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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第74章 ソラの旅路 ミニエーラ公国編

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第1621話 ミニエーラ公国 ――北の村――

 ラグナ連邦における事件の疲れを癒やす為、ミニエーラ公国と呼ばれる小国の北部にあるバイエという温泉街へとやって来ていたソラ。休暇も二日目に入り釣りをしていた彼の所にもたらされたのは、バイエから北にある村が魔物に襲われたという報せだった。

 それを受けバイエの長の家にて対策会議が行われたわけであるが、その結果、討伐隊を率いる事となったブロンザイトにソラは同行する事となる。そうして、対策会議から一夜明けて翌日の朝。ソラは今回は完全武装での出立となっていた。


「ブロンザイトさん。全員、出立の準備出来ました」


 バイエ所属の冒険者達の統率を取る事になる冒険者が、ブロンザイトへと報告する。当然だが、ソラは統率を取る事はない。今回、彼はブロンザイトの直接的な護衛が任務となっており、基本的な討伐についてはこの彼らが執り行う事になっていた。ソラにとってここらは未知の場所だ。それに対して、彼らはここらを中心に活動している。当然の判断と言えただろう。


「うむ。では、向かう事にしようかのう」

「はい。取り敢えずは北の村へ?」

「うむ。まずは北の村で話を聞かねばなるまい……ライサ。身体は、もう良いのか?」

「はい。まぁ、まだ戦えはしませんが……逃げる程度なら問題なく」


 ブロンザイトの問いかけにライサが一つ頷いた。今回、彼女も案内人として同行する事になっていた。荷物もそのまま北の村に置いてきたという話だし、山中では彼女の鼻は有用だ。更には獣人なので逃げ足もなんとかなる。怪我についてはまだ頭の包帯は取れていないが、それ以外は回復薬のおかげで回復しているそうだ。


「うむ……では、行くか」

「はい……じゃあ、全員出発だ! 敵はかなりの強さが想定される! 何時、どこで遭遇するかもわからん! 十分に注意しろ!」


 ブロンザイトの号令に合わせて、討伐隊の隊長が号令を下す。そうして、討伐隊は北の村で現れたという魔物を討伐するべく、北へ向けて出発する事になるのだった。




 討伐隊がバイエを出発しておよそ四時間。一同は早めの昼食を食べながら、ひとまずの休息を得ていた。流石に今回は人数が人数だったし、何より完全武装の冒険者達だ。

 故にライサの様に数時間で北の村まで踏破、という事は難しく、およそ1.5倍の所要時間を見込んでいた。なので休憩の意味を含めて、昼食は道中で食べざるを得なかった。


「ふむ……」

「お爺ちゃん」

「む?」

「どうしたの、昨日からずっと……」


 食事を食べながらも何かを考えているらしいブロンザイトに対して、トリンが問いかける。彼は何かが気になっているらしく、ずっと考えっぱなしだった。


「ふむ……少々、気になる事がある。思い過ごしであれば良いが……」

「気になる事?」

「うむ……まぁ、その場合にも備えた戦力は整えておるが……むぅ……」

「何か分かるの?」

「いや、わからぬ。今はまだ情報が少ない。単なる勘、と言うた方が良かろう」


 トリンの重ねての問いかけに、ブロンザイトは一つ首を振って遠くの北の山を見る。何度か危険と言われていた山が、そこにはあった。


「あれから降りてきた……って所?」

「それも、あり得る。可能性の一つとして危惧はしておかねばならぬ」


 ブロンザイトはトリンの言葉に頷いて、図鑑に視線を落とす。やはりどんな所でも危険地帯になればなるほど、情報は少なくなる。なので彼の持っている図鑑にも、あの山の魔物の詳細は殆ど掲載されていない。カルサも危険と知って近づいておらず、あの山の魔物が何らかの理由で降りてきているのであれば、かなりの難敵が予想された。


「……」


 それも、あり得る。ブロンザイトの物言いから、トリンはそれが危惧の最大の要因でない事を察していた。が、確かに情報が足りないという言葉も事実だ。故にトリンも黙する事にする。


「これからどうする?」

「……取り敢えず、村に向かわねばならぬのは事実。が、そこからは目撃証言を洗い直すしかあるまいな」


 今回、ライサは村の男衆が複数殺された事で村長の求めを受け、一目散にこちらに来ていた。そして情報についてもまだ完全に確かとは言い得ず、不確かな物も多い。そういった内容をきちんと洗い直し、正確な情報を得る必要があった。


「……」


 もし、そうなら。図鑑を見ながら食事を摂るブロンザイトは、危惧している事が現実にならない様に僅かに願いを込める。が、こればかりは流石にやってみないとわからない。というわけで、彼はなんとか少しでも危険を減らせるようリサーチを続けながら、再出発する事になるのだった。




 さて、一同が休憩を終えて再出発し、北の村に着いたのは15時という所だ。出発したのが朝の9時、昼に一時間休憩を取った為、大凡5時間程度動いていた計算だ。幸い魔物の襲撃が少なく、到着は予定より少し早かった様だ。

 そうして到着した一同を出迎えたのは、北の村の村長だった。彼はブロンザイトを見るなり、目を見開いて驚きを露わにしていた。


「これは……ブロンザイト殿」

「シューマン殿。お久しぶりですな。再会がこの様な場となり、遺憾ではありますが……」

「いえ……まさか貴方様が来てくださるとは……誠に感謝致します」


 シューマンというらしい村長はブロンザイトの哀悼の意に対して、頭を下げて感謝を示す。そうしてひとまずの挨拶を済ませた彼は改めて連れてきた冒険者達に指示を出す。


「皆は一度、休息を取れ。シューマン殿。皆を休ませたいのですが……場所をお借りしても?」

「はい……村の外れに、小屋があります。あちらをお使い下さい」

「ありがとうございます」

「良し! 持ってきた荷物なんかを下ろして、今日はしっかり休め! 場所は俺が案内する! ついてこい!」


 ブロンザイトの視線を受けた隊長が連れてきた冒険者達の案内を開始する。彼は腕もさることながら、この村にも何度か来た事があったらしい。真っ先に志願したとの事だ。そこらを見込まれ、今回の総隊長となったらしかった。

 ブロンザイトが全体の指揮を担うのなら、彼は実働部隊の責任者と言う所だろう。というわけで、彼に従って冒険者達が小屋とやらに向かっていった一方、ブロンザイトはソラを紹介しておく事にする。


「シューマン殿。トリンは覚えておいでですかな?」

「ええ……そちらは?」

「こちらはソラ。儂が今、とある縁で迎えております弟子の一人となります。トリンの弟弟子という所です」

「なるほど……ソラ殿。シューマンと申します。この村で村長をしております」

「あ、ソラ・天城です。一応、冒険者なんですが……今はお師匠さんの所で教えを受けています」


 ソラはシューマンより差し出された手を握り、合わせて自己紹介を返す。


「そうですか……お若いのに勉強熱心で素晴らしい事です」

「ありがとうございます」

「はい……では、ブロンザイト殿。こちらへ。我が家へ案内致します」


 ソラの感謝に一つ頷いたシューマンは改めてブロンザイトに向き直ると、村の中心にある彼の家へと三人を案内する。その道中、ソラは少し周囲を見回してみた。


「……基本的には、狩人達の村って所か」

「うん。狩猟と山菜、近くの川で採れる川魚なんかで生計を立ててる村だね。自警団は土地柄もあって、周囲の村に比べて一段は上の実力を持っているよ」

「……確かにな」


 ソラは周囲を注意深く警戒する狩人や自警団の男達を見て、トリンの言葉が正しい事を理解していた。狩人達の視力はおそらく、冒険部の平均的な弓兵に勝るとも劣らないだろう。

 無論、視力が良いだけで戦闘力が高いとは言い難いが、それも重要な要素である事は確かだ。更には自警団の面々も土地柄しっかりと鍛えているのか、治安の良い村の自警団より数段上の実力はあっただろう。ミナド村の自警団で比較すれば、一人一人がコラソンの一段下程度はありそうだった。

 この様子だと、最も強い者であれば彼に匹敵し得るだろう。元冒険者に匹敵、というだけでどれだけ腕が確かかは察せられようものだった。


「……ちょっと、やばいかもな」


 ソラは僅かに漂い始めた難敵の匂いに、改めて気を引き締める。かなりの難敵という事で気合を入れて来てはいたが、今回もブロンザイトの指示により<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>は封印したままだ。それを解く事も視野に入れる必要があるかもしれなかった。


「他にこの村の特徴とか無いか?」

「そうだね……土地としては、村を作れる最後の領域という所かな。まぁ、本来は周囲の山へ入る為の中継地点という所だったらしいんだけど……それが三百年前の戦乱で追われた人が定住する様になって、ってお爺ちゃんは言ってたね。村としては比較的新しい部類、と言えるかな」

「なるほどな……」


 言われて改めて村の形状を見て、ソラは一つ頷いた。やはり村の基礎というのは出来た時代に応じて変わってくる。エンテシア砦なぞ、その筆頭と言えるだろう。

 あそこは平和になった時代に復興された結果、砦としての機能の大半を喪失した。が、この村は逆に戦乱期に出来た村だからか、周囲は強固な壁に覆われある種の要塞にも近い風貌だった。そしてそれ故、この危険に近い場所でも村を維持出来たのだろう。


「外壁はかなり強固……っぽいな」

「うん。一見すると普通のれんがだけど……内部に魔金属製の鉄筋が仕込まれてるらしい。外壁も常に修理してるから、結界さえ展開していれば群れで魔物が襲撃してきても大丈夫だろうね」

「この中に居る限りは安全、か」

「そう見て良いよ」


 上空は結界。周囲は堅牢な壁に守られた要塞。この村はそうとも言い換えられた。であれば、万が一には逃げ込むのも手だろう。ソラはそれを胸に刻んでおく。と、そんな二人の会話を聞き、シューマンが僅かに微笑んだ。


「……良いお弟子さんを迎えられましたな」

「ええ……トリンも良く懐いております。悪くない性根なのでしょう。育ちが良い事もあるのでしょうが……彼自身の性根が良い事もある」


 ブロンザイトは当然であるが、トリンの性格を良く理解していた。半月ほどで馴染んだソラとトリンであるが、これは実は非常に稀な事であった。

 ソラも知る様に、トリンには壮絶な過去がある。実際、ソラには語っていないだけで様々な過酷な状況に追いやられた事をブロンザイトは知っていた。

 それ故、どうしても本能的に他者に対して警戒があり、彼の人見知りの原因はそれだった。こればかりは時が癒やすのを待つしかない、と彼も考えており、ソラを受け入れたのはその趣きが無いではない。そのトリンが、半月で馴染んだのだ。本能的にソラが良い人物だ、と理解したに他ならなかった。


「そうですか……彼が初めて来た日を思い出しますな」

「ははは……もう、随分と昔の事です」

「ええ……私も随分と老いました。その私より若い、多くの若者が今回の一件では犠牲になりました……」


 どこか過去を懐かしむ様子のブロンザイトに対して、シューマンは悼ましげな表情で僅かに顔を伏せる。幸か不幸か、彼の息子は自警団ではない事もあり櫓の上から周囲の見張りを行っていて無事だったが、彼も顔を知る何人もの若者が怪我をしていた。それを嘆いていたのである。そんな彼に、ブロンザイトが改めてはっきりと請け負った。


「……仇討ちは、我々にお任せください。必ずや、魔物めを討ち取って見せましょう」

「……お願い致します。おぉ、着きましたな。では、中へ」


 ブロンザイトの明言に深く頭を下げたシューマンであったが、それと程なくして彼の家に到着していた。そうして、三人はそんなシューマンに招かれ、彼の家に入る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1622話『ミニエーラ公国』

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