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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1597話 賢者と共に ――第一幕・閉幕――

 ヴォダ市市警の内通者マルセロの捕縛をきっかけとしてラグナ連邦主導で行われた大捕物。これはソラの活躍もあり、なんとか成功を収める事が出来ていた。そうして数時間後。マルセロを欠いたエマニュエルの部下達は大捕物が終わった後の恒例となるらしい飲み会を行う事になっていた。そこに、ソラもまた参加していた。


「そう言えば、君が参加するのは初めてだっけ」

「時間無いし」


 じゅー、と音を上げる肉を見ながら、コレットがニクラスの問いかけに答える。マルセロも言っていたが、コレットは今まで飲み会に参加した事はない。これが最初で最後だった。


「時間無いってそう言えば君、今の今まで何やってたんだい?」

「副業。孤児院にお金無いし。先生が署長をやってる理由、分かる?」


 ニクラスの問いかけに対して、コレットが育てていた肉を回収してタレに浸けながら問いかける。それに、ニクラスが首を振った。


「そもそも彼が孤児院をしていた事自体、初耳だよ」

「まぁ、そうでしょうけど……組織の下部組織にお金借りてたらしいのよ。で、返済を延期する代わりに、署長やれって。まぁ、私もこれ聞いたの、ついこの間なんだけど」

「じゃあ、元々警察官じゃなかったんっすか?」


 コレットからの情報にソラが首を傾げる。元々警官らしくはない人物だ、とは彼も思っていた。が、これにコレットは首を振った。


「ううん。警官は警官。でも出身地とかはここらへんじゃない。もっと西……トゥリクルって知ってる?」

「「「……」」」


 コレットの問いかけにニクラスはフロランと、ソラはトリン――ブロンザイトの命令で参加――と顔を見合わせる。と言っても勿論、ソラが知っているわけもなかった。


「トリン、お前知ってる?」

「うん。一度だけ行った事ある。凄いのどかな所……かな」

「田舎で良いわ。花畑が有名なだけの辺鄙な街だし。現にこっち二人も知らない様な田舎だし。まぁ、重大な事件なんて私が育った十数年で一度も起きてない様な無名の土地よ」

「「あ、あはは……」」


 どうやらニクラスもフロランも知らなかったらしい。前者は首都の出身で後者はヴォダ出身だ。どちらにせよ距離としても相当遠いらしい。逆に後のコレット曰く、トリンが行った事があった方が驚きというぐらいらしかった。


「そこの駐在所の警官をやってた。孤児院は奥さんが経営してたらしいんだけど……まぁ、そんな田舎だから経営は苦しくて。お金、借りてたらしいのよね。今は孤児院を院長先生に任せて、一人こっちに来てらっしゃるの」

「はー……」


 そんな事情があったのか。ソラはコレットの語ってくれた内容に感心した様に頷いた。そしてそれなら、確かに納得も出来る。特に犯罪も起きない様な田舎の駐在さん。彼のおっとりとした様子には、確かにそれが見て取れた。と、そんな事を聞いて、ふとフロランが口を開いた。


「……もしかしてコレット。お前がヘッドハント受けるってのって……」

「……うん。私の才能を見込んでくれた方が居て、孤児院への融資も引き受けてくれるって」

「へー……」


 確かにコレットの才能はソラからしてもかなり優れていると言っても良い。が、それでも好条件は好条件だ。ヴィクトル商会が良くそんな話を出したものだ、と思わないでもなかった。そしてそれは全員が思っていた事でもある。故にフロランがそのままの流れで口を開いた。


「流石は、ヴィクトル商会なのかもな。んなぽんって融資決めるって」

「?」


 フロランの言葉にコレットが首を傾げる。というのも、実は彼女は一度も自分がヴィクトル商会が次の就職先なぞとは言っていない。というより、ヴィクトルのヴィの字さえ出していない。


「どうしてヴィクトル?」

「「「え?」」」


 違うの? コレットを除いた全員が目を丸くする。今までの調査で彼女がヴィクトル商会の支社長と会っていた事はわかっている。なら、そうだと誰もが考えたのである。というわけで、ソラがそれを指摘した。


「え、だって……ヴィクトル商会の支社長と会ってたはず……でしたよね?」

「ああ、あれ。あっちはお断りさせて貰ったわ。配属先が社長室だったし……」

「「「へ?」」」


 世界最大の大企業からのヘッドハントを蹴った。しかも社長秘書である。どれだけのOLが希望するかわからないのに、それを蹴った。その事実に全員が目を見開いた。とはいえ、それは彼女からすれば当然とは言えた。


「……あそこだと孤児院、帰れなくなるし」

「あー……そういや、基本飛空艇の上から指示出してる、って話でしたっけ……」


 今は<<死魔将(しましょう)>>の一件があるのでサリアも基本マクスウェルの本社に入っているが、基本的には移動基地とも言える飛空艇艦隊のヴィクトル商会ビルから指示を出す事になる。

 そしてこの予定はカイトとの婚約が正式に発表されるまで変わらない予定だ。なので公にはカイトの帰還が報告されない為、コレットの就業場所もそう教えられていたのであった。


「うん。だから基本的には、私の勤め先はここの反対のマクスウェルかヴァルタード帝国とかの双子大陸になる。で、飛空艇で移動しっぱなしだから基本休暇でも遠出が難しいらしいのよね」


 少し恥ずかしげに、コレットが古巣について言及する。どうやら今でも時折孤児院というか故郷には年に数度は帰っているらしく、それができなくなるのが嫌だったそうだ。

 こればかりは当人の考えそれぞれだ。そしてサリア自身が故郷を大切にしている事もある。サリアもそれなら仕方がない、と残念だが勧誘は諦めたらしい。


「ん? じゃあコレットさん、どこに行くんっすか?」

「……まぁ、良いか。どうせあんたはまた会うだろうし」

「へ?」


 教えるか教えまいか少し悩んだコレットであったが、ソラの顔を見ながらそんな妙な事を口にする。そうして、コレットの転職先が語られた。


「マクダウェル家よ。この間あんたらが張り込んでた時は、そのお偉いさんと話してたのよ」

「え゛?」

「あんたが来て少しした頃に、マクダウェル家とヴィクトル商会からほぼ同時に勧誘が来たのよ。で、日程的にヴィクトル商会が先になっただけ」


 表情が凍りついたソラに対して、特に気にしないのかコレットは普通に語る。と、そしてふと、つい先日の張り込みでの事が思い出された。


「あ……」


 青い髪の美丈夫。妙な紋章が浮かんでいる魔族が一緒。マクダウェル家。もうこの時点で、彼の脳裏には一人しか居なかった。当然、カイトである。彼がユハラを連れてやって来ていたのだろう。

 なお、この時のソラは知る由もないので仕方がないが、実際には来ていたのは彼の使い魔だ。この当時の彼は通信機の作製で忙しく、来ている暇は無かった。が、ある理由でこちらに来たので、ついでなので自分で面接していたのである。


「あいつかよ! いや、そうだよな! あいつがコレットさんほっとくわけないよな!」

「……何、急に」

「……なんでもないっす」

「あ、あははは……」


 どうやら全ての裏を理解したらしいソラに、同じく実はブロンザイトから話を聞いた時点で詳細を把握していたトリンが半笑いで視線を逸らす。


「ってことは、俺とニクラスさん気絶させたの暗殺者ギルドじゃなくてマクダウェル家か……」

「らしいわ……あ、そうだ。そう言えばその人があんたの事知ってて、手紙渡してくれって」


 がっくりと肩を落としてため息を吐いたソラに、コレットがそう言えば、とカバンを漁る。そうして、カイトからの手紙が差し出された。


「どもっす……うっせぇよ、バカ! 調べてたんだったら先言えや!」

「知り合いなの?」

「……まぁ」


 ソラはカイトからの手紙を読んで、無造作にカバンに突っ込んだ。そこにはたった一言だけ書かれていた。その一言は、情報提供サンクス、である。お疲れ様の一言も、頑張れよの一言も無かった

 後に聞けばソラの報告書にあったコレットの優秀さを聞いてカイトが興味を持ち、ブロンザイトにも隠れて少し裏を調べさせたそうだ。そして今回の一件に関わりがある事を察知し、下手に敵に取られるより前に、と勧誘に乗り出したそうである。


「ふーん……相当お偉いさんだって話だったんだけど」

「色々とあるんっすよ、色々と……」


 相当お偉いさんじゃなくて当主っす。訝しげなコレットの視線に対して、ジト目のソラは内心で悪態をつきながらもそう嘯くだけだ。と、そんな不満げなソラに、トリンが半分笑いながら告げた。


「あ、あはは……まぁ、でも。調べててもそこは多分、お爺ちゃんが止めたと思うよ?」

「まぁ、そうだろうけどさ。完全無駄骨を折らされた形じゃん」

「ま、まぁね」


 ソラの指摘に対して、これにはトリンも肯定するしかない。調べてたなら教えてくれ。素直にそう思うしかなかった。と、そんな二人にニクラスが笑う。


「あはは……まぁ、取り敢えず。そういう事なら、良かったじゃないか。これでとりあえずは一安心だろう?」

「うん……とりあえずグレーゾーン金利とか、暴利の部分で余分に取られてた分についてはなんとかしてくれるって言うし。というか、あの二人。お人好し過ぎるのよ。だからあんなアコギな奴らに捕まって……」

「あはは」


 どうやら、コレットもコレットで本当は言いたい事は山程あったのだろう。一同はとどまるところを知らない彼女の愚痴に、そう思う。と、そんな愚痴が少し続いた所で、フロランが再度問いかけた。


「そういや、ってことは皇国に行くのか?」

「うん。そもそもマクダウェル家だし。そこら、私も興味はないし。どうせ飛空艇に乗ってりゃ一緒でしょ」


 確かにマクダウェル家という事は皇国だ。そしてあそこなら長期休暇を得て帰る事も容易と言える。確かに遠くなるので頻度は減るが、それより孤児院の立て直しを優先したそうだ。


「まず早急に孤児院の経営の立て直ししないと……取り敢えずマクダウェル家のおかげで、当座の資金は手に入った。でもそもそも借金してるって事は経営が赤字って事なんだから、出資の見直しから始めて……」

「お、おう……」


 やっべ。要らない事聞いちまった。フロランは頬を引き攣らせる。ここらの真面目な話は彼は苦手らしかった。そしてそれは、ソラも一緒である。


「そ、そういやさ。コレットさん、次どの部署なんっすか?」

「秘書室。どうにもあそこで人員の増員掛けてるらしいのよ」

「あー……」

「何か知ってんの?」

「まぁ……」


 そもそも現状、あの椿さえカイトの補佐にカナタとコナタの増員を認めるほどだ。それでも、カイト曰くまだ手が足りないという。相当に忙しいのである。

 しかもこれはまだ彼が公に復帰していないから、この程度で済んでいるわけでもある。これがもし彼が公爵に復帰したらどうなるか。まぁ、わかろうものだ。

 アウラの時を考えれば彼の復帰というのはまず、全世界的に慶事として駆け巡る。お祭り騒ぎは確定だ。そしてその後の彼が大忙しになるのは、目に見えている。現状だと世界各国が彼を詣でるだろう。それを分かっていて対処しないはずがなかった。今の内から増援を掛けておいて、その時に備えようとしていたのであった。


「……まぁ、いっか。とりあえずそういうことで、私多分あんたの拠点の近くに住む事になるっぽいから」

「ふーん……まぁ、俺も時々公爵邸には呼ばれるから、会う事もあるかもしれないっすねぇ……」


 コレットの言葉にソラはそう思う。と、そんな彼にコレットが問いかけた。


「なら、何かあっちの注意事項とか知ってる?」

「んー、なんだろ。あ、孤児院の子供とか来るとかかなぁ……」

「あ、それは言ってた。それで私の事情とか融資とか引き受けてくれたし」


 この点はコレットとしてもありがたい所だったらしい。ここらは貴族主義と資本主義の差に近い。カイト達はノブレス・オブリージュを心がける必要がある。なので企業とは違って支度金の様に融資を確約させる事はよくある事だった。


「あー……んじゃ、なんだろ」

「なんでも良いわ。生活の知恵とか、違いとか……」

「んー……」


 何か他に知ってる事はないかな。コレットの問いかけにソラは考える。そうして、この日は結局コレットから色々と聞かれる事になり、その後はなんだかんだと何時もの雰囲気で終わりを迎える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1598話『賢者と共に』

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