第1645話 受け継がれし意思 ――開幕――
ソラ達の救助を目指すカイト達。彼らが捕らえられている強制労働施設の発覚を阻止せんと動き出したミニエーラ公国。その両陣営はほぼ時同じくして、終局に向けて動き出していた。そんな中、カイトは自分達が現在滞在しているバイエではなく、全く別の所で待機しているティナとの間で連絡を取っていた。
「と言う感じだ」
『なるほどのう……まぁ、情報屋の精度の高い情報故疑いはしておらんが……確定と言って良いか』
「だろうな。間違いなく、ソラ達はミニエーラ公国の秘密採掘場に捕らえられていると考えて良い」
ひとまず、カイトは敵がミニエーラ公国そのものである事を確定させる。兎にも角にもこれについては昨日の時点で確定している。そしてそれが確定したのならしたで、作戦の動かし方も変えねばならないだろう。
『むぅ……そうなると、どうするつもりじゃ?』
「とりあえずはプランBをこのまま進める」
『プランBのう……上手く行けば良いが』
「行ってくれないと困る」
『困る、か。別に困るわけではあるまいが……』
カイトの返答にティナは僅かな苦笑を露わにする。これとは別にプランAはあるが、プランBが今の所主眼となっている作戦だった。そしてこのプランAに移行する場合、カイトには少し困った事になるらしい。
「まぁ、それはそうなんだが……」
『読まれておるぞ、おそらくのう』
「わかってるさ。だが、だからこそオレはやるんだよ」
『ま、それでこそのお主とは言えるじゃろうし、その為に支援の体制も整えおったか。愚者が賢者の力を手に入れればこうなる、という好例じゃのう。やってる事は馬鹿じゃが』
「うるせぇよ」
ティナの苦言にも似た言葉に、カイトが口を尖らせる。先にも言っていたが、カイト達は先遣隊。流石に彼も単騎で国を相手にするつもりは無い。出来なくはないが、面倒になるからだ。故に本隊には別の所で待機させていた。
『そう拗ねるな。褒めておるんじゃ。余らは賢いが故にそういった策は取れぬ。が、お主は賢くなっても愚かな策を取れるからのう』
「褒めてる様に聞こえねぇよ……まぁ、それは良い。で、そっちは?」
『首尾は上々、という所かのう。とりあえず、作戦通りに動けておる。何か危惧する事も無い』
「そうか……なら、そのまま待機を続けてくれ。おそらく三日以内には再度連絡を送る」
『わかった』
カイトの報告に、ティナは一つ頷いた。そうして、カイトは通信を切断する。
「良し……後は……間に合うかどうか、か」
カイトは一度東を見て、更に懐の小箱の中身を不安げに確認する。そうして、再度安堵を浮かべた。
「まだ、大丈夫か。間に合ってくれよ……」
ここまでは最速で動いている。なら、なんとかなる。そうカイトは自分で自分を励ました。そうして、気を取り直した彼は改めて今日からの行動に出る事にする。とはいえ、だ。即座に動けるわけではない。故に彼は瞬達と合流する。
「あぁ、カイト。戻ったか。ユスティーナは?」
「すでに準備は出来ているそうです。後は、オレ達次第と言って良い」
「おし……カイト。ここらの地図、入手しておいてやったぜ」
瞬の問いかけに答えたカイトへと、カルサが地図を提示する。それは彼の言う通り、ここら一帯の地図だ。彼はカイトが来るまでの間、色々と伝手を使ってこの地図を手に入れてくれていたのである。
とはいえ、この地図には流石に強制労働施設は記されていない。が、カイトはすでに情報屋から場所は聞いていたので、問題にはならない。
「ああ……情報屋によると、ブロンザイト殿らが捕らえられているのはこのバイエから東に200キロ。この山の麓のどこかに洞窟があって、そこから異空間に通じているらしい」
「どこか?」
「詳細な洞窟の場所までは流石にわからない。それに、山が分かってるのならこれで十分だ」
瞬の言葉にカイトは笑う。とりあえず目標の山は分かっているし、後は現地に行って調べるなり警戒網から目標を見つければ良い。これで十分だろう。
「そうか……それで、ここからはどうするんだ?」
「先輩はカルサさんと一緒に少しの間陽動を頼む。敵が来たら潰して構わん」
「お前は?」
「オレもユリィと共に、この異空間へ通ずる山を探す素振りを見せる。今はまだ、こちらが強制労働施設の存在を把握している事を知られたくはない。あくまでも噂を入手して、真偽を確かめているという所だな」
ここら即座に乗り込めれば、とカイトも思わないでもない。が、そうなると流石に色々と面倒な事になる。あくまでもカイトというか冒険部が踏み込めるのは、ソラがこの強制労働施設に捕らえられている事の証拠を掴んでからだ。
しかも公的にはまだ彼はその施設が非合法に運営されている事を知らない事になっている。その状態で非合法とはいえ国が運営する施設に乗り込むというのは、後々手段について問題視されかねない。結果論として成功したが、失敗した場合はどうしたのだ、と言われるからだ。
「そうか……もどかしいな」
「ああ……だが、仕方がない。相手は国だ。まともにやり合うのなら、それ相応の準備が必要だ……じゃあ、そっちは頼む」
「ああ……そっちも気を付けてな」
「そっちもな……カルサさん。先輩を頼みます」
「ああ。お前さんもおチビさんも、気を付けてな」
とりあえず今後の方針を定めると、カイトはユリィと共にカルサ、瞬の両名と別れて行動する事にする。そうして二人になった所で、ユリィが問いかけた。
「で、どうすんの?」
「とりあえずは言った通りだ。まずは探る素振りを見せる」
「その必要、無いと思うなー」
「言うな」
ユリィの言葉に対して、カイトは僅かにほくそ笑んだ。当たり前だが彼である。ミニエーラ公国がどう動くだろうか、というぐらい想像は出来ていた。
「オレ達を生半可な兵力で始末出来ないぐらい、奴らだってわかってるはずだ。なら、決戦場は決まってる」
「じゃあ、お誘いがあるまでは暫く待機だね」
「ああ……とりあえずはこの近辺を捜索している振りをするしかないだろう」
カイトはミニエーラ公国が自分達を誘い出すつもりである事を見抜いていた。と言っても、流石に彼らが動き出した時点ではまだその決定さえされていない。
となると、ここからの彼らが取るべき動きはまずは自分達に貼り付けられている尾行を撒いて、強制労働施設の捜索だ。であれば、相手が動きを見せるのは早ければ明日。順当な所としては明後日という所だろう。ティナへ連絡を送るのが三日以内というのは、そういう理由だった。
「順当明日、遅くとも明後日……」
「動けるのは一週間後ぐらい……かな」
「だろう」
敵の動きは見通せている。なので証拠集めについては最悪は省ける。降りかかる火の粉を払ったついでに証拠を手に入れれば良いだけだ。流石に自分で攻撃しておいてそれを逆手に取られては、ミニエーラ公国とて認めるしかない。そうなる様に手配はしている。
とはいえ、そこまで甘くは進まないだろう。なのでカイトとしても幾つもの策を打つつもりだった。そうして、二人は数日、採掘場を探す素振りを見せる様に動くのだった。
カイトが強制労働施設を探している素振りを見せ始めて、二日。やはり色々とミニエーラ公国も準備があったからだろう。即座に動く事はしなかった。が、それもこの日の朝になり、遂に動きを見せる事となった。
「……兄さん、ちょっと良いかい?」
「誰だ?」
「ここらの情報を仕入れてる情報屋さ。兄さんの事も知ってるよ」
温泉宿を後にして、ひとまず尾行を撒くべく動き出して早々。カイトへと路地裏から声が掛けられる。そんな声は自分を情報屋と告げると、路地の影からカイトを手招きする。が、これにカイトは応じる素振りを見せなかった。
「兄さん、どうした?」
「お前も情報屋なら、オレがどれだけの情報を掴んでいるかぐらいは把握してるだろう? なら、先にお前が信頼出来る事を示せ」
「……なるほど。たしかにな」
カイトの要求に対して、情報屋を名乗った男は一つ頷いた。そうして、彼が路地裏から姿を現した。現れたのは、どこにでも居そうな小汚い小柄の男だ。地元民に偽装していると考えて良いだろう。これも情報屋の潜み方といえば潜み方だ。
「ほら、姿を出してやったぞ」
「そうか……」
「あ、ちょっ! おい!」
「……」
慌てた様子を見せる情報屋の男に、カイトは指で小さく少し離れた所の路地を指差した。それを見て、情報屋の男もなるほど、と理解する。この意図を掴めないのなら情報屋を名乗るべきではないだろう。そうして、情報屋の男が再度路地裏に消えていく。
「動いたようだな」
「だね」
路地裏に消えた情報屋の男に、カイトとユリィはほくそ笑む。この彼がミニエーラ公国が雇った者であるぐらい、考えなくてもすぐにわかった。なら後はせいぜい利用させて貰うだけだ。そうして、二人が先にカイトが指示した路地に消えるとほぼ同時に、その通路の先から先の男が現れる。
「兄さん、えらく警戒してるな。誰もいねぇってのに」
「おいおい……お前が言って信じられるほど、オレ達の間に信頼関係が醸造出来てるのか? それに国を相手にしようってんだ。これぐらいの警戒はするだろう」
「まぁ、そりゃそうだけどよ……」
やれやれ、と警戒を隠す事のないカイトに、情報屋の男は僅かに肩を竦める。そんな男に、カイトは問いかけた。
「それで、何の用事だ?」
「あんたが探してるって男の情報があるんだが……買わないか?」
「信頼出来るのなら、な」
「もちろん、出来るさ」
「口だけで信頼するとでも?」
情報の精度を請け負った情報屋の男に対して、カイトが道理と言えば道理の事を告げる。それに、男もまた頷いた。
「そりゃそうだ……が、こっからは取引だ。いくら払う?」
「逆に聞こう……いくら欲しい」
「っ……」
ぴくっ。カイトの問いかけに、情報屋の男が僅かに頬を引き攣らせる。吹っ掛ければ逆に自分が信頼できないと言っている様なものだし、上の指示に従ってなんとかカイトに買わせようと安くても逆に裏を勘付かれる可能性が出る。
情報屋の情報屋としての腕の見せ所だった。そしてこの時点で、カイトは自分がまだ侮られていると理解する。そうして、少しの後。男が口を開いた。
「……前金で金貨二十枚。後金で金貨三十枚。それでどうだ」
「前金が妙に高いな。その総額だと、前金の相場は金貨十枚という所だろう」
基本的にこういう場合の前金の相場は全体の一割から二割という所だ。それに対して、提示された額は総額の四割。相場の倍という額だ。何かが理由がある、とカイトがいぶかしんだのは当然だろう。そしてこれは男も当然、分かっていた。
「信頼出来るっていう確証の情報に、お前さんが欲しがっている情報が含まれてるからだ。前金を少しだけ盛らせて貰った」
「なるほどな……わかった。取引しよう。だがわかってると思うが……」
「そんな大金を持ってきてるわけねぇ、だろ? 当然の話だな。俺だってブツは持ってないしな」
「そういう事だ」
「一時間後、またここで良いか?」
「ダメだ。一時間後、ここにオレとの接触方法を示した紙を落としておく。それで、接触だ」
あくまでもカイトは警戒している素振りを続ける。これに情報屋の男は僅かに辟易した様な顔をするも、上からの指示があるので仕方がなく頷く事にした。
「……わかった。それで良い」
「良し……じゃあ、一時間後だ」
「あいよ」
カイトの返答を聞くと、情報屋の男はそそくさとその場を後にする。準備に入った、というわけなのだろう。そうして、カイトもまた情報屋からの情報を受け取るべく、準備を開始する事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1646話『受け継がれし意志』




