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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1651話 受け継がれし意志 ――脱出へ向けて――

 ミニエーラ公国の暗部である強制労働施設からの脱出を目指すソラ達がルクセリオン教国から依頼を受けたロドルフなる冒険者との出会いから、少し。ソラ達は相変わらず脱出に向けて各種の準備を行っていた。

 一方、その頃。ミニエーラ公王より密命を受けたアビエルはというと、彼も彼で幾つもの指示を出しながらブロンザイト暗殺に向けて動いていた。


「ふむ……では例の男は確かにブロンザイトの弟子に接触したと」

「はい。奴らを一ヶ月ほど探りました所、今日あの者が他の班と仕事をすると推測されました。であれば、と」

「そうか……では、後少しか」


 以前にミニエーラ公王からアビエルに密命が与えられて、すでにこの異空間の中では三ヶ月。ソラ達の事は彼らもかなり調査していた。なのでソラとロドルフが出会う事は、彼らが仕組んだ事だった。


「そうだ。時間調節装置はどうなっている?」

「あれでしたら、今の所不具合なく動いております」

「そうか……またあれを使う事になる。調整はしっかりと行う様に指示を出しておけ」

「はっ」


 アビエルの指示に、側近の一人が敬礼で応ずる。時間調節装置。または時空制御装置とも言われている。それはここにソラが来た時にグスタヴが言っていたこの異空間の時間を調整する手段の事だった。これで、外と内側の時間経過を狂わせていたのである。

 無論、そんな事がミニエーラ公国の様な小国に簡単に出来るわけがない。これはカイト達も流石に知り得なかったが、ミニエーラ公国は偶然にも『時空石』を使った魔道具を手に入れていたらしい。

 近年発見された旧文明の遺産に、含まれていたそうだ。それをなんとか解析して使用方法を掴んで、この様な大それた事が出来た、との事であった。

 これはミニエーラ公国でもごく限られた者しか知らず、情報屋も何かの遺産を手に入れた事までは知っていても、どの様なものかはまだ確証を得られていなかったそうだ。あり得ないだろう、と判断されていたのである。


「……で、あまり聞きたくはないが、ヒューイは何をしている」

「……いつもどおり、と」

「はぁ……まぁ、最後数日ぐらいは良い夢を見せてやるか」


 ヒューイの事について報告を受けたアビエルは、深い溜息を吐いた。単にトカゲの尻尾と分かっているのでどんな事をしようと自分の邪魔にならない限りは気にならないが、やはり目障りではあったらしい。が、それも後数日と思い直し首を振る。


「公王陛下には感謝しかない。あの役立たずの姿を数日だけでのも見ないで良いのはな」

「はぁ……」

「ああ、今更お前らに言うまでも無い事だが、私が外に居る間の時間は外と同期する様にしろ。あの愚鈍、万が一が起きん状態でも万が一を起こす」

「はい、心得ております」


 アビエルの指示に、側近が頷いた。これはソラ達も気付いていたが、実はこの異空間の中の時間は常に外と比べて遅れているわけではない。というより、常に遅くしているわけにはいかない。

 というのも、アビエルが外に出る時もこの空間を外より遅くしていると、彼が一晩外で過ごせば中ではかなりの月日が流れる事になる。

 その間に問題が起きた場合、最悪は数ヶ月対処出来ない事になってしまうのだ。なのでアビエルがミニエーラ公王に報告に出る一ヶ月に数日だけは、この異空間の中の時間は外と同期されていたのである。


「さて……あぁ、ついでに今期の納品の見込みに関する書類を持っていっておくか。いや、そういえば今回の一件でA棟の人手に不足も出る。となると、それに対する対処も打ち合わせねば……少将に話をせねばな……」


 あれもせねば、これもせねば。アビエルは幾つもの内容を同時並行で行っていく。この様子を見れば確かに、彼は有能らしかった。と、そんな彼は暫くして、ふと書類から顔を上げた。


「あぁ、そうだ。アルドのやつはどうした? 私の所に来いと言っておいたはずだが……」

「そういえば……来ませんね」

「誰か何か聞いてるやつは?」


 アビエルの問いかけに側近達は顔を見合わせ、揃って首を横に振る。そんな様子を見て、アビエルは盛大にため息を吐いた。


「はぁ……誰かやつを呼んできてくれ。来いと言ったのだが……」

「はっ。わかりました」

「やつの事だ。地下に居るはずだ。どんな状況でも今すぐ来いと言え。ただし、着替えだけはしろと言明しろ」

「はい」


 アビエルの指示に側近の一人が頷いて、即座に指示に向かう。そうして、十分ほど。大男が入ってきた。言うまでもなく、アルドである。


「な、なんだ、副鉱山長」

「貴様、来いと言ったのを忘れたか」

「だ、だから来た」

「はぁ……」


 そういう事ではないに決まっているだろう。アルドの返答に対して、アビエルは盛大にため息を吐いた。


「いや、貴様の様なやつに何を言っても無駄か。前に言った事は覚えているな?」

「な、なんの事だっけ?」

「ブロンザイトという老人の事だ」

「あぁ、老人……脆くてすぐ終わっちゃうから面白くないんだな、でも脆いから良い音が出て好き。今度も思いっきりやって良いんでしょ?」

「はぁ……」


 念押ししておいて正解だった。自分の話を完全に曲解していたらしいアルドの返答に、アビエルは再度盛大にため息を吐いた。


「違う。絶対に殺すな、と何度言えば分かる」

「え?」

「はぁ……もう一度言う。手加減しろ」

「は、ハンマーは? お、おいらの鞭は?」

「ダメに決っているだろう! 殺すな、と言っているんだ!」


 はぁ、はぁ。アビエルは肩で息をしながら、怒声を上げる。そうして深く深呼吸をしたのち、びくっと震え上がったアルドへと言い聞かす様に告げる。


「鞭は使うな、とは言わん。が、お前のではなく私が用意する物を使え。この間の様にやりすぎん様に、今回は私の部下も数人同席する。その指示に従えば良いだけだ」

「はい……」

「わかったなら良い。下がれ」


 不満げな顔ながらも自らの指示に応じたアルドに一つ頷くと、アビエルは彼を下がらせる。そうして彼が消えた所で、アビエルは隠すこと無く盛大にため息を吐いた。


「はぁ……」

「良かったのですか?」

「うん?」

「いえ……別に奴で無くともよいのでは、と」

「あぁ、それか」


 側近の言外の懸念に、アビエルも理解を示した様に頷いた。


「貴様の懸念も分かる。が、残った奴らになるべくの怒りと絶望を与えられる様にするには、奴の拷問の腕は有益だ……無論、やりすぎない様にこちらで手綱は握らねばならんが……」

「はぁ……」


 所詮、側近は側近であって参謀ではない。なので基本的にはアビエルの指示に従う事が仕事で、アビエルがこう言ったのであれば彼らにも異論は無い。というわけで、この会話はこれで終わりとなる。


「はぁ……あぁ、そうだ。例の男に張り付けている監視は?」

「は……そちらも問題なく進んでいるとの事です」

「そうか。では、そちらも逃がすなよ」

「はっ」


 アビエルは更に続けて、他の事についての命令を出し始める。そうして、彼らは彼らで更に数日の月日を待つ事になるのだった。




 ソラがロドルフとの出会いから、およそ半月。その間もソラは日中は採掘、夜はコンラートやグスタヴとの鍛錬とブロンザイトからの授業を受けて過ごしていた。ある日の事だ。夜に唐突に鐘の音が鳴り響いた。


「っ?」


 鐘の音に気が付いて、ソラが跳ね起きる。と言っても、流石にもう数十ヶ月ここに居たのだ。二ヶ月に一度ぐらいは脱走を狙う者が見付かり、鐘の音が鳴り響いている。なので彼は今回もそうだろうと思っていた。


「脱走……かな?」

「だと思う。音と人の動きから……多分、このA棟での脱走だな」


 トリンの言葉を受けて、何時もと同じ様に床に耳を押し当てていたグスタヴが頷いた。と、そうして暫く大人しく待っていると、案の定部屋の扉が開いた。


「なんですかな? こんな夜更けに……」

「脱走者が出た。この部屋匿ってはいないな?」

「そんな事をせぬのは貴方方もよく分かっておいででしょう。どうぞ、お調べ下さい」


 兵士の言葉に、応対に当たるブロンザイトは抵抗する事無く部屋の中を見せる。それに、兵士達も中へと入ってきた。


「ふむ……」

「人数良し。不審な物も無いな」

「……」


 何時も通りスリーマンセルでやって来た兵士達は一人が扉を守り、一人が点呼を取ってソラ達を見張り、最後の一人が部屋に隠れ潜んでいないかを確認する。無論、何か不審な物が見つかる事はなかった。


「良し。問題無し。不審な事はせず、今日はこのまま寝ている様に。明日の朝、解錠に来る」

「わかっております」


 兵士の一人の言葉に、ブロンザイトが一つ頷いた。そうしてそれを見届ける事なく兵士達は部屋を去っていき、扉に鍵が掛けられる。


「……」

「……?  お師匠さん?」


 何時もとは違い険しい顔で兵士達を見送ったブロンザイトに、ソラが訝しんで問いかける。何時もとは違う事をしているのなら、それは何か特別な理由がある。それを、彼もこの一年ほどで学んでいた。


「……いや、なんでもないよ」

「はぁ……」


 なんでもないとは思えないのだが。一転して柔和に笑って横になったブロンザイトにそう思うソラであったが、この態度の時は得てして今は語れないと判断している時だ。仕方がないと思う事にした。そうして一同はこの日はそのまま眠る事にするのだった。




 脱走騒ぎから明けて、翌日。ソラはグスタヴ、コンラートの二人と共に、トリンから話を聞いていた。あの表情をトリンが見逃しているはずがない。そして誰が一番ブロンザイトの事を理解しているか、と言われると彼だ。何かわかる事はあるだろう、と踏んだのである。


「多分、お爺ちゃんは脱出の時が近い事を理解したんだと思うよ。結構、良い案内に人も集まってきたし……」

「「「なっ」」」


 唐突に出された脱出という単語に、三人が思わず絶句する。本当に唐突に、脱出の気配が漂ったのだ。それは一緒に居た彼らでもわからないほど、ゆっくりと進んでいたらしい。というわけで、グスタヴが驚いた様子で問いかけた。


「い、いつの間にそんな準備を?」

「基本は、僕が仲介人になってたよ。僕だと色々と行けるから……それに、お爺ちゃんは見張られてるから」


 そりゃそうだ。トリンの言葉に三人は当然だと思う。現在、確かに名目上の班長はコンラートであるが、実態はブロンザイトこそが班長にも等しい。それは流石にミニエーラ公国側も把握しているだろうと彼らも思っていた。更にはブロンザイトの名もある。監視されない筈がないと思っていた。


「後は、トロッコで移動している最中に人の動きを観察して話をして、これと思った人には紙でお爺ちゃんの名前で頼んでね。お爺ちゃんの名だから、分かる人にはよく通ったよ」


 なるほどな。コンラートがそうである様に、上に行けば行くほど賢者の名を知っている物だ。であれば、そういう上に立つ者を中心に集めていけば、組織的な反抗も可能な上、他の者の説得も容易になる。これを地道に繰り返して、人を集めていたのだろう。


「ってことは、この辛気臭ぇ所とももう少しでおさらば、か」

「なんだ、グスタヴ。もう少し残りたいか?」

「まさか」

「俺もだ……良し。ソラ。最後の一仕事、もう少し頑張ろうぜ」

「……うっす」


 期待に胸を膨らませるコンラートの言葉に、ソラは何か得も言われる胸騒ぎを感じていた。そんな彼の様子を、コンラートが訝しんだ。


「どうした?」

「いや……多分気の所為だと思うんっすけど……なーんか、そんな感じじゃないなー、と思っただけっす」

「違う?」

「いや、お師匠さんの顔、どっか真剣は真剣でももっと鬼気迫っていたってか……」

「そりゃ、おめぇ……こんな所から脱走しようってんなら、真剣にもなるだろ。俺だって当日は死ぬかもしれねぇって、今から震えてるぜ?」


 冗談を言って気を紛らわせようとしているのか、それとも本当に死地に赴くからなのか。コンラートはソラへとそう語る。それに、ソラもそうなのかも、と思った。


「そっか……そっすよね。トリン、後どれぐらいだ? それに合わせて、体調とか術式とか完璧に調整する」

「……あ、そうだね。多分、一週間以内だと思うよ」


 ソラの言葉に一瞬だけ険し顔を浮かべたトリンであったが、即座に気を取り直して予定を明言する。そうして、ソラ達はそれに向けて動き出すと共に、ばれない様に採掘の作業に戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1652話『受け継がれし意志』

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