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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1638話 受け継がれし意思 ――動く――

 ソラがミニエーラ公国の暗部となる強制労働施設に捕らえられ、およそ半月。その頃になり、ミニエーラ公国公王は強制労働施設にブロンザイトが捕らえられた事を把握する事となっていた。

 そこで出された結論は、ひとまずどの程度の者がブロンザイトがミニエーラ公国に入っていた事を知っているのか、という調査を行えという事であった。そうして、ミニエーラ公国がブロンザイト達の足跡の洗い出しを開始して、一週間。その動きは大凡、外に伝わるレベルになっていた。


「……動きやがったか」


 そんな動きを把握していた者が、ここにも居た。ブロンザイトの弟であるカルサだ。彼はというと、実はまだバイエに滞在していた。これに不思議はない。元々彼はバイエから南にある村の知人の依頼を受け来ていたわけであり、依頼の達成後は暫くの疲れを癒やすべくバイエに滞在するという事だったのだ。

 なので表向きは、そのままバイエに滞在して療治を取っている事になっていた。無論、すでに半月が経過している。長いと思う者は居るが、時折肩慣らしと銘打って外には出ていた。


「さて……ここからが、俺の仕事ってぇわけなんだが……」


 カルサは自分が懇意にしている情報屋からの情報が書かれた紙を手に、一つ気合を入れ直す。当然であるが、彼はブロンザイトの性格を理解している。故にバイエに帰るはずだった彼が戻らずそのまま公都ミニエーラに入った、というミニエーラ公国の報告なぞ一切信じていなかった。


「あの小僧も兄貴も面倒な事を言ってくれるぜ、ったく……」


 カルサは楽しげに、兄とカイトの言葉を思い出す。そうして、彼はその力に見合った覇気を纏った。


「あいっかわらず面白い事をさも酒飲み話みたく簡単に言いやがる……国一個相手取って戦うだぁ……? 正気を疑うぜ」


 これが兄やカイトの言葉でなければ、カルサは正直正気を疑っただろう。が、それを言った人物が賢者と謳われる兄と、伝説の勇者だ。前者は兎も角、後者は本気でやりかねない。というより、彼の場合は目的の為なら、本当に国一つ転覆させるのだ。本当にやるだろう。


「が……そうじゃねぇと、面白くねぇよなぁ……」


 カルサは覇気を纏ったまま、歩き始める。そうして、彼は彼でソラ達の救出に向けて動き出す事になるのだった。




 さて、カルサやカイト達が動き始めた一方、その頃。遂にヒューイ達にその存在を知られる事となったソラ達はというと、彼らは彼らでなんとか脱出に向けて動きを進めていた。

 が、やはりこちらは見張られている関係がある。なので準備は牛歩の如くゆっくりと、といった所であった。とはいえ、中ではすでに捕らえられ36ヶ月もの月日が流れていた。なのでその成果もゆっくりとだが出始めていた。


「ふぅ……」


 採掘を進めながら、ソラはめぼしい鉱石を見付けてはそれを回収する。基本はこの繰り返しだ。そしてここが非合法かつ不正がまかり通っている場所である、という事がある。故に物々交換によりある程度の物資は調達出来た。


「良し。これで目標数達成、かな……」


 ソラは回収した魔法銀(ミスリル)の破片を小袋に入れて、一つ頷いた。脱出に向けて本格的に動き出した彼らがまず手始めに始めた事は、回復薬の調達だ。

 脱出の際に戦闘が起きないとは誰も考えていない。そして装備は相手が圧倒的に上だ。であれば、最低限回復薬だけは潤沢に貯め込む必要がある、というのがブロンザイトの指示だった。そして今、彼はなんとか、その目標数に必要な量の回収を終えたのである。


「さて……」


 目標数を入手するのに必要な鉱石を回収出来たソラはそこで一度、手は止めずに次に向けた工程表の様な物を思い出す。流石は賢者ブロンザイトという所だろう。綿密に幾つもの段階を踏んで、脱出を目指す計画だった。


(まず第一段階。回復薬の調達。お師匠さんに無理させない為にも、って決めた余剰分を含めて、とりあえず俺はノルマ分の確保完了、と……)


 良し。ソラは第一段階の達成をしっかり噛みしめる。ブロンザイトも本来は回復薬に関するノルマがあるのであるが、これについてはコンラートとソラが頼み込んで、グスタヴを含め三人で負担する事になっていた。

 やはりブロンザイトは老体という事がある。虜囚の生活というのは彼には厳しいものがあり、気丈には振る舞っていたもののここ当分は動きに精細さを欠いており、無理が見え隠れしていた。あまり無理はさせられない、と考えたのである。


「……ソラ。どした?」

「あ、いや……とりあえず終わったって感じでさ」

「そうか」


 コンラートはソラの言葉を聞いて、彼の分のノルマが終了した事を把握する。当然だが、彼もソラが魔法銀(ミスリル)を回収していた所は見ていた。なので終わった、という単語を出された時点で採掘の仕事ではなく回復薬のノルマが終わった、と理解していた。

 とはいえ、明言していないし、出来ないのだ。なのできちんと相互理解が取れている事を確認する為に、この後の符丁の様な物を決めていた。


「まぁ、俺も良い塩梅に採掘出来たから、持ってく事にするか」

「おう」


 コンラートの言葉に、ソラもまた応ずる。これが符丁だ。応じればノルマが終わった。応じていなければ勘違い。そしてソラが応じた事によって、ノルマが終わった事が確認出来たというわけだ。

 そうしてソラはコンラートと共に今まで採掘出来たノルマ分の輝鉄鉱(きてっこう)を一輪車に積んでトロッコに持っていく最中、次について見直していた。


(次は……人か)


 ソラはブロンザイトに言われた事を思い出す。確かに彼らは脱出を目指しているが、それをまともにやっても無理である事は分かっていた。まず第一に手足と首に嵌められている枷がある。

 この所為で彼らの現在の身体能力は一般人より少し高い程度でしかない。兵士を相手にして勝てる道理は一つもない。なので脱出の際には混乱を起こして、その混乱に乗じて逃げる事になっていた。が、その為には高度な連携と混乱を起こせるだけの人手が必要だ。


(ここからが一気に難しくなるって話だよな……つっても、って話なんだけど……)


 当然の話であるが、ここは非合法の強制労働施設である。なので連れて来られた者の中にはソラ達の様に騙されたり無理やり連れて来られた者は少なくない。そして劣悪な環境だ。何かしらの不満を持っている者だけしか居ない、と言っても過言ではない。人手を集める事には困らない。

 とはいえ、だ。これを簡単に出来るかというと、そんなわけがない。人が増えればその分情報の露呈の危険性が増す。なのでこれについては、ソラというか彼以下採掘に携わる三人は動かない事になっていた。


(お師匠さんとトリンが、こっちはやってくれるんだよな。じゃあ、俺はって話なんだけど……)


 第二段階については、ブロンザイトとトリンに任せるしかない。ソラは自分より遥かに人を見抜く目に優れた二人を信頼し、一切関わらない事を決める。とはいえ、逆に彼らには彼らの得意分野を担う事がブロンザイトより指示されていた。


(俺達が次にする事は、武器や防具の調達。それと、訓練……更に俺は、こいつか)


 ソラはあのC棟の反乱の日から少しして、ブロンザイトよりある事を教えられていた。それを、彼は思い出す。


『ソラ。実はのう。お主は一つ武器を持っておる』

『武器、ですか? こいつじゃなくて?』


 ブロンザイトの言葉にソラはベッドの下に隠しているツルハシを示しながら問いかける。それに、ブロンザイトは一つ頷いた。


『うむ、違う……お主の剣じゃ。最後に昏睡させられる直前。儂は最後の最後に、なんとかあれを隠す事に成功してのう』

『剣? そんな物があるんですかい』


 笑うブロンザイトの言葉に、コンラートが目を見開いた。現状、武器が無くともソラよりコンラートの方が強い。それこそ武器があれば、枷を外す事は不可能ではなかった。そうなれば脱出も不可能ではないのだ。が、これはコンラートには使えない物だった。


『いや、コンラート……これはお主には使えぬよ』

『じゃあ、もしかして……』

『うむ。隠したのは、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>。お主の本来の相棒じゃ。お主、最後の戦いの時にもあれを使わずに終わったじゃろう?』

『そういえば……そうですね』


 ブロンザイトの問いかけに、ソラは随分と昔になってしまった堕族と化した『熊の帝王(エンペラー・ベア)』との戦いを思い出す。

 あの時、彼は結局<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の準備をしつつも最後は<<嵐神の一撃(スサノオ)>>で仕留めた為、神剣は耳に装着したイヤリングの中に仕舞ったままだった。


『じゃろう? で、お主。そのままイヤリングの中に仕舞ったままじゃったじゃろう』

『あ……あ、あははは……』


 ブロンザイトの問いかけに、ソラが恥ずかしげに頷いた。本来の彼なら使っていた片手剣が壊れた以上はこちらを出すのであるが、あの時は戦いが終わった直後にミニエーラ公国軍が来て飛空艇に乗り込んだ。

 なので出す必要はないか、とそのままイヤリングに入れっぱなしにしてしまっていたのである。迂闊といえば迂闊だが、逆にこのおかげで見付からずにすんだ、とも言えた。


『あれに魔術を掛け、そのまま見付からぬ様にしてのう……コンラート。ソラのイヤリングがどんな物か、お主見破れておるか?』

『いえ……今言われるまで、一切気が付きやせんでした』

『と、いうわけじゃ。『無冠の部隊(ノーオーダーズ)』謹製のイヤリングに、儂が偽装を施した。この施設の者共もこれが武器を仕舞っておるとは露とも思うまいな』


 驚いた様子でソラのイヤリングを見るコンラートを見ながら、ソラは自らの右耳に装着されているイヤリングに触れてみる。が、反応はしなかった。当然だ。これは魔道具。魔力がなければ中の物は取り出せない。


『……でも、お師匠さん。これ、魔道具なんで枷が嵌められたままじゃどうにも出来ないですよ?』

『うむ……それが、問題じゃ。それをなんとかせねばならん。まぁ、それについては追々考える事にしよう。手が無いわけではないからのう。今出来る方法でも不可能では無いが……そうなると後々面倒になりかねんのでのう』


 吸魔石の枷が嵌められている状態でも魔道具を起動させる方法がある。やはり賢者は賢者という所らしく、あまりの発言にトリン以外の三人が思わず目を丸くしていた。


『というわけで、じゃ。その為にもまずは第一段階を突破せねばならん。次の事は次にたどり着いてから、しっかりと考えるべきじゃ。今は、目の前の事をコツコツと行っていくしかあるまい』


 遠くまで見通し、同時に直近の事にもしっかりと目を当てる。ブロンザイトはそう語っていた事をソラは思い出す。


(確か……回復薬を使って魔道具を起動させる、んだっけ)


 これはソラは知らない事であったが、回復薬を使えば魔道具の起動は出来るそうだ。そもそもの話として回復薬というものは高濃度の魔素が溶け込んだ液体だ。こちらは液体に溶け込んでいるからか、吸魔石に影響されにくいらしい。というより、影響が出るのなら回復薬での治療も難しくなる。出来ているのだから、何をか言わんやだ。

 と言っても、流石にここで手に入る回復薬の濃度では魔道具を起動させるには至らない。なので濃縮させる必要があり、そうなると色々と準備が必要になるそうだ。それを作るにせよ手に入れるにせよ、どちらにせよ脱出の際の戦闘で必要と思われる回復薬より更に多くの回復薬を入手する必要が出るらしかった。


「こっからは、とりあえずお師匠さんと相談だな」


 とりあえず第一段階は突破したのだ。であれば、次に考えるべきは第二段階と第三段階を如何にして突破するか、だ。となると、まずなすべきはブロンザイトとの相談だろう。と、そうして再び作業に戻ろうとした所で、唐突にトリンの声が響いてきた。


「ソラ!」

「ん? トリンか。どした、んな慌てて……」

「お爺ちゃんが!」


 慌てた様子のトリンが、ソラへとつい先程起きた事態を語る。そうして、それを聞いたソラはコンラートと共に大慌てで精錬所を目指す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1639話『受け継がれし意思』

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