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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1642話 受け継がれし意思 ――暗闘開始――

 ミニエーラ公国の陰謀に巻き込まれ、強制労働施設に収容されてしまったソラ。彼を救い出すべく行動を開始したカイトは、瞬とユリィの二人のみを連れてミニエーラ公国へと乗り込んでいた。

 そんな彼は到着早々自分達に付けられた尾行から、すでにミニエーラ公国側がブロンザイトの存在を把握した事を知ると、バイエへ向かう定期便に乗り込んだ様に見せて一直線に南へ向かっていた。そうしてブロンザイトが危険と言っていた山にて数度の交戦を経た一同は、一日目を山中の洞窟で過ごすと翌日の昼にはバイエから北にある村にたどり着いていた。


「ふぅ……着いたか」

「こらぁ……珍しい。北門から旅人さんが来るとは」


 やはり北にあるのは危険地帯の山だからだろう。門番は目を見開いて驚きを露わにしていた。


「旅人さん。あんた、冒険者かい?」

「ああ。北の山を越えて来た」

「はぁー……あの山を踏破出来るとはねぇ」


 門番はカイトの返答に驚いた様に北の山を見る。これを越えられるとなると、相当な実力者。そう理解出来たようだ。と、そんな彼であったが一転気を取り直して問いかけた。


「っと、ウチの村に入るのかい?」

「ああ……そうだ。そう言えば村長さんのお宅はどこだ?」

「ん? 何か用事かい?」


 まぁ、おもむろに村長の家がどこか、と聞いたのだ。門番は警戒を露わにして、カイトへと問いかける。それに、カイトは少しだけ事情を明かす。


「ああ……半月ほど前、ここにソラって奴が来なかったか? ブロンザイト殿と一緒に居た冒険者なんだが……」

「そういや……ブロンザイトさんが連れてた奴がそんな名前だったな……」


 カイトの問いかけに門番はそういえばそんな奴が居たな、と思い出す。殆ど話はしなかったが、門番も自警団に所属している関係上先の一件でもブロンザイトとは話していた。なのでその流れでソラとも顔合わせ程度はしており、名前も聞いていたのである。


「オレはそいつの上役……ギルドのマスターなんだ。あいつが消息を絶って、今その足跡を洗い流してる所なんだ」

「へー……っと、それなら、村長に話を聞きに来たって所か。ほら、あの中央の家。あれが村長の家だ。ちょっと前にちょっと事件があってな。色々とごたついてたんだが……今はちょうどそれも収まった頃で、今なら話せると思う」

「そうか。ありがとう」


 カイトは門番の言葉に一つ礼を言うと、そのまま中へと通してもらう。そうして一つ、ため息を吐いた。


「……まぁ、当然か」

「どうした?」

「お出迎えだ。いや、正確には見張りだがな」

「……あそこか」


 カイトの言葉に瞬も気配を読んで、南側の山の山麓からこちらを見ている者が居る事を把握する。僅かに驚いた気配があった為、瞬でもなんとか察する事が出来たようだ。

 無理もない。なにせたった三人だけで、しかもたった一日でミニエーラ公国でも有数の危険地帯を踏破したのだ。強行突破したとしか思えない。とてつもない腕利きと理解したはずだ。動揺は避けられなかったのだろう。


「ああ……ユリィ。少し頼めるか? どうやら、隠密行動は無理がありそうだ。ソラ達の足跡は完全に見張られているんだろうな」

「だねー……」


 どうやら、カイト達が間に合ったのは本当に幸運という所だったようだ。後はゴーサイン一つでブロンザイトの滞在を知る者達の口封じをしようとしていた事だろう。特にこの村の場合、場所が場所なので最悪は魔物の群れに襲われたとでも出来る。


「それに、カイトの場合……」

「だろうな。オレは特に殺しておきたいんだろう」

「だろうねー……まぁ、ご愁傷さまなんだけど」


 なにせ暗殺対象がカイトである。どんな腕利きでも不可能と言われる相手を暗殺しようなぞ、命ぜられた者が只々哀れでしかなかった。とはいえ、だ。降りかかる火の粉は払わねばならぬ。であれば、答えは一つである。


「もう幾許の猶予もないな……」

「急がないと拙いね」

「ああ……ブロンザイトの体調も心配だ。先輩、とりあえずユリィと一緒に村長の家へ」

「わかった……お前は?」

「この見張りを潰す。こちらに交戦の意図あり、を教えてやる」

「……わかった」


 ここからは暗闘だ。瞬はそれを察して、一つ気合を入れ直す。そうしてそれを見届けて、カイトは一気にその場から消え去った。


「「「……」」」

「……」


 消え去ったカイトが次に現れたのは、自分達を見張っていた見張りの背後だ。数は二人。危険地帯に近い事もあり、数は居ない様子だ。多すぎると逆に見つかりやすくなるからだ。と言ってもユリィに補佐を頼んでおいたので、彼らはカイトの偽物をまだ見張っているつもりでいた。


「本隊からの連絡は?」

「まだ返答はない。俺達二人だけで暗殺は不可能だし、本隊の兵力でもあの山を越えられる様な化物とは戦えん。例の商人を助け出したカルサイトも行方を眩ましたままだ。あちらも考えれば、増援が必要だ」


 どうやら、カイトの始末は確定していたらしい。まぁ、ブロンザイトとソラの存在を知っている上、皇国が鳴り物入りで宣伝しているのだ。かなり警戒している様子で、あの強制労働施設が嗅ぎ付けられる可能性をなんとしてもなくしたいのだろう。そんな見張り二人に、カイトが後ろから声を掛けた。


「はぁ……化物は酷いな。まぁ、これだけの力量差なら、化物扱いも仕方がないか」

「「っ!?」」

「よ。オレ、参上ってな」

「っ! 貴様、どうやってここに!?」

「転移術。お前らが見てたのは偽物だ」

「「っ!?」」


 振り向いた自分達の背後に出現したカイトに、見張り二人は背筋を凍らせた。化物なぞでは到底足りない相手。自分達が逆立ちしたって勝ち目は無かった。


「おっと……動くなよ? ま、二人居るんだから、片方殺しても問題はないんで……死にたいなら、動いてくれて良いぜ? 先に動いた方を見せしめで殺してやるからよ」

「「……」」


 陽気な声音に反して声に乗った寒々しいまでの殺気に、見張り達は背筋を凍らせる。抵抗すれば本気で殺すと理解出来たのだ。これは、暗闘。表に出てはならない戦いだ。自分達が捨て駒にされるだろうというぐらい、彼らでなくても理解出来た。


「さて……まぁ、まずはありきたりの話からしようか。なぜ、オレ達を見張っている? 来て早々に見張りとは、ご苦労な事だ」

「……う、上からの命令だ。お前とその仲間を見張れ……そう指示が出た」

「ふむ……嘘は無さそうだな」


 カイトは見張り達に仕掛けた嘘発見器と同じ力を持つ魔術で、嘘を言っていない事を理解する。


「なぜオレ達を?」

「し、知らない。ただお前らを見張れ、と言われて俺とこいつはここに送られただけだ」

「ふむ……」


 どうやら、これも本当らしい。カイト達は正規の手段でミニエーラ公国に入国した。そしてその理由は正当な物である以上、ミニエーラ公国側も拒否は出来なかった。故にロツに降り立った時点で顔写真は撮られているだろうし、定期便に乗っていない事を理解した時点でここにも通達が飛んだ事だろう。


「なんと言われて、オレ達を見張れ、と? まぁ、大方は想像出来るがな」

「こ、こいつらが来たら、報告しろ。そして可能なら……お前らをその……あ、暗殺しろ、って」


 やはり暗殺を命じられていたからだろう。カイトへと告げる瞬間には見張り達は口籠りりながら、大きく震えていた。暗殺を命ぜられていた以上、殺されても文句は言えない。しかも完全に自分達が敗北している状態だ。殺生与奪の権利はカイトにあったと言っても過言ではない。


「ふーん……まぁ、妥当な判断か。オレの事を上には?」

「ほ、報告した」

「まぁ、さっきそう言ってたもんな。さて、どうするかな」


 さて、どうするか。この言葉を聞いた瞬間、見張り二人は自分達に対するカイトの用事は完全に終了した事を悟り、一気に顔を青ざめさせる。


「……一つ、聞いて良いか?」

「な、なんだ……?」

「本隊はどこに居る?」

「こ、この山の二つ向こう……バイエへ向かう道中に待機している」

「なるほど……」


 ここからバイエに向かうには、山道を通るしかない。そして山林であるが故に、見通しは悪い。部隊を待機させておけば、十分に奇襲は可能だろう。無論、相手がカイトやユリィでなければ、という話であるが。


「……良し。じゃ、おやすみなさーい」

「「っ」」


 どうするかを決めたカイトは、ひとまず見張りを二人共魔術で昏倒させる。そうして魔糸を二人の首筋に突き刺した。


「さて……天才魔王様直伝。記憶改ざん開始、と」


 カイトは少しだけ楽しげに、見張り達二人の記憶の改ざんを開始する。この二人を殺すつもりはない。存分に自分の役に立ってもらうつもりだ。そのためには、まず自分と遭遇した事を忘れてもらう必要がある。というわけで、カイトは魔糸を脳に直接繋げて記憶を改ざんするつもりなのである。


「さて……これで良し。オレとお前らは出会わなかった、と」


 所詮、記憶なぞ魔術を使えばいくらでも偽る事が出来るものだ。が、単に偽っただけでは気付かれる可能性はないではない。故にカイトは敢えて魔術でニセの記憶を植え込むだけでなく、海馬に記憶されている記憶そのものを改ざんする事にしたのである。地球の医療知識があればこそ、出来る事だった。


「さて……このまま大脳皮質に蓄えられてる記憶へアクセスして、と」


 敵の操り方は一つではない。魔術で操り人形の様にするやり方もあれば、記憶を改ざんして指示を別の物に書き換えるやり方等様々な物がある。今回、カイトはその指示を別の物に書き換えるやり方を行うつもりだった。


「良し……これで大丈夫だな。ついでなんで地図データも貰っときますよー」


 ひらひらー、と手を振りながら、カイトは呆けたままの見張り達にそう告げる。所詮は敵同士。遠慮は要らない。そうしてカイトは記憶を改ざんすると供に彼らの記憶しているここらの地図の情報を抜き取ると、最後に使い魔を一体その場に潜ませ即座にその場を離れる事にする。


「さて……」


 これで、こちらの思う通りの報告をしてくれるだろう。カイトは転移術で再び村に降り立つと、使い魔を通して送られてくる情報を見ながら僅かにほくそ笑む。

 転移術を行使すると同時に、彼らの脳に突き刺さっていた魔糸は抜いている。今頃彼らは自分達はそのままカイトを監視し続けていたと思っている事だろう。そうして、カイトは首尾を確認しながら村長宅へと入る事にする。


「あ、来た来た。状況、話しといたよ」

「おう、サンキュ……村長さん。はじめまして」

「ええ……貴方が、カイト・天音さんですか?」

「はい」

「シューマンと申します。この村の村長です」


 カイトは差し出されたシューマンの手を握り、挨拶を交わし合う。そうして時間が無い為、即座に話し合いを開始する事にした。


「……なるほど……それで、我が村も……」

「ええ……狙われる可能性は無いではないでしょう。貴方もご存知かと思われますが、ブロンザイト殿の名は決して小さくはない。横のつながりには大国の高級官僚達も多い。彼らがブロンザイト殿が行方不明になったと知れば、動くでしょう。その際、貴方方に居られては邪魔と考えても不思議はない」


 シューマン達はブロンザイト達がミニエーラ公国軍の飛空艇に乗り込んだ事を知っている。その後に消息を絶つのだ。もしその足跡を辿ろうとしたのであれば、ここを調べないはずがない。

 となると、ここで調査をすればすぐに最後にミニエーラ公国軍の飛空艇に乗り込んだ事が分かる。そこを、ミニエーラ公国は消したいのだ。この村も狙われない道理はなかった。そうしてそんな話を聞かされて、僅かに青い顔でシューマンが問いかけた。


「どうすれば良いでしょうか。何かご助言があれば、是非ともお聞かせ願えませんか」

「流石に村一つを消すのなら、いくらミニエーラ公国と言えども即座には出来ません。が、何時か、というのははっきりとは申し上げられません。何分、私は他国の者ですので……」


 こればかりは、カイトにもはっきりとした事はわからない。現状、自分達は可能な限り最速で動いていると思っている。しかし、ミニエーラ公国の軍事行動における速度を知っているわけではない。

 情報屋を通じて情報は集めているが、それでも限度がある。故に彼らにも警告を与えておこう、と考えたのであった。というわけで、カイトは更に続ける。


「一応、ブロンザイト殿の救出の為、なるべく早く動くつもりではあります。が、もし攻め込まれるのが早ければ、即座に東西へ逃げ、その後南のバイエを目指すべきでしょう。ただ、山道は通らない方が良い。先程見張りより情報を抜き取りましたが、どうやら山道はすでに封鎖されている様子です」

「なんと……」


 もうそこまで事態が進んでいたのか。シューマンは驚きで目を見開いた。それに、カイトは安堵させるように告げる。


「……そう言いましても、ここはバイエに近い。奴らとて強硬手段に出るにしても、飛空艇で森や山を焼き払うわけにはいきません。そして貴方方はここで生きている。それに対して彼らは草原を基本とする。山や森の中であれば、貴方方の方に地の利がある。無論、それでも危険には違いありませんが……」

「……それでも、残るよりはマシと」

「ええ」

「……ですが、若者は良いのですが子供や老人は……その、流石に逃げ切れないと思います」


 シューマンはカイトに対して、そう問いかける。そしてもちろん、カイトがこれを考えていないはずがなかった。


「そうでしょう。ですので、逃げるのは健康な大人だけです。子供や老人は全員、地下にあるシェルターに逃げ込み、しっかりと封をなさってください。極小に範囲を絞れば、結界は一ヶ月は保つ。決して、外には誰も出ず、誰も入れず。それを遵守なさって下さい。後は、私がなんとかしてみせます」

「……それなら、最悪の事態だけは避けられそうですか……」


 確かに、カイトの言っている事を守ればなんとかなりそうだ。もちろん、これでも犠牲は出るだろう。が、それでも全滅という最悪の結末だけは避けられそうだった。それ故、シューマンも覚悟を決めて一つ頷いた。


「わかりました。闇夜に紛れて、地下に食料を運び込んでおきます」

「それが良いでしょう。我々も可能な限り、ブロンザイト殿の救出を急ぎます」

「はい……では、ご武運を……誰か、パオロを呼んでくれ。あれに頼みたい事が出来た」


 立ち上がり次のバイエへ向かうべく話を終えたカイトに、シューマンが激励を送る。そうして、カイトは即座に手配に入ったシューマンを尻目に、村長宅を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1643話『受け継がれし意思』

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