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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1643話 受け継がれし意思 ――合流・1――

 ミニエーラ公国に捕らえられたソラ達の救助の為、ミニエーラ公国に乗り込んでいたカイト。彼は瞬、ユリィの二人を供に彼らが救援に向かったバイエの北にある村へとやって来ていた。そこで村長のシューマンに危機が迫っている事を教え、更に助言を残すと、三人は即座に南へ向かうべく出発する事にしていた。


「ということは、山道は通らないのか」

「ああ」


 と言っても、即座に出発するわけではない。ここまで強行軍だったのだ。カイトとユリィはまだしも、瞬には不安が残る。時間としても昼食を食べるには良い時間だ。戦闘が控えているかもしれない以上、補給出来る時にしておくべきだろう。なので出発は一時間後となっており、今は討伐隊が休んだ一角を借りて僅かな休息を得ていた。


「さっき捕まえた奴の記憶を抜き取っておいたんだが……どうやら一個中隊が山道の外れに待機しているらしくてな。通行を見張っているんだろう」

「一個中隊……ばれないのか?」

「バレても問題は無いさ。ソラの報告書によれば、つい先ごろこの村に魔物の襲撃があったらしい。それを警戒して待機している、と言えば誰も疑わない。特に結構大きな事件だったらしくてな。バイエにも噂は届いている事だろう」


 瞬の懸念に対して、カイトは一つ首を振って問題無い事を明言する。これについては、時の利が相手にあったという所だろう。この対処については不思議の無い事だ。そして嘘ではない以上、誰もが信じるしかない。


「だが、俺達は通れば問題、と」

「そもそもブロンザイト殿を捕まえたという情報を隠蔽したいからな。それを探るオレ達を通す道理が無い」

「まー、ちょっとやり過ぎたっぽいねー」


 カイトの言葉を引き継いで、ユリィがうだー、とだらけながらそう明言する。それに、カイトもまた頷いた。


「そうだな。何が起きたかは流石にオレも知らんが……些か見境なく人手を集めすぎただろう。ブロンザイト殿を捕らえなければ、オレ達が出る事も無かったからな」

「そういえば……人手を集めて何をしようとしているんだ? いや、採掘というのは聞いているが……」

「さぁな。ま、そう言っても検討はつく。大方、大規模な事故か反乱でもあったんだろう。で、人を集める必要があった、ってわけだ」


 カイトにとって、この程度を見通す事は造作もない事だった。故に彼は瞬の問いかけに対して、大凡の見通しを語る。そんな話を聞いて、瞬が一つ提案する。


「それなら、その集めている人手に潜り込む事は出来ないのか?」

「うーん……それは難しいかなー。そもそも彼ら、ブロンザイトさんの扱いに困ってるわけ。で、可能ならいっそ、って考えてるわけで……」

「なら必然としてソラ達の事も片付けるべきか、って考えてるだろうさ。ってことは、そこにオレ達が乗り込んで行っても一緒ってわけ。警戒されるだけだ」


 今度はユリィの言葉をカイトが引き継いで、瞬の提案に首を振る。そしてそう言われて、瞬も頷くしかなかった。


「なるほどな……確かに、それはそうか」

「ああ……と言っても、ソラ達の扱いについては確定じゃない。一番扱いに困るのはブロンザイト殿。彼だけは放置しておけば脱出される可能性があるからな。が、逆にそれ故に彼さえ潰せば、と今頃安楽的に考えているだろう」


 コンラートとソラが慌てていたように、脱出の肝心要の存在は言うまでもなくブロンザイトだ。それは当然、ミニエーラ公国側も考えている事だ。であれば、最低でもブロンザイトさえなんとかしてしまえば後は放置でもなんとかなる。そう考えていても不思議はない。と、そんな事を語ったカイトへと、瞬が問いかける。


「じゃあ、どうするんだ?」

「さて……どうしたもんかね」


 瞬の問いかけに対して、カイトは敢えて考える素振りを見せる。当然であるが、彼がここらを見通していないわけがない。そして見通していたから語っていたわけだ。であれば、来る前に作戦は立てているはずだった。が、明かすつもりはない、という所なのだろう。と、そんな風にこれからの作戦を話し合っていた所に、シューマンが現れた。


「失礼します」

「ん? 村長さん」

「おぉ、良かった。まだいらっしゃいましたか」


 首を傾げたカイトに対して、シューマンは僅かに安堵を浮かべる。そうして彼に席を勧めた後、カイトが問いかけた。


「それで、どうされました?」

「ええ……一つお伝えする事を忘れておりました。ですので、急ぎこちらに……」

「はぁ……」

「実はもう一人、ブロンザイト殿の来訪を知っている者が居たのです」


 小首をかしげたカイトへと、シューマンはライサの事を語る。ブロンザイトがミニエーラ公国の飛空艇に乗った事を知っているのは、後は彼女と討伐隊の内飛空艇に乗らなかった三人だ。

 この内、乗らなかった三人については手出しをしないだろう、とカイトは読んでいた。彼らは冒険者。それもランクA級も居るのだ。これを始末しようとすれば、大規模な討伐隊を差し向けるしかない。

 が、こうなると本末転倒だ。情報の露呈を恐れて大規模な討伐隊を組むにも、何らかの理由が必要だ。そうなると確実に他国にしっぽを掴まれる。手を出さない方が良かった。


「なるほど……」

「申し訳ありませんが、彼女もお願い出来ませんか。実はこの村には彼女の親戚が居まして……その縁で、良く荷物を届けてくれていたのです。彼女には恩がある。見捨ててはおけないのです」

「……わかりました。お引き受けいたしましょう」


 頭を下げたシューマンの申し出に、カイトは快諾を示す。そうしてそれを見届けて、彼は即座に戻っていった。と、それを見送って、カイト達も出発する事にした。


「カイト。安請け合いだったんじゃないのか?」

「ん?」

「いや、行商人なんだろう? その行商人はどうやって探すつもりなんだ?」


 行商人とは旅をして物を売る者たちだ。故に基本は冒険者と同じ様に、どこに居るかは掴めない。一応定期便に乗って商いをしている、というのはシューマンから聞いたが、同時に依頼があればそちらに出向く事があるとも聞く。運良く出会えるとは限らない。瞬はそれを危惧したのだろう。が、これにカイトは笑った。


「あぁ、それか……彼女ならもう保護してる」

「は?」

「おいおい……彼女は重要な証人だぜ? それをみすみす殺されるわけにはいかないさ」


 目を丸くした瞬に対して、カイトは笑ってそう告げる。彼女こそがこの村への案内人を務めたのだ。当然、ブロンザイトの存在も知っている。そしてあの時はまだ怪我の治療をしていた為、この村で彼らが飛空艇に乗った事も聞いていた。そして、それだけではない。


「彼女の事は当然だが、討伐隊の残りの三人も知ってるはずだ。彼女が呼びかければ、向こうも応じてくれる可能性は高い。当然、知ってるわけだからな」

「村長で良いんじゃないのか?」

「おいおい……村長一人だけを保護するわけにもいかないだろう。向こうも拒否するさ。だからといって、今のオレたちにはこの村すべてを救う力はない。そもそもソラやブロンザイト殿の救助もある。だから、彼女なわけ」

「なるほどな……」


 村長はこの村の責任者だ。それで村の安全が確保出来るのならまだしも、今回はそうではない。なので彼を説得するのは一苦労になるだろう。それに対して、彼女は一個人だ。保護は容易い。無情にも見えるが、出来る事と出来ない事はしっかりと把握しておかねばならなかった。


「さぁ、行くぞ。時間が無い。今日中にバイエに着く必要がある」

「ああ」

「オッケー……って、私はカイトの肩に乗ってるだけだけど」


 カイトの号令に、瞬とユリィが頷いて立ち上がる。そうして、三人は道中でミニエーラ公国軍が待機する場所を迂回しながら、バイエを目指して移動するのだった。




 さて、三人がバイエの北の村を出発して四時間。かなり日が落ちた頃に、三人はなんとかバイエにたどり着いていた。


「温泉街、か」

「ああ……ここでブロンザイト殿の弟と合流する」

「ブロンザイトさんの弟? そんなのが居るのか」

「ああ。実は村長さんの言っていたライサって人も、彼に保護を依頼していてな」


 これは瞬は知らない事だが、そもそもカルサ当人がカイトとは知り合いである様な事を言っていた。なのでこれに不思議な事は一切無いだろう。そして彼の力量は現段階では瞬をも上回っている。十分、ライサに送られただろう暗殺者程度なら対応出来た。


「で、その弟さんはどこに居るんだ?」

「あの丘の上の宿だ。オレたちの部屋も彼が確保してくれている。流石に、今からは動けないからな」

「たしかにな……」


 もう秋の中頃だ。まだギリギリ真っ暗闇ではないが、それでも一分単位で暗くなっている。そんな中を無為無策に進むわけには行かないだろう。急ぎたい所だが、昨日もかなり急いだのだ。国軍を相手にする以上、これ以上の無理は流石にカイトも避けるべき、と判断していた。というわけで、三人はソラたちが宿泊した宿へと向かう事にする。


「いらっしゃいませ」

「カルサイトさんに取次をお願い出来ますか? 名前はカイト・天音です」

「カイト・天音様ですね。お伺いしております。お待ちしておりました。すぐに、お取次ぎをさせて頂きます」


 ここらは予め連携を取っていたのだ。なのでカイトが登録証を出すだけで、宿の受付も即座に応じてくれた。そうして内線を使って数度の話をした後、受付が一つ頭を下げた。


「おまたせ致しました。あちらの者がご案内致します。また、こちらが皆様の部屋の鍵となっております」

「ありがとうございます」


 カイトはカルサが確保してくれていた部屋の鍵を受け取ると、そのまま仲居の案内に従ってカルサの泊まる部屋へと通される。


「カルサイト様。カイト・天音様がいらっしゃいました」

『ああ、ちょっと待ってくれ』


 部屋の中から、カルサの声が響く。そうして少しして、僅かに部屋の扉が開いた。


「……よぉ、小僧におチビさん。久しぶりだな」

「ええ、貴方は変わり無さそうで安心しましたよ」

「おひさー」

「おう、おチビさん……で、そっちの小僧も久方ぶりだな」

「は?」


 やはり瞬は僅かしか顔を合わせていなかったからか、カルサの事を覚えていない様子だった。とはいえ、こんな所で突っ立って話す必要はない。なのでカルサは案内してくれた仲居にチップを渡して下がらせると、三人を部屋の中へと通した。


「で、やっぱお前さんも忘れてたか。ソラの小僧も忘れてたし、俺もはじめは気付かなかったから仕方がないんだがな」

「はぁ……」

「ほら、ラエリアの時に会ったろ?」

「あぁ! あの時の!」


 カルサの言葉で、瞬もまた彼の事を思い出す。そうして目を見開いた彼に対して、カルサは少し笑った。


「あはは……すまねぇな。こんな時じゃなけりゃ、酒の一杯でも酌み交わしたいんだが……流石に、そんな場合じゃねぇ。全部が終わったらにしてくれや」

「いえ……あの時はありがとうございました」

「お前ら、礼儀正しいな……」


 ソラと同じように頭を下げた瞬に、カルサが僅かに苦笑する。とはいえ、彼も言っていたが今はそんな場合ではないのだ。故に、カイトが口を挟んだ。


「申し訳ないが、今は話を進めても?」

「そうだな……っと、話を始める前に。カイト……兄貴はまだ、無事か?」

「……ええ」


 カイトはカルサの問いかけに、懐に大切に仕舞っていた小箱を取り出して一つ頷いた。それに、カルサは僅かに安堵したように吐息を漏らす。


「そうか……まだ、生きてるか」

「ええ……ですが、貴方もご存知でしょう?」

「ああ」


 カイトの言葉に応じたカルサは改めて一つ頷いた。そうして、彼は即座に本題に入った。


「で、お前さんに頼まれていた商人。なんとか保護出来てるぜ」

「今は?」

「手はず通り、だ」


 カイトの問いかけにカルサは手短に報告を開始する。


「奴ら案の定偽の依頼で呼び出して、殺そうとしやがった。ま、おかげでこっちが味方と信じて貰うのは楽に済んだ」

「やっぱりか。情報屋ギルドでその情報を仕入れた時、そう出るだろうと思いましたからね」

「まぁな。俺でもそうする」


 そもそも当時はまだライサもブロンザイトが捕らえられた事を知らないのだ。なのでこの依頼についても何時もと同じと考えており、まさかミニエーラ公国軍が自分を殺しに来るとは思っていない。なので普通に出向いて、危うく殺されそうになったらしかった。

 が、ここらはそこらを先読みして動いていたカイト達だ。カイトからの連絡を受けたカルサが動いて、彼女を救い出したのであった。無論、楽な話ではない。相手は国の暗部だ。商人だから、と安い腕は出していない。移動や隠形を考えた場合、ランクA級の冒険者であるカルサだから、なんとかなったと言ってよかった。


「で、どうするんだ?」

「当然、利用させて貰うつもりです。カルサさん。一度彼女と接触して、エンテシア皇国の証人保護プログラムで保護をしたいと申し出て下さい。受け入れれば、彼女はウチでそのまま保護します」

「わかった。お前さんは?」

「オレは一旦採掘場を偵察してきます。流石に初見で乗り込めるほど、甘くはないでしょう」


 自身の指示に頷いたカルサに、カイトは明日以降の自分の予定を明言する。すでに採掘場の場所は掴んでいる。が、それはあくまでも情報として掴んでいるだけだ。肌身で理解しているわけではない。

 相手の方が兵力は上である以上、綿密な作戦を立てねばならなかった。そうして、彼らはその夜は明日以降の作戦を立てて、眠りに就く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1644話『受け継がれし意志』

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