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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1590話 賢者と共に ――尾行――

 ソラがブロンザイトと共にラグナ連邦へとやって来て、およそ三週間。彼は地下組織に繋がっている内通者と疑われるコレットの内偵と共に、商店街の宝石店を襲った強盗犯の調査を行っていた。というわけで、彼はある違法民泊のガサ入れで得られた情報を受け、ニクラスと共にまた外に出ていた。


「はー。それで冒険者さんが。怖いですねー」

「申し訳ありません、ご不安をおかけしまして……」

「いえいえ。お仕事頑張ってください」


 マルセロらと共に出発前の会議を行ってから、およそ一時間。大凡昼の12時頃には、二人は幾つかの店を回っていた。


「やっぱりこの男で確定かな」

「じゃあ、これで?」

「うん。いやー、助かったねー」


 ソラの問いかけにニクラスが何時ものだらけた笑顔で頷いた。そんな彼の手には、犯人の風貌等を魔術で転写した一枚の絵があった。やはり宝石店を襲う時には完全に顔を隠していた犯人であったが、当然そんな姿で出歩けるわけがない。

 怪しまれない為にも、戻る時は素顔で宿に戻っていたようだ。なので同じ民泊の宿泊客の中にその強盗犯と思しき男の素顔を目撃していた者がおり、それなら、と記憶を基にした絵の作成に協力してくれた冒険者――彼はこの民泊が違法とは知らなかったらしい――が居たのである。


「あ、ちょっと待っててよ。多分これで確定っぽいって二人に伝えてくるから」

「あ、うっす」


 通信用の魔道具を取り出したニクラスの言葉に頷くと、ソラは近くにあった椅子に腰掛ける。


「まぁ、表の質屋には売らないよな……」


 ソラが先程まで訪れていたのは、宝石店があった商店街よりかなり遠い区画にある質屋だ。と言っても、別にここで売りに出したという事はなかった。

 基本的に街の質屋は警察の手が及んでおり、こういう高額商品が絡む強盗事件が起きればまず情報提供の呼びかけが出る。当然、一度に全て持ち込めばその時点で怪しまれる。なので基本は何度も持ち込むか、幾つかの店に分けて売る事になる。前者ならすぐに怪しまれるし、後者ならその分目撃証言は増える。なので二人は幾つもの質屋を当たって情報提供を求めたのであった。


「値段調べて相場を、か。まぁ、裏のルートに伝手ある、って事なんだろうなぁ……」


 どうやらこの犯人は盗んだ宝石を査定のみしてもらったらしい。何度か質屋で確認を取った所、幾つもの店を回りたいので今回は売らない事にする、と言って取り下げたそうだ。

 こういう宝石等の高額の物を売りに来る客には別に珍しくない事らしく、事件が遠かった事もあり店の方もあまり注意しておらず、そのまま返却したとの事であった。

 が、まだ一週間程度だし、査定したら査定したで店に記録には残る。その時の店員の何人かはその時の事を覚えており、ほぼ確定でこの男が犯人で間違いないだろう、との事であった。と、そんな事を思い出していたソラであるが、ニクラスが通信機をポケットに入れて戻ってきた。


「ソラくん。ごめんごめん。連絡終わったよ」

「うっす……で、他の所はどうでした?」

「フロランがちょっと気になる情報を手に入れていたみたいだね。どうやらまだ街に残ってる可能性は高そうだよ」

「そうなんっすか?」

「うん……どうやら、一つ二つは売り捌けたのかもしれないね。数日前だけど、かなり豪勢に金をばら撒いたそうだよ」

「迂闊っすね」


 ニクラスよりの情報にソラが思わず呆れた様に笑う。盗めたのならさっさと逃げれば良いとソラは思うが、実はエネフィアでは高額になるとそうでもないらしい。とはいえ、迂闊は迂闊だ。


「まぁ、迂闊は迂闊だね。とはいえ、換金するまで出るに出たくないんだろうね」

「? そうなんっすか?」

「うん。基本、こういう重犯罪が起きたら、街には特殊な結界が展開されるんだ。一つ二つの宝石なら展開はしないんだけど……宝石とかに反応して近隣の軍と警察に通報が入る様な結界でね。腕に自信があって警察や軍から逃げられるのならまだしも、そうでないなら正規のルートで出た方が良いのさ」

「はー……」


 そんな結界もあるのか。ソラは感心した様に頷いた。なお、これが可能なのはあくまでも物品の窃盗のみで、殺人はどうしようもないらしい。どうやら宝石が魔石に似て魔力に反応しやすい性質を利用して、反応する様にしているらしかった。

 なお、一つ二つの宝石なら展開しない、というのは一つ二つの窃盗なら起動する方が費用対効果が悪いから、というわけらしい。この結界に選択性は無いらしく、どんな物でも問答無用に反応するそうだ。

 それ故に見回りの兵士達や協力してくれる冒険者達が翻訳用のイヤリングの装飾や護身用の魔道具を外したりせねばならない――更にはそれ故に冒険者は腕利きに依頼しなければならない――為、その程度では使われないとの事であった。


「ま、犯人もそれは知ってる筈だからね。全部を裏ルートで換金した後、出ていこうって腹積もりなんだろうね」

「じゃあ、もう少しは出ていけない、と」

「まぁ、後少しだろうね。それまでに捕らえないと面倒になるかな」


 ニクラスはわずかに、眼を細める。今回盗まれた宝石はかなりの量に上るという。流石にこれを一気に換金というのは難しい上、やはり足が付く品だ。なので情報の隠蔽や本物の確認等に時間が掛かり、量が多いと何度かに分けて支払われるだろうとの事だった。


「ま、それはそれでなんとかするさ。幸い、顔はもう掴めたしね」


 ニクラスは鋭い目つきで犯人の顔が描かれた絵を再度しっかりと目に焼き付ける。ここからは時間勝負だ。と、そんな鋭い目つきのニクラスであったが、一転して元に戻った。


「にしても、お腹空いたね」

「へ? あ、ああ、そう言えばもうこんな時間っすか」


 ニクラスに言われソラも時計を見てみれば、どうやらすでに昼の12時を少し回った頃合いだったらしい。お昼を食べるには十分な時間だった。


「どうします? 署の食堂行きます?」

「んー……そうだねぇ……あ、そうだ。署の近くにフロランが美味しいって評判の店を教えてくれてさ。ちょっと洒落た所で一人じゃ行きにくかったんだけど、付き合ってくれるかい?」

「あ、うっす」


 内通者を探す以外は基本、ブロンザイトに教えを乞うか彼の指示で警察に協力するかのどちらかだ。というわけで、ソラの今日の予定はコレットの側で大きな動きが無い限りはニクラスと行動を共にする事になっていた。それは勿論、昼からも、である。というわけで、ソラは彼と共に警察署近くの店へと向かう事にする。


「ハンバーガー屋?」

「そそ。結構良い肉使ってるらしくてさ。奢るよ」

「え? 良いんっすか?」

「誘ったの俺だしね。でもあんまり高いの頼まないでくれよ」

「うっす。ありがとうございます」


 笑うニクラスに頭を下げ、ソラは有り難くその厚意に甘えさせて貰う事にする。そうして出て来たのは、やはり地球のチェーン店の様なハンバーガーではなくきちんと皿に乗ったハンバーガーだった。まぁ、そう言ってもやはりハンバーガーなので、ソラとしても食い慣れた気分だった。


「なっつかしー……そういや、地球でも結構学校帰りに食ってたんっすよ」

「へー。ああ、そう言えば勇者カイトの地元にもある、とか言う話聞いた事があるなー」


 流石に食事中にまで色々と真面目な話はしない。というわけで、二人は呑気に話しながらハンバーガーを食べる事にする。と、そうして三十分ほど食べた所で、呑気に食後のドリンクを飲んでいると、ふとニクラスが腕時計に視線を落とした。


「んー……ソラくん。ちょっとここからは強盗事件とは別の話になるけど、大丈夫かい?」

「へ?」


 唐突に切り出したニクラスに、ソラが思わず目を丸くする。そんな彼に、ニクラスは少しだけ目を細くして小声で告げた。


「実はここで昼食を摂るのは課長とブロンザイトさんの指示でね。費用も課長持ちさ……見えるかい?」


 ニクラスは小声でソラに告げると、視線だけで窓の外を示す。その視線の先にあったのは、警察署の裏口だ。


「コレットは用事って、さっき言ってたね。ここ当分、動きはなかったんだけど……おそらく、今日会いに行くんだと思う。彼女を尾行する。が、もし彼女が内通者だった場合、交戦の可能性も十分にある」

「……うっす」


 それで、自分か。ソラはニクラスの言わんとする所を理解する。内通者が居る事がバレている、という事はおそらく相手も十分に把握済みの筈だ。とはいえ、同時に確証を得ているとは思っていない筈だ。

 とはいえ、ここでニクラス一人だとコレットが内通者であれ味方であれ殺される可能性は高い。もし彼女が味方の場合、敢えてコレットが内通者と思わせるべく、というわけだ。


「装備……使って大丈夫っすかね?」

「……何かあるのかい?」

「うっす。万が一の場合には全力でやれます」

「頼む。俺が居る限り、問題にはならない筈だ。よしんば問題になったとて、君だと外交的な問題に発展する。君には迷惑は掛からない、と課長が言っていたよ」

「……すんません」


 ニクラスというかエマニュエルの気遣いに、ソラが頭を下げる。と、そんな事を話していると、コレットが警察署の裏口から現れた。


「ソラくん……監視は?」

「……いえ、いません。最近、俺が外回りに出る時は監視は居ません」

「まぁ、当然だろうね」


 すでにソラがラグナ連邦に来て半月以上。この頃になると、流石に敵もソラの来歴は大凡掴んでいると思われた。となると、必然として彼が風の加護を持っている事は知られているだろう。

 なら、外でもし迂闊にも居場所を悟られた場合、一瞬で近づかれる可能性があった。ランクBの冒険者が肉薄してくるのだ。曲がりなりにも壁超えを果たしている以上、生半可な相手では勝ち目が無い。

 しかも彼はギルドのサブマスター。権限として、ユニオンに増援を要請出来る立場だ。もし仕留めきれずにユニオンに助けを求められた場合、ユニオンの腕利き達が介入するかもしれないのだ。

 無論、迂闊に動いて逆に尾行されている、と援護を求めても良い。どちらにせよ、ユニオンが介入してくるのは悪夢だ。それはソラを交えた秘密の会議でニクラスもまた知っており、相手の判断は当然と思われた。


「じゃあ、行こう。ばれない様に頼むよ。隠形、使って良いからね」

「うっす」


 立ち上がったニクラスに続いて、ソラもまた立ち上がる。そうして、二人は密かにコレットの尾行を開始する。そんなわけでコレットの尾行を開始したわけであるが、そんな彼女が最初に訪れたのはある意味では当然といえば当然だった。


「……ここは……」

「……普通のマンション……っすね」


 コレットがたどり着いたのは、普通のマンションだ。独身者向けと言って良いだろう。


「……一応、彼女が提出している自宅の所在地に一致してるね」

「人に会う、という事だから用意を整えるんですかね」

「だろうね。もしくは、俺達を油断させて窓から外に出るか、かな」


 ニクラスはソラの問いかけに頷きながら、更に別の可能性に言及する。とはいえ、ニクラスの憂慮は杞憂だったらしい。数時間二人が張り込んでいると、普通に扉からコレットが現れた。


「着替え……たんっすね」

「みたいだね。相当重要な相手と会うみたいだ」


 コレットが着ていたのは警察署で着ている私服やスーツではなく、おそらく一張羅に近いスーツだ。髪についてもきちんと整えられていて、普段は感じられない真面目な様子があった。


「ソラくん。おそらくあの服だ。迎えが来ると思う。屋根に登ろう」

「うっす」


 ニクラスの推測に同意して、ソラも壁を蹴って屋根の上へと移動する。そして彼らが屋上に上がった頃合いから少ししてコレットがマンションの一階へと現れて、それと時同じくしてマンションの前に一台の馬車が停車した。


「ふむ……馬車は……ヴィクトル商会の物か。高級モデルだが……ちっ……ありふれた物だな……」


 馬車をしっかり観察するニクラスが手帳に馬車の特徴等を記載しながら、わずかに忌々しげに舌打ちする。これで例えば貴族等だとすると一品物になってそれだけで誰が相手か大凡の推測が出来るのだが、こういう量産品となると流石にわからない。

 高級品とはいえ量産型の為、ヴォダの中だけでも何台も走っているからだ。実質手がかりはほとんど無いと言っても良かった。と、そんなニクラスであったが、すぐに気を取り直してソラへと問いかけた。


「ソラくん。馬車に何人人が居るか、わかるかい?」

「……二人、っすね。御者は勿論除いて。一人はコレットさんなんで、もう一人って所ですね。流石に隠れられりゃわかんないっすけど……」

「ふむ……」


 もう一人は件の女性のどちらかか、それともまた別の誰かか。ニクラスはどうだろうか、と少しだけ考える。が、そう長く考えていられる時間は無かった。


「おっと……ソラくん。監視への見張りは頼むよ」

「うっす」


 ゆっくりと走り出した馬車を追いかける様に、二人が走り始める。そうして、二人はコレットが乗った馬車を追ってヴォダの町中を走る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1591話『賢者と共に』

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