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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第74章 ソラの旅路 ミニエーラ公国編

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第1624話 ミニエーラ公国 ――戦略的撤退――

 ミニエーラ公国にて湯治を行うことにしていたソラは、その最中に受けた急報によりバイエから北にある村にて現れた村を襲ったという魔物の退治にやって来ていた。そんな彼は北の村にて翌日からの捜索に備えて眠りに就くも、早朝に危機を告げる鐘の音により目を覚ます事となる。そうして彼は北門付近への魔物の到来を知ると、ブロンザイトの指示を受け討伐隊と別れ、一人南門から外に出ていた。


「……」


 ソラは周辺の木々に紛れ村を大きく迂回しながら、北の門を目指して歩いていく。どうやら、肌身に感じる圧力の通り相当な激闘になっているらしい。爆炎が幾度も舞い上がっていた。


「やべぇな……動物達が一匹も居ない……」


 堕ちた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の影響だろう。ソラは周囲に一切の野生動物達が居ない事に気が付いた。そしてそれだけではなく、魔物の一匹も居ない。結界の側だから、と完全に生命体が居なくなる事はまず無いのだ。それが起きているということは、相当な事態が起きているに他ならなかった。


「<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>は……良し」


 ソラは己の切り札となる神剣がしっかりと異空間の中に収納されているのを見て、一つ頷いた。流石に彼の技術では異空間に収納する事は出来ない。なのでこれはもちろん、からくりがある。そのからくりは、彼の耳にあるイヤリングの装飾品にあった。

 これは異空間を擬似的に創り出す魔道具で、少量であればすぐに取り出せる様になるそうだ。実際にはこのイヤリングに収納されているに近いらしい。今回の様にすぐに取り出せる様にしておかねばならない場合に備えて、ブロンザイトが与えたのである。


「ふぅ……」


 歩きながら幾つもの装備を確認したソラは、敵までおよそ200メートルほどの距離にたどり着いて、一度立ち止まる。幸い村の周囲は山林で直線的な視界は悪く、気付かれる要因は無い。ここで一度しっかりと準備を整えて、作戦開始だ。


「良し」


 一度深呼吸をして精神をしっかり研ぎ澄ませたソラは、一つ頷いて気合を入れる。そうして、一気に駆け出した。


「<<風よ>>! おぉおおお!」


 雄叫びを上げながら、ソラは風の加護を展開する。そうして一気に200メートルを駆け抜けた。


「っ!」


 200メートルを駆け抜けたソラが見たのは、ボロボロの討伐隊の面々と一匹の巨大な四つん這いの魔物だ。見た目としては、ソラが以前に遭遇した『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の群れの長に似ている。

 が、その体躯からは黒いモヤの様な物が溢れ出しており、威圧感も以前に見た物とは比べ物にならないほどだった。そんな巨大な熊に似た魔物に、ソラは思わず背筋が凍った。明らかに、今の彼では太刀打ち出来ない領域だった。


『GUUUUAAAAAA!』


 気付かれた。ソラは明らかにこちらを向いて大きく吼えた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』に、それを理解する。そうして、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が一直線に彼へと駆け出した。


「小僧! 作戦は聞いてる! お前は逃げろ! 足止めなんかは全部、こっちでやってやる!」

「頼んます!」


 声を荒げた討伐隊の隊長の言葉に、ソラは一つ頷いて一度しっかりと足を踏みしめる。『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は木々を薙ぎ倒しながら、こちらにやって来ている。そして速度であれば、あちらの方が上だ。背後から攻撃を食らいたくないので、一度足を止めさせるつもりだった。


「『リミットブレイク・オーバーブースト・ワンセカンド』! 良し、来い!」


 この相手に油断は死を招く。本能的にそう察していたソラは、一切の迷いなく鎧の機能を全開にする。そうして、彼の鎧が黄金に光り輝き赤いラインが入る。そして、直後。衝突の一瞬前にソラは準備していたそれを起動した。


「<<輝煌装(きこうそう)>>! ぐっ!」


 おそらくアフリカゾウが本気で激突すれば、こんな衝撃を感じるんだろうな。そう思うほどに大きな轟音と衝撃がソラへと襲いかかる。

 が、流石は<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>技術班謹製の鎧という所だろう。おそらくランクAでも上位に位置するだろう堕族と化した『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の全力の突進を、彼はなんとか受け止めきれた。


(これ……無理!)


 が、受け止めていたソラの内心は非常に苦味に満ちあふれていた。基本カウンター戦法を使うソラにとって、敵の突進を受け止めた直後というのはまさに絶好の好機だ。

 なので今回も狙えるのならカウンターを叩き込むつもりだったが、あまりの衝撃に自分では僅かな隙が死を招くと理解したのだ。彼の持つ手札の中でも最大の防御力を誇る<<輝煌装(きこうそう)>>を使って、この衝撃だ。生半可な威力ではないと察するには十分だった。そんな彼へと、討伐隊の隊長が声を掛ける。


「小僧! 意識はあるな!」

「うっす!」

「上出来だ!」

「良し! こっちは任せて!」


 ソラの無事を確認した討伐隊の面々が即座に彼の支援に入る。そうして、敵の動きを阻害する魔術が幾重にも渡って展開され、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の体躯を地面へと縫い付けた。


「っ! わかっちゃいたけど!」

「こいつ、馬鹿力にもほどがあるだろ!」

「さっきより明らかに力が増してる!」


 どうやら、ソラが標的となるだろうというブロンザイトの推測は正しかったらしい。後の討伐隊の面々曰く、ソラを見付けた瞬間から威圧感が格段に増したという事だ。とはいえ、今は耐えねばならなかった。


「すんません! 少し頼んます!」


 討伐隊の面々に足止めを依頼したソラは、一目散に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』から背を向けて走り出す。そしてそれと同時に、ブロンザイトとトリンが向かった方角に閃光弾が打ち上げられた。


「あれか! <<風よ>>!」


 ブロンザイトはトリンに合図を上げさせる、と言っていた。であれば、これこそがその合図なのだろう。ソラはそれを理解して、そちらへと一気に駆け出した。

 なお、後にトリンに聞けば、これはライサが馬車の中で売っていた信号弾だそうだ。下手に『熊の帝王(エンペラー・ベア)』を刺激しない様に、ソラや討伐隊の面々のみが見える様に調整されていたのである。


『GAAAAAAAAAAAAA!』

「っ! もうかよ!」


 駆け出して、数秒。ソラは背後から轟いた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の雄叫びに、足止めが終了した事を理解する。そしてその直後。再度木々をなぎ倒す轟音が聞こえてきた。と、そんな彼へとトリンから念話が響いた。


『ソラ! 聞こえる!?』

「おう! 舌噛むから、あんま話せないけどな!」

『それで良いよ! もし木々の中に黄色の手ぬぐいが見えたら、そこに魔法陣が埋まってる! それを起動させて! 数秒ぐらいは足止めになるはずだよ! 起動の仕方は剣を突き立てて、魔力を通すだけで良い!』

「……あれか!」


 トリンからの情報に、ソラは一瞬だけ周囲を見回す。すると、明らかに人為的に括り付けられたのだろう黄色のハンカチが枝に括り付けられていた。それを目印に、ソラは一度立ち止まる。


「ふぅ……」


 ソラは一度深呼吸して、タイミングを見計らう。そうして数秒後。木々を薙ぎ倒し、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が現れた。『熊の帝王(エンペラー・ベア)』は数瞬周囲を見回してソラを見付けると、再度猛烈な勢いで駆け出した。


「ここだ!」


 ソラは魔法陣に魔力を通すと同時に、バックステップで距離を取る。そして、その直後。『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の周囲から何本もの光の縄が放たれて、その巨体を締め上げた。


「良し!」

「小僧、まだ生きてんな!」

「うっす!」

「良し! なら、行け!」


 ソラは討伐隊の隊長の言葉を背に、再び地面を蹴る。向かう先には再度信号弾が上がっており、そちらを目指せという事なのだろう。そうして、これを繰り返す事数度。ソラの所へ再びトリンから念話が入ってきた。


『ソラ! 次が交戦地点! 開けた場所だから、すぐに分かるよ!』

「おう!」


 やっと最後か。ソラは何度かの交戦を経て、村から随分と離れた事をようやくここで理解する。そうして再び風の加護を使い駆け抜ける事、少し。トリンの言った通り、開けた場所へとたどり着いた。


「ここか!」

『ソラ。聞こえるな?』

「お師匠さん!?」

『うむ。儂とトリンは姿を隠しておる。お主はその場の中心に立て。儂とトリンで補佐をする』

「はい」


 響いてきたブロンザイトの指示を受け、ソラは開けた場所の中心へと移動する。そうして数度深呼吸をして呼吸を整え、耳を澄ませた。


(……来てるな)


 耳を澄ませるまでもなく、ソラの耳には木々や岩を薙ぎ倒して突き進む『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の進軍の音が聞こえていた。どうやらソラの匂いは完全に覚えられたらしい。足取りに迷いがなかった。


「<<輝煌装(きこうそう)>>! さぁ、来い!」


 敢えて挑発する様に、ソラは声を大にして宣言する。そして直後に木々を吹き飛ばして『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が現れ、そのままの勢いで何度目かになるタックルを彼へと叩き込んだ。


「ぐっ!」


 『熊の帝王(エンペラー・ベア)』のタックルの衝撃が、ソラへと襲いかかる。が、ブロンザイトとトリンの二人の支援があったからか、先程までより随分と衝撃が弱かった。それ故、ソラはこれなら行けると判断し、思い切り総身に力を漲らせる。


「おぉおおおお!」


 雄叫びを上げながら、ソラは左手で『熊の帝王(エンペラー・ベア)』をかち上げる。どれだけ力を増そうと、所詮は5メートル強の体躯だ。魔力の補佐がある冒険者なら、それぐらいの重量を持ち上げる事は造作もない事だ。

 もちろん、押し合っているこの現状なので吹き飛ばす事が出来るわけではないが、それでも相手を押し戻すぐらいは出来た。


「らぁ! <<走追閃(そうついせん)>>!」


 がら空きになった胴体へと、ソラは横薙ぎに一撃を叩き込む。流石にこの距離だ。ほぼゼロ距離と言っても過言ではなく、防御も回避も出来ぬままに斬撃を叩き込ませる。が、それは堕族と化して更に力を増した『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の障壁を打ち砕く事は出来なかった。


「っ! これじゃ無理かよ!」


 山道の時はこれでもなんとかなったんだがな。返ってきた手応えに、ソラは顔を顰める。『熊の帝王(エンペラー・ベア)』であれば、バイエに到着するまでに何度か交戦していた。長と戦った事もある。そしてその全てに、この攻撃は有効だった。が、どうやらこの一撃では無理らしい。となると、ソラが可能な攻撃の手は限られる。


「っ」


 どうするか。それを逡巡したソラであるが、そんな彼へと両手を挙げる形となっていた『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が丸太の様な両腕を振り下ろす。その爪の巨大さと鋭さ、そこに込められた魔力の莫大さは、間違いなく大木だろうと一刀両断にしてしまえるだろうほどだ。


「<<輝煌装(きこうそう)>>!」


 振り下ろされる両腕に対して、ソラは迷いなく盾を上に上げて衝撃に備える。そうして、直後。彼の盾へと『熊の帝王(エンペラー・ベア)』の魔爪が襲いかかり、その衝撃は彼を伝い一気に地面へと伝わった。


「ぐっ!」


 どごん、という轟音と共に、ソラを中心として地震が起きて巨大な凹みが生まれる。その衝撃たるや、遠くの小鳥達が飛び去ったほどだった。

 <<輝煌装(きこうそう)>>は動けなくなる代わりに、絶大な防御力を得る(スキル)だ。そしてこの動けなくなる、という効果には副次的に衝撃を受け流す効果もあった。故に彼に襲いかかった衝撃の大半は地面に受け流され、この様な結果となったのである。そしてそのおかげで、ソラはほぼダメージを負う事なく次の行動に入れた。


『GUGAAAAAA!』

「ぉおおおおお!」


 そのままソラを押しつぶそうとでも思っているのか、全体重を乗せて力を込める『熊の帝王(エンペラー・ベア)』に対して、ソラもまた雄叫びを上げて拮抗状態を生み出す。

 そうして、数秒。力と力のぶつかり合いが生じたわけであるが、『熊の帝王(エンペラー・ベア)』が一体に対してソラには仲間が居る。故に、その瞬間。杖で地面を叩く音が響いた。


「なんだ?」


 唐突に自分と敵を包み込む様に生まれた半透明の球体に、ソラが思わず瞠目する。そんな彼へとブロンザイトから念話が飛んだ。


『敵の力を減衰させ、味方の力を増大させる特殊な結界じゃ。展開するのに些か時間が掛かるが……』

「お師匠さん」

『ソラ。もう少し堪らえよ。もう数秒で、他の面々も来る』

「うっす!」


 ブロンザイトの指示に、ソラは再度気合を入れ直す。ブロンザイトの言う通り、彼の手に掛かる力は先程より随分と弱く感じられた。そうして、その数秒後。討伐隊の隊長と共に、討伐隊の面々が現れた。


「小僧、まだ生きてるな!」

「うっす! でもキツイっす!」

「そんだけ言えれば十分だ! 良し! 俺達も行くぞ!」

「「「おぉおおおお!」」」


 討伐隊の隊長の号令と共に、討伐隊の面々が一気にブロンザイト達の作った結界の中へと突っ込んでいく。そうして、本格的な討伐戦が開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1625話『ミニエーラ公国』

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