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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第75章 ソラの旅路 土に還る編

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第1628話 受け継がれし意思 ――虜囚――

 少しだけ、時は進む。ソラが何者かによって眠らされて一ヶ月。カイトはその頃になり、教国とも皇国とも違うとある国にやってきていた。


「誰だ!」

「エンテシア皇国マクダウェル領冒険者ユニオン所属のギルド・冒険部ギルドマスター、カイト・天音だ。珠族が族長の兄、ブロンザイト殿の依頼により、彼らに加勢するべく来た」

「「「……」」」


 何故そんな男がここに。カイトの武名はどうやら、大陸の逆側にまで届いていたらしい。まぁ、当然だ。彼はその名もあって皇国が鳴り物入りで喧伝したのだ。知らない方が可怪しい。それ故に、周囲が騒然となる。そんな彼は一切の容赦なく敵を睨みながら、馴染みの者へと手を挙げた。


「よ」

「カイト……?」

「随分と男前度が上がったな」


 気軽げに笑うカイトの言葉に、ソラらしき人物が眼を丸くする。ソラらしき。いや、これはソラで間違いない。が、ソラにあった幼さが消え、今はもう青年と言って良い見た目になっている。


「詳しい話や色々な話は後だ。ここはオレがなんとかする。お前は一度あの丘の裏にある陣に入れ……由利とナナミが待ってくれてる。無事な顔と……イケメンになった顔を見せてやれ」

「うっせ!」


 聞きたい事や言いたいことは山程ある。が、そんな全てを置き去りに、ソラは今成すべき事があった。恋人が来ているというのだ。そして前には最強の男(カイト)

 なら、何をすべきかはわかりきった話だった。そうして彼が恋人の下へと急ぎ駆け抜ける一方、カイトはソラの後に続く様に横を通り過ぎようとしたトリンに、声を掛けた。


「……大体は、わかってるか?」

「……はい。そういう事、なんですね?」

「ああ……君にも預かっている物がある。陣地で受け取ってくれ。それと、悪い。ソラにそれを伝え忘れた。あいつにも渡してやってくれ。君なら、大凡理解出来るだろう」

「はい」


 再会したトリンからは何時ものおどおどとした様子が消えていて、その代わりにカイトがかつての戦争の折りに見た師に似た強い意思が感じられた。そんな彼らを横目に、カイトは一人殿を務める事にする。


「……さぁ、今回は裏の話だ。オレが思いっきり暴れまわっても問題はないんだが……今回の主役は、オレじゃねぇんでな。主役が来るまで、ちょっとオレと踊ってくれや」


 カイトは単騎、数百は下るまい敵の姿を見据える。高々、数百。飛空艇も数隻居るが、その程度がなんなのだ、としか彼には言えない。その程度で突破出来るほど、彼は甘くない。そうして、カイトがソラ達がやって来た方へと駆けていく。


「……」


 始まった戦いを、ソラは冒険部が臨時に設置したテントの中で把握していた。そんな中で、ソラは由利と再会した。


「ソラ……?」

「由利……」

「ソラくん……?」

「ナナミも……」


 何度となく、彼女らに会いたいと思った。ソラはわずかに涙がこぼれそうになるのを、抑えられなかった。が、その由利が手を伸ばしたソラに対して、思いっきり顔をそむけた。一方のナナミもナナミでソラの変貌に戸惑っていたのか、困惑気味だった。


「え、あ、うん……」

「え、ちょっ!? 何!? どしたの!?」

「い、いや、その……」


 再会した由利に真っ赤になって照れられ、ソラが思わず驚き慌てる。そうして見たナナミもナナミで、真っ赤だった。


「あ、ごめん……えっと……その、かっこよくなってて……」

「う、うん……ご、ごめん。ちょっと直視出来なかった……」

「っ!」


 真っ赤に顔を染めた二人に言われて、ソラが真っ赤になる。久方ぶりにあった恋人からかっこよくなった、と言われたのだ。仕方がないと言って良い。そうして戦場の片隅でわずかに甘酸っぱい空気が流れるが、そこに咳払いが一つ響いた。


「ごほん! ソラ。良いかな?」

「お、おう……トリンか。どうした?」

「カイトさんから、これをって」

「これは?」


 トリンから渡された片手で包み込めるほどの小さな小箱をソラは受け取る。そうして、中を開いた。そこに入っていたのは、翻訳用のイヤリングに取り付ける装飾具だ。


「イヤリング?」

「翻訳用のイヤリングに付ける装飾だよ」

「これは……」


 トリンの言葉を聞きながら、ソラは木目の様な重厚感のある石のイヤリングを見る。ベースはダークブラウン。ソラにもこれが何かは、わかった。そしてトリンもまた、分かっていた。それ故、彼はこの鉱石の名を告げた。


「……ブロンザイト」

「……やっぱか」

「……うん。おじいちゃんがこれを、って」

「……」


 トリンよりブロンザイトの嵌められたイヤリングを受け取って、ソラは一度眼を閉じて今までの事を思い出すのだった。




 時は戻り、睡眠薬により眠らされて少し。ソラが目覚めた時、彼は質素なベッドの上に居た。


「う、うぅん……ふぁ……ふぁー……」

「起きたな、新入り。どうだ、目覚めは」

「は?」


 見知らぬ男の声に、ソラが思わず跳ね起きる。そうして周囲を見回した彼は、周囲が一切見覚えの無い部屋である事を理解する。


「ここ……は……」

「ここか? ここはミニエーラ公国の秘密採掘場のA棟。お前の部屋だ」


 困惑を隠せないソラに対して、先の男がどうでも良さげに教えてくれる。その声に、ソラは男の方を向いた。


「あんたは……」

「俺か? 俺はグスタヴ・ラベリ。お前と同じく、国軍のクソどもに捕まってここで働かされてる奴だ」

「国軍?」


 目覚めたばかりのソラには、グスタヴというらしい男の言っている事が理解出来なかった。そんな彼は更に周囲を見回して、ブロンザイトとトリンの二人が居ない事に気が付いた。


「……っ! お師匠さん! トリン!」

「? ああ、トリンってとあのちびか。ってことは……お師匠さんはあの爺さんか」

「……何か知ってんのか?」


 警戒しながら、ソラがグスタヴに問いかける。現状、何がなんだかさっぱりわからない状況だ。彼が敵かもしれないのだ。迂闊に信用するわけにはいかなかった。


「ああ……まぁ、その様子だとなーんも分かってねぇか」


 何がなんだかさっぱり分かっていない様子のソラに、グスタヴが笑う。そんな彼を、ソラは改めてしっかりと観察する。

 背丈はおよそ170~180センチ。体格は筋肉質。髪は短く刈り揃えられている。髪色と目の色は共に茶色。年齢はおよそ二十代半ばという所だろう。着ている物はかなり質素で、ソラが見た所品質の悪い麻という所だった。と、そこでソラは自分も同じ服を着ている事に、気が付いた。


「あれ?」

「あははは。意外と鈍い奴だな。お前、捕まったんだよ。詳しい事は知らねぇけどな」

「捕まった……?」


 ソラはグスタヴに言われ、今までの事を思い出す。そうして、薬で眠らされた事に気が付いた。


「っ」

「ははは。どうやら、思い出したようだな。ああ、国軍の救出とか期待してるんだったら、無駄だぜ? ここはなにせ公国が運営してるんだからよ」

「……そういや、ここはどこなんだ?」


 訳知り顔のグスタヴへと、ソラが問いかける。まぁ、捕まった事についてはまだ良い。睡眠薬を盛られた事を思い出した時点で彼もそうだろうな、と理解していた。が、ここがどこで誰が捕らえたのか、というのはさっぱりだった。


「さっきも言っただろ? ここはミニエーラ公国が運営してる秘密鉱山だって」

「秘密鉱山?」

「ああ……お前、輝鉄鉱(きてっこう)って聞いた事あるか?」

輝鉄鉱(きてっこう)?」


 ソラは聞いた事の無い物質の名に、首を傾げる。そしてその様子で、グスタヴもソラが知らない事を理解した。


「知らねぇか。まぁ、俺もここに連れてこられて初めて知ったからな。しゃーないか」

「お、おう……」

「お前、見た所冒険者だよな? そんなどでかい錠前付けられてんだ。かなりの腕利きだろ?」

「錠前?」

「首だ、首」


 グスタヴは首を傾げたソラに、自らの喉元を指し示す。彼の首には首輪が取り付けられていた。それに、ソラも首に手を当ててみると同じぐらいの大きさの首輪が取り付けられていた事に、気が付いた。


「なんだ、これ?」

「吸魔石の首輪だよ。俺達が逃げ出さない様にな」

「吸魔石の……?」


 吸魔石。それは軍や警察が冒険者らを捕縛する為に使われる物だ。そうして、そんな首輪に手を当てたソラへと、グスタヴが更に教えてくれた。


「基本は両手足だけなんだがな。首輪を付けられんのは元冒険者か、特殊な異族だけだ」

「特殊な異族?」

「爺さん……お前の言ってたブロンザイトって奴みたいな種族って事だ。特殊なコアを持ってる奴」

「ああ、そういう……」


 ブロンザイトを例に出され、ソラはなるほど、と一つ頷いた。彼の種族は胸のコアを本気で使えばかなりの出力を出せるらしい。と言っても、胸のコアを本気で使う事はほぼ死を意味するらしく滅多には使われないそうだ。


「ま、そういうわけでな。お前さんも首輪付けられてたから、冒険者じゃねぇかって読みだ」

「……ああ。ってことは、あんたもか?」

「ああ。元々、ここの事を調べてたんだが……下手打って捕まっちまって、このザマさ」


 やれやれ。グスタヴは肩を竦め、ため息を吐いた。なお、後に聞く所によると、この首輪の大きさはその者の本来の実力に応じて変わるらしい。なのでソラと同程度の首輪を嵌められていた彼はソラと同程度、というわけなのだろう。


「ま、そりゃ良い。なら、お前さんも冒険者なら、防具か武器のどっちかに刻印刻んだ物を使ってただろう」

「あ、あぁ、そりゃ、まぁ……」


 グスタヴの改めての問いかけに、ソラははっきりと頷いた。冒険者であれば魔道具は一つは持ち合わせる物だ。そもそも彼の鎧は魔術的な刻印が刻まれているし、それ以外にも貰った魔道具の幾つかには当然の様に刻印が刻まれている。刻印を知らない方が可怪しいと言えた。


「その刻印を刻むのに使うのが、この輝鉄鉱(きてっこう)って物さ」

「へー……どうやって使うんだ?」

「知らねぇよ。言ったろ? 俺も捕まったって」

「お、おう……」


 呆れた様なグスタヴの言葉に、ソラが思わず頷いた。それとこれとは話が別な気がしないでもないが、当人がそう言う以上は知らないのだろう。

 なお、後にトリンからソラが聞いた所によると、この輝鉄鉱(きてっこう)をペン先に近い形状に特殊な加工を施して、使うそうだ。その加工の際に発光する事から、輝く鉄鉱石という意味で輝鉄鉱(きてっこう)と呼ばれているそうだ。基本的な特性としては鉄に似ているらしい。と、そんな頷いたソラに、グスタヴが笑った。


「で、そりゃ良い。お前が重要なのは、お前がこれから何をするべきか、って所だ」

「お、おう……」

「取り敢えず、ついて来いや。お前と一緒に来た他の二人はもう作業に入ってるからな」


 何がなんだか相変わらずさっぱりなソラであるが、兎にも角にも現状を知る為にもグスタヴに従う事にする。そうして、彼は今己が置かれた現状を認識するべく、どこかの部屋を後にする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1269話『受け継がれし意志』

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