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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1584話 賢者と共に ――普通の日々――

 ソラがラグナ連邦へとやって来て少し。始め一週間は予防薬の配布のために辺境の村々を回った彼であったが、ヴォダへの帰還からエマニュエルに協力する事になっていた。そうして、エマニュエルの部下の中に居るという内通者を探して一週間が経過していた。


「……」


 そんなソラが現在進行系で何をしていたのか、というと警察の仕事の手伝いだ。これについてはブロンザイトの指示で、さらに言えばその理由を聞いてソラも確かに、と思わされる物だった。


『警察の話し方やその視線等を学べ。彼らは犯罪者を相手にするが故、常に人を疑わねばならぬ。難儀な職業じゃ。が、故に相手の一挙手一投足、僅かな表情の変化を目敏く見抜く。相手が例えば警察と知れば僅かに視線を外したり、嘘を言う時の微細な表情の変化。それを見抜く腕は軍略家として、政治家として得ねばならぬ技術じゃ。無論、儂らの様な相手を騙し、相手の策を見抜く者にも必須と言える』


 おそらく、相手の嘘や悪い事をしている者を見抜くのであれば警察以上の者はいない。それがブロンザイトの言葉で、ソラも地球で時折報道される警察官達の偉業を知ればこそ、その洞察力は自分にも有用だと理解していた。故に彼はエマニュエルの部下達と行動を共にしていた。


「うーん……じゃあ、怪しい人物は来てないと」

「ええ……少なくともその前数日には見てないですね……」


 今日のソラのバディはニクラスだった。当たり前の話であるが、中央の役人を捕らえる事は内密に行われている。故に常には彼らもそれ以外の仕事を抱えており、それについてはエマニュエルも一切遅れを見せていない。

 まぁ、所属しているのが厄介者ばかりなのでそこはそれと言うしかないが、訝しまられない様にこちらの仕事もしっかりとやっていた。


「そうですか。ありがとうございます」

「いえ……では、お仕事頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」


 ニクラスは大通りから少し離れた商店街に店を構える店の主人から話を聞いて、頭を下げてソラと共にその場を後にする。

 ラグナ連邦というかエネフィアでは警察の仕事に冒険者が協力している事はままあった。なので警察もこの者が警察の協力者である、と示す身分証というか証明証の様な物を与えており、ソラはそれを使って今は警察の協力者という立ち位置だった。


「ソラくん。店内の様子、どうだった?」

「そう……っすね。見た所やっぱり若者が多かったかな、って思います。あ、後やっぱり武芸をやってる奴は少なかったかなーっと」


 ニクラスの問いかけにソラは自分が見えた限りの事を報告する。今日二人が来ていたのは、本屋と言っても間違いではない。と言っても街の書店というよりも、若者向けのファッション誌等を取り扱っている専門店と言う方が良い。なので見た目としてもかなり気取った若者が多く、冒険者の様な者はほとんど見受けられなかった。


「まぁ、それはそうだろうね。だと思って話を聞きに来たんだし……」

「そうなんっすか?」

「うん。ほら、目立つでしょ?」


 ニクラスは笑いながら、店の外の窓から中を伺い冒険者らしき男を少しだけ流し見る。無論、こんな書店に来ているのだから冒険者と言ってもきちんと身なりは整えているし、酒場で女を口説いていそうな印象がある。が、やはり冒険者だからか体格は良く、ただの街の若者より明らかに風格が違っていた。


「他にも、あっちの彼」


 次いで、彼は一見すると普通の街の若者にしか見えない青年を目だけで示す。こちらは服装も身のこなしも一見すると街の若者に近いが、目を凝らして魔力保有量を伺ってみると、明らかに尋常ではない量が見受けられた。

 そしてやっぱり少し長く見ていると冒険者特有の癖が見え隠れしており、彼もまた単なる若者ではない事が察せられた。おそらく、魔術師という所なのだろう。


「さ、出よっか」

「あ、うっす」


 あまり長々と見詰めていても問題になるし、更に言うと店の邪魔にもなる。故にソラはニクラスの促しに応じて、店から離れていく。


「あの辺には来てなさそうだね。あの店長が嘘を言っていた風は無いし」

「どこ行ったんでしょうね」

「さぁねぇ……まぁ、わからないから探しているんだけどねー」


 ソラの問いかけにニクラスは何時も通りのんびりとした様子で笑った。今回、彼らが探しているのは、付近の宝石店に入った強盗だ。手口や警備員との交戦した際に得られた情報から犯人は冒険者崩れであるという予測が出ており、周辺の聞き込みを行っていたのであった。と、そんなニクラスは歩いて次にどこに聞き込みに行くか考えながら、ソラへと問いかけた。


「ふむ……ソラくん。冒険者の君に聞きたいんだけど、もし君が宝石店に押し入る場合、どこから店を観察する?」

「どこから……」


 ソラは強盗の被害に遭った宝石店を見て、周囲を見回してみる。周囲は商店街と言っても良い。見通しの良い道路で、馬車も通れる大きな道路だ。店は色々で、古くからあるのだろう八百屋から最近の再開発で出来たらしい件の宝石店や書店等が見受けられた。そんな中から、ソラは一つの店に着目した。


「あの店……あれ、酒場で大丈夫っすよね?」

「ああ、あそこか。焼肉屋だね。まぁ、酒場で大丈夫だと思うよ?」

「あの二階……もしかして簡易の宿屋になってないっすか?」


 ソラが見ていたのは、曲がり角の角にある酒場だ。基本的に酒場の二階には簡易の宿泊施設が兼ね備えられている事が多く、窓が幾つか見受けられた。


「二階はまだ普通の店だよ。でもそうだね……ふむ……」


 ソラの指摘にニクラスは少しだけ考える。その目つきは鋭く、ソラとしても彼が真実は切れ者なのだろうと察せられた。と、そんな彼の目はすぐに何時ものだらけた物に戻った。


「うん。とりあえず行ってみる価値はあるかもね」

「うっす」


 ニクラスに続いて、ソラは酒場へと向かう事にする。どうやら基本的な営業は夜かららしく、今はまだ準備中の札が掛かっていた。とはいえ、中に人は居るらしく、話は出来そうだった。


「すいませーん……」

「あ、はーい! すいません、焼肉店の方はまだ準備中ですが……宿泊施設については、横の扉から直接行けますので」


 やはり扉が開いたからだろう。従業員らしき若い女性が現れて、ニクラスへと頭を下げる。と、そんな彼女の言葉を遮って、ニクラスは警察手帳を取り出した。


「ああ、いえ。ヴォダ市警察のアサートンという者です。お忙しい所、申し訳ありません。店長かどなたか上の方は……」

「え、あ、はい。少々、お待ち下さい……てんちょー!」

『おーう! なんだー!』


 女性従業員の声を聞いて、店の奥から店長らしい男性の声が響いた。そうして数度の会話の後、店長がやって来た。


「すいません、おまたせしました」

「いえ、こちらこそ急に伺い申し訳ありません……仕込み中でしたか?」

「ええ……営業にはまだ時間はありますが、そういうわけですので出来れば、手短に……」

「ええ、勿論です」


 店長のわずかに申し訳なさそうな申し出に、ニクラスも笑って頷いた。そうして、彼は単刀直入に切り出した。


「と、いうわけで周辺の聞き込みを行っておりまして。ここからなら、夜間に宝石店の出入りを見張れるのでは、と」

「はぁ……そうですね。基本、窓は磨りガラスにしていますが……開ければ見えると思いますよ。と言っても、やはり店が店ですので開けられる方は滅多にいませんが……」


 ニクラスの指摘に店長は頷くと、一階に備え付けられている宿泊客の名簿を取り出した。説明の折りにニクラスが名簿を見せてもらえれば、と言っていたのである。


「これが、この一週間の宿泊客の名簿です。日付毎に人数で記載しています。表側ですから……この偶数がそうですね」

「ありがとうございます。署に持ち帰ってコピーを取らせて頂いても構いませんか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます。原本についてはコピーした後、すぐに返却させて頂きます」

「わかりました」


 ニクラスの言葉に店長が一つ頷いた。と、そうして礼を言って店を後にしようとした所で、ふと思い出した様に店長が口を開いた。


「あ、そうだ。そういえば刑事さん」

「どうしました?」

「ええ……前に警察に頼んだ事があるのですが、裏路地の民泊の件……どうなってますか? あそこの客がウチの客に迷惑を掛けてばかりで……ウチに苦情来るんですよね。本当にやめて欲しい」

「民泊?」


 わずかに怒りが混じった困り顔の店長の言葉に、ニクラスが首を傾げる。基本的に彼らとて街の隅から隅まで知っているわけではない。なので知らない事も多かった。そんな様子のニクラスに、この店長もどうやら知らない事を察したらしい。


「あー……刑事さんは別部署……ですか。すいません。よろしければ、この間来た……えっとああ、メルカドという警官に民泊の件はどうなっているか伺って頂ければ……」

「あ、はい。分かりました。必ず……それで、よろしければその民泊について教えていただけますか? もしかしたら、という事もありますし……」

「宝石店の裏路地の丁度右斜め二軒隣です。良くない客ばかり泊めてるらしくて……」


 店長は辟易した様子でニクラスへと愚痴を告げる。そうして暫くニクラスはその愚痴を聞いた後、店を後にした。


「ふーん……民泊ねぇ……」

「どうするんっすか?」

「んー……いや、行かないよ」


 ソラの問いかけを受けたニクラスは足はそちらに向かいながらも、何故か口では逆の事を告げる。そうして、彼はさっと教えてくれた。


「おそらくこの民泊、非合法と見て良いだろうね」

「え?」

「多分、その警官か上司が賄賂、貰ってるんじゃないかな。フロランがそんな事聞いてないっぽいし」

「へ?」


 唐突に出て来たフロランの名に、ソラが首を傾げる。それに対して、ニクラスは笑った。


「あはは。あいつ、実は案外情報網は広くてね。他の部署の女の子とも飲みに行くから、実はかなりの情報通なんだ。ほら、一週間前。あいつが朝早く来てた事、あったろう?」

「ええ、確か……」

「あの時、あそこの焼肉店で実は友達と飲んでたらしくてね。でも上の宿泊施設は一杯、って事で署に来てたらしいんだ。丁度、彼のマンションは署を挟んで逆だからね」

「あ、あははは……」


 それでも仕事場で寝るか。ソラは思わず半笑いでニクラスの言葉に笑う。それに彼も笑いながら、更に教えてくれた。


「基本的にどこか近くに宿があるとそこで少し休んで、があいつの常なんだ。民泊を借りる事もある。安いし、寝るだけだからね。多分、警察署近辺の宿なら全部知ってるんじゃないかな。でも、件の民泊については一切話していない。生活課の子達から聞いてても不思議はないのに、知らないという事は警察でも把握していないという事……となると、答えは」

「未届けの民泊、と」

「そういう事だね」


 裏路地を目指しながら歩くニクラスは、同じく横を歩くソラの言葉に笑って頷いた。そうして、彼はわずかに目を細めた。


「で、苦情が来てるのに誰も把握していないのなら、それはもう誰かが握りつぶしているというわけさ……あれ、だね。ソラくん、俺に続いてくれ」


 ニクラスは未届けの民泊の前を通り過ぎる一瞬、酒場の店長から教えられた建物を流し見る。一見すると普通の家の裏口だ。人気もない。そうして、二人は普通に裏路地を歩く様に民泊の前を通り過ぎた。


「……」

「……」

「……良し。ここで良いかな」


 裏路地を通り抜けた所で、ニクラスが一つ頷いた。そうして、彼は今度は大通りを通って警察署に向けて歩き出す。


「何か分かりました?」

「そうだね……おそらく当たりだと思うよ? 窓から見えた所に、明らかに旅人用のコートが掛かってたし」

「え……磨りガラス……っしたよね?」

「あはは。ちょっと開いてたよ」


 全く見てなかった。ソラは入り口やその周辺に気を取られ、中が見えた事に気付かなかった。やはり洞察力であれば本職の方が数段上手と考えてよかった。


「さ、戻ろうか。色々と手はずを整えないとダメだろうし」


 何時もの様に笑いながら歩くニクラスに、ソラはおそらくこの男こそが昼行灯の類なのだろうな、と理解した。そうして、二人は民泊の摘発の手配を整えるべく警察署に戻る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1585話『賢者と共に』

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