表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1614/3941

第1583話 賢者と共に ――内偵開始――

 ラグナ連邦のとある地域において流行り病の予防薬の配布の手伝いを終えて、エマニュエルらが拠点とするヴォダに帰還したソラ達。彼らは帰還してすぐにやって来たエマニュエルへと監視の一件を伝えると、改めてこの一件への協力を明言していた。と、そうしてエマニュエルが無事に自分の探知可能な距離から出た事を確認して、ソラはブロンザイトへとその事を報告する。


「お師匠さん。エマニュエルさんがわからなくなりました」

「そうか……まぁ、まだ相手もどうするか決めかねてはいよう」

「はぁ……あ、そうだ。そういえばお師匠さん。一つ良いですか?」

「む?」


 ソラの問いかけを受けたブロンザイトがわずかに下げていた顔を上に上げる。そうして、一つ頷いて問いかけの先を促した。


「えっと……さっき、エマニュエルさんがニクラスさんが白、と言っていたのに同意してたんですけど……」

「ふむ……情報屋が嘘を流している可能性はないか、か?」

「はい」


 自身の問いかけを理解してその中身を口にしたブロンザイトに、ソラははっきりと頷いた。かつてカイトもヴァルタード帝国において情報屋から嘘の情報を渡された事がある。その際は情報屋ギルドのギルドマスターたるサリアの夫となるカイトが相手だった為、即座に正確な情報が渡されて事なきを得ていた。

 その事についてはソラも聞いており、今回も更に影響力のある件の地下組織が手を回して嘘を告げている可能性はないか、と思ったのだ。そしてこれを想定するのは、正しい判断だ。故にブロンザイトも一つ頷いた。


「うむ。嘘を教えられておるのではないか。それを想定するのは良い事じゃ……さて、トリン。儂はこれを真とした。お主、この理由を説明出来るか?」

「はい」


 ブロンザイトの問いかけを受けたトリンははっきりと頷いた。というのも、これは彼が知り得る情報だけで十分に判断出来る事だったからだ。そして勿論、彼と得られる情報に大差のないソラもまた、本来は判断出来る事だった。故に彼に問いかけた、というわけだった。


「ソラ。まず聞いておきたいんだけど、カイトさんの事は当然知ってるよね?」

「? 当然だろ?」

「そう。まず、今の情報屋ギルドは言ってしまえば、マクダウェル家の下部組織みたいなものなんだ。なにせトップが婚約者の一人たるサリア・ヴィクトルだからね」


 ソラの頷きを受けて、トリンは改めてこれについて明言する。そしてこれについてはソラもまた異論はない。


「さて……それで相手を見直すと、簡単に分かるんだ。相手が敵対しているのは一見すればエマニュエルさん。でも、その裏に居るのは僕ら。つまり、更にその背後にはカイトさんが控えている」

「ん……」


 確かに。トリンの言葉にソラもまた頷いた。エマニュエルとブロンザイトが協働していた事は当然だが、情報屋ギルドも理解しているだろう。そしてここからが、重要だった。


「さて……それでカイトさんとお爺ちゃんの関係を一度見直そうか。まず、カイトさんの婚約者にアコヤ……シソーラスさんの娘が居る事は君も知ってるね?」

「……すまん。誰それ」

「あれ……? 珠族の双子の姫なんだけど……お爺ちゃんを紹介したのが二人だって聞いてるよ?」

「あぁ! あの二人か!」


 トリンに言われてようやくソラもあの時の二人だと思い出したらしい。目を見開いて頷いた。


「うん、多分ね。で、その彼女のお父上がシソーラスさん。そのシソーラスさんの兄が、お爺ちゃんなんだ」

「ってことは……カイトは義理の甥って事か」

「うん」


 ブロンザイトがアコヤの兄であった事はソラは知らなかったが、兎にも角にもこれについては納得が出来た。そうしてその納得とカイトとの関係性の理解を受けて、トリンが続けた。


「まぁ、こういう事は本当は僕らが言うべきじゃないんだけど、お爺ちゃんは賢者として知られている。各地の珠族からも敬われている。特に、カイトさんが帰還してもいる。彼がお爺ちゃん側に肩入れする事は確定として良い」

「あ……そうだよな……」


 今回はすでにカイトが動いているというのだ。であれば、情報屋ギルドは彼の側に立つ。これは大前提と言って良い。彼の敗北はギルドマスター(サリア)の利益にならないからだ。


「うん。それを考えれば、答えは一つ。もし嘘の情報を流していた場合、更に上が動いて僕らに真実を教えに来る。それが無いという事はつまり、この情報は真実だということだよ。少なくとも、ニクラスさんは仲間というわけさ」

「なるほど……」


 トリンの解説を受け、ソラがようやくこの情報が真実である理由に納得した。ただ情報を真実と思うだけではなく、各員の背後関係やその利益を見極め、判断を下す。当然といえば当然の事で、何より難しい事だった。そうしてそんなトリンの解説を聞いていたブロンザイトもまた、頷いた。


「うむ。此度我らの背後にはカイト殿がいらっしゃる。まぁ、実はあの双子の姫の助命に儂が助力した事があってのう。ありがたい事に、それを大層恩義に感じてくださっておる。此度も快く儂の助力の申し出を受け入れてくだされた」

「そんなことが……」


 初めて聞いたブロンザイトとカイトの経緯に、ソラがわずかに驚いた様な顔をする。とはいえ、これについては今語るべき内容でもない。


「まぁ、お主に言う事ではないが、カイト殿が裏切られる事はない。これは誰より、お主が知っていよう」

「ま、まぁ……」


 ブロンザイトの問いかけにソラは笑って頷いた。カイトが戦術として最も嫌うのは裏切り行為だ。戦略として悪人を利用しているのならまだしも、彼が善人を裏切る事はない。

 そして何より、賢者を敬うと知られている彼が賢者を裏切るなぞあり得ないと断言出来た。それが、恩ある相手なら尚更と言えるだろう。


「そういうわけでのう。此度、儂らが動いた時点で情報屋は大凡全ての背後関係を見通しておるじゃろう。勿論、内通者が誰かも知っておろう」

「じゃあ、情報屋に聞けば……」

「ならぬよ」


 ソラの言葉に、ブロンザイトは首を振る。そうして、彼はその理由を明言した。


「確かに、儂らが聞けばカイト殿との繋がりを知る情報屋は情報を教えてくれるじゃろう。が、カイト殿にあまり過度に甘える事は出来ぬ。儂らが情報屋に問えば、必ず彼の名はそこにある。彼の借りとなってしまうんじゃ。それは望まぬ。何より、この程度の事であれば儂らでもなんとか出来る事じゃ。無論、此度は負けの許されぬ戦い。もうどうしようも無くなった時には、借りる事を忘れてもならぬがな」

「はぁ……」


 そんなものなのだろうか。ブロンザイトの言葉にソラはそういうものだ、と理解する事にする。ここらの考え方の違いは、カイトとの付き合いや両者の立場に起因する。

 ソラは冒険部という組織の人員としてはカイトの腹心。幹部と言って良い。故に彼が情報屋に接触する時は大凡、カイトの指示や許可があってと言っても間違いではない。故に情報屋が嘘を言う事はあり得ないし、敵対もあり得ない。ソラがあまり情報屋を利用する事に抵抗感はなかったわけだ。

 が、本来は非合法の裏のギルドだ。エマニュエルが悔やんでいた様に、普通はそう安々と利用して良い組織ではない。故に本来はブロンザイトの判断が正しかった。と、そんな彼の傍ら、ブロンザイトは本題に入っていた。


「さて……そうなると、明日からはやはり内通者のあぶり出しをせねばなるまい」


 元々言われていた事だ。故にソラもトリンもブロンザイトの言葉に無言で同意する。そうして少しの考察の後、ブロンザイトが判断を下した。


「ふむ……まぁ、地道にやるしかあるまいな」

「今回は長そう……かな?」

「ふむ……」


 トリンの問いかけにブロンザイトはわずかに目を閉じる。が、その顔は苦かった。


「わからぬ。相手はエマニュエル殿さえ騙しておる。生半可な腕前ではなかろうな……ふむ。仕方がない。トリン。お主確か、情報の処理と書類仕事は出来たな」

「あ、はい」

「うむ……明日、再び警察署に向かいエマニュエル殿と相談するが、二人共警察の協力が出来る様に支度をしておきなさい」

「「はい」」


 ブロンザイトの指示に、トリンとソラが同時に頷いた。そうして、三人は明日からの動きについての少しの打ち合わせを行い、明日に備えて床につく事にするのだった。




 明けて翌日。三人は朝一番から連れ立って警察署へとやって来ていた。そうして通されたエマニュエルの部署では、来ていたのはエマニュエルとニクラスの二人だけだった。これについては三人共案の定、としか思わなかった。


「申し訳ない……三人共、また遅刻でして……」

「早い時にはマルセロさんとフロランは来るんだけどね」

「え? フロランは来てるでしょ」

「「「へ?」」」


 唐突に口を挟んだソラの言葉に、エマニュエルとニクラスを含めた全員が首を傾げる。それを横目に、ソラは全員から影になっているフロランの机を指さした。


「ほら、そこ。多分机の下に居ると思いますよ」

「む?」

「へ……うわぁ!?」

「うおっ! なんだ!? あいたっ!」


 ニクラスの驚いた声が上がり、次いで何かが勢いよくぶつかった様な音と、フロランの痛そうな声が響く。その様子は言ってみれば跳ね起きる、という言葉が非常に正しかった。と、そうして頭をさすりながらフロランが机の下から這い出してきた。


「あいたたた……あ、課長。おはようございます。ニクラスもちっす」

「う、うむ。おはよう……」

「お、おはよう……」


 やはり唐突に朝の挨拶をしたフロランにエマニュエルも思わず呆気に取られたらしい。何時もなら怒鳴るはずが、今日は普通のテンションだった。


「お、お主……そこで何をしておった」

「え? ああ、今日ちょっと色々とあって早めに来てたんで、就業前にちょっと寝るか、って寝てました」


 見れば分かると言えば、見れば分かる。そして状況が状況故、気を取り直したエマニュエルはかなり警戒している様子だった。故に目を細めながら、問いかける。


「色々?」

「うっす。いやー、実は昨日……あ、すんません。やっぱ無しで」

「「……」」


 絶対朝帰りしやがったな、こいつ。エマニュエルとニクラスの二人は一瞬でフロランの理由を理解する。今までも大抵、フロランが早く来ている場合は仲良くなった女性の所からの朝帰りという事が多かった。何時もならそれを臆面もなくのたまうのであるが、今回は流石に客に気付いてやめておいた、という所だろう。


「はぁ……良い。ならタイムカード」

「あ、切ってまーす」

「お主……もう良い。後でこちらで処理する。とりあえず来ておるのなら溜まってる書類を処理しておけ。ニクラス、お主も普通に仕事しておけよ」

「うーっす」

「はーい」


 もう怒るのも疲れた。そんな様子のエマニュエルはニクラスとフロランに今日の業務の指示を与える。それに何より、こんな所で時間を使う暇も惜しかった事が大きかった。


「ウチのバカが申し訳ない……ソラ、感謝する」

「い、いえ……」

「うむ……はぁ……場所を変えましょう」


 エマニュエルはため息を吐きながら立ち上がると、部屋の横に用意されているガラス張りの別室へと三人を案内する。そこは言ってみれば会議室という所で、それ故に万が一に密偵等が入り込んでいた場合に備えて各種の高度な防諜設備が整っている部屋だった。そうして部屋に入って四人が椅子に腰掛けた所で、改めてエマニュエルがソラへと頭を下げた。


「ソラ、感謝する……にしても、お主。何故あれに気付いた?」

「あ、えっと……良いですか?」

「うむ」


 エマニュエルに問われたソラは一度ブロンザイトを見て許可を得ると、改めて口を開いた。


「昨日竜車の中でお師匠さんから、そろそろ監視に気付いていると見せて良い、と言われたので……警察署内部でも気配はしっかり読んでおこうかな、と」

「なるほど……」


 ソラから聞いて、エマニュエルも納得した様に頷いた。やはり監視も長時間に及べばそれだけ気付かれる可能性は高くなる。そしてあまり腕を下に見られても逆に要らぬ厄介を呼び込む事に成りかねない。

 なのでそろそろ気付いた様子を見せて良いだろう、と言われていたのである。そして警察署内部においても敵が居るかもしれない、と気を抜かずに気配を読んでいたのである。人の行き来が多い場所で密閉された室内故に故に探知可能範囲こそ狭いが、今のソラであれば室内と隣室ぐらいの人の気配は十分に読み取れた。


「ふむ……にしても、あんな間抜けが密偵とは思いたく無いが……」


 エマニュエルが苦い顔で呟いた。現在、白と分かっているのはニクラスのみ。残り三人は判別出来ていない。疑い始めればキリがなかった。そんな彼へと、ブロンザイトが声を掛けた。


「エマニュエル殿」

「お、おぉ。申し訳ない」

「いえ……心中お察し致します」


 慌てて頭を下げたエマニュエルに、ブロンザイトが首を振る。そうして、彼は改めて今日来た本題について話を始める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1584話『賢者と共に』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ