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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第74章 ソラの旅路 ミニエーラ公国編

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第1609話 ミニエーラ公国 ――お勉強――

 実は女性だったエマニュエルを筆頭にしたヴォダ市市警の警官達に見送られ、ラグナ連邦を後にしたソラ。その後数時間はただあまりに受け止めきれない事実に困惑し、呆然と時間を過ごしていた。そんな彼が復帰したのは、およそ四時間後の昼になろうかという所だった。


「……マジでびくった。エマニュエルさん、女だったのか……」

「ふぉふぉ……びっくりするじゃろう? まぁ、儂らからすれば、あの姿を初めて見た時の方が驚きじゃったからのう」

「言ったでしょ? 偉そうに見えるけどそれだけじゃないって。エマニュエルって名前が男女どっちでも行けたからね。書類を偽装する際に、いっそと男に性別を偽装したそうなんだ」


 まだ驚きの後遺症から復帰しきれていないソラに、ブロンザイトとトリンが少し楽しげに告げる。命に関連する事なので最後まで教える事は出来なかったが、当然二人はエマニュエルが女性である事も、『肉襦袢』を着込んでいた事も知っていた。なので驚く事も無かったそうだ。


「それだけじゃないって……そんなレベルじゃねー……」


 ある意味トラウマになりそう。ソラは小太りの男から現れた美女に、盛大に頭を抱えていた。この旅路で何度も思わされたが、やはり見た目はあてにならないとしか思えなかった。


「ふぉふぉ……見た目に惑わされず、しっかりと物を見よ。それが、何事も肝要じゃぞ」

「はぁ……」


 この場合はそれで良いのだろうか。ブロンザイトの言葉にソラは半ば胡乱げに頷いた。そうして、そんな三人を乗せた飛空艇は東へと飛び続ける。そんな中、ふとトリンが口を開いた。


「あ、そうだ。お爺ちゃん」

「な、なんじゃ?」


 どこか睨むに近いトリンの視線に、ブロンザイトが思わず仰け反った。師匠と弟子としてならブロンザイトが圧倒的に強いらしいが、私人として、家族としてであればどうやらトリンの方が強いらしい。そしてこういう視線をしているという事はつまり、家族としてに関連する事だという事なのだろう。そして案の定、そうだった。


「ソラから聞いたよ? 予備のあれ、落ちたんだって?」

「うっ……い、いやぁ……ま、まぁ、そういう事もあろう」

「そういう事もあろう、じゃないから。またポケットに入れたまま色々と動き回ったんでしょ。あれ、ポケット痛めるから入れておかないでって何時も言ってるでしょ」

「そ、そうじゃったかのぉ……」


 ソラには何がなんだか分からなかったが、どうやらブロンザイトは何度か注意されている事だったらしい。視線が泳いでいた。と、そんな二人に、ソラが問いかけた。


「何の話だ?」

「ほら、この間ソラがお爺ちゃんのお守りの予備拾った、って言ってたでしょ?」

「ああ、あれか。そんな風習があるんだな、って話な」


 トリンに言われ、ソラもこの間の話を思い出す。珠族の風習として、自身のコアと同じ性質を持つ宝石をお守りとして持つ風習があるという。ブロンザイトの持つそのお守りの予備を作る素材が、彼が屈んだ折りに落ちたのである。で、そんな風習があるのか、とソラがトリンと話していたのであった。


「そ。その時お爺ちゃんもどうせ言ってただろうけど、身代わりが落ちるって縁起が悪いからね。特に珠族だとね」

「特に珠族だと?」

「古い珠族は死ぬ事を土に還るって言うんだ。よくある言い回しといえば、よくある言い回しなんだけど……珠族は土の大精霊様の眷属。故に土に生まれ土に還る、っていう風習が強く根付いていてね。身代わりの宝石が地面に落ちる、という事は土に還ったと見做すも同然なんだ」


 ソラの疑問にトリンは珠族の風習を語ってくれた。ここらはやはりブロンザイトが珠族の族長筋だから、という所だろう。トリンも珠族の文化風習に関しては詳しいらしかった。と、そんな彼はブロンザイトへと手を差し出す。


「はい。縫うから出して。これから旅だから、落ちたら回収出来ないよ? 落ちた予備についてどうするかは、また考えよう」

「むぅ……どこに入れたかのう……」


 今は飛空艇の中だし、今日はこのまま飛空艇で一夜を明かす事になっている。そして旅に際して服が一着だけという事はない。なのであの時着ていた服はカバンの中だ。というわけで、カバンの中をガサゴソとブロンザイトが探す。


「おぉ、あったあった。これじゃこれじゃ」


 ブロンザイトはそう言うと、カバンの中から一枚の旅装束を取り出した。それはポケットが多めの物で、ソラがあの時見た物と似通っていた。


「はぁ……何時も言うんだけどさ。穴が空いたら買い換えよう?」

「別にポケットの穴一つで買い換える必要はあるまい」

「丈夫な旅人用の衣服が破れてる時点で、他の所にももうガタが来てるんだよ。そんな高いわけでもないんだからさ」


 ブロンザイトに対して、トリンは呆れながらポケットを探っていく。ここら、家計に関してはトリンが握っているらしい。後にブロンザイトが言っていた事であるが、内政に関してであればゆくはトリンが自分を上回る日が来るだろう、との事であった。

 が、どうしてもトリンは性根が優しい為、軍略はあまり向かないそうだ。無論、それでも優れた才気は持っているとの事であった。


「あ、あった……あー、また大きくほつれちゃって……えっと、裁縫道具は……」


 ブロンザイトの服のポケットの破れを見つけたトリンは、自分のカバンを取り出して中を漁る。そうして、少して小さな箱を取り出した。


「はぁ……というか、よく考えればこれでお守りの宝石買い替えとかになるんだったら、逆にお金掛かる様な気がするなー……」

「お前、裁縫出来るのな」

「……旅してたら自分達でやらないといけないし。さっきはああ言ったけど、買ってばかりだとお金も掛かるしね」


 チクチクチクチクとポケットのほつれを直しながら、トリンがソラの問いかけに答える。なお、そんな姿を見ながらソラはトリンが修繕出来るから買い換えないんじゃないか、と思わないでもなかった。


「そう言えば。一つ疑問に思ったんですけど……」

「何じゃ」

「修繕用の魔術、あるじゃないですか。あれは使えないんですか?」

「ふむ。良い着眼点じゃな」


 トリンの姿を見ていたソラがふと得た疑問に、ブロンザイトが一つ頷いた。当たり前といえば当たり前の疑問だ。が、そうしないという事は、必ずそこには理由があるはずだった。


「さて……では丁度トリンが修繕をしている事じゃし、この修繕用の魔術についておさらいしておこうかのう。まず、この修繕用の魔術。お主はどういう物じゃと理解しておる?」

「壊れた物を元に戻す魔術です」

「うむ。それが端的かつ確かな答えじゃな」


 修繕、というぐらいなのだからそれに間違いはない。が、それでも何でもかんでも修理出来るわけではない。


「さて。それではこの修繕の魔術であるが、お主も知る通り人には使えん。これが何故か、分かるか?」

「そういえば……」


 ブロンザイトに問われて、ソラもふと疑問を得る。修繕と治療。どちらも壊れた部位を治す事では一緒だ。ただ人体を治すか、壊れた物を直すかの違いだ。が、これはソラも考えてみれば理解出来た。


「あ、修理方法が違います。修繕用は知りませんけど……治療の為の魔術は基本、人間の治癒力を利用して怪我を癒やしています。でも物を直すのに、自己治癒力云々は無理かと」

「うむ。正解じゃ。人体の治癒力を活性化させて失った部位を補填するのが、一般的な治療用の魔術じゃな。これが最高位の治癒術士ともなると、本来あるべき姿へと戻す力を行使して人を癒やすという。時間の逆転にも等しいかのう」


 ブロンザイトはソラへとそう告げる。そしてそれを語った上で、彼は続けた。


「さて……この時を逆転させるにも等しい魔術。これは修繕用の魔術がしておる事と一緒じゃ。人体を物と見立て、失われた部位を本来あるべき姿へと戻すわけじゃな」

「ということは……修繕用の魔術は時を巻き戻すという事ですか?」

「うむ。まぁ、厳密にはそうではないがのう。とはいえ、それが一番正確に近いが故、誰もがそう言っておるよ」


 ブロンザイトはソラの確認に一つ頷くと、それで正しいと明言する。ここらはラエリアの内紛でソラも研究所に同行した折りに聞いている。なのでそういう魔術がある事は把握済みで、特に疑問も無かったようだ。


「さて……では本題に入る前に、じゃ。お主が知る様に、高度な魔術には一時的に失われた部位さえ完全に元通りにする物もある。が、あくまでも一時的。永続にはならん」


 ここでの問題は、その永続するという点。ブロンザイトは改めて問題点を提起する。そうして、彼は改めて本題に入った。


「では、どうして修繕用の魔術は修繕した物を永続的にその状態で保っているのか。ソラよ。どうすれば、これを永続出来ると思う?」

「どうやれば、永続的に状況を維持出来るか……」


 ブロンザイトの問いかけを受けて、ソラは改めて自分の頭で考える。こういった魔術の原理等は直接的に戦略に影響してくるわけではない。が、知っておけば、それを利用した作戦を立てる事が出来るのだ。ブロンザイトはそれ故、直接的に関係の無い事でもきちんと教え込んでいた。


(えっと……カイトとユリィちゃんはあの後、なんて言ってたっけ)


 ソラが思い出すのは、少し前のラエリア内紛における研究所を後にした時のカイト達との会話だ。そこでの事を、彼は思い出す。


『どうしてこの時系統魔術が永遠に続ける事が出来ないのか?』

『おう。だって修復するのなら一時的より永続の方が便利だろ?』

『そりゃ、そうだわな』


 自身の問いかけを受けて、カイトはそれはそうだと頷いていた。どうせなら少しの間より、永遠に修繕出来た方が良いのは当たり前だ。わざわざコピーを行う手間が省ける。が、<<死魔将(しましょう)>>達でさえ永遠に元通りとは出来なかった。そんなソラの疑問に、ユリィが教えてくれた。


『それは簡単といえば簡単、かな。改変する情報量が多いから、という所だよ』

『改変する情報量が多い?』

『うん。基本的に、世界は世界の全ての情報のバックアップを持ってるの』


 ソラの疑問を受けて、ユリィは改めて説明に入る。このバックアップについては、かつてヒメアと呼ばれる女が言及していた。世界が崩壊した際、バックアップを使って世界が復元された、と。

 まぁ、これは彼女が破壊したので言い方としては可怪しいが、バックアップがある事は事実だ。そしてここでは、そのバックアップが重要だった。


『このバックアップを使って、世界は現状の整合性を判断してるわけ。常に一瞬前の情報の連続性を確認して、現実が間違っていないか確認するわけだね』

『はー……』


 規模が巨大すぎて、ソラにはどうやら実感が沸かないらしい。ただただ口をあんぐりと空けていた。そんなソラを横目に、ユリィは更に続ける。


『で、今回の様な時を巻き戻す力はそのバックアップを利用してるの。世界のバックアップを参照にして、無事な段階の情報を持ってくる。そして現実に貼っ付けるわけだね』

『なるほど。バックアップがあるなら、そんな事も出来るわけか』

『うん。でも、考えてみて? これって可怪しいでしょ?』

『何が?』


 ユリィの問いかけに、ソラが首を傾げる。それに、彼女は改めて問題提起を行った。


『さっき言ったでしょ? 過去の情報と整合性を確認してるって。世界達からすれば一瞬前まで破壊された、っていう情報が唐突に無くなったわけ。じゃあ、どうする?』

『そりゃ、元に戻ろうと……あ、そっか』

『そ。その元に戻ろうとする力を、修繕力とか修正力とか言うの。で、古い情報であればあるほど、世界からすれば異常が大きくなっちゃうわけ。破壊された、っていう情報が記録されてる期間が長いわけだからね。だから、その分修正力も強くなる。結果、無理なわけ』

『なるほど……』


 言われれば当然としか言えない。そうしてこの話は終わったわけだ。それを、ソラは思い出した。


(でも、修繕の魔術はその修正力が働いていない。何故だ……?)

「ソラよ。先日、儂が言った事を忘れておらんか?」

「あ……」


 どうやら過去を思い出している内にそこそこの時間が経過していたらしい。ブロンザイトの指摘を受け、ソラは慌てて自分の考えを語る。それを聞いて、ブロンザイトが一つ頷いた。


「ふむ……修正力が働いておらんのではないか、と」

「はい」

「ふむ……まぁ、及第点という所じゃろう」


 ソラの導き出した答えに対して、ブロンザイトは一つ頷いて及第点を与える。及第点なのは、修正力に言及できていたかららしい。


「正確には、修正力を上回る力が働いておるから、というべきじゃろう。修正力が働かん事はない。お主が言うた通り、修正力は古い情報であればあるほど、強くなる。では逆説的に言えば、比較的新しい情報に対しては修正力はさほど働かぬわけじゃ」


 ブロンザイトの言う事は道理と言えるだろう。それ故、ソラも納得して頷いた。それを見て、彼は更に続ける。


「世界とて動く時は費用対効果で動く。修正力を上回る力での情報の固定があれば、世界側にとって異常を修正するより、問題無しとした方が良いわけじゃ」

「良いんですか?」

「良いんじゃろう。そこらの事は儂にも分からぬ」


 所詮、ブロンザイトとて人だ。世界側の存在ではない。これが分かるとすれば、一度は世界側に立ち、大精霊達と繋がるカイトだけだろう。


「で、お主が言うた時を巻き戻す魔術。これも修繕の魔術も原理的には一緒じゃ。故に、修繕の魔術も破壊されて時間が経過すれば経過するほど、修繕が困難となるわけじゃ。故に、何時穴が空いたかも分からぬ服であれば使わぬ、というわけじゃな」

「はー……」


 なるほど。ソラはブロンザイトの解説に納得し、頷いた。そうして、彼は飛空艇の中でも更に幾つもの事を学びながら、次の目的地であるミニエーラ公国へと向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1609話『ミニエーラ公国』

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