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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第74章 ソラの旅路 ミニエーラ公国編

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第1625話 ミニエーラ公国 ――堕族討伐戦――

 バイエの北にある村に襲いかかった『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の一体。それはバイエに来る前にソラ達が交戦した『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の群れを率いていた長であった。それはソラ達に仲間を殺された恨みか、それとも自身に致命傷を負わせた事による怒りか、堕族と呼ばれる状態に陥っていた。

 それを受けたブロンザイトの指示により、ソラはまずは村から『熊の帝王(エンペラー・ベア)』を引き離す事になり、彼の指示に従って『熊の帝王(エンペラー・ベア)』を村から少し離れた山中の開けた場所への誘導に成功していた。

 そうして、十数秒ほどの交戦の後、ソラは遅れてやって来た討伐隊の面々と合流。本格的な討伐戦を開始する事になっていた。


「おし! そのまま押さえられとけ!」


 ソラを押し潰さんと両腕に力を込める『熊の帝王(エンペラー・ベア)』に対して、大剣を持った冒険者が背後から斬りかかる。そうして放たれた剣戟に対して、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は一切防ぐ動作を見せなかった。それどころか、避ける動作さえしていない。一直線にソラしか見ていなかった。


『GUGYA!』

「よっしゃ! おぉおおおお!」


 避ける動作もせず、防ぐ動作もしていないのだ。故に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は背後から大剣の強烈な一撃を受け、僅かに体勢を崩す。それを、ソラは逃さなかった。即座に両腕に力を込め、僅かに屈み、全身をバネの様にして飛び上がる様に一気に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の腕を押し戻した。


「ふぅ……」


 『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の巨大な両腕を押し戻したソラは、即座にバックステップでその場を離脱。そうして支えを失った『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の両腕が地面へと叩きつけられ、再び小さくない地揺れが起こった。


「って! まじかよ!」


 『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が地面に両腕を叩きつけた直後。その勢いを利用して、飛び上がる様に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』はソラへと突進を仕掛ける。無論、いつもの様に地面をしっかり踏みしめているわけではない。

 が、それでもこのタイミングでのタックルは彼も想定外だった。防御も回避も間に合いそうになかった。とはいえ、だ。幸いな事に彼は一人ではない。故に即座に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』へと横合いから強力な一撃が叩き込まれ、軌道を逸らす。


「すんません!」

「きぃーつけろ! 堕族と戦うのは初めてか!?」

「すんません、初めてっす!」


 戦った事がないのなら、それをはっきりと申告する。それは冒険者においても重要な事だ。故にソラは一切の迷いなくそれを申告する。それを受け、一撃を叩き込んだ冒険者が軽く教えてくれた。


「奴らは自分の損害や疲れを知らねぇ! 攻撃を受けたから、って止まってくれると思うなよ! それどころか、怪我を負えば負うほど、力を増す事だってある! 最後の一瞬まで気を抜くな!」

「うっす!」


 スーパーアーマー持ちってことか。ソラは堕族について簡単にそう理解しておく。別に詳しく知る必要は今は無い。今理解しておくべきなのは、攻撃を受けても止まらないという事だけで十分だ。


「よし……」


 冒険者の言葉を受け、ソラは一度気合を入れ直す。受けてみてわかったのは、堕族と化した『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の力は以前に戦った時より二回りほど力が増していた。防ぐだけで精一杯と言える。故に、彼は神剣の行使は頭の片隅にして今は防御に専念する事にして、吹き飛ばされた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』をしっかりと観察する。


(あの黒いモヤみたいなのが、堕族の証ってわけなんだよな……)


 まずソラが着目したのは、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の身体を覆い尽くす漆黒のモヤだ。一見するとここ暫く彼らが何度か戦っている邪神の眷属にも似ている。

 が、あれがどこか禍々しい様相を呈するのであれば、こちらは禍々しいというより寒々しい。身の毛もよだつ、とはこの事だ。当然だろう。あれが曲がりなりにも神の力なのに対して、こちらは殺意や殺気という生の感情だからだ。


(確か……堕族になった際に出せる力ってのはそいつが本当はどれだけの力を出せるか、ってのに依存するんだっけか)


 ソラはこの旅路でブロンザイトより貸してもらった学術書に書かれていた内容を思い出した。あくまでもこれは学術書なので戦闘方法や注意点を書いていたわけではないが、知識はあって損はない。そしてこれについては戦闘にも影響する事だ。知っておくべきだろう。

 なお、これについてはカイトを考えればわかりやすいだろう。彼が堕龍と戦った際、彼は堕族に堕ちた。その際、彼は本来は勝ち目の無い堕龍と相打ち――当人は認めないが――にもつれ込んでいる。

 相手も堕族である以上、出力等の上限は上がっているのだ。それと互角に戦った以上、その時の彼の戦闘力は、今に勝てないまでも十数年前のコア移植後に匹敵する領域にはあった。勝ち目が無い状態からの互角だ。上昇率はこの『熊の帝王(エンペラー・ベア)』なぞ目でもない領域と言ってよかっただろう。


(この程度ってのは幸運と思うべきか)


 ソラは総合的に考えて、そう判断する事にする。伸び率が低いという事は、それだけ彼らにとって勝ち目があるという事だ。元々ランクAの魔物に匹敵していたのがランクA領域と言い得る様になっただけだ。最後の壁を越えていない以上、勝ち目は十分にあった。


「ふぅ……」


 自分一人なら勝てないが、この程度の相手なら仲間が居る以上負ける事はない。それを理解したソラは、抱いていた恐れを深呼吸と共に吐き出した。危険だが、恐れる必要はない。それを理解したら、後はそうするだけだ。そうして、そんな彼の見ている前で『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は体勢を立て直し、一つ吼えた。


『GAYAAAAAAA!』


 遠くまで響き渡る様な咆哮が、山中に木霊する。そして、直後。再び『熊の帝王(エンペラー・ベア)』がソラへ向けて突撃した。


「『オーバーブースト・リミットブレイク・ゼロコンマファイブセカンド』」


 落ち着いて戦えば、勝てるのだ。であれば、ソラはゆっくり落ち着いて対処する事にする。そうして彼の鎧が再度黄金に光り輝き、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』と激突する。


「ぐっ!」

「やるな、小僧! おぉおおおお!」


 『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の突進を食い止めたソラに冒険者の一人が称賛を送り、更に吼えて大剣を上段に構える。彼は今回の戦いにおいて主力の一人で、ソラより上のランクAの冒険者だった。今回の戦闘では如何に彼の攻撃を命中させるか、が肝要となっていた。

 とはいえ、流石に堕族となった『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の力は目を見張る物があり、彼の全力の一撃でも一撃で仕留める事は出来ない様子だった。


『GAAAAAAAAAAAAA!』


 そんな大剣士の一撃であるが、上段に構えたと同時に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が再び雄叫びを上げる。これに大剣士は思わず一瞬だけ身を固め、同時にソラも思わず身を固めた。


「っ!」

「ちぃ! しくったか!」


 身を固めたソラに対して、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は一気に押し込んできた。そしてその直後に大剣士の一撃が放たれるも、すでにその場に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は居なかった。

 その一方のソラは一気に押し込まれていたが、そんな彼を支援する様に複数の魔術師達によって、光の縄が編まれて投ぜられる。


「っ! 馬鹿力!」

「ひっぱら……れる!」

「おぉおおおおお!」


 苦悶の表情を浮かべる冒険者達の声を横に聞きながら、ソラが雄叫びを上げて更に力を増す。それでなんとか、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の進撃を食い止める事に成功した。

 今回の討伐隊の内訳であるが、ソラ達三人を含めて十人となっている。この内、戦闘が可能なのはブロンザイトとトリンを除く八人だ。その内訳は、主力となる大剣士が一人。森の探索という事で弓を使う狩人が二人、万が一の結界を展開する為に魔術師が三人。更にソラと同じ盾持ちが二人だ。

 この内、ソラより上のランクAなのは大剣士と盾持ちの片方。ランクBは魔術師に一人と、ソラのみとなる。この戦いではそれをベースに戦略を考える必要があった。


「ふぅ……」

『ソラよ。聞こえるか?』

『お師匠さん?』


 なんとか拮抗状態に持ち込んだソラの所に、ブロンザイトの念話が響く。これにソラは身体をしっかりと地面に固定しながら頷いた。


『聞くだけで良い。今見る限り、この敵には生半可な一撃は通用しまい。が、お主がおるせいで、生半可な一撃しか叩き込めぬ』


 そうだろうな。ソラは拮抗状態に持ち込んでいる『熊の帝王(エンペラー・ベア)』と押し合いを行いながら、ブロンザイトの言葉に同意する。今も単に押し合いを演じているだけに思えるが、実際には魔術師達がソラの補佐として縄で動きを縫い止めているし、大剣士や弓兵達が攻撃を仕掛けている。

 が、どうやら黒いモヤに阻まれ、有効打を与えられずにいた。しかも悪いのは、基本彼らが攻撃を仕掛けられるタイミングがソラと押し合っているタイミングだけという所だ。

 彼が邪魔になっている所為で、強力な一撃を叩き込めないのだ。とはいえ、居ないなら居ないで動きを止められない。にっちもさっちもいかない様子だった。


『お主なら、有効打を叩き込めよう。とはいえ、何か策を練らねばならぬが……』

『俺なら?』

『うむ……』


 ブロンザイトは苦い様子だ。どうやら、彼としてもここまで強いとは予想していなかったらしい。どうしても堕族となった後の強さは想定が不可能だ。一応、流石にランクSまでは到達しないだろうと見込んで戦略も立てていたが、その最悪のパターンとなっているに等しかった。


『神剣を使うしかあるまい。それか、それに類する強大な一撃を』

『……』


 確かに、それならもう俺しかいない。ソラはブロンザイトの言葉に納得する。ソラは基本アタッカーではないので攻撃力は低いが、<<嵐神の一撃(スサノオ)>>や<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>であれば有効打に成り得るだけの攻撃力がある。

 どちらもソラの特異性に起因する物で、彼が切り札として保有しているものだ。当てられれば、なんとかなる可能性はあった。特に後者であれば、その本気の一撃は大剣士の攻撃力を一瞬だが上回れる可能性は高い。が、そのためには彼が攻撃出来る隙を生み出さねばならない。非常に厳しい条件と言い得た。


『おそらく、タイミングは非常に難しい物になろう。余力を残せ』

『はい』


 おそらく、精神を研ぎ澄ませその一瞬を狙う必要があるだろう。ソラはそれを理解し、ブロンザイトの指示に頷いた。故に、彼は僅かに肩の力を抜く。

 体力や魔力については、回復薬さえ飲めばなんとかなる。が、集中力だけは、休まない限りどうにもならないのだ。なら、精神を消耗しない様にしなければならなかった。


「おぉおおお!」


 ソラは雄叫びを上げ、再度敵を押しのける。何時までも押し合いを演じていてはいざという時の魔力を消耗してしまう。それに何より、堕族を相手に力比べはあまりに分が悪い。倒れるまで止まらない敵と、疲れれば力が落ちるこちらだ。しかも相手の方が格上だ。遠からず、こちらの負けである。


「ふぅ……」


 ソラは『熊の帝王(エンペラー・ベア)』を押しのけその場を離脱すると、大きく後ろに飛び退いて回復薬を口にする。<<嵐神の一撃(スサノオ)>>を使うか<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を使うかは決まっていないが、どちらも魔力を大量に消費する。回復せねばいざという時に困る事になる。

 と、そんな彼を支援する様に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』と彼の間に割り込んでいた盾持ちの冒険者へが、思い切り吹き飛ばされた。


「っ!」

「大丈夫か!」

「ああ! なんとか、な!」


 追撃を防ぐ様に間に立ち塞がったまた別の盾持ちの言葉に、吹き飛ばされた冒険者が頷いた。が、そんな彼の額は切れており、滴り落ちた血で左目が塞がっている様子だった。


「ぐっ!」


 立ち塞がった冒険者であるが、彼は実力としてはソラより一つ下。壁越えを果たしていない領域だ。その彼で堕族と化した『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の一撃を防ぐ事は、厳しかった。

 故にソラが魔力の回復を待つ数秒の間に受けた数発で防御の上から大きく吹き飛ばされる事になった。その身を守っていた盾は大きなひび割れが生じており、左腕も変な方向に曲がっていた。幸いブロンザイトとトリンが致命打とならない様に補佐してくれているので勢いはすぐに減衰しなんとか停止出来たが、即座の復帰は難しいだろう。


「っ」


 苦い顔で、ソラは己を見る『熊の帝王(エンペラー・ベア)』とにらみ合う。この後の押し合いを考えればできればもう一本飲んで更に魔力を回復させたい所であるが、そうも言ってはいられない。故に彼は回復薬を口にするだけ口にして、回復薬の入っていた小瓶へと魔力を込めて投げつけた。


『GYAAAA!』

「来い!」


 <<魔素爆発マナ・エクスプロージョン>>により炸裂した爆発をうざったげに払い除けた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』に対して、ソラは再度しっかりと地面を踏みしめる。と、そうして『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が地面を蹴った瞬間だ。上空から無数の魔弾が降り注いだ。


『GYAaoOOOOO!』

「なんだ!?」


 さすがの『熊の帝王(エンペラー・ベア)』も上空からの砲撃は予想出来ていなかったらしい。しかも地面を蹴った直後であった事もあり、思いっきり上から押さえ付けられる様に地面に叩きつけられていた。それに、ソラが上を見ればそこに居たのは二隻の飛空艇だ。側面には、ミニエーラ公国の紋章があった。と、そんな彼へと、ブロンザイトが指示が飛んだ。


『ソラ! 今じゃ!』

「っ!」


 ブロンザイトの言葉に、ソラは今こそが絶好の好機だと理解する。そうして、彼は砲撃を掻い潜りながら『熊の帝王(エンペラー・ベア)』へと肉薄。地面に押し付けられた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の顔へ、左腕を突きつけた。


「<<嵐神の一撃(スサノオ)>>!」


 ソラの口決と共に、爆発が起きる。そうして地面が大きくめくれ上がり、土煙が舞い上がった。


「やったか!?」


 大剣士の声が響く。そしてそれと同時に、爆発の衝撃を敢えて殺さずにいたソラが土煙を切り裂いて吹き飛ばされて出て来た。


「どう……だ?」


 ソラの一撃を見て魔導砲の砲撃も止んでおり、土煙が舞い上がるのみとなった爆心地をソラは伺い見る。と、次の瞬間だ。ゆっくりと何かが起き上がった。


「マジ……かよ……」


 そこにあったのは、頭部が完全に失われた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』だ。<<嵐神の一撃(スサノオ)>>の一撃は確かに、その頭部を跡形もなく吹き飛ばした。

 が、それでもまだ、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は生きていた。無論、すでに瀕死だ。顔を失った以上、何も見えていない。が、それでもソラには己に殺気が向けられている事を、本能で理解した。


「……おぉおおおお!」


 思わず呆気に取られるソラに対して、大剣士はやはり彼以上の冒険者という所だろう。雄叫びと共に総身に力を漲らせると、一気に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』へと突っ込んでいく。それに、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は敵意の矛先をそちらに向けた。どうやらソラがどれかはもうわからないらしい。そうして、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の巨腕が振るわれる。


「っ」


 やはり頭部を欠いているからだろう。その一撃は今までより随分と遅く僅かに頬にかするも、大剣士はそれを回避。その懐に潜り込んで、再び彼は吼えた。


「おぉおおおお!」


 雄叫びと共に、大剣士が全力の魔力を込めた一撃を『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の残る胴体部分へと叩き込む。そうして閃光が巻き起こり、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の残る胴体も完全に消滅するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1626話『ミニエーラ公国』

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