表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1627/3937

第1596話 賢者と共に ――ひとまずの終わり――

 ラグナ連邦の都市の一つヴォダ。その街では、ラグナ連邦の地下に潜む地下組織の構成員が市長を勤めていた。が、その市長も三年に渡るブロンザイトの調査によって、その背後に控えたマクダウェル家の横槍を厭ったラグナ連邦大統領府が許可を下ろした事でその捕縛に成功していた。

 そうして、その功労者の一人にソラは名を連ねる事になった。彼は自身に襲いかかった――事にしてもらった――市長を気絶させると、彼を引きずって市庁舎の表門へと向かっていた。


「ん? あ、お師匠さん」

「お爺ちゃん」


 どうやら裏門も確保出来たらしい。戻った二人の前にはブロンザイトが待っていてくれていた。


「うむ。二人共、作戦は上手く行った様子じゃな」

「「はい」」


 ブロンザイトの言葉に二人が頷いた。市長の捕縛に成功している事は見ればわかる。無論二人は警察ではないので手錠は掛けられていないが、持ち込んだ吸魔石を練り込んだ特殊な鎖で市長はぐるぐる巻きだ。逃げられる可能性は一切無かった。


「エマニュエル殿」

「ええ。気絶しているが……ホルヘ・プエルタ。公職選挙法違反や業務上横領等の罪によって、逮捕する」


 ブロンザイトの促しを受けたエマニュエルが市長――ホルヘというらしい――の手に手錠を掛ける。これで、鎖を外した所で問題無いだろう。と、それが出来た頃合いで、街の各所に取り付けられたモニターが一斉に大統領府からの緊急の放送を開始した。


『……ヴォダ市市民の皆さん』

「始まりましたな」

「ええ」


 ブロンザイトの言葉にエマニュエルが頷いた。モニターに映っていたのは、40代後半ぐらいの男性だ。体つきはがっしりとしており、どこか威厳というものがあった。とはいえ、その人物をソラは知らなかった。


「誰?」

「ラグナ連邦の大統領だよ。今回、やむにやまれずこの行動になったけど、市民達はそれ故に状況がわかっていない。きちんと説明と報告する義務があるからね」

「なるほど……」


 トリンの言葉にソラはなるほど、と頷いた。まぁ、市民達の半分程度はこの地下組織を知っていたが、それでも大統領府がこんな行動に出るとは思っていない。なのでヴォダの街中が混乱に包まれており、軍のクーデター等を疑う声もあった。

 とはいえ、幸いだったのはここが地球ではなくエネフィアだという所だろう。こういう荒事は年に何度か起きる。地下組織と繋がる政治家の逮捕の為に大統領直轄の部隊が動く、というのはさほど珍しい事ではなかった。

 それが今回は偶然にもヴォダだった、というだけだ。故に市民達の反発はそこまででも無いらしく、それ故にラグナ連邦の大統領府も今回の作戦にゴーサインが出せた、というわけだった。と、そんな大統領の会見を見ていたわけであるが、ブロンザイトとエマニュエルはとある写真を見て、一つ頷いた。


「……どうやら、中央の方も捕られた様子ですな。これで、私も溜飲が下がる」

「その、様子。まぁ、あちらも中央に同時に手が及ぶとは考えておらんかったのでしょう」


 どうやらモニターに映った写真の男は三年前に二人が苦渋をなめさせられた相手らしい。後にソラが聞いた所によると、ブロンザイトの言った通りまさかヴォダの市長と同時に自分の所に大統領府の特殊部隊が来るとは思っておらず、組織との間で対応を考えようとしていた所をあっけなく捕まったそうだ。

 それも仕方がないといえば、仕方がない。実際本来は逮捕出来る確たる証拠は無く、大統領府の強権に近かった。とはいえ、ヴォダ市市長が証拠を握っている事は分かっていた為、問題無いと判断されたそうだ。


「ブロンザイト殿。此度のご助力、改めて感謝致します」

「いえ、これでここらの流行り病も少しはマシになるでしょう」


 エマニュエルから差し出された手をブロンザイトが握り、そう口にする。あくまでも、民の為。それが賢者の賢者たる所以だった。そうしてそんな彼の言葉を聞いて、エマニュエルも一つ頷いた。


「そう……ですな。来年からは横流しされていた予防薬の多くが民の手に行き渡る事でしょう」

「ええ……っと、とりあえず罪人を警察署に連行しませんとな」

「ええ。あちらにはニクラスとフロランが動いて、内通者を捕らえております」

「左様ですか」


 エマニュエルの言葉にブロンザイトが一つ頷いて、ソラとトリンに視線を向ける。


「トリン、ソラ。ここは軍が確保してくれる故、儂らは警察署に戻ろう」

「「はい」」


 ブロンザイトの言葉に二人は応じ、後の事は軍に任せる事にする。そうして、二人も警官隊に続いて警察署へ向かう事にした。


「そういや、内通者って誰なんだ?」

「え? ああ、さっきの?」


 ソラの問いかけにトリンがそう言えばそれは教えてなかった、と思い出したらしい。そうして、彼が教えてくれた。


「ほら、一度エマニュエルさんがこの警察署の署長は安全、って言った事があるの覚えてる?」

「ああ、そういや言ってたな……まさか彼が?」

「ああ、違う違う。彼は白。彼の横に居る副所長が内通者……というか、組織の構成員なんだ。ここの署長さんは単なるお飾り。それが分かってたから、エマニュエルも安全って言ったわけだね」

「はー……」


 トリンが語った内容に、ソラはそうだったのか、と納得する。こちらはどうやら傀儡を立てて裏から動かしていたらしい。と、そんな所にコレットが口を挟んだ。


「先生が安全なのは当然だし。あの人、お人好し過ぎて見てられないぐらいだから」

「先生?」

「うん。あの人、元々孤児院の先生。私、そこの孤児院出身」

「「「へ?」」」


 唐突に語られたコレットの過去に、ソラだけでなく前を歩いていたエマニュエルさえ驚いた様子で振り向いた。とはいえ、彼は署長の過去は知っていた為、驚いていたのはコレットがそこの出身者という事だった。


「そういえば、あんた」

「お、俺っすか?」

「うん。数日前。私が先生……署長と会ってたのチクったでしょ」

「うっ……」


 今思えばこれは完全にコレットに対して失礼だったわけであるが、あの当時は仕方がないといえば仕方がない。が、それを指摘されてはソラとしても申し訳ないと頭を下げるしかなかった。


「すんません……」

「ああ、別に良いわ。あの時には疑われてるのは分かってたし。それを敢えて放置してたのは私だし」

「すんません……」

「あの時ヘッドハント受けようか悩んでて、相談に乗ってもらってたのよ」


 ソラの再度の謝罪をスルーしてコレットがあの当時何が有ったかを語る。当然といえば当然だが、エマニュエルと親代わりの署長であれば普通は署長の方に相談する。そして内容が内容故にエマニュエルは通さないで当然だろう。単にそれだけの事だった。と、それに対して一人驚かなかったブロンザイトにコレットが問いかけた。


「驚きませんね」

「そんな所じゃろうとは思っておったからのう……あの時、儂が何より訝しんだのは、何故敵が姿を見せたのか、という所じゃ」

「あ……」


 ブロンザイトに指摘され、ソラが目を見開いた。確かに、可怪しいと言えば可怪しい。普通監視が姿を現す事はない。そして姿を現した結果、ソラが屋上に呼び寄せられる結果となった。が、これが目的なら筋が通った。


「うむ。何も見付からんのが自然よ。この目的はお主を屋上に呼び寄せる事。いや、更に正確にはその道中で署長室に帰ったはずのコレットがおる、という事をこちらの報告してもらう事じゃな。流石に儂も署長室に突入せよとは言わぬ。ソラも結界の展開される署長室の中の会話を盗み聞きする事は出来ん」

「そうなると、更にコレットさんが疑われて……」

「うむ。更に上手く行けば署長も疑われる事となり、我らが孤立する事にも繋がる」


 大凡の流れを察したソラに、ブロンザイトが改めて説明を続ける。


「偶然を装った必然。単にそれだけじゃ。それが必然か偶然かによって、持つ意味は変わってくるがのう」


 気付けば当たり前や簡単と思える事だ。が、それを気付かせない事にこそ妙があるのだ。それを、ブロンザイトは明言する。と、そんな彼より今回の一件で考えるべき事、見直すべき点を教えられながらソラは警察署へと戻る事になるのだった。


 


 警察署に帰り着いたソラ達であったが、そんな彼らを待っていたのは大統領府直属の公安警察が封鎖した警察署の姿だった。と、そこには一人の老人警官がのんびりと座っている姿があった。と、そんな彼は若い女性警官に差し出されたお茶をのんびりと飲みながら、警察署を見ていた。


「ああ、これはエマニュエルさん。お疲れ様です」

「おぉ、署長。お疲れ様です」

「署長……?」


 柔和な顔でエマニュエルに頭を下げた署長らしい人物を見て、ソラが目を丸くする。彼は署長というより、どこかの縁側でお茶を飲んでいるのが似合う老紳士だった。


「あぁ、君がソラくんだね。はじめまして。ヴォダ市警の署長です。この度はありがとうございました」

「え、あ、はじめまして。ソラ・天城です」


 ただ署長とのみ名乗った老紳士に、ソラが慌てて頭を下げる。ある意味自分の城とも言える警察署に別の警察の手が入っているというのに、なんとも呑気な物だった。と、そんな彼にコレットがため息を吐いた。


「先生。ほっぺ。右。おべんとう」

「ん? おぉ、本当だ」

「はぁ……」


 コレットの指摘で右頬に付着していたあんこを指で拭い、舐め取った。どうにもソラが見る限りでも一つ一つの動作がのんびりとしており、警察官というより確かに孤児院の先生等をしている方が似合っていた。


「いやぁ、そこのおはぎが美味しくてねぇ。つい欲張ってしまったよ」

「はぁ……で、先生。現状は?」

「おぉ、それかね。今は大統領府の方が取調べをなさっている所だよ」

「課長」

「う、うむ……」


 コレットに言われ、エマニュエルが一つ頷いた。彼としても、こののんびりとした署長は些かやり難いらしかった。とはいえ、良い人物とは思っているので嫌いではないらしかった。と、そうして公安警察に許可を取って、今回捕らえた者たちを警察署内部にある留置所に移送した。


「お疲れ様でした」

「うむ……まさか、お前が公安とはな」

「三年前の一件で部はバラバラになってしまいましたからね。その際、俺は今の部長に拾われたんですよ」

「そうか」


 留置所まで案内した公安警察の警官とエマニュエルが僅かな会話を交わす。どうやら彼は元エマニュエルの部下――と言ってもホセなる人物ではない――らしく、三年前の一件で中央の役人の腐敗を掴んだ今の部署の部長が手を尽くしてヘッドハントしたらしい。エマニュエル達とは別口で追っていたとの事だ。そしてそれ故、旧縁を頼りにこちらに増援として差し向けられたらしかった。


「部長……お疲れ様でした。これで三年前の俺達の敵が討てましたね」

「今は課長だ」

「そうでしたね」


 自身の背に向けて敬礼した元部下に、エマニュエルが笑いながら告げる。そうしてマルセロ達の収容が終わった後、彼は自分の課が保有する部屋へと戻るべく歩き出す。と、そんな彼の背に、先程の部下が声を掛けた。


「そう言えば、部長」

「なんだ?」

「俺の事を驚いた、と言ってましたけど……俺からすれば課長の方がびっくりですよ? なんですか、その格好。おまけに性格まで変えて……この間ようやく今の部長に教えられて嘘だろう、って声に出してしまいましたよ」

「ははは。見違えたか?」

「それはもう。捜査一課のエマといえば、本庁では憧れでしたからね。今のそのお姿なら、誰も気付かないでしょう。俺だって教えられるまで同姓同名の別人だ、って思ってましたよ」

「それが、狙いだからな」


 楽しげに笑うエマニュエルに、元部下が笑いながら告げる。その意味はわからないが、元部下だから分かる事があるのだろう。そんな楽しげな彼は後ろ手に別れを告げ、エマニュエルは今の自分の部屋へと戻る事にする。

 そこではやはり公安警察が動いており、マルセロの机を調べていた。とはいえ、部屋そのものは使えるらしく、彼を除いた全員が揃っていた。


「ふむ……」

「課長。今日はどうします?」

「む?」


 自席に腰掛けたエマニュエルへとニクラスが問いかける。それに、彼はマルセロの席を見てわずかに苦笑気味に首を振った。


「……行って来い。それが、この課のルールだろう」

「……はい」


 少し苦笑したエマニュエルに対して、ニクラスもまた苦笑する。そうして、彼はソラへと教えてくれた。


「大捕物が終わった後は、飲み会を開くんだ。犯人が誰であれ、ね。参加するかい?」

「……うっす」


 ニクラスの問いかけに、ソラは少し考えた後に頷いた。飲みたい気分とは言い難いが、確かに大捕物だったのだ。なら、それに従うだけだろう。と、そんな飲み会に珍しい人物が参加の意を示した。


「なら、私も参加するわ」

「コレット……」

「今回が最後になるから」

「そっか。じゃあ、最後ぐらい俺が全部」

「いや、私が出してやろう。領収書は切れ」


 自分が奢ろうと言おうとしたニクラスに対して、エマニュエルが半ば笑いながら口を挟む。そうして、その日はマルセロの代わりにコレットが参加する事になり、流石に仕事は出来ないという事で全員が早めの帰宅と相成るのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1597話『賢者と共に』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ