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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1586話 賢者と共に ――飲み会――

 エマニュエルの部下への協力の一環として、警察で行われる捕物に参加する事になったソラ。彼はとある違法民泊の摘発に立ち会ったのだが、そこで偶然捕らえた男はなんとヴォダにおいて一年前に強盗殺人事件を起こした極悪人だった。

 偶然とはいえそんな極悪人の逮捕の功労者となったわけだが、マルセロの音頭によってそれを祝した祝賀会が先に帰ったコレットを除くエマニュエルの部下達によって開かれる事になり、そこに参加する事になっていた。そうして酒もほどほどに入れば、全員が陽気になっていた。


「いやぁ! 本当にあいつ、厄介な奴でさー! そういえば、マルセロ! あの事件の後に来たんだっけ!」

「おう! あの事件を受けて増員って事で呼ばれてな!」

「あー! そういや、あの時はひどかったっすもんねー! 珍しくコレットの奴が朝一番から詰めるぐらいにゃ、署内も騒然となってたんっしたっけ!」


 ニクラスの言葉に豪快に頷いたマルセロの言葉に、フロランが笑いながら当時を思い出す。そんな彼は当時の事を思い出したからか、少し懐かしげに口を開いた。


「そういや、ホセさん。元気にしてるっすかね」

「? ホセ?」

「ああ、その当時ウチに配属されてた警官でね。俺と一緒に最初期に居た奴さ。でもあいつに怪我を負わされて、地元に帰ったんだ。結構手酷く怪我を負わされてね。まぁ、死にはしなかったのは、幸いという所だったんだけど……」


 ソラの疑問を受けて、ニクラスが苦い顔で教えてくれる。そしてその穴埋めに来たのが、マルセロというわけだった。と、そんな解説を聞いて、今度はマルセロが口を開いた。


「俺は会った事ねぇが、結構な腕利きだったらしいぜ」

「うん。それで俺とホセの奴が増援で、ってわけ」


 どうやら他の部署からも増援が来るぐらいには、厄介な相手だったらしい。ニクラスの言葉から、ソラはそれを理解した。そしてその穴埋めとして元軍人が寄越されるのだ。ホセという男もそこそこの腕利きだったと考えて良いのだろう。と、そんな話が交わされた後に、再びマルセロが口を開いた。


「にしても、あんな奴を良くお前、さっさと捕まえたよなー」

「まぁ、そこそこ強くはあったっぽいんですけど……なんか正常な判断出来てなかったっぽかったっすよ?」


 マルセロの称賛混じりの視線を受けつつ、ソラは数時間前の大捕物に対して言及する。確かに、あの相手はソラも盾だけでは拙いかも、と一度は思わせた。

 が、攻撃は直線的かつ直情的だったし、不自然なほどに目は血走っていた。とはいえ、これにはきちんとした事情があったらしい。犯人の確認に向かったニクラスが裏を少しだけ教えてくれた。


「ああ、それは……まぁ、君なら良いか……ちょいちょい」

「はぁ……」

「実はあいつ、重度の薬物中毒に陥っていてね。もう完全に廃人状態一歩手前だったらしい。まぁ……あいつにとっちゃ、幸運なのかもしれないけどね」


 わずかに苦い顔で自らの口に耳を寄せたソラへとニクラスが語る。なお、これについては一年前には無かった為、逃亡のストレスに耐えかねて薬物に手を出したのだろう、というのが後の警察の見解だった。

 戻ってきたのも薬物で正常な判断が出来ず、というわけらしかった。と、そんな彼の話を聞いたソラは乗り出していた身を引いて再び椅子に座って、問いかけた。


「幸運?」

「ああ……流石に一家皆殺しの強殺の上、警官隊に複数の死傷者だ。どう足掻いても死刑判決は免れないよ。ああ、君は知らないのかもしれないか。基本、ラグナ連邦で警察や軍がデッド・オア・アライブと出す時は、一切の情状酌量の余地無しで死刑判決が確定すると考えられる場合でね。流石に今回はどんな腕利きの弁護士が弁護しても、情状酌量は無いよ」

「ああ……なるほど……」


 苦い顔のニクラスに、ソラもまた苦い顔になる。まぁ、ソラからしても、この話のどこにも情状酌量の余地はない。日本だったとて死刑判決の可能性は非常に高いと言わざるを得ないだろう。

 廃人となったあの男が、自身が死刑となる事を理解出来ぬままに死刑が執行されるのが彼にとって幸運なのかどうかは、誰にもわからない事だった。


「おい、ニクラス。あんま酒の不味くなる話はやめとこうや。今日はせっかくの祝い酒。気持ちよく飲もうや」

「あはは。それもそうだね……さ、ソラ。君も飲んだ飲んだ」


 マルセロの指摘に、ニクラスも笑って同意してソラへと酒瓶を差し出した。そうして、これで湿っぽい話は終わりとばかりに場の雰囲気は一変し、四人は再び酒場で飲み始める事にするのだった。




 ソラが飲み会を行っていた一方その頃。警察署に残って書類整理を行っていたエマニュエルとトリンの所に、ブロンザイトが帰ってきた。


「む?」

「あ、お爺ちゃん」

「おぉ、トリン。ソラは……」

「あ、うん。えっと……」


 ブロンザイトの疑問を受けて、トリンは彼へと今日の一幕を告げる。そしてそれを聞いて、ブロンザイトは喜色を浮かべた。


「おぉ、そうであったか。エマニュエル殿、わざわざ申し訳ありませぬ」

「いやいや。私としても警察としても、一年前の事件は非常に頭の痛い話でしてな。犯人は薬物中毒になっておった様子ですが……それでも無事逮捕出来たのは、彼の手柄と言っても過言ではない。本来、こういう場合には署より金一封が出る事になっておるのですが……申し訳ないながら、彼は警察官ではない……私からわずかばかりでも、と」


 ブロンザイトの感謝に対して、エマニュエルが笑いながら首を振る。なお、金は出ないと言ったがデッド・オア・アライブの犯罪者を捕まえた事に対する賞金は出る。

 これは逆に警察官の場合は職務の為、と出ないのだが、幾ら協力者とはいえ冒険者なのでソラには出るのであった。まぁ、出さないと冒険者からの協力が貰いにくい、という現金な事情もある。ソラはそこら気にしていなかったが、ここらは規則なのできちんと支払われる事になっていた。


「そうですか……ありがとうございます」

「いえ……それで、ブロンザイト殿。どうでしたか?」

「ええ……とりあえず、なんとか話は纏まりました」


 エマニュエルの問いかけを受け、ブロンザイトは今日の会談の結果を語る。ここらはやはりカイト達が背後に居た事もあって、なんとかラグナ連邦の中枢も首を縦に振ったらしい。

 ラグナ連邦としても他国にせっつかされて地下組織の壊滅に乗り出した、という風聞は避けたい。特に相手は長年ライバル視していた皇国だ。あそこに自分達の弱みを握られた挙げ句、公的に苦言を呈されてせっつかされるぐらいなら先に壊滅させる、となったそうだった。


「となると、後は内通者だけ、ですな」

「ええ……そうなりますか」


 エマニュエルの言葉にブロンザイトもまた頷いた。色々と手を尽くしているものの、どうやらブロンザイト達が来た時点で内通者はかなり慎重に動いているらしい。なかなかにしっぽは掴ませてくれなかった。しかも、問題がある。それはこの部署特有の問題だった。それ故、エマニュエルはため息を吐いた。


「はぁ……どいつもこいつも一癖も二癖もある者ばかり……誰が怪しいか、と言われると全員が怪しい、となってしまいますからな……」

「エマニュエル殿。流石にそう自らの部下を卑下するべきでは」

「……申し訳ない」


 ブロンザイトの苦言にエマニュエルが頭を下げる。現在までの調査で分かっていたのは、内通者は一人だという所だ。が、誰がその内通者かはまだ分かっていなかった。とはいえ、これについては幾つかの理由がある。というわけで、エマニュエルは気を取り直して告げた。


「まぁ、そう言っても、です。ソラくんのおかげでここの安全が確保出来ております。おかげで私としても安心して過ごせるのはありがたい」

「ふむ……そうですな。少なくとも、ここは安全です」


 現在、コレットを除いた全員がソラと一緒だ。なので内通者がコレットである場合を除いて、全員がソラと共に飲み会の真っ最中だ。ここは安全だと言い切れた。

 監視は居るので完璧に安全かと問われれば首を振るしかないが、それでも獅子身中の虫が居ないだけマシと言い切れた。そしてソラが居た場合は、少なくとも近隣の部屋も把握出来る。

 もし内通者が聞き耳を立てればその瞬間、自分が内通者と言っている様なものだ。こちらの思う壺と言い切れた。勿論、相手はそんな事はしないが。


「もう暫く、内偵を行うしかありませんか」

「ええ……」


 ブロンザイトとエマニュエルは苦い顔でさらなる内偵を行う事にする。そうして、二人も少しの相談を交わして、その日は帰宅する事にするのだった。




 ブロンザイトとエマニュエルが相談を終えてそれそれが帰路に着いた頃。ソラ達もまた宴会を終わらせてそれぞれの帰路に着いていた。


「じゃ、おつかれー」

「おつかれさまっしたー」


 居酒屋の前で、ニクラスとフロランの二人がソラとマルセロの二人に手を振った。二人共千鳥足は千鳥足だが、まだ大丈夫そうではあった。どうやら昔の仲間の仇討ちに成功した事もあり、二人もそこそこ飲んだようだ。その一方、やはりどこか遠慮のあったソラもわずかに足元は覚束ないものの、何時もより少し頬が赤い程度でなんとかなっていた。


「マルセロさん。今日はありがとうございました」

「あぁ、良いってことよ。こういうのは上の奴が下の奴の面倒を見るのが、筋ってもんだからな」


 頭を下げたソラに、マルセロはどこか上機嫌に笑って頷いた。なお、この二つの組み合わせに別れたのは単に帰路が一緒というだけだ。

 更に言うと、ソラもまだ来たばかりで地理には明るくない。なのでマルセロは発起人として、彼の道案内を買って出た事もあった。


「で、お前さん。これからまた飲みに行くか?」

「いえ、流石にあまり遅くなるとお師匠さんに怒られるので……」

「そうかぁ……まぁ、俺も明日は仕事か。今日は帰るか」


 ソラの言葉にわずかに残念そうにマルセロはため息を吐くも、時計を見て一転して思い直したようだ。というわけで、二人は連れ立って帰る事にする。


「そういえば、マルセロさんはこっちの方なんっすか?」

「ん? ああ、家か。おう……この道を更に下ると、住宅街に出てな。そこに俺が住んでるマンションがある。ま、ボロ屋だが、住めば都ってもんよ」


 ソラの問いかけにマルセロが楽しげに頷いた。そうして裏道を少し歩き、幾つかグネグネと曲がり角を曲がって飲み屋街を出て、高級料亭等が軒を連ねる一角へとたどり着いた。


「ここを抜けりゃ、お前さんが泊まってるホテルだ」

「へー……こんな道もあったんっすね」

「ま、お前さんも一年も暮せば覚えるさ」

「あはは」


 マルセロの冗談めかした言葉にソラが笑う。と、そうして再度歩き出そうとした所で、ソラがふと足を止めた。


「ん?」

「どした?」

「いえ、あれ……」


 ソラが指さした先に居たのは、コレットだ。彼女はレストランで食事を取っており、その様子は何時もと違う様子で、ソラも見たことのない真剣さが顔にはあった。


「ありゃ……コレットか? あいつ、こんな所で何やってんだ?」


 ここらは高級料亭や高級レストランが軒を連ねる一角。確かに一般的な警官よりは貰っているだろうコレットであるが、それでも一人で来るとは思いにくい場所だ。

 であれば、誰かが一緒と考えるのが良いだろう。そして案の定、彼女の横にはまた別の女性が一緒だった。そしてその前にはまた別の女性がおり、三人で会食という感じだった。


「……誰だ、ありゃ」

「仲の良い友人、って感じじゃないっすね……」


 女性と話し合うコレットの顔にはどこかよそよそしさがあった。明らかに友人というには程遠いだろう。どちらかといえば、ビジネス相手と言っても良いかもしれなかった。と、そんな彼女に訝しむソラであったが、それに対してマルセロはどうでも良さげだった。


「まぁ、あいつにだって飯食う相手ぐらい居るだろ。俺達もあいつの来歴、詳しくは知らねぇしな。実際、飲み会とかにも参加しねぇから、聞く機会もほとんどねぇし」

「そうなんっすか?」

「ああ。課長の話だと、天涯孤独の身だって話だ。情報処理能力が買われて、ウチに寄越されたらしい。実際にゃサボり癖が問題視されて、って所だろうけどな。ま、気にすんな気にすんな」


 どうやらマルセロは特に気にしていないらしい。誰かと話しているらしいコレットについて、ほとんど興味を持った様子はなかった。スタスタと歩き出す。


「おい、ソラ。お前さんも行くぞ。あいつだってあんまジロジロ見られて良い気分にゃなんねぇだろ」

「あ……それもそうっすね」


 マルセロの促しを受けて、ソラもまた歩き出す。が、その脳裏にはどうしても先程の真剣な顔が離れなかった。そうして、彼は僅かな疑念を胸に懐きながら、ホテルへと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1587話『賢者と共に』

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