会議室に、夜分に叩き起こされて不機嫌そうなミニエーラ公王が現れた。が、そんな彼も、報告を聞いて思わず目を見開いた。


「何!? 採掘場で暴動だと!?……いや、それはそうであろう」


 やはり寝起きという事で取り乱したミニエーラ公王であったが、そもそも今日の夜A棟にて暴動が起きるだろうという報告は受けていた。なので少し目を瞬かせて、彼はため息を吐いた。が、そんな彼に軍高官の一人が、告げた。


「いえ……それが、その……暴動はB棟とC棟でも起きている模様。採掘場から、軍へと増援要請が」

「何!? なぜその様な事が起きた! 細心の注意を払う様にしておったのではなかったのか!?」

「それが、その……どういうわけか、囚人の一人が武器を持っていた模様」

「っ! なぜそんな事に気づかなかった!」

「それが……件の囚人はどうやら、ブロンザイトの弟子だった模様。かの者らを中心として、暴動も……」


 声を荒げたミニエーラ公王に、更に詳しく報告がなされていく。そこに、更に報告が入ってきた。


「報告! 囚人達はどうやら、枷を外している模様! 中の兵力だけでは鎮圧は不可! 早急な増援を求む、との事!」

「「「なぁっ……」」」


 逐一寄せられていた報告に声を荒げていたミニエーラ公王も、報告をしていた軍の高官や文官達も揃って絶句する。自分達が想定していない何かが、あの採掘場で起きている。それを理解するには、十分だった。


「なぜだ……なぜこの様な事が起きる!」

「陛下! 今はその様な場合ではございません!」

「即座に反乱を鎮圧しませんと、周辺諸国……特に教国にこの事が漏れれば事です!」

「今すぐ、近衛兵に出立のご下知を!」


 焦りや怒りから思わず声を荒げたミニエーラ公王に、軍の高官達は即座に対処に入る様に進言する。まだ、暴動は異空間の中だ。ギリギリ対処が出来なくも無かった。


「っ! そうだな! 今すぐ、近衛兵団の第一第二艦隊に出陣を命ぜよ! 是が非でも反乱を鎮圧せよ!

「「「はっ!」」」


 ミニエーラ公王より下された下知に、軍の高官達が頭を下て即座に行動に入る。事は一刻を争うのだ。彼らも必死で動いていた。そしてそもそもこれぐらいは言われる前に準備は終わらせており、ソラ達がB棟とC棟を確保した頃には、近衛兵の出立の準備が整う事となった。


「陛下! 近衛兵団第一、第二艦隊共に出発の用意が整いました! 順次、出発しております!」

「良し! 合わせて、国境沿いの国境警備隊に厳重注意の報を出せ! 理由はお主らに任せる!」

「はっ!」


 ミニエーラ公王の続いた指示に、軍の高官が更に指示を出し始める。ここら、やはりこの強制労働施設が非合法である事が災いした。この様な場合なら人海戦術で一気になんとかしたい所であるが、非合法であるが故に指揮出来る人員も限られた。どうしても、動きは緩慢にならざるを得なかった。

 更には、一応軍の高速艇を先行させるとはいえ、公都ミニエーラから強制労働施設に向かわねばならないのだ。到底間に合うものではなく、国境の警備も合わせて行わせる必要があった。そうして、暫く、エーラ公王を筆頭にして暴動の鎮圧に尽力していたわけであるが、そこに一つの報告が入ってきた。


「ほ、報告! 第一、第二艦隊より急報です!」

「次はなんだ!?」

「そ、それが……先行していた両艦隊、謎の艦隊にと交戦状態に陥った、と」

「謎の艦隊!? 謎の艦隊とはなんだ!」


 顔を青ざめた報告者の報告に、ミニエーラ公王が声を荒げる。


「不明! 半数ほどは教国の物と思しき形式と紋様を側面に確認! しかし、残る半数はデータに無い飛空艇との事です!」

「「「……」」」


 一体、今この国で何が起きているのか。全員が不可思議な事態に、今度こそ言葉を失う。と、そこに。更に報告が入ってくる事となる。


「ほ、報告!」

「次はなんだ!」

「第一、第二艦隊よりの続報です!」

「「「……」」」


 次は何だ。続けて入ってきた報告に、全員が一斉に固唾を呑む。そうして告げられたのは、もはや誰も想定していない出来事だった。


「……敵の中に、アルフォンス・ヴァイスリッター、ルーファウス・ヴァイスリッターの存在を確認したとの事です」

「なん……だと……?」


 アルとルーファウス。この二人が、艦隊に居る。それが意味する事は、少ししか考えられない。と、そんな所に。外で揉め事の声が響いてきた。


『大臣! 今ここでは陛下が会議中です!』

『如何に大臣と言えど、今は通せません!』

『黙れ! 急ぎ、陛下に報せねばならない要件だ! 押し通る!』

「なんだ?」

「さぁ……」


 どうやら、何かのっぴきならない事態が起きているらしい。声の物々しさから、その場の全員がそれを理解する。しかも片方は何らかの大臣だという。扉に隔てられていて誰かはわからないが、大臣クラスの人物が会議中の会議室に乗り込むというのだ。よほどだ、とは全員に理解出来た。それ故、ミニエーラ公王は頭を抱えながらも、逆に下手にこの案件が露呈する危険性を鑑みて通す様に指示を出した。


「通せ」

「はっ」


 ミニエーラ公王が文官の一人に指示を出すと、彼が一つ頷いて外へと合図を出して、外で揉めている者を通す様に指示を出した。そうして入ってきたのは、かなり身なりの良い老年の男性だ。


「マテューか。一体、この様な夜更けにどうした?」

「はぁ……はぁ……へ、陛下……夜分遅く、しかも会議中にお騒がせして申し訳ありません」


 マテュー。そう呼ばれた大臣はミニエーラ公王の前に進み出るなり、呼吸を整えつつ跪いて場を騒がせた事を謝罪する。それに、ミニエーラ公王は内心の焦りや苛立ちを隠しながら、先を進めさせる。


「良い……大臣ほどの人物が慌てて駆け込むほどだ。よほどであろう」

「は……エンテシア皇国とルクセリオン教国から、陛下に書状が。ほぼ同時です」

「「「……」」」


 報告された言葉に、その場の全員が色を失う。このタイミングで、この二国からの書状。それが意味する物は、誰しもが最悪中の最悪であると思えた。そしてミニエーラ公国の国力から言って、この二国を真正面から敵に回す事は出来ない。故に、無視は出来なかった。


「……内容は」

「……エンテシア皇国より、非合法に輝鉄鉱(きてっこう)の採掘場を運営している事を知った。また、そこには我が国で現在保護している日本人が捕らえられているとの報告も入っている、との旨。ルクセリオン教国よりは当該の施設に貴国が死亡したと報告した騎士が捕らえられている可能性が高いと糾弾する旨が……正式な書面にて、届いております。言い掛かり、とは思うのですが……詳しく見た所、場所が一致しており両国が足並みを揃えておりました故、急ぎご報告に」

「……まさか……」


 誰もが、ここでこの策を誰が打ったかを理解し、顔を青ざめた。こんな報告が出来る人物は、現状一人しかいない。


「あの、少年が……?」

「まさか……大国二つを動かしたというのか……」

「へ、陛下……? まさか……事実だと言うのですか!? なんという事をなさったのですか!?」


 どうやらマテューという大臣は非合法の採掘場の存在を知らなかったらしい。まぁ、大臣だから誰から誰まで知っているわけもない。なのでこの案件を知っているのはミニエーラ公王を筆頭に宰相や軍の大将らとなり、外務大臣である彼は知らなかったようだ。

 知らなければ、諸外国に嘘を言う必要もないという判断であった。と、そんなわけで声を荒げた彼に対して、ミニエーラ公王が威圧的に告げた。


「……今は、それは良い。他には何が書いてある」

「っ……は、はい……本件の調査に、マクダウェル家とヴァイスリッター家……教国側のヴァイスリッター家による調査の艦隊を送りたい。受け入れられたし、と」

「「「……」」」


 つまり、今第一艦隊と第二艦隊が戦っている艦隊とは。先のアルとルーファウスの報告を合わせて考えれば、もう片方の艦隊がどこかというのは理解できた。と、そうして誰もが何も言えない所に、更に文官が駆け込んできた。


「へ、陛下……?」


 急いで報せねば。空いた扉に駆け込もうとした文官であるが、その場の誰もが色を失っているのを見て首を傾げる。が、存在そのものには気付いていた。故に、視線だけでミニエーラ公王は来る様に指示を出した。


「……なんだ」

「は……それが、その……第一、第二艦隊より連絡。交戦中の艦隊より、通信。エンテシア皇国及びルクセリオン教国の艦隊であり、先に連絡を入れた施設より脱出したという同胞より救援の報が入った。すでに当人である確証も得られている……大人しくこちらに返すのなら、良し。返さぬのなら、このまま両艦隊を殲滅後、該当の施設を我々にて制圧させて貰う……との事です」

「っ……」


 ぎりっ。ミニエーラ公王の顔が盛大に歪む。どう考えても、すでに外交問題だ。しかもあちらには非合法に捕らえられた自国の民の救助という大義名分まである。戦争をした所で、非難はされない。そうして、暫くの後。忸怩たる思いで、ミニエーラ公王は判断を下した。


「第一、第二艦隊……両艦隊にそれ以上の戦闘は避け、公都に帰還する様に命ぜよ。両国と戦って勝てる道理はない」

「で、ですが陛下!」

「くどい! 片方はあのマクダウェル家! 単独で国を滅ぼせる者達だ! もしあの艦隊の中に化物共が居たら、なんとする!」

「「「っ」」」


 軍高官の制止に声を荒げたミニエーラ公王の言葉に、誰もが言葉を失った。化物共。それは確実に、<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>の事だろう。彼らは国家を敵に回す事を少しも気にしない。

 マクダウェル家が止めようが、最悪は公都に攻め入られる可能性もあるのだ。そして、もし彼らに攻め込まれれば負けるぐらいは彼でなくても理解出来た。敵の兵力が掴めない状況で敵に回して良いとは、思えなかった。と、そんな所に。女の声が響いてきた。


「ほー……それは良かった。ここを血の海にせんで良いんでのう」

「あっははは。流石にそれは駄目かなー」

「誰だ!」


 響いた声に、軍高官が誰何する。これに、声の主達が姿を現した。そうして現れたのは、言うまでもない。ティナとユリィである。


「お久しぶりです、ミニエーラ公王」

「ユリシア・フェリシア……」


 誰かが、ユリィの名を告げる。そう。実のところ、彼女らは戦闘の指揮をトリンに預け、迫り来る援軍をカイトの艦隊と教国の艦隊にて食い止めさせると、転移術を行使して一気に公都にやって来ていたのだ。

 もし見苦しく足掻こうとした時、チェックメイトを告げてやる為である。ティナはその護衛、という所だろう。単騎で敵の中枢に乗り込むのだ。彼女ぐらいしか護衛が出来る者は居なかった。


「我が親愛なる友と同じ地より来たりし来訪者より、お話は伺いました」

「まさか、貴殿が動くか」

「ええ……我が友であったとて、仲間を救おうとする者の為に動くでしょう。であれば、私もそうしたというまでです」

「そのために、一国を敵に回す事さえ厭わぬか」

「ええ……それが、勇者カイト。我が友です」


 ミニエーラ公王の僅かに畏怖さえ滲んだ言葉に、ユリィがはっきりと頷いた。一国を敵に回す事さえ、一切の躊躇をしない男。それが、カイトだ。その友であると公言する彼女にとって、カイトと同じ行動をするのはエンテシア皇国の民からしてみれば、あまりに当然の話であった。

 そうして暫くの間、場に沈黙が舞い降りる。如何に彼らとてユリィの名は知っているし、知らないとは言えない。彼女が何者かはわからないが護衛を引き連れてここに乗り込んでいる時点で、完全に詰みを理解するのは十分だった。


「……我々の負けだ。後ほど、両国には我が国より両国へと使者を送る。どうか、艦隊を引かせて欲しい。我々が捕らえていた貴国らの者も、そちらで引き取られよ」

「……良いでしょう。では、使者をお待ちしております」


 頭を下げたミニエーラ公王に、ユリィが一つ頷いた。一国の長が頭を下げたのだ。確かに一国を相手にする事も厭わぬカイトであるが、ここが拳の下ろし所だった。そうして、ユリィとティナはミニエーラ公王より使者を出す旨の言質を取ると、再び転移術でその場より消える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1662話『受け継がれし遺志』

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