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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1636話 受け継がれし意思 ――遠くでの戦い――

 ミニエーラ公国の強制労働施設に収容され、そこで輝鉄鉱(きてっこう)の採掘を行わされていたソラ。カイト達が行動を開始した時点で、彼が強制労働施設に連れて来られ異空間の中では半年の月日が経過していた。

 そんな中彼はブロンザイトより様々な事を学びながらなんとか生き延びていたわけであるが、そんなある日の事。彼は唐突な鐘の音で目を覚ます事となる。


「なんだ!?」


 けたたましい鐘の音で目を覚ましたソラが飛び起きると同時。部屋のほぼ全員が目を覚ましていた。というわけで、ソラは現在部屋の取りまとめを行っているに等しいブロンザイトに、指示を仰ぐ。


「お師匠さん」

「うむ……何が起きているかはわからぬが……少なくとも、尋常ではないと言ってよかろうな」


 この鐘の音は朝の到来を告げるものではない。時計の無いここでは詳細な時間はわからないが窓の外は暗く、朝はまだ遠そうではあった。と、ブロンザイトに更にコンラートが問いかけた。


「お師匠さん……ろうそく、点けますか?」

「……いや、やめておいた方が良かろう。状況が見えん。迂闊に起きておる事を示す必要はあるまい。が、状況は調べねばなるまい」

「わかりやした……グスタヴ。お前、まだ耳は衰えてないな?」

「ああ……暗がりだが、踏まないでくれよ」


 コンラートの求めを受けたグスタヴは床に横たわり、耳を当てる。床を伝って周囲の音を聞こうというのである。こういった技術は力を封ぜられようと、問題なく使える。そうしてそれを見届けて、ブロンザイトは更に指示を飛ばす。


「うむ……コンラート、ソラ。お主らは扉の両側に立て。が、迂闊には出るな。万が一誰かが押し入ろうとした場合、防げ」

「「はい」」


 もし脱出の機会があるのであれば、これを機に脱出を目指すべきだろう。そんなブロンザイトの指示に、二人は頷いて扉の両側に立つ。と、そうして暫くの間待っていると、床に耳を当てて周囲の状況を確認していたグスタヴが口を開いた。


「……これはこの棟じゃないな。他の所の動きが活発じゃない」

「そうか……二人共。扉から離れよ。押し入られる事はあるまい」

「脱出は目指さない、と?」

「うむ」


 コンラートの問いかけに、ブロンザイトは一つ頷いた。そうして、彼はその理由を語る。


「全員、耳を少し澄ませよ」

「「「……」」」


 ブロンザイトの指示に、一同が耳を澄ませる。すると、どこか遠くで誰かが戦っている様な音が聞こえてきた。


「これは……戦闘音?」

「うむ。方角と距離から鑑みて、おそらくC棟じゃろう」

「……そうみたいだね」


 ブロンザイトの言葉を聞きながら外を見ていたトリンが一つ、頷いた。


「分かるのか?」

「うん……随分と派手にやってるみたい」

「……」


 トリンの返答を聞いたコンラートは、窓へと近づいて行き外を確認する。確かに爆発が起きている様な事は無かったが、それでも目を凝らしてみれば暗がりの中にかなり頻繁に人の往来が確認出来た。以前彼が見たB棟での蜂起の時と同じ様子だった。


「……魔術は使ってないな」

「おそらく、前の時と同じくなるべく隠すつもりなのじゃろう。前は確か脱走者が出たと言ったんじゃったな?」

「へい……脱走者が出たので鐘を鳴らしたというのが、奴らの言い分でした」

「今回もそうするじゃろう。グスタヴ。近くに来る足音があれば、即座に報告せよ」


 コンラートの言葉にブロンザイトは一つ頷いて、更にグスタヴへと指示を出す。それに彼が無言で頷いて、再度床に耳を当てた。と、即座に彼は顔を上げる。


「……奴ら、もう来てやがる。数は三。スリーマンセルだ」

「ふむ……歩速はどうじゃ?」

「……足早……だが、走ってる感はない。何時もより少し早い程度だ」

「ふむ……」


 グスタヴの報告を受け、ブロンザイトは険しい表情を浮かべる。が、即座に彼はグスタヴへ告げた。


「グスタヴ。一旦、顔をあげよ。見られるのは拙い。お主も踏まれたくはあるまい」

「おう」


 ブロンザイトの指示を受けて、グスタヴが即座に地面から跳ね起きる。そうして、更に彼の指示が続く。


「コンラート。窓の外はそのまま見続けて良い。奴らとて不審には思うまい。トリン、お主は……言う必要はあるまいか」

「へい」

「うん。わかってるよ」

「うむ……さて、ソラ。お主には万が一の場合、儂の身の安全の確保を頼む。例のあれは……」

「大丈夫です。しっかり、確保してます」

「頼む」


 最後に指示を出されたソラは一つ頷いて、自身のベッドの下に隠してある壊れたツルハシを何時でも取れる様に布団に隠しておく。

 当たり前であるが、この壊れたツルハシはラフィタを通して手に入れたものではない。ツルハシの先端には金属が取り付けられていて、十分に武器になるものだ。まぁ、先端は砕けて本来の用途では使い物にならないが、なんとか手を加えて戦いに耐えられる程度には加工出来ていた。

 これをどうやって手に入れたのか。これは偶然、手に入れられたものだった。先に言われていたが、ここでは何度か重大事故が起きている。その際にこのツルハシも事故に巻き込まれ、それを事故の混乱に紛れてソラとコンラートが協力して入手したのである。

 と、そんな準備が終わった所で、扉が唐突に開いた。入ってきたのはもちろん、巡回の兵士達だ。彼らは揃って警戒した様子で、何時でも腰の剣を抜ける様にしていた。


「……」

「何か、用事ですか?」

「脱走者が出た。人数を確認する」


 ブロンザイトの問いかけに、兵士達は真剣な目で人数を確認していく。そうして部屋を見回して、トリンが居ない事に気が付いた。


「一人、二人、三人、四人……一人足りないぞ。あの弱っちい小僧はどこに行った」

「トリンなら、そこにおります。あまり驚かさないでやってくだされ」

「……」

「ひっ!」


 努めて下手に出るブロンザイトの言葉を受けた兵士が、トリンの布団を強引に剥ぎ取った。そうして彼が怯えた様な声を出したのを見て、興味なさげに布団を投げ捨てる。

 無論、トリンのこれは演技だ。基本的に彼はこの強制労働施設では臆病者で通っている。その彼が落ち着いて行動していれば、不審に思われるだろう。何時かの時の為にも、今はまだ演技を続けるべきだった。そして兵士達もトリンは臆病者と分かっている為、特に気にしないでスルーしたというわけだ。


「……五人確認。問題無し。おい、次だ」

「「「了解」」」


 人数を確認出来た以上、長居をするつもりはないらしい。兵士達は一つ頷くと、踵を返して部屋を後にする。と、そうして部屋を出ていく直前、巡回の兵士達の中で一番偉いらしい兵士がドスの利いた声で告げる。


「貴様らも変なことを考えるなよ。脱走しようとすれば、問答無用で殺すからな」

「わかっております」


 兵士達に対して、ブロンザイトは一つ頷いた。それを背で聞いて、兵士達は出ていった。そうして、外から鍵が掛けられる。何時もは利便性と手間の問題――朝に逐一一つ一つ解錠しないといけない為――から使われないが、こういう風に脱走者が出たり反乱が起きたりすると使われるのであった。

 そうして部屋に鍵が掛けられたのを音で聞き届け、ブロンザイトはグスタヴへと無言で一つ頷いた。それを受け、グスタヴは即座に地面に耳を当てた。


「……」


 暫くの間、全員が沈黙したままグスタヴからの報告を待つ。そうして少し。グスタヴが一つ安堵した様に顔を上げた。


「……遠ざかった。今は三つ向こうだ」

「ふむ……外には?」

「いや、残ってない様子だ。何も聞こえない」


 ブロンザイトの問いかけにグスタヴが一つ請け負った。まぁ、どう考えても今起きているのは脱走ではなく反乱だ。兵士達の大半はC棟に掛り切りだろう。一つ一つの部屋に人員を配置出来る状況ではないだろう。そうして安全が確認出来た所で、コンラートが険しい顔のブロンザイトへと問いかけた。


「……で、お師匠さん。どうされたんですか?」

「むぅ……もう少し待て。聞かれる可能性はなるべく無くしたい」


 どうやらブロンザイトには何かがわかっているらしい。それを受け、一同は暫くの間待つ事にする。そうして、グスタヴが再度顔を上げた。


「……五つ先に消えた。多分、大丈夫だ」

「ふぅ……皆、もう良いぞ。現状じゃ。帰ってくる事は考えにくい。無論、見回りは続こう。が、入ってくる事はあるまいて」

「「「はぁ……」」」


 ブロンザイトの言葉に、全員が肩の力が抜く。そうして一息ついた所で、彼は再び口を開いた。


「おそらく、この反乱は予めバレておったじゃろうな」

「そうなんですか?」

「うむ」


 ソラの問いかけに、ブロンザイトは一つ頷いた。そうして、彼はその理由を告げる。


「兵士達の動きがあまりに早い。にしては、慌てた様子も無かった。わからぬか? 普通、唐突に反乱が起きればもっと慌てるものよ」

「あ……」


 そういえば、とソラも思い出す。確かに兵士達は警戒していた様子であったが、焦った様子は見受けられなかった。彼らは確認事項を確認すると、それだけで足早に立ち去っていったのだ。これは明らかに可怪しいと言い切れた。


「例えば、トリンの応対。焦りやいらだちがあれば、おそらくもっと暴力的な物になろう。そしてこれを機に脱走をしよう、という者はおろう。が、奴らはベッドの下なぞ隅々まで確認もしなかった。であれば、よ。奴らは人の出入りをつぶさに観察しておったと見るが妥当よ」

「なるほど……全員がここに居る事が分かっていて、更には別の部屋の奴が入ってないのが分かってるから、って事ですか」

「うむ。おそらく、事が起こる少し前に密かに監視をしておったと見える」


 ソラの言葉に頷いたブロンザイトは、更に推測を述べる。そしてこれは事実だった。この間ヒューイとアビエルが話していたのは、この反乱の事だ。彼らはこれを敢えて起こさせる事にしていた。

 であれば、他の棟に波及しない様にしっかり監視していても不思議はなかった。そんな二人の会話を聞いて、コンラートは改めて窓の外を窺い見る。


「ってこたぁ……」

「うむ……おそらく、万端の状態で事に臨んでおろう。首謀者等も全て把握した上、と考えて良かろう」

「「「……」」」


 見えた反乱の末路に、一同は揃って顔を顰める。この反乱を何故起こそうとしたか、というのは彼らにはわからない。が、準備万端で起こさせられた事はわかった。であれば、待つのは敗北という結末だけだろう。と、揃って顔を顰めたソラがブロンザイトへと問いかける。


「でも、なんでそんな事を?」

「うむ……これは推測じゃが……おそらく前の反乱を隠す為、じゃろう」

「前の反乱を隠す為に反乱を……?」

「うむ。前の反乱、あれはおそらく本当に突発に起きた物であろう。コンラート、どうじゃ」


 ソラの疑問に頷いたブロンザイトは、当時を知るコンラートへと問いかける。それに、彼は一つ頷いた。


「へい。おそらく、ですが……思い出せば、前の時はもっと蹴破る様に部屋に入ってきてました。点呼ももっと荒々しかった」

「で、あろうな。死傷者も今とは比較にならぬほどに多かろう。此度の事件の死傷者に、その死傷者を紛れ込ませるつもりよ」

「ということは……」

「うむ。これは反乱を討伐する為ではなく、鎮圧する為と考えて良かろう。捕縛を重視しておるじゃろう。これはC棟の者には幸いな事に、と言うべきかもしれん」


 この異空間の中での半年前に起きた蜂起で減った人員はまだ完全には回復していない。どうしても外と内の時間経過の差から、補給は少ないのだ。これが前回の一件の偽装工作であれば、そこで大規模に殺してしまっては本末転倒だろう。流石にあまりに多くなってしまうと、上も訝しむ。


「が、しかし……ふむ……」


 一同に状況を教えながら、ブロンザイトは一つ訝しむ。ここら、やはり各棟で連携が取れないというのが痛い所といえば痛い所と言えた。そんな彼に、ソラが問いかける。


「どうしたんですか?」

「……コンラート。お主、確か色々と伝手を持っておったな?」

「へい……まぁ、長く居ますんで……」


 外だとまだ数ヶ月しか経過していないが、この中では年単位で居るのだ。となると、必然として知り合いは多かった。


「少々、調べて欲しい事がある」

「へい、なんでしょう」

「この棟におる者の中に、他国の軍人はおらんか調べてくれ」

「他国の軍人ですか?」


 ブロンザイトの要請にコンラートが首を傾げる。それに対して、ブロンザイトは一つ頷いた。


「うむ……この半年の間に増えた人員はさほどではない。にしては、反乱まで短い。おそらく、首謀者は儂らと共に捕まった冒険者であろう。が、あれ一人でなんとかなるとは思わぬ。おそらく、何か組織だって動ける者がおると考えられる。それを調べて欲しい」

「わかりやした」


 確かに長く居るとはいえ、それでもコンラートとて全てを知っているわけではない。それに今まで生きていくだけに精一杯で、調べようと思ったのはブロンザイトらが来てからだ。本格的に脱出を目指すのなら、知らねばならないと彼も思った。そうして、僅かな脱出の手がかりを得た彼らは脱出に向けて密かに動き出す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1627話『受け継がれし意志』

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