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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1589話 賢者と共に ――確認――

 コレットの周辺を探る中で現れた、謎の二人の女性。この内一人はおそらくヴォダの者ではない、という結論がニクラスの調査により得られていた。そうしてその結果を受けてエマニュエルが首都で働いていた頃の友人に協力を求めに行った一方、残ったニクラスはコレットの調査を続けていた。そんなわけで警察は警察で忙しなく動いていたわけであるが、一方のソラ達もまた忙しく動いていた。


「じゃあ、お師匠さんはまた大使館か」

「うん。お爺ちゃんもお爺ちゃんでちょっと気になる事が出来た、って」


 エマニュエルが首都の友人に協力を求めるべく出発したとほぼ時同じく。ブロンザイトもまた動いていた。とはいえ、これはもし間違いであった場合を考え安易に口外するべきではない、と彼が考えた事についてはソラもトリンも教えられぬままだった。


「なぁ、トリン。お前はコレットさんが怪しいと思うか?」

「一応、状況証拠で一番怪しいのは彼女と言えば彼女になる……かな」


 ソラの問いかけにトリンがあくまでも状況証拠で得られた結果から、と答える。これについてはソラも同意する所で、まだ二人もコレットこそが内通者と断定しているわけではなかった。と、そんなトリンであったが、やはり彼の方はソラよりも数段賢かった。


「でも、なんとなくだけど……お爺ちゃんはもう大体内通者がわかってるっぽいよ」

「……マジ?」

「うん。行動がなんかその時の行動になってるし」


 驚いた様子のソラの問いかけに、トリンははっきりと頷いた。数日前。あの屋上での一件の後、ブロンザイトは何かに気付いたらしい。


「? でもエマニュエルさんにはまだ調査しろ、って言ってたよな」

「そりゃ……お爺ちゃんだってまだ確証を得たわけじゃないよ。多分だけど。幾ら何でも証拠が何も無いからね」

「なるほど……」


 トリンの言葉で、ソラはどうやらコレットを追っていけば自然と犯人が分かるという事なのだろうと理解出来た。ということは、だ。すでにこの時点で犯人に繋がる何か手がかりがある筈。ソラはそう理解した。


「誰だろ……」


 現状、最有力候補はコレットで、二番はフロラン、三番がマルセロだ。ということで、一度ソラは怪しい所を洗い直す事にした。


「トリン。悪いんだけど、一度今までの情報と疑わしい点の洗い直し手伝って貰えるか?」

「うん、良いよ」

「まず、安全と言われるのが課長のエマニュエルさんとニクラスさんの二人」

「前者は監視から抜き取った記憶、後者は情報屋の情報なので、この二人は確定として良いだろうね」


 ソラの言葉を引き継いで、トリンが安全と言い切れる理由を明言する。これでこの二人はまず内通者から除外だ。そうして二人を除いた後、ソラが更に続ける。


「まず、コレットさん。担当は情報処理。着任して二年と少し。配属理由はエマニュエルさんの要請を受け、署が配属した」

「怪しい点は、謎の二人と会食。少なくとも友人ではない。そしてエマニュエルさんには知られたくないという事。また直接の上司であるエマニュエルさんを通さず、署長からの呼び出しを受けていた。勤務態度もかなり悪く、誰も居ない時間帯に仕事をしている事も多い」


 これらトリンの列挙した点は明らかに怪しいと言える。なのでエマニュエルもコレットが最有力候補と見ており、ニクラスに内偵を進めさせていた。そうして、今度はソラが口を開く。


「次、フロラン。担当は情報収集。配属されて二年弱。コレットさんの次に来た。配属理由はこっちもエマニュエルさんと一緒で、人手不足」

「彼はニクラスさんとかにも気配を察知させずに、どういうわけか部屋に入り込む事が多かった」

「俺も注意してないと、あの人の気配は見失いやすいんだよな……」


 これでもランクBの冒険者だ。その彼が普通の警察官の気配を早々に見失うか、と言われるとこれは中々に疑わしい。更に気になるのは、ソラ達が帰還した翌日の事だ。

 幾ら何でも誰かが来ても寝ている事があるか、と言うとそれもまた可怪しい。しかも熟睡していたというには、寝息一つ立てていない。ブロンザイト達が帰還したというので予め忍び込んで息を潜めていたとて、不思議はない。


「最後、マルセロさん。担当はガサ入れ等での実働。配属は一年と少し。配属理由は前任者が事件で怪我を負い、引退を余儀なくされた為」

「確かソラは彼がなんか気になる、と言ってたよね?」

「ああ……元軍人で腕に自信はある、って言われて納得はしてるんだけど……」


 トリンに問われて、ソラは改めてマルセロの疑わしい点を思い出す。それはあの違法民泊のガサ入れの時の事だ。


「今思い出してみると、あの強盗犯……多分、元冒険者崩れだと思うんだよな。しかも、元々は相当な腕利きだったと思う」


 ソラはあの時の戦いを思い出し、あの男の剣の鋭さを思い出す。確かに思考の冴えは無く、動きは直情的だった。正常な判断も出来ていない。おそらく今度軍と警官隊が取り囲めば、被害は出るだろうが取り押さえる事は可能だろう。その程度には落ちていた。

 が、それでも一つ落ちていない物があった。それは彼の肉体だ。これについてはソラの見た限り、ランクBの冒険者相当の力があった。後の調査では薬物の影響で現実逃避。冒険者時代の訓練を欠かさずに行っていた為、だそうだ。この時のソラはそれを知らないが、その不意打ちをマルセロは避けたのだ。これは十分に疑わしいと言える。


「あれ、多分本職の冒険者でも壁越えしてないと結構キツイと思う。しかもあいつ、気配隠してたんだよな」

「エマニュエルさん曰く、彼は元々軍の憲兵……軍警察の所属という話だった。腕を考えた場合、明らかに可怪しいと言って良い」


 これはソラも詳しい事は知らなかったが、ラグナ連邦の憲兵は腕よりも規律を求められる。まぁ、それ故に酒での失敗が目立ち、マルセロは軍から放逐となったと言われていた。

 どんな失敗をしたか詳しい事はソラ達にはわからないが、垣間見えた腕を考えて特殊部隊の配属でも可怪しくない。というより、腕利きの欲しい軍からしてみればそちらの方が妥当と言える。そのまま警察が引き取った、というのは流石に可怪しい。


「勤務態度については悪くない。本人曰く酒で酔っ払って囚人を殴った、というそうだけど……」

「放逐される程度なら、ソラの言う通りの腕だと警察が引き取るというのは少し可怪しいね。それとも更生の見込みはある、と判断されたのかもしれないけど……」

「どれも、疑わしいといえば疑わしいけど……」

「決定打に欠けるといえば、決定打に欠けるんだよな……」


 各員、疑わしい点が無いかと言われるとそうでもない。が、同時に更に詳しく調べれば何らかの事情があるかもしれないと言われれば、そうかもしれない。そこらが、判断をつきにくくさせていた。


「まぁ、とりあえず。コレットさんを追ってきゃ、何かわかんだろ」

「そうなんだろうね」

「とりあえずは、その線で追う……かなぁ」


 兎にも角にもブロンザイトはコレットを追えと言ったのだ。であれば、そこに何らかの取っ掛かりはあるという事なのだろう。ソラはそう判断して、今日も今日とて警察署へと向かう事にするのだった。




 さて、警察署へとやって来たソラは半月の間に顔見知りになった受付で話を通すと、今日も今日とてエマニュエルの所へとやって来ていた。と、どうやら今日は珍しい事に首都に向かったエマニュエル以外の全員が集合しているらしかった。しかも珍しい事に、全員が真面目に仕事中だった。


「……」

「ああ、そこはこの間行ったよ」

「こっちの酒屋は俺の行きつけだから、俺が聞いとこう。店長とは顔なじみだ。些か口利きが利いてな」

「あ、ここのウェイターの子。俺何回か合コンやって連絡先知ってるんで、こっち俺聞いときますよ」


 やっぱりなんだかんだ全員警察官という所なのだろう。何時もは真面目に見えないフロランも真面目な顔で、今後どういう所に事件の調査に向かうか話し合っている様子だった。なお、コレットは情報処理が仕事なので会話には加わらず、他の面子が集めた情報を纏めていた。


「え、えっとー……おはようございます」

「ん? おぉ、ソラ。お前さんか。今日は何時もより遅いな」

「俺、一応出向扱いなんで、地元のギルマスに報告書書かないとダメなんっすよ。で、それ出しに」


 マルセロの問いかけにソラが笑いながら答え、与えられた席に腰掛ける。基本別命が無い限りは警察署にてエマニュエルに協力していろ。それが、今出ているソラへのブロンザイトからの指示だった。と、そんなソラの返答を聞いて、マルセロが笑った。


「お前さんも大変だな」

「そっちは今日は珍しく皆さんおそろいっすか?」

「おう……ちょっとな」


 ソラの問いかけにマルセロが少し嬉しそうに笑う。それに、ソラが首を傾げた。


「なんかあったんっすか?」

「いや、口うるせぇ課長が今日と明日出張でな。羽根伸ばせるんだよ」

「あ、あはは……」


 マルセロらしいといえばマルセロらしい返答に、ソラが頬を引き攣らせながらも笑う。と、そんなわけで一頻り笑いあった後、ソラは状況を教えてもらい会議に参加する事になった。


「と、いうわけでね。この間の民泊に泊まってた事が確定したんだ」

「ということは、次はその情報を基に調査を?」

「そういうことだね」


 ソラの問いかけにニクラスが頷いた。やはり年齢と着任歴の関係で彼が取りまとめる事は多いらしかった。なのでソラが一緒に行動するのも彼が多かった。


「さて……そういうわけだから、今日もとりあえずこの後は何度か出かける事になるよ。ソラくんは今日も俺と一緒でよろしく」

「うっす」


 確かに内通者の件も重要といえば重要だが、だからといってそれで強盗犯が見過ごされて良いわけではない。というわけで、ソラもこちらには真剣に向き合っていた。と、そうして一頻り今日どこに行くか、という情報共有をした所で、全員が一旦休憩と伸びた。


「んぁー! あー……椅子に座ってるだけってのも疲れるんっすよねー」

「わーかる。マジ疲れんだよな」


 フロランの言葉にマルセロもまた嫌そうに同意する。この二人はかなり性質が似ている。なので座っているより足を動かす方が好きらしかった。一方のニクラスは逆に座っている方が楽らしい。


「あはは。俺は楽で良いんだけどねー。特に今日は課長も居ないから楽に出来るし」

「ま、そっすねー……そだ。ソラ」

「ん?」


 今日はどこに行くんだったか。ソラは地図で道順を確認している所にフロランから声を掛けられて、顔を上げる。


「今日飲みに行くんだけど、お前どうするー? 課長居ないから、ってマルセロさんが」

「おう……どうだ?」

「あ、うっす。基本、行って良いって言われたんで……自分も参加で」


 マルセロの問いかけにソラは二つ返事で了承を示す。これについてはきちんとブロンザイトが許可を出しており、こういう所で地元とのコネを得ておく事も重要だ、という事だった。

 無論、飲めないのなら参加する必要が無いとも言っている。が、コネだけはしっかりと得ておけ、という事でソラも積極的に参加していくつもりだった。と、そんな彼の返答を聞いたマルセロが一つ笑顔で頷いた。


「おし……おーう。コレット。お前さんはどうするよ」

「んー。パス。今日ちょっと用事ある」

「用事? お前、いつもは興味無いとかだよな?」

「興味無いけど、今日は普通に用事だし。課長にも結構前から半休貰うって言ってたし」


 マルセロの問いかけにコレットはモニターから顔を外す事なく答えた。そしてそれはソラ以外の全員が知っていた――エマニュエルが貴様は言わんでも何時も好き勝手しているだろう、と怒鳴っていたのを聞いていた――らしい。マルセロもまた眼を見開いてそう言えば、と手を叩いていた。


「おぉ。あれ、今日か。お前も運悪いな」

「別に。課長とか何時も居ないも一緒だし」

「「「あははは」」」


 コレットの言葉に全員が笑う。まぁ、これはそうと言えばそうだ。彼女は基本的にエマニュエルの事をほとんど気にしない。そもそも怒られるのは出勤と退勤について、だ。仕事については逆に彼女の才能を高く買っているぐらいだった。と、そうして一頻り笑った一同であるが、そんな中のニクラスがふと口を開いた。


「あれ……そう言えば朝から来てるのってそれが理由?」

「そ……午後には帰るし」

「じゃあお昼も居ないわけか」

「ん」


 モニターを見ながらだが返答は素っ気ないが、基本的に聞かれたら答えてはくれるらしい。と、そんな話をしていると、時報を報せる鐘の音が鳴った。


「おっと。話過ぎた! ソラくん! 行くよ!」

「あ、うっす!」

「っとぉ! 俺らも行かねぇと拙いな! フロラン、俺らも行くぞ!」

「うっす!」

「いってらー」


 どうやら雑談をしていると、それなりに時間が経過してしまっていたらしい。ニクラスの言葉をきっかけとして、四人が慌ただしく立ち上がる。そうして、そんな四人は何時もの気だるげなコレットに見送られ、それぞれがそれぞれの向かうべき場所に向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1590話『賢者と共に』

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