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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第74章 ソラの旅路 ミニエーラ公国編

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第1618話 ミニエーラ公国 ――遊覧船――

 弟との再会を受けて酒を飲み交わし、結果二日酔いになったブロンザイト。そしてその介護に残る事になったトリンを残し、ソラはカイトへ提出する書類があった事もあり一人バイエの町並みを歩いていた。そんな彼は一通り屋台を見て回り適当に摘みながら歩いていたわけであるが、それも昼頃になって一度切り上げて温泉宿へと戻る事にしていた。


「戻りました」

「うむ、戻ったか」

「あ、お師匠さん。体調は……大丈夫そうですね」


 与えられた一室に戻ったソラを出迎えたのは、読書中のブロンザイトだった。その顔は彼が見た通り、何時もの色に戻っていた。とはいえ、どこか頬は蒸気しており、髪や髭は僅かに湿気を帯びていた。


「うむ、すまぬな。この通り、温泉にゆっくり浸かってのう。今は随分と楽じゃわ」

「あはは……そう言えばトリンは?」

「ああ、あれか。あれには少々用事を頼んでのう」

「用事ですか?」


 ブロンザイトの言葉に、ソラが僅かに首を傾げる。何か用があるのなら、自分に言ってくれればそちらに行ったのだが、と思っている様子だった。そんな彼に、ブロンザイトが笑って教えてくれた。


「あぁ、遠くへは行っておらんよ。この宿の中じゃ」

「はぁ……」

「実はこの温泉宿は温泉卵が名物でのう。ついでなのでできたてを持ってきてもらおうとな。お主はグッドタイミング、という奴じゃろう。後少し遅ければ、できたてが食べられん所じゃったのう」

「あはは」


 何時もの様にどこか冗談めかして告げるブロンザイトに対して、ソラもまた笑う。この様子なら、何時も通り戻っていると考えて大丈夫だった。無理をしている、という事もないだろう。

 と、そんな事を話していると、扉が開いてトリンが戻ってきた。その手には一つのトレイがあり、案の定幾つかの卵が入っていた。


「戻ってきたよー……あ、ソラ。お帰り」

「おう、ただいま」

「温泉卵、食べる?」

「おう、貰う」


 トリンの差し出した卵を、ソラは一つ貰って椅子に腰掛ける。そうして三人が一つずつ温泉卵を手にとって、卵の殻を剥き始める。そうして現れた白身を見て、ソラが僅かに安堵した様な声を漏らす。


「おー……」

「どうしたのさ、急に」

「いや、温泉卵ってからさ。どっちかなー、って」

「何が?」


 卵の殻を向きながら、トリンがソラの言葉に首を傾げる。それに、ソラも同じく殻を剥きながら答えた。


「温泉卵ってさ。白身と黄身の両方半熟の奴があるからさー。どっちだろ、って」

「あー……あれ、面倒だよねー」


 どうやらソラが危惧していた事はトリンにもわかったらしい。なお、温泉卵とは基本的には黄身が固まり白身が半熟の物を指すわけであるが、温泉を利用したゆで卵についても状態に関わらず温泉卵と言われる事が多い。そこらでエネフィアではどうなのだろうか、と気になったのだろう。今回の場合はどうやら後者だった様子である。と、そんな二人に同じく殻を剥くブロンザイトが口を開く。


「そちらの温泉卵が食べたければ、昼を待て。ここの卵は須らく絶品じゃ」

「そうなんですか?」

「うむ……そういえば、お主は裏に行った事は無いか。実はこの宿の裏手には小さな養鶏場があってのう。この宿が経営しておる養鶏所じゃ。この宿で提供されておる鶏卵は全て、そこで採れた物でのう」

「へー……あむ……うお! すっげ! 中半熟! しかもすげぇ濃厚!」


 ブロンザイトの解説を聞きながら一口温泉卵を口にしたソラであったが、その卵の濃厚さに思わず目を見開いた。伊達に宿で養鶏場をやっているというわけではないのだろう。後の彼曰く、生涯食べた中でもかなり上位に来るぐらいに美味しかったらしい。そんな彼に、ブロンザイトは笑って彼自身もまた一口口にする。


「じゃろう? うむ。これよ、これ。これを食べねばこの宿に来た甲斐がない。ソラ。ほれ、そこの塩を付けてみよ」

「これ、ですか?」

「うむ」


 ブロンザイトに言われるがまま、ソラは付け合せとして添付されていた小袋を開く。中は案の定、塩だった。


「うおっ! すげぇ! 塩なのに全然辛くない!」

「うむ。このミニエーラより少し離れた国の岩塩を特別に仕入れておってのう。長い年月を経た岩塩はまた、格別な味わいよ」

「じゃがバターとかも美味そうですね」

「おぉ、それも良かろう。まぁ、季節が終わったばかり故、今はおすすめはせんがの」


 ソラの提案に、ブロンザイトもまた笑って頷いた。なお、おすすめしない理由はどうせなら一番美味しい時期に一番美味しい食べ方をしてもらいたい、というだけらしい。別にここらでじゃがいもが食べられないわけではないし、普通に出回っている。現に彼らの昨日の晩ごはんにも出ている。


「ごちそうさまでした。ふぅ……あー……美味かった」

「うむ……大地の恵みに感謝を」

「そう言えばお師匠さん」

「なんじゃ?」

「お昼ご飯って何時なんですか?」

「「……」」


 今しがた温泉卵食べて、その上に色々と屋台で食っただろうにこの発言か。ブロンザイトとトリンの二人は思わず呆気にとられる。そうして僅かに間が空いて、ブロンザイトが笑いを堪えながら問いかけた。


「何じゃ。食ったばかりというのに、もう腹が減ったのか」

「いやぁ、腹が減ったってか……今のでちょっと腹が減ったんで……昼飯楽しみにしよう、と思ってあんまり屋台で買い食いもしなかったんです」


 ブロンザイトの問いかけに、ソラが少し恥ずかしげにそう答えた。


「そうか……まぁ、ではトリン、ソラよ。行くとするか」

「うん」

「うっす」


 立ち上がったブロンザイトに合わせて、二人もまた立ち上がる。そうして、三人は今日の昼食を食べに温泉宿の食堂へ向かう事にするのだった。




 さて、それから暫く。ブロンザイトは酔い覚ましではなく今度はしっかりと温泉に浸かりたい、という事で温泉に向かった為、ソラはトリンと行動を共にしていた。


「というわけでお爺ちゃん、意外と温泉が好きでさ。フリオニールさんとかカイトさんとかとよく温泉の話してた、って」

「へー……ってことは、ここもその関係かな?」

「さぁ……でも大方、そうだと思うよ? 結構有名な温泉街だと一つは行きつけの宿があるし」


 ソラはバイエという街は知らなかったが、後に調べれば結構有名な温泉街だった。それと同じ様に、各地で有名な温泉街には知り合いが居るらしい。なお、以前ソラ達が中津国で宿泊した宿。あれもブロンザイトが懇意にしている宿の一つだそうだ。


「はー……で、まぁそれは良いんだけどさ」

「何?」

「なんで男二人並んで遊覧船、乗ってんだろうな」

「別に君は乗らなくても良いよ、って言ったでしょ」


 ソラのボヤキに、トリンがため息と共に肩を落とす。まぁ、そういうわけで。二人は今、並んで仲良く遊覧船に乗っていたのである。そんな彼に、ソラが半目で反論する。


「いや、お師匠さんに勉強して来い、って言われちゃ乗るしか無いだろ」

「それ言われたの僕だよ……君はなら俺も学べる事あるかも、って来ただけでしょ」


 ブロンザイトに言われた。そういう事らしい。なお、トリンの言う通り、言われたのは彼であってソラではない。ソラは大した意味は無いだろうが、という所で彼の方は自由意志にされていた。もちろん、予め運行会社にも許可を取っている。


「おまたせしました。正常に運行がスタートしましたので、もう入って大丈夫です。お通り下さい」

「「ありがとうございます」」


 やって来た遊覧船の乗組員の一人の言葉に、ソラとトリンは揃って頭を下げる。そうして二人は立入禁止とされている遊覧船の機関室に通される事となった。


「ここが、本遊覧船の機関室となります。ご自由に見学してください。ただ、動いておりますので、触れる事だけはなさらない様にお願いします」

「わかりました……で、何を見るんだ? 違い見てこい、って言われてるのは聞いてたけどさ」


 乗組員の注意に頷いたソラは、己の影に隠れていたトリンへと問いかける。当然だが本来機関室には入る事は出来ないのだが、この遊覧船を運営している会社とブロンザイトが懇意にしている――正確にはブロンザイトが恩を売った――らしい。なので運営会社に頼んで遊覧船の機関室を見せてもらっていたのである。


「ああ、うん。これ、実は新型らしくてさ。旧型との違いを見てこい、って」

「はー……」


 トリンの言葉に、ソラもまた機関室に設置されているエンジン機関を観察する。と言っても残念ながら、ソラは件の旧型とやらを見た事がない。


「……って、俺わかんねぇわ」

「だから、言ったんだよ。残ってて良いよ、って」

「なる……」


 トリンの言葉の真意を理解して、ソラが笑う。とはいえ、ここらやはり人懐っこい彼と言える。トリンがエンジンを観察する一方で、彼は同行していた遊覧船の乗組員に話を聞いていた。


「このエンジン。新型って話なんですけど、何が変わったんですか?」

「ああ、このエンジンですか? そうですね……」


 ソラに問われ、乗組員は少しだけ記憶を探る。ここらはやはり乗組員、という所だろう。変わった所についてはしっかりと理解させられているらしかった。


「そうですね。まず、消音性が随分と向上しています。まぁ、わからないかもしれませんが……少し音、聞こえるでしょう?」

「あ……なにかごうんごうん、っていう音が……」


 乗組員に言われ、ソラも少し駆動音がしている事に気が付いた。本当に気にしないとわからないほどで、この程度なら十分だろうと思える程だ。


「ええ。これが前のモデルだと耳を澄まさなくても聞こえたんですよ。幸い、この湖では常時人魚族の方が見回りをして下さっていますので魔物に襲われることは稀ですけどね」

「人魚族?」


 乗組員の言葉に、ソラが首をかしげる。バイエに来て以降、冒険者以外の人魚族は見ていなかった。と、そんな彼の表情を見て、その疑問を理解したらしい。


「ああ、そうか。実はこの湖を更に下っていくと、川沿いに彼らの里があるんです。と言っても、南部なので結構遠いんですが……そこから出向という形で」

「へー……それで、ここまで」

「ええ。とはいえ、やはり物音が立つと、襲われる可能性はありますからね。なので消音性は重要なのですよ。更には彼らの警戒の邪魔にもなってしまいますからね」


 それで遊覧船が運行出来るぐらいには安全なのか。ソラは遊覧船が運行できている理由に納得する。


「後は……そうですね。エネルギー効率も上がっているそうです。まぁ、ここらは我々にはわからない事ですけどね」


 基本的にエネフィアで主に使われる魔導炉は、燃料の補給が必要ない。なので地球なら考慮に入れられる燃費を使用者側が気にする事は滅多に無く、エネルギー効率が上がったと言われてもわからない事が多いそうだ。


「こんな所ですかね。まぁ、メンテナンスとかやってる技術者なら、もっと詳しい事が分かるんでしょうけど……そこらは流石に私達には」

「そうですか……ありがとうございました」

「いえ、お役に立てれば幸いです」


 頭を下げたソラに、乗組員も笑って一つ頭を下げる。そうしてそれが終わった所で、ソラは再びトリンの所へと向かう。


「何か違い、わかったのか?」

「うーん……そうだね。機関部の幾つかの素材が新規で作られてる……かな。精錬技術も向上してる。この様子だと、内部も結構な割合で改修されてるだろうね」

「へー……」


 エンジン部を観察していたトリンの目には、以前オプロ遺跡でも使っていた妙な魔法陣が浮かんでいた。これを使って解析している様子だった。とはいえ、そんな彼の顔は少し苦い様子だった。


「うーん……でも、これだとちょっと互換性が低いかな」

「そうなのか?」

「うん。素材が変わってるんだけど……多分、これはこのメーカー独自の素材だね。ドワーフ達が応急処置とかするとなると、ちょっと面倒じゃないかな」

「なるほどな……素材がありふれてないって事だもんな……」


 トリンの指摘を聞いて、ソラもまた納得して頷いた。そうして、二人はその後も暫くエンジンの確認をして、乗組員に礼を言って外に出る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1819話『ミニエーラ公国』

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