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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1649話 受け継がれし意志 ――プランAへ――

 ミニエーラ公国に捕らえられてしまったソラ達の救出の為、ミニエーラ公国に乗り込んでいたカイト。彼は幾つものミニエーラ公国との陰謀の応酬を繰り広げながら、彼らの救出の準備を整えていた。そんな彼であるが、半月ほどの内偵の後、遂に救出に向けた作戦は決行の段階にたどり着いていた。

 が、その実行の直前。ティナとの間で最後の連絡を取り合っていたカイトであったが、天候に恵まれず決行は翌々日となる。そうして、一日。カイトは作戦決行までの最後の休息を取っていた。


「……」


 やはり、こうなったか。カイトはちらちらと降りしきる雪を見ながら、険しい顔を浮かべながらも焦りに蓋をする。昨日から高所ではかなりの寒さであったが、そこに来て夜になりかなり気温が下がってしまったのだろう。

 早朝の段階で肌寒いというより痛みさえ感じる寒さとなっており、朝方遂に降雪となったというわけなのだろう。すでに昼も周り夕方になっていたので朝ほどの降雪は無いが、それでも僅かに土は白んでいた。そんな彼の横に、カルサが立つ。


「小僧……今日動かなくて正解だったな。この様子だともう吹雪くまではいかんだろうが……飛空艇を相手にするのなら、避けるべき天候だ」

「……わかってますよ。だから、避けた」

「そうだ。それが正解だ」


 僅かに苦笑混じりの笑みを浮かべたカイトに、カルサも一つ笑って頷いた。彼の方は実兄が捕らえられているというのに、カイトよりも焦りは見受けられなかった。


「そういう姿を、時にゃ見せろや」

「ん?」

「お前さん、大抵の状況じゃ焦らず着実にやってんだろ。慣れ過ぎだ、小僧」

「オレが駆け抜けた時代は何時でしょうね?」

「ま、そういう事を考えりゃ、しゃーねぇ側面もあるがな」


 カイトの問いかけにカルサが笑う。そうして、そんな彼のおかげでカイトも少しだけ眉間のシワをほぐす事が出来た。と、そんな二人に、瞬が問いかけた。


「飛空艇を相手にするなら避けるべき天候?」

「うん?」

「ああ、それか。飛空艇に天候はあまり影響は出ん。が、それに対してオレ達はどうしても陸上で戦うからな。しかも降雪になると、足場が悪くなる……特に翔の様なやつだと足場が悪くて速度が活かせんし、足跡から見付かりやすくもなる。無論、寒さで体力は奪われる。総じて攻め手側が不利だ」

「なるほどな……当然か」


 確かに、瞬やカイトであれば別に雪原だろうと気にせず戦えるだろう。が、今回は彼らはあくまでも先遣隊。無論主力でもあるので戦場では大いに戦うつもりであるが、ティナ率いる本隊が居る。その彼らの事を考えて戦略を練らねばならなかった。


「ふむ……そう考えると、俺も少し戦略を学ぶべきなんだろうか」

「ん?」

「いや……どうにも俺には大局的な視点が欠けているのか、と思う事があってな」


 首を傾げたカイトに、瞬は半ば苦笑気味に肩を竦める。流石に彼ほどになると大抵の地形では普通に戦えるわけであるが、それ故に自分をベースに考えた場合は他が着いてこれない事が出てきてしまう。

 そこを考え、このままで良いのだろうか、と思ったのだろう。ソラと同じく彼もまたサブマスターだ。気になっても仕方がない事だったのだろう。と、そんな彼にこたつに籠もっていたユリィが口を開いた。


「んー……それはどちらかというと大局的な視点じゃないかもねー」

「じゃあ、なんなんだ?」

「経験値」


 瞬の問いかけに、ユリィはあまりにも当然の事を明言する。これに、瞬が思わずたたらを踏む。


「そ、そうか」

「いや、これ冗談とか色々結構拙い問題だよ? まぁ、私らも言えた義理じゃないけどさ。それでも冒険部って結構駆け足過ぎるんだよねー。カイトは分かってるだろうけど」

「あー……まぁ、そうなんだよなぁ……」


 頭の痛い問題だ。肩を落としたカイトは本当にため息混じりで頭を抱える。


「今まで何度と無く急いだわけなんだが……それ故に結構、経験値が足りてないんだ。実はソラを送り出したのも、その向きがあってな。色々な見聞を積んで欲しいんだ」

「ふむ……どういう事なんだ?」

「簡単に言うとさー。下積み時代ってのが短いのよね。冒険部って……だから、どうしても自分を中心に動いちゃうわけ。悪くいうと、苦労を知らないわけ。本当ならここら、上に立つ者ほど下積みを理解しておかないとダメなんだけど……」


 こればかりは仕方がない事なんだよねー、とユリィは思う。そうせねばならないだけの理由があり、そしてその結果の今がある。これを見据えたのなら、この事態はいわば仕方がない問題でもあった。


「そもそも、上を才能優先で固めたのが問題だよねー。固めないと問題でもあったんだけど」

「それな……初手で大撃沈した上、その後釜がオレだ。才能重視でまとめ買いしないと後々で内部分裂の危機に発展するし……ぐがぁ……」

「す、すまん……」


 そもそも、カイトがギルドマスターに立った理由は瞬が初手で大失態を犯したからだ。そのリカバリとして、当時学園一の戦士となっていた彼が選ばれた形である。

 が、それはつまりは統治としては無名の男がいきなりトップに立ったわけで、直前の失態もありほぼほぼ満点を取り続けねばならなかった。それは間違いなくカイトにしか出来る芸当ではなく、出来ねば下手を打つと天桜学園という組織そのものが瓦解しかねなかった事態でもあった。


「まー、そんな感じでとりあえず早急に実績を上げられて、後々の飛躍も可能な面子を上に集めちゃったわけ。まぁ、ここまでなら普通の人でも考え付くんだけど……」


 いや、才能云々は兎も角普通はそこまで考え付かんぞ。ユリィの言葉に瞬は内心でそう思う。とはいえ、だ。これはあくまでも追い込まれて必死に考えればという話だ。

 なので案外出来る者は多い、というのが彼女の後の言葉であった。が、ここから先は確かに組織運営に慣れたカイトの手腕があった。


「ぶっちゃければ、その後が悪いよねー。カイトの場合、組織運営に慣れすぎてるから。支援体制の拡充、組織の変化への順応、手広い情報収集……他にもこまめに講習を開いたりして<<縮地(しゅくち)>>とか肉の捌き方とか多種多様なやり方を学ばせたり、他にもエトセトラエトセトラ……結果、試行錯誤の手間を大幅に短縮しちゃってるんだよねー」

「だ、だがそれがあったから、今まで殆ど犠牲も無く終わってる……んだろう?」


 称賛に似せた苦言にも似た言葉を放つユリィに対して、瞬が少しだけフォローを入れる。そしてこれはそうだ、としか誰にも言えなかった。故に彼女もまた、頷いた。


「うん。実際の所、カイトの手腕が無いと冒険部の一割は死んでたと見て良いよ? それでも、幸運に恵まれないとこんな結果にはならないし」

「……軍事上、兵士の総数に対して三割消耗すると全滅扱いの大敗北と言える。二割で作戦続行不可だったかな。一割も消耗すれば十分、不信任決議モノなんだよ。なら、死者をなるべく出さない様にするしかなかった」

「けど、その結果の今なんだよねー」

「そうなんだよなー……」


 ユリィの苦言に対して、カイトもまたため息を吐いた。そうして、彼は続ける。


「本来は、痛みと共に得る筈の蓄積を蓄積だけ受け取っちまってる。まぁ、それが人類ってもんなんだが……それ故、その痛みを得る筈の部分の対処だけが分かってるから、痛みを得る事への理解が無い。結果として、自分基準で考えやすくなっちまってるんだろうさ。先輩だけでなくな」


 これは総じて冒険部全体の問題と言えた。そしてなんとかするには痛みを背負うしかないが、過度に痛みを背負えばそれはそれでカイトの統治能力への疑念が生じる事になりかねない。

 その見極めは非常に難しく、同じ日本人であったカイトだから出来た事と断じて良いだろう。ティナでもユリィでもダメだったのだ。


「だから、結果として自分が出来る事は他人も出来ると思い込みやすい。簡単に出来ちまったからな」

「か、簡単……そう言うが、いや、そうか。確かに、そうなのかもな」


 カイトの言葉に反論しようとした瞬であったが、一転して自らの今までの道のりを思い出して首を振る。確かに簡単ではなかった。が、ここでの簡単はそういう意味ではないと気付いたのだ。

 彼は今まで、無数の人に教えを乞えた。ウルカだとバーンタインやシフを筆頭にして、こちらでもリィルやカイト達を筆頭にして、多くの相手から学ばせて貰っている。それは彼らが整えた道を歩かせて貰っているわけであって、その道を整える苦労は知らない。誰もが出来るわけではない、と思い難いのだ。

 無論、これは上層部だけではない。例えば剣道部であれば、武蔵からの教えを受けられている。他にも学園に目を向ければブレムを筆頭にして農業を学んでいたり、天桜学園という特異性があるが故に魔導学園との間での交流で学ぶ事も多い。道を進む苦労はあっても、道を作る苦労はあまり知らないのだ。


「そういうこと……誰でも学べると思っちまうから、全員が出来ると思い込みやすいんだよ。実際、<<縮地(しゅくち)>>だって大半は講習を受けたり、受けたやつから習ったりで出来るが、冒険部だけを見ても全員が出来るわけじゃあないからな。無論、オレが把握してないだけかもしれんが……」

「そうなのか……」


 <<縮地(しゅくち)>>とは非常に便利な技術だ。それを瞬は知っている。無論、扱いの難しさもあって簡単に習得出来るか、と言われるとそうではないが、それでも習得しておいて損のない技術だとは瞬は思っている。なので誰もが出来る様になっているか、なろうとしているか思っていたらしかった。と、そんな事を語っていたカイトに向けて、カルサが苦笑気味に口を開いた。


「大変だな、相変わらず……前にお前さん見た時も、似た様に頭抱えてたな」

「実際、なんでゼロから統治やり直しさせられるんだ、と思う方が多い。その為に各地の賢者を集めたってのに……今度はゼロからだ」

「そういや、兄貴も召し抱えようとしたなぁ、お前……」

「あはは」


 懐かしげに語るカルサに、カイトもまた懐かしげに笑う。当たり前であるが、カイトとてブロンザイトを召し抱えようとした事はある。彼ほどの賢者だ。その知恵を借りたいと思わないわけがなかった。

 が、各地を巡る事を好んだ彼はそれを辞去し、それでもカイトが頼み込んで近くに寄った時には魔導学園にて講習を行って貰える事で合意したのであった。

 事実、今回もトリンと別れていた一ヶ月の間に数日、魔道学園で講習を行ってくれていたりもしたのである。と、そんな風に笑い合っていたカイトであったが、唐突にその表情が凍りついた。


「……」

「……どし……いや、そうか……」


 表情の凍りついたカイトを訝しんだカルサであったが、一転カイトの顔が青ざめたのを見て悲しげに俯いた。それに、一人状況が掴めなかった瞬が問いかける。


「……どうしたんだ?」

「……」


 瞬の問いかけに、ユリィはただ悲しげに俯いて何も答えない。そうして暫くの後、悲しげなカイトが口を開いた。


「……今、ブロンザイト殿が来られた」

「……兄貴、なんか言ってたか?」

「柔和に笑ってらっしゃった。すべて、仕込んだと。ソラもトリンも無事、帰還出来ると……後は、おそらく儂の見通した通りにやっただろう。堪えきれず申し訳ない、と」

「……そうかぁ……兄貴らしいなぁ……俺達が素直に従わねぇの、わかってたかぁ……あとちょっと、堪えりゃ良いだけじゃねぇかよぉ……相変わらず、兄貴なのに情けねぇなぁ……」


 カイトを介したブロンザイトの言葉を聞いて、カルサが僅かに上を向いて愚痴を言う。その彼の目に光るものがあったのは、決して気の所為ではないだろう。そうして、そんなカイトは懐からブロンザイトから貰った小箱を取り出して、僅かに振るえる手で中を確認する。


「……」


 中を見たカイトは、諦めた様に深いため息を吐く。そうして、通信機を起動した。


『なんじゃ?』

「……プランAへ作戦を変更……後は、任せる。すべて、ブロンザイト殿の指示通りに進める」

『っ……そうか。わかった。では、即座に準備に入らせる』


 カイトの言葉を聞いたティナは一瞬、顔を顰めるも即座に気を取り直す。


「……先輩。これから急いで行動に入る。何時でも動ける様に、支度はしておいてくれ」

「あ、ああ……何があったんだ?」

「……ブロンザイト殿が身罷られた。もう少しすれば、ソラ達が決起を起こす。詳しい日時はわからんが……それに合わせて動く」

「なっ……」


 ブロンザイトが死んだ。そう聞いた瞬が、思わず絶句する。だが、時間は待ってくれない。彼が死んだ以上、ソラ達が行動を起こすまでもう僅かな時間も残っていないのだ。それ故、カイト達はブロンザイトが死んだというショックを押さえ込み、即座に行動に入る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1650話『受け継がれし意志』

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