表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第74章 ソラの旅路 ミニエーラ公国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1641/3938

第1610話 ミニエーラ公国 ――ミニエーラ公国――

 ラグナ連邦を出発し、ミニエーラ公国と呼ばれる教国の隣国を目指す事になったソラ。彼はその道中の飛空艇の中で、様々な事を学びながら時間を過ごしていた。そうして一日。飛空艇は幾つかの国の上空を飛翔して、ミニエーラ公国北部のとある国際空港へと到着していた。


「うっ、と……少し寒いですね」


 三人が降り立ったのは、ミニエーラ公国北部のロツという街の国際空港だ。ブロンザイトが語った通り、鉱物資源の加工に優れた街らしく、そこかしこに金属の精錬場や鍛冶師達が居るだろう煙突が見えた。

 とはいえ、北部は山岳地帯と言われていた様に少し高度が高いらしく、昨日まで彼らが居たヴォダより少し寒かった。と、そんなソラの言葉に、ブロンザイトも一つ頷いた。


「うむ、少し寒いのう……とはいえ、これでもまだマシじゃ。冬も近付くとここらも降雪は珍しくない。まぁ、何メートルも雪が積もるという事は無いがのう。それでも、厚手の防寒着は必要になるぐらいにはなろう。無論、お主の防具にもそれ専用の装備を取り付けねばならんほどではある」

「はー……」


 ブロンザイトの言葉を聞きながら、ソラは改めて周囲を見回す。少し視線をやれば、彼らと同じくラグナ連邦からの渡航者で溢れかえっている。

 その中にはトリンも居て、彼は現在空港の受付で入国審査に関わる申請の真っ最中だ。ここらは不手際があると面倒になるので、ソラはかかわらないでトリンがやる事になっていた。今はそれを待っていたわけだ。


「……やっぱり精錬技術が優れてると、鍛冶師も多いんですね」

「む?」

「いや、少し耳を澄ますと、鉄を打つ音が……」

「ふむ。そこらはやはり冒険者故かのう。儂らでは聞こえん」


 やはり冒険者として身体能力を強化出来るから、だろう。特にソラの場合、仲間を守る関係で敵の攻撃をよく引きつける。殊更周囲の物音には敏感になる様に訓練しており、隠す事もない錬鉄の音はよく聞こえたようだ。まぁ、それでも聞こうとしないとこんな事にはならない。興味本位で聴力を強化したのだろう。と、そんな会話をしていた二人の所へ、トリンが戻ってきた。


「お爺ちゃん、ソラ。手続き終わったよ。番号札を貰ったから、それで入国審査を受けてくれって」


 トリンはそう言うと、二人に番号札を見せる。そうして彼が更に視線を向けた先を見てみれば、そこには受付の上にモニターが一つあった。モニターには番号が表示されており、この番号が番号札の番号になったら受付に来い、というわけなのだろう。


「じゃあ、暫くは待ちですかね」

「そうじゃのう……まぁ、今の時期じゃと湯治に来る者も少なくない。些か時間が掛かるのは仕方がないかのう」


 ソラの言葉に頷いたブロンザイトは、そう言うと歩き出す。ここで立って待つ必要はない。手頃なベンチで休む事にしたようだ。そうして、ソラとトリンも彼に続いて歩いていき、三人は入国審査が行われるまで少しの間時間を潰す事にするのだった。




 三人がミニエーラ公国に降り立ち、入国審査を受けて暫く。彼らはロツの街を歩いていた。


「はー……」

「珍しいか?」

「あ、はい」


 ブロンザイトの問いかけに、ソラは一つ頷いた。今まで彼は高山の街を訪れた事はない。なのでこんな光景はかなり物珍しく感じられたようだ。と、そんな彼は周囲を行き交う人を見ながら、その見たままを口にする。


「ドワーフの人が多いかと思ったんですけど……案外そうでもないんですね」

「ふむ……それは間違いじゃのう。確かに、ドワーフ族の者は多い。少し遠いが……ここより少し南に向かった所には、良質な鉄鉱石が産出する鉱山があってのう。そこで採れた鉄鉱石を近隣の製鉄所で精錬し、ここらで加工しておる」

「ここらで、ですか?」

「うむ」


 首を傾げたソラに対して、ブロンザイトは一つ頷いて立ち止まって少しだけ周囲を見回す。そうして、丁度良い店を見つけたらしい。彼は一つの鍛冶屋を指さした。


「ほれ、今あの男が座ってドワーフの店主と話しておる店、わかるな?」

「はい」

「あの男……お主はどう見る?」

「冒険者です」

「うむ」


 ソラの述べた答えにブロンザイトは一つ頷いた。男性の後腰には鞘があり、ドワーフの店主の手にはそのサイズにピッタリの肉厚な片手剣が見て取れた。更には男性の椅子の足には盾が立てかけられており、明らかに戦士だと理解できた。

 そのどちらもが軍の制式採用とは異なった改良が施されており、おそらく軍人ではなく冒険者だろうと察せられた。そんな男冒険者を見ながら、ブロンザイトは重ねて問いかけた。


「さて、その腕はいかほどじゃとお主は見る」

「……」


 どの程度だろうか。ソラは立ち振舞や身に纏う風格、ドワーフの店主が持つ武器から、大凡を推測する。


(あの武器は魔法銀(ミスリル)じゃないな。特徴的な銀色の輝きがない。でも確実に普通の鉄鉱石や合金じゃ対応出来ない腕……ということは、俺より一段は上……かな)


 おそらく冒険者としてのランクは低く見積もってB。高ければAの可能性がある。ソラはそう推測する。同じ盾持ちの剣士で敢えて言えば、ソラ以上アル未満という所だろう。


「俺より上……ですね」

「うむ。そうじゃろうな……さて、ソラ。お主はおそらく武器と立ち振舞を見て、腕を見抜いた。違うか?」

「はい。その二つに着目しました」


 ブロンザイトの問いかけにソラははっきりと頷いた。冒険者が相手の腕前を見抜くのなら、この二つは重要だ。弘法筆を選ばず、とは言うが筆の側は使い手を選ぶ。

 優れた筆を使いこなせるのであれば、それは即ち持ち主が弘法であるという事だ。自分の持つ武器より上か下か。それだけで十分に戦うべきか逃げるべきか、理解出来るのであった。


「じゃろうのう。儂とトリンが何度か出会った冒険者達も総じてそう言っておった……さて、その上で儂らが見る点としては、あの冒険者の人物そのものじゃな」

「人物そのもの?」

「うむ……例えば、容姿や服装。種族……そういった物を複合的に見る」


 ブロンザイトの言葉を聞きながら、ソラは改めて男冒険者を観察する。と、そうして観察してみて、ふと気づいた。それは先程から行き交う街の住人や、ここらに根を下ろした冒険者達とは少し違う服だという所だった。そしてそれに気づいたソラに、ブロンザイトが一つ頷いた。


「うむ。ほれ、あれの右腕に紫色の手ぬぐいが巻き付けられておるのが分かるな」

「ええ……あれは何なんですか?」

「あれはミニエーラ公国とは別の国で主流となる宗教の信徒が身に着ける証、とでも言おうかのう。クラル派、と呼ばれる宗派の信徒の証じゃ。その国では珍しくもないが、この国では珍しい」


 知らない名前だ。ソラはブロンザイトの言葉にそう思う。一応、このミニエーラ公国に来るにあたって文化風習は彼も調べた。が、それには一切乗っていない名前だった。他国の出身者というのは、正解なのだろう。


「という事は即ち、あの者は少なくとも国を越えられる腕を持つ冒険者じゃというわけじゃ。さて、この前提を示した上で、ここらに目を向けるとしよう」


 ソラに前提を共有させたブロンザイトは、店から視線を外して周囲を見回す。それに合わせ、ソラもまた周囲に視線を向けた。すると、ある事に気がついた。


「……結構……色々な所から来てる人が多そうですね」

「うむ、多い。それ故、加工はここらでやるのよ。当然じゃが国外から来た客は、ここから旅に出る。が、その旅に出るにも武器が必要じゃ。武器が無くては動けんからのう」


 当然の話だ。ミニエーラ公国の北部は優れた鉱山が多いという。であれば、ロツに来る冒険者の多くは武器や防具が目当てと見て間違いない。そうして、ブロンザイトは更に続けた。


「となると、どこで武器が買えれば便利と考えるか。それはここら、となろう。ソラよ、少し周囲を……と言いたいがお主は使い魔は創れぬか」

「はい……」

「あぁ、落ち込まんでも良い。それが当然じゃ……まぁ、使い魔で少し街の外を見れれば、少し南に向かえば森林がある事が分かる。鍛冶には火が必要じゃ。その燃料も手に入る、というわけじゃ。ここに武器屋を構えてしまえば冒険者達はここからの旅に備えて武器を買えるし、逆に武器のみを求める者であれば、ここで優れた武器を手に入れて中継地として次の所へと向かえる」

「それで、ここらに鍛冶屋が多いんですね」

「うむ」


 どうやら納得出来たらしいソラに、ブロンザイトが一つ頷いた。そうしてその解説を終わらせて、三人は再び歩き出す。と、そんな道中で更にブロンザイトがソラに教えてくれた。


「まぁ、そう言うても……こんな事が出来るのはミニエーラ公国の政策も大きい」

「政策、ですか?」

「うむ……なんじゃったか。確かカイト殿がかつて言われておったんじゃが……おぉ、確かハブ空港と言うたか」

「あー……」


 言われて、ソラも理解する。冒険者達にとって優れた武器は重要だ。であれば、ここに優れた武器や防具を提供出来る店があれば、冒険者達はここを中継地としてくれる。

 そして色々な審査や武器の選定等を考えれば、どうしても一日は必要だろう。となると、そこで金を落としてくれるのだ。経済的なメリットも大きかった。


「ということは、色々と審査とかも簡易に出来るんですか?」

「うむ。まぁ、無論ハブ空港として使う者に限るがのう」

「なるほど……」


 ソラは改めて、周囲を見回す。やはり多いのは冒険者と鍛冶師だ。が、人から店に焦点を動かしてみると、今度は鍛冶屋と同じぐらい宿屋も多かった。そして彼らが目指すのも、そんな宿屋の一つだった。そこは大通りから少し離れた所にある宿屋で、歴史を感じさせる様子があった。


「おぉ、ブロンザイトの旦那。お待ちしておりました」

「おぉ、カルコス。息災、変わり無さそうじゃのう」

「ええ。ここ百年は無病息災です。そちらもお元気そうで」

「ふぉふぉ。これでも疲れてはおるよ。故に、湯治の予定じゃ」

「なるほど。それでこちらへ」


 ブロンザイトに頭を下げたのは、ドワーフの男性だ。珠族もドワーフもどちらもノームの眷属を自認している。故にドワーフ達も珠族の事を敬う事はよくある事らしく、ブロンザイトがかつてこのカルコスというドワーフを救った事もあって近くに来たら世話になっているそうだ。

 口ぶりを見れば分かるが、かなり長い付き合いで親しくしているらしい。ここで一番信頼出来る宿屋だそうだ。そしてそういうわけなので、カルコスはトリンの事も知っていたらしい。気軽げに声を掛けた。


「おぉ、トリン。お前も元気そうだな」

「はい、カルコスさんもお変わり無く」

「あはは。お前の方はずいぶんと見違えたじゃねぇか。あの時の貧相な小僧が……いや、今もまだ貧相は貧相か?」

「あぅ……」


 やはり長い付き合いだからなのだろう。カルコスは楽しげに茶化していたし、トリンも何時もの人見知りはなく、親しげな様子だ。そうして少しの他愛ない話をした所で、カルコスはソラを見た。


「で、そっちのが新しく引く受けたって小僧ですか?」

「うむ……すまぬが、三人揃って世話になる」

「へい。おまかせください」


 ブロンザイトの言葉にカルコスが頭を下げて、ベルを鳴らす。


「まぁ、改めて言うまでもないが、ブロンザイト殿だ。決して無礼な事はしないように頼む」

「はい、オーナー……お荷物を」

「うむ、すまぬ」


 カルコスの指示を受けたホテルの従業員が三人の荷物を受け取って運び出す。そしてその後に続いて、三人は今日の宿となるホテルの部屋へ向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1611話『ミニエーラ公国』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ