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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1658話 受け継がれし遺志 ――脱出――

 翔、瞬といった冒険部の面々の支援を受け、遂にミニエーラ公国の強制労働施設からの脱出に成功したソラ。彼は反乱を起こした者達と共に、山の中に作られていた洞窟を通って一直線に異空間を脱出する事に成功する。が、丁度その時、飛空艇が動き出した。


「飛空艇が動き出したぞー!」

「急げ! 倒れた奴は放っておけ!」

「狙い撃ちにされるぞ!」


 飛空艇が再起動を果たして慌てふためく反乱者達の声が、背後から聞こえてくる。それに、ソラは僅かに悩んだ。彼はこの場で唯一、完全武装だ。そして防御重視の戦士でもある。飛空艇の砲撃を食い止める事は可能だった。


「っ!」

「ソラ! 今は、前へ! いくら君でも、多勢に無勢! 殿は無理だよ!」

「ちっ!」


 トリンに言われ、ソラは改めて前を向く。確かに飛空艇を食い止める事は出来るかもしれない。が、こちらに向かってきているのはそれだけではなく、統率を取り戻した兵士達も一緒なのだ。

 無論、兵士達だけでも余裕かもしれないが、それでもどちらも相手取って戦うのは自殺行為と言うしかなかった。そうして、走る事少し。洞窟を守っていた兵士達を強引に蹴散らしながら進んだ反乱軍は、遂に外へとたどり着いた。


「出れた!」

「やった……やったぞ!」

「外だー!」


 わぁあああああ。洞窟の外への脱出を果たした反乱者達が、一斉に歓喜の声を上げる。が、これで終わりではない。


「おい、まだ終わってねぇぞ! 上を見ろ!」

「飛空艇!?」

「まだ来やがんのか!」


 飛空艇は再起動を果たしていたのだ。そして彼らの脱出はそのままミニエーラ公国にとって大打撃となる。追撃がここで終わるはずがなかった。そして更には。


「っ! 南西から飛空艇!?」

「ちぃ! 巡回の艦隊まで来やがったか!」


 南西から飛来する飛空艇の艦隊に気が付いて、反乱者達が苦い顔を浮かべる。これに、トリンは即座に指示を出した。


「全員、南へ!」

「全員、南だ! 南へ逃げろ!」


 トリンの指示を受け、コンラートが声を張り上げる。それを受けて、一斉に南へと逃げ出した。そうしてそれに続きながら、ソラが横のトリンへと問い掛ける。


「ここら、知ってんのか!?」

「ううん! ここがどこだかはさっぱり!?」

「おい、おいぃいいいいい!」


 まさかのトリンの返答に、ソラが思わず声を荒げる。ここに来て勘である。こう言いたくなるのも、無理はない。が、勘ではない。


「いや、合ってる! 南へ走れ!」

「へ?」

『お前が戦ってる間に、俺がカイトからの手紙をトリンに届けたんだよ!』

「あ、そういう」


 自身に並走する翔の言葉に、ソラがなるほど、と頷いた。そうして、駆け抜ける事少し。この騒動を受けて引き寄せられた魔物達と戦いながら進み続けた彼らの前に、フードを被った一人の男が立ちふさがる。いや、これは正確ではない。彼が立っていた所に、ソラ達が近寄ったというだけだ。


「誰だ!」

「邪魔だ! 悪いが、邪魔するならぶっ飛ばす!」


 まぁ、この男が敵か味方か定かではないのだ。反乱者達が声を荒げたのも、無理はない。これに、男がフードを下ろした。


「エンテシア皇国マクダウェル領冒険者ユニオン所属のギルド・冒険部ギルドマスター、カイト・天音だ。珠族が族長の兄、ブロンザイト殿の依頼により、ここに来た」


 何故そんな男がここに。フードを下ろしたカイトの言葉に、周囲の大半が困惑を得る。そんな彼であったが、ソラを見付けて手を挙げた。


「よ」

「カイト……?」

「随分と男前度が上がったな」


 本当に久しぶりの再会だ。それに、ソラは遅いと言ってやろうと思った。が、その前にカイトが言葉を告げたので、何も言えなかった。そうして、その後。ソラはカイトの指示に従って、彼の背後にある窪地を目指して進む事になるのだった。




 時は再び、今に戻る。ソラは冒険部の設営した野営地にたどり着いていた。そこで由利やナナミとの再会を果たした彼はその後、トリンからブロンザイトという宝石が嵌められたイヤリングを受け取っていた。


「お師匠さん……」


 ブロンザイトが嵌められたイヤリングを胸に、ソラは今は亡き師を偲ぶ。そうして、彼はブロンザイトが用意してくれていた物を入れる為のイヤリングを外して、師の形見を装着する。


『……ソラ』

「お師匠さん!?」


 響いた声に、ソラが思わず目を見開いた。が、それが聞こえたのは彼だけらしい。由利もナナミも困惑気味だった。


『少し早いが……早めの、卒業証書の様な物じゃ。お主はまだ未熟。最後まで見届けられぬのは無念じゃが……良き木となろう。儂の教えを生かすも殺すもお主次第……それを、忘れぬでいてくれ』

「……はい」


 ソラは受け取ったイヤリングを後生大事にする事を決め、ブロンザイトの遺言をしっかりと胸に刻み込む。そうして、浮かんでいた涙を拭って前を向く。


「……」


 どうやら、トリンもトリンでブロンザイトからの遺言があったのだろう。小さく、頷いていた。そうして二人はお互いにブロンザイトから遺言を受け取った事を理解して、頷きあう。


「トリン。ここからどうすれば良い」

「うん……と言っても、もう僕らのする事は無いよ。ここまでが、僕の役目。お爺ちゃんの策はここからはもう、カイトさん達の手に預けられたから」


 ソラの問い掛けに、トリンは首を振った。ブロンザイトの目的。それは二人の脱出と共に、あの強制労働施設を壊滅させる事だ。が、それももうカイトの介入を許した時点で、達成されている様なものだ。なればこそ、ここで二人の役目は終わりといえば、終わりだった。


「そか……なら、俺ももう自由って事だよな」

「そうだけど……どうしたの?」

「行って来る。ちょっとけじめ、付けさせてくる」


 リーダーとしての仕事を全てを終わらせたのであれば、ここから先は自分個人のけじめを付ける時。そう述べたソラは、由利とナナミの方を向いた。


「二人共……ちょっくら行って来る。こっからは俺は俺として、けじめを付けてくる」

「「……」」


 ソラの言葉に、由利とナナミは顔を見合わせた後に頷きあう。そうして、ナナミは後ろへと下がって敢えて何時も通りに振る舞った。


「うん、いってらっしゃい」

「一緒に行くわ」

「……後ろ、頼む」

「ん」


 見送るナナミと、共に行く由利。何時もの彼らの布陣だ。そうして、ソラは由利を伴ってまた戦場へと戻っていく。そんな背に、トリンがため息を吐いた。


「はぁ……そういう問題じゃないと思うんだけど……というか、通信機忘れてるよ……じゃあ、僕も行ってきます」

「あ、はい。いってらっしゃい」


 苦笑混じりに頭を下げたトリンに、ナナミが手を振った。そうして、ブロンザイトの弟子二人が再び戦場へと舞い戻るのだった。




 その一方のカイトはというと、彼がソラの帰還を理解出来ていないはずがなかった。伊達に何十ヶ月も付き合っていない。故に、彼はただ敵を食い止めるにとどめていた。そんな最前線に、ソラは――トリンは反乱軍の指揮の為に最後尾、由利は最後列からソラの支援だ――帰ってきた。


「カイト!」

「来たな! 誰がお前の標的かはわからん! が、露払いはしてやる!」

「……お前、マジでなんだよ」


 以心伝心どころかもはや何も言わないでも自身が帰ってきた理由を察したカイトに、ソラは一年ぶりに大いに呆れる事になる。彼もそこそこ賢くなったとは思っているが、まだまだカイトには及ばない様子だった。


「おいおい……お前こそ、一年ぶりで親友様が誰か忘れちゃいねぇだろうな?」

「はっ……忘れるかよ。ヒーローは遅れてやって来る、だろ?」

「意外と根に持つな。さ、作戦だったんだから仕方がないだろ」


 増援としては最後の最後に現れた形となった自身に対するソラの言葉に、カイトは思わず呆気に取られながらもそう反論しておく。

 まぁ、当然であるがカイトは見張られていたし、敢えて今回は見張りにも見える様に待機していた。異空間の内部に潜む飛空艇の艦隊が容易に動けなくする為だ。

 彼が見えている以上、何時彼の攻撃があっても不思議ではないのだ。それを理解できれば、飛空艇を動かすという結論を簡単に出せるわけがなかった。そうして自身が囮となっている間にティナが翔を先行させ警戒網を抜かせ、瞬達に情報を送り、翔はそのまま内部に潜入してソラの装備を入手した、というわけであった。


「あっはは。これぐらい言わせろよ」

「はぁ……で?」

「で、って……分かってるんだろ?」

「そりゃ、標的の概要はな。姿はわからん」


 ソラが戻ってきた理由をカイトは理解していたのだ。だが、誰を倒す為に戻ってきたかはわからない。


「……アルドって拷問官とルペルトってゲス野郎だ。どっちも顔はしっかり覚えてる」

「その二人が、直接的にブロンザイトを殺したか」

「ああ」


 異空間での最後の一週間、ソラは脱出に際してブロンザイトを誰が拷問したかと調べ上げた。その結果、アルドと共にあのいやらしい笑みを浮かべた兵士も拷問に参加していた事を知ったのである。


「お師匠さんをさんっざん痛めつけた……あの二人にだけは、俺がけじめを付けさせねぇと。アルドの奴には何度か俺も世話になったしな」

「そうか……一葉!」

「ここに」

「ホタルに命じ、ブロンザイトを拷問した男二人の情報を持ってこさせろ。中で合流する」

ご命令のままに(イエス・マイロード)


 カイトの指示を受け、一葉が消える。ホタルへと伝令に向かったのだ。そうしてその一方、カイトは更に采配を振るう。


「ティナ」

『みなまで言うな。余を誰と心得ておる』

「さっすが……ちょいと行ってくる」

『うむ。出て来る頃には、外も片付けておこう』


 カイトは上をむいて、相変わらず小鳥に紛れて飛翔するクーの姿を確認する。ティナであるが、実はまだこの場には現れていない。彼女には最後の最後のトドメを担当してもらう事になっていた。そしてそれ故、指揮も可能だった。そんな采配を行ったカイトに、ソラが問い掛ける。


「何やんだ?」

「んー? ちょーっと、公王陛下の顔面にパンチ入れよっかなーって」

「お、おまっ……あいっかーらず……」


 反乱を企てたソラであったが、流石にここまで大それた事は考えていなかった。なのである意味では何時も通りといえば何時も通りなカイトに、只々呆れるしかなかった。そうして後事を全てティナに任せた彼は、ソラへとはっきりと告げた。


「そう言っても、これで仕込みは全部終わり。オレもお前も完全にフリーだ。ここは裏。どう動こうと、問題にゃならねぇさ」

「そか……じゃあ、行って良いんだな?」

「ああ……光栄に思えよ? なにせオレが露払いをしてやるんだからな」

「おう! 恩に着るぜ、ダチ公!」


 負ける気がしない。カイトの言葉を横で聞いて、ソラは一気に前へと駆け出す。そしてそれに合わせて、カイトは僅かに浮かび上がって無数の武器を創造させる。が、それより前。無数の矢が飛来して兵士達を吹き飛ばした。


「へ?」

『ソラ。ウチも居るから』

「……おう!」


 横には親友。後ろには愛する者。その支援を受けて、ソラはただ前だけを見て突き進む。そうして、ソラとカイトは再び、異空間の中へと戻っていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。ようやく、最初に戻ってきました。

 次回予告:第1659話『受け継がれし遺志』

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