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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1594話 賢者と共に ――対マルセロ――

 内偵調査と暗殺者ギルドに近い者からの助言の結果、遂に内通者のあぶり出しに成功したソラ。彼はその内通者であったマルセロ――本当はロサーノというらしいが――との戦いに陥る事になっていた。そうして仕掛けていた何らかの封印を解いたマルセロに対して、ソラは即座に切り札の一枚を切る。


「……そいつぁ……なんだ?」

「なんっしょうね?」


 ソラが懐に手を突っ込んで取り出した奇妙な円筒状の筒を見て、マルセロが首を傾げる。とはいえ、彼とて相手がランクBの冒険者である事は知っている。故に彼は迂闊に攻め込む事はせず、笑って円筒状の筒を握るソラを観察する。が、これこそが彼にとって失敗だった。そうして、ソラはその上部に取り付けられていたスイッチを押し込んだ。


「スイッチ・オン!」

「っ!」


 ソラがスイッチを押すと同時に、円筒がかっと光り輝いた。そうしてその光が収まった後には、何時ものフル装備のソラの姿がそこにはあった。


「そいつぁ……」

「俺のフル装備っすよ……ニクラスさん、コレットさん。俺一人でやるんで、二人は引いといてください。あぁ、後、警官隊の周囲の封鎖はそのまま頼んます」

「……わかった。任せるよ」


 流石にランクBにも匹敵するだろう相手との戦いだ。ソラとしてもニクラスとコレットの二人を庇いながらは戦えない。そしてマルセロとしても三人を相手にして勝てる見込みはない。故に、マルセロは引いた二人を見過ごすしかなかった。そうして一対一になった場で、両者はわずかに間合いを測る。


(……徒手空拳は変わらず、か)


 何かの武術に則った構えをするマルセロを見ながら、ソラは何時もの通り盾を前にしたカウンタースタイルで構えを取る。それに対してマルセロはマルセロでソラが完全武装になった事を受け、迂闊に攻め込むつもりはないらしい。


(どうするかな)


 ソラはマルセロを見ながら、どうするかを考える。このままやっても勝てるだろう。ソラは己が今も隠し持つ幾つかの手札を思い起こし、そう判断する。が、油断はしない。相手は何をしてくるかわからない。しかもラグナ連邦での対人戦はほぼ初と言って良い。油断出来るわけがなかった。


(……まぁ、焦れるのを待つのが常道だし、それはマルセロさんも覚悟してるよな)


 盾で隠れたその裏で、ソラは僅かな笑みを浮かべていた。マルセロもここからの大凡の流れは理解している筈だ。まずマルセロが仕掛け、ソラがそれを防御。そこからは普通に攻撃の応酬となる。

 それが、普通に考えた場合の成り行きだ。後はどちらの実力が上回るか、という所だろう。が、それ故にこそソラには笑みが浮かんでいた。なら、それを外す。故に彼は盾を下ろして、地面を蹴った。


「何っ!?」


 自分の想定外の動きが来て、マルセロが目を見開いた。しかもソラの動きは彼の予測を大きく上回っており、わずかに反応が遅れていた。


「はぁ!」


 一瞬でマルセロに肉薄したソラは、<<滅一閃(めついっせん)>>という(スキル)を使用し、マルセロへと斬りかかる。これはエルネストが遺してくれた(スキル)で、斬撃が消滅して見えるほどに速い斬撃を放つという事から名付けられた(スキル)だった。

 が、今回ソラはマルセロを捕縛する事をメインとし、武器は何時もの神剣ではなく刃引きした片手剣を用いていた。故に全力で放つ事は出来ず、斬撃が消滅するほどの速度はなかった。


「ちぃ!」


 そんなソラの<<滅一閃(めついっせん)>>に対して、マルセロはギリギリ対応出来たらしい。間一髪の所で片手剣の腹へとブローを叩き込み、その軌道をずらしていた。

 とはいえ、流石に重武装のカウンタータイプがこの速度で攻撃を繰り出せるとは思わず、わずかに頬に赤い筋が入っていた。そうしてソラの一撃を辛くも防いだマルセロは、そのまま身を捩って後ろ回し蹴りを放った。


「遅い!」


 そんなマルセロの後ろ回し蹴りに対し、ソラは少し盾を動かして防御する。そうして、金属同士がぶつかり合う音が鳴り響いた。


「っ!」


 マルセロの靴には何かが仕込まれている。ソラは衝突の音からそれを察する。が、盾の影になっていて、その原因は見えなかった。そこに、横で見ていたニクラスが声を上げた。


「ソラくん! マルセロの靴には刃が取り付けられている! もしマルセロが組織の構成員なら、必ず毒が塗られている筈だ! 受けちゃダメだよ!」

「ちっ! おしゃべりな男は嫌われるぜ、ニクラス!」


 どうやら当たりだったらしい。盾との間で押し合いを行うマルセロの顔が歪み、しかしその口からは何時もの彼のセリフが出てきていた。どうやら、彼の性格そのものは演技ではないらしい。そうして、彼は身を捩り、今度は逆の足でミドルキック気味に蹴りを繰り出した。


「っと! すんません、ありがとうございます!」


 マルセロのミドルキックに対して、ソラは一歩後ろに下がって回避。そしてその次の瞬間、彼の前に空色の線が走った。


「っ!?」


 走った空色の線に、マルセロが更に逆の足での追撃をやめてバックステップでその場から飛び退く。彼にこの空色の線が何かはわからないが、少なくとも攻撃の予兆の可能性はあるのだ。その場に留まるわけにはいかなかった。が、その彼の動きを見て、ソラが笑みを浮かべた。


「はっ!」

「ぐふっ!?」


 ソラの放った刺突をみぞおちに受け、マルセロから肺腑の空気が溢れる音がする。そうして、思いっきりマルセロが吹き飛ばされた。


「ふぅ……流石、神話大戦の英雄。すげぇわ、これ」


 吹き飛ばされたマルセロを見ながら、ソラが呟いた。彼が何をしたか。それは当然だが、エルネストの遺した<<走追閃(そうついせん)>>を使おうとしたのだ。

 が、別に攻撃を予告したからと、攻撃を放つ必要はない。キャンセルは可能だ。ただこの状態で攻撃を放てば超高速で放てる、というに過ぎない。故にこれを囮にして、回避の動きを誘発したのである。

 無論、その場に留まっていたのなら攻撃の餌食になる。防御するぐらいしか、防ぐ手はない。が、徒手空拳のマルセロには厳しい物があるだろう。これはソラが継承したエルネストが蓄えた戦闘経験の一つだった。


「さて……マルセロさん。生きてんのは、わかってんすよ」

「いってぇな……」


 数瞬地面に突っ伏していたマルセロであったが、ソラの言葉に応ずる様にしかめっ面で再度立ち上がる。そうして数度深呼吸して痛みを抑制し、再び構えた。


「流石だ、お前さん。俺が思ってた以上、組織が把握していた以上だ」

「俺の力だけじゃねぇっすよ。ちょっと、俺に力くれた人が居たんで。その人のおかげっす」

「そうか」


 ソラの語りに対して、マルセロは攻撃を仕掛ける事はなかった。まだ痛みが完全に引いたわけではない。時間は彼の有利に働くのだ。

 更に言うと、市庁舎の方には組織の兵隊が向かっている。組織の兵隊の実力はマルセロも良く知っている。ソラを向かわせるのは拙い。マルセロはそう理解したのだ。なのでソラの足止めが出来るのなら、そちらの方が良いと判断していたのである。とはいえ、いつまでもじっとはしていられない。故に彼は今度は自分から地面を蹴った。


「……はっ!」

「っ」


 速い。ソラは一瞬で己に肉薄しボクサーの様にボディー・ブローを放とうとするマルセロを見て、一瞬顔を顰める。<<縮地(しゅくち)>>を使ったのは理解出来た。

 が、その速度と練度は確実に自分より上と理解出来た。エルネストの技術を継承して以降、彼も熱心に<<縮地(しゅくち)>>の練習をしているが、それでもマルセロの方が今は上と認めざるを得なかった。とはいえ、止まった後なら見切れる。故にソラは即座に盾を動かして己の腹を守る。


「おぉおおおおお!」


 ソラが一打目を防御したと同時。マルセロが雄叫びと共に一気に攻勢を仕掛けた。それは一撃一撃毎に加速を続け、いつしか彼の拳が摩擦で火を帯びるほどだった。そうして、彼の拳に完全に火が灯ったと同時。彼は今までに一番の力を込めて、ソラへと殴りかかった。


「<<煉獄撃(れんごくげき)>>!」


 口決と共に、マルセロ最大の一撃が放たれる。その一撃はしかし、唐突にソラが消えた事で空を切った。そのソラであるが、彼はマルセロの背後に回り込んで彼おなじみの盾での杭打ちの構えを取っていた。


「っ!」

「<<電撃杭(サンダー・ステーク)>>!」

「ぐっ!」


 回り込まれた。それを悟ったマルセロは背後に向けて障壁を全開にしていたが、やはりランクBの冒険者の攻撃、それも破砕力に長けたソラの杭打ちだ。耐えきれず障壁が砕け散り、その反動を受けていた。が、障壁が砕けただけだ。杭は彼へは届かなかった。とはいえ、これはそれで良かった。


「っ!?」


 反動を強引に押し殺し、ソラに向けて回し蹴りを叩き込もう。そう思ったマルセロが身を捩って見たのは、ソラが杭打ちの姿勢のまま、更に腕を突き出していた姿だ。

 そうして、彼の障壁の中に侵入していた杭の先端が弾けた。ソラが新しく開発した<<電撃杭(サンダー・ステーク)>>は非殺傷用の(スキル)で、障壁を破砕した後に敵の障壁の内側で雷を放つというものだった。障壁の内側で放てるので使うのは下位の雷系魔術で良い為、特に苦労せずに開発出来ていたのであった。


「ぐぎゃぁああああ!」


 弾けた杭の先端から迸ったのは、紫電だ。それは一切防ぐ事を許さずマルセロに直撃し、彼の身体の自由を完全に奪っていた。


「ぐ……」

「あー……ちょっと手加減しすぎたっすかね。ホントは気絶するはずだったんっすけど」

「どうやって……後ろに回り込みやがった……」

「流石に飯のタネ聞かないでくださいよ」

「そりゃ……そうか……」


 マルセロは苦笑したソラの返答に一つ笑い、そのまま後ろに倒れ込む。そうして、彼は意識を手放した。


「……ふぅ」


 白目をむいて倒れ伏したマルセロを見て、ソラが一つ安堵の吐息を零す。おそらく総合的な実力であれば、互角と言えた。それでも勝てたのは平服で徒手空拳――暗器はあったが――というマルセロに対して、ソラは完全武装で臨めたからだろう。


「ニクラスさん」

「ああ……コレット。折角だ。君がやっておきなよ」

「別に興味ない」

「そ……何時も通りだね、君は」

「でもまぁ……疑われた事には恨みあるからやっとく」

「ととと……」


 歩こうとしたと同時にいきなり翻意したコレットに、ニクラスが思わずたたらを踏んだ。というわけで、彼はコレットへと持ってきていた手錠を渡す。


「……ロサーノ・カバリエ。えっと……とりあえず公務執行妨害で現行犯逮捕」

「「それ……?」」


 ある意味何時も通りマイペースなコレットに、ニクラスとソラが肩を落とす。と、それを確認したかの様に、エマニュエルが警官隊を率いてやって来た。その中にはフロランも一緒だった。

 実はフロランにはエマニュエルの護衛が命ぜられており、彼とエマニュエルは周囲の封鎖ともし万が一マルセロの奪還もしくは暗殺を狙われた場合に備えていたのである。

 コレットには迂闊な事をされない様に何も伝えていなかったが、彼女の場合はヴィクトル商会からの情報提供もあってこちらの動きに合わせる様に動いてくれていたのであった。


「課長。マルセロ……ロサーノの逮捕、完了です」

「うむ……これで、内通者を捕らえる事が出来たか。ふんっ、馬鹿者が」


 ニクラスの報告を受けてマルセロを一瞥したエマニュエルの顔には、僅かな悲しさがあった。やはり元々内通者かつ厄介者であったとしても、一年も共に仕事をしていたのだ。

 情は湧いていた、という事なのだろう。とはいえ、これでひとまずの終わりは終わりだ。故にエマニュエルは気を取り直すと、深々とソラへと頭を下げた。


「ソラ。今回は助力に感謝する。追って、ラグナ連邦よりも礼状が届く。是非とも受け取ってくれ」

「まだ終わってませんよ」

「うむ……とりあえず、この警官隊は大統領府直属の公安警察だ。安心してくれて構わん。マルセロの身柄はこちらで抑えよう」

「はい……じゃあ、俺は一旦お師匠さんに連絡を」

「うむ」


 ソラの報告にエマニュエルが一つ頷いた。そして彼の許可を得て、ソラはヘッドセットを起動させ警官隊の別働隊を率いて市庁舎に向かったブロンザイトへと連絡を入れた。


「お師匠さん。俺です、ソラです」

『ああ、ソラ。そっちは?』

「トリンか。こっちはマルセロさん……ロサーノの確保に成功。生きてるよ」

『そう……こっちはお師匠様が警官隊を指揮してるけど、どうにも向こうの方が少し行動が早かったみたい。市庁舎付近で交戦中だよ。正門側に居るから、増援頼める?』

「おう。すぐ行くよ……エマニュエルさん」

「うむ。行ってきてくれ。武装はそのままで良いと大統領より許可を得ておる。安心しろ」


 元々警戒はされていた。なら、敵も市長が確保されない様に動いていた事だろう。動きが素早くても不思議はない。というわけでソラはトリン達の増援をするべく、市庁舎へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1595話『賢者と共に』

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