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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1580話 賢者と共に ――捕縛――

 ただ普通の事をして、相手の動きと実力を察知する。そんな別に不思議でもない事でありながら、普通ではない手腕を見たソラはブロンザイトから様々な事を学びながら、ヴァーグ村から次の村への旅路を続けていた。そうして、ブロンザイトの指示で監視の大凡の力量を測ってからおよそ三時間。三人は一度立ち止まり、天気が良いという事で外に出て昼食を食べていた。


「ん?……なんだろ……」

「ど、どうしたの? いきなり……」


 ヴァーグ村の村長より今日の昼食にどうぞ、と差し入れて貰ったサンドイッチを口にするなりなにか物足りない様な顔をしたソラに、トリンが眼を丸くしながら問いかける。それに、ソラは首を傾げた。


「いや、なーんか何時も食ってるのと違う様な気してさー……材料ほとんど変わらない筈なんだけどな……」


 ぱくり。更に一口サンドイッチを口にして、ソラはやはり訝しげに首を傾げる。BLTサンドなので、入っている食材は地球と同じベーコンとレタスとトマトだ。と、そんな彼にブロンザイトが訝しげに首を傾げる。勿論、彼も普通に食べている。


「ふむ? 美味しいと思うがのう」

「いえ、美味い事は美味いんっす……でもなーんか、物足りない」

「ふむ……お主、何時もは何を挟んでおる」

「……い、いえ、すいません……実は由利とナナミに頼んでるんで……まぁ、多いのナナミなんっすけど……」


 ブロンザイトの問いかけにソラが恥ずかしげに実情を告白する。とまぁ、そういうわけで彼は何時も自分が食べているサンドイッチに何が入っているか詳細は知らなかった。そんな返答を聞いて、ブロンザイトとトリンが盛大にため息を吐いた。


「それ……単に恋人の手料理が食べたいってだけじゃん」

「違いあるまい」

「んぐっ……」


 それはそうだ。食べたい事は食べたい。とはいえ、そんな彼の一言で、ブロンザイトは何が足りないかを理解した。


「確かナナミという娘はマクダウェル領の農村の娘じゃったな?」

「はい」

「では、少し黒胡椒を振っておる。ここらではあまり香辛料は使わぬからのう」

「へー……」


 魔糸を使って渡された黒胡椒に、ソラが試しに少しだけ挟んで食べてみる。すると、今までに足りていなかった僅かなパンチが感じられ、何時もの味に随分と近くなった。


「あ……これっす!」

「はぁ……まぁ、それはそれで良い事なんじゃろう」


 恋人が居て、手料理を振る舞ってくれる。それはブロンザイトも良い事と思っていた。なお、何故彼がこんな事を教えたのかというと、前に彼が語った通り食事が変化して体調を崩す者が居るからだ。

 とはいえ、のんびりとしていられるのも、ここまでだ。そもそも普通に食事をしているのは、そう見せる必要があるから、と言える。


『……トリン、ソラ。聞こえておるな。ああ、反応はせんで良い。そのまま聞け』

『『……』』


 口と別に魔糸を介して飛んだブロンザイトの言葉に、ソラもトリンも普通に食べている様子を見せながらその話を聞く事にする。と言っても、無言では相手に訝しまられる。なのでトリンは口で先の一幕に続けてソラへと苦言を呈したり、ブロンザイトが楽しげにソラを茶化したりしていた。

 基本、こういう思考と別に演技をするのはソラにはまだ不慣れと判断されていた。なのでソラは念話には参加せず、口の会話に参加する様に、と言われていた。


『これより夕刻に監視に仕掛ける。トリン、群れはお主がやれ。ソラ、お主は儂が補佐する故、監視を捕らえよ。決して殺すでないぞ』


 ブロンザイトはあくまでも何時も通りを振る舞う二人に、指示を与える。夕暮れ時を選んだのは黄昏でどうしても監視も監視出来る距離が狭まるからだ。こればかりは人体の道理なので誰もが逆らえない。その結果、相手はソラ達を見失わない様に距離を詰めねばならなくなるわけだ。


『捕らえた後はどうするんですか?』

『先にも言うたが、儂に任せよ。ま、これでも長く生きておれば幾つも魔術は覚える。拷問しても本当の情報を言うとは限らぬ。魔術で喋らせるのが、一番じゃ』


 どうやら記憶を読み取る系統の魔術をブロンザイトは習得しているらしい。ソラの問いかけに彼が語る。そうして、ソラはその後はブロンザイトらと共に竜車に戻り、機を待つ事にするのだった。




 ソラ達が昼食を食べて4時間と少し。数度の交戦を繰り返した後、彼らは丁度よい頃合いを迎えていた。


『ふむ……これぐらいの暗さであれば、丁度よい』


 周囲を満たす黄昏を見ながら、ブロンザイトは一つ頷いた。後少しすれば、周囲は完全に暗闇に包まれる。そうなると流石に相手の時間だ。闇夜を隠れ蓑にしたスカウト達は厄介だ。隠形に費やす力を少なく出来る。そうなると、更に探しにくくなる。ソラでも厳しくなるだろう。


『トリン。やれるか?』

『はい……少し魔物の群れを探します』


 トリンは密かに魔眼を起動させると、周囲を幅広く見通して魔物の群れが居ないか探す。今回はかなり本格的な戦闘になれる様な敵を探す必要があった。そうして、彼が魔物の群れを探し始めておよそ10分。程よい群れが見付かったらしい。


『リザード系の魔物が群れを成してるけど……ソラ。君から見て、どんな感じ?』

『どれだ?』

『映像、送るよ』


 ソラの問いかけを受けて、トリンは魔糸を通して自身の魔眼で視える映像をソラへと送る。それを見て、ソラは敵の群れの大凡の力量を把握した。


『……そうだな。ランクDが複数と亜種のランクCが二体だから……うん。俺なら余裕だけど、今出してる戦闘力ならお前の補佐が欲しい』

『わかった……お爺ちゃん』

『うむ。では、その魔物を使う事にしよう』


 トリンとソラの合意を受けて、ブロンザイトはこの群れを標的と見定める事とする。そうして、ブロンザイトが口を開いた。


「トリン。少し早いが、今日は幾度か戦いがあったし、ソラとしても初の旅路じゃ。早いウチに野営地を設営しようと思うが……良い所で止めてくれ」

「あ、うん。ちょっと待ってね」


 立ち上がり御者席に繋がる窓から顔を出したブロンザイトが、トリンへと告げる。監視している者はおそらく読唇術を使える。故に何を語っているかは分かるだろう。更には聴力も底上げしているだろうので、荷馬車の中の会話も漏れ聞こえるだろう。相手はそろそろテントを休む支度をすると理解する筈だ。そうしてトリンは少しずつ地竜の速度を落としていき、それと共にリザード系の魔物がわずかに草むらから首を上げた。


「ソラ! リザード系の群れ! 近くで寝てたみたい!」

「わーった!」


 トリンの声を受けて、ソラが馬車から飛び出した。そしてそれとほぼ時同じくして、六体のオオトカゲの様な魔物達が一気にこちらへと向かってきた。


「トリン! 数が多い! 地竜は儂が抑える故、お主もソラの支援をせい!」

「はい!」


 ブロンザイトの指示を受け、トリンが御者席から降りる。そしてそれと同時にブロンザイト自身が御者席に座り、地竜のコントロールを取る事にする。


「さて……」


 とんとん、と荷馬車を引く地竜を宥め、ブロンザイトは事の成り行きを見守る事にする。敵はこの戦闘で数時間前の様に迂闊な事はしない。それどころか、迂闊に動く事もないだろう。ただ息を潜め、こちらの監視に徹する。それが相手の思惑だ。


「……」


 まぁ、そう言っても。ソラによりブロンザイトにはその監視がどこに居るかは掴めている。故に、彼は他大陸にて使われるとある魔術を起動した。それは彼の一族が代々受け継いできた魔術で、使えるのは珠族だけだ。

 自身のコアを使い地面伝いに相手の詳細を探る魔術だった。ある種の切り札にも近く、よほど珠族に親しくなければ教えられる事のない魔術だ。滅多な事では使われず、この監視が知っているとは到底思えなかった。


(そこか)


 ブロンザイトは監視の場所をしっかりと把握すると、ソラが準備を整えるのを待つ事にする。そうして、少し。ソラがトリンの支援を受けながら魔物の群れの半数とランクCの魔物を討伐した次の瞬間。ブロンザイトが一気に行動に出た。


「ソラ!」

「はい!」


 道中にて何をどうするべきかの指示を与えられていたソラは、一切の迷いなくブロンザイトが掴んだ監視へ向けて一気に駆け出す。


「<<風よ>>!」


 ソラは駆け出すと同時に風の加護を起動し、速度を上げる。そしてその上でブロンザイトが杖を掲げた。


「<<疾風速(ウィンド・ダッシュ)>>」

「!?」


 七百メートル先の監視は唐突に自身に向けて駆け出したソラを見て驚きを浮かべ、更にその彼がブロンザイトの魔術により更に加速したのを見て、一瞬どうするべきか判断を失う。

 が、ここらは彼もプロと言って良かった。自身が見付かっていた事を理解すると、即座にその場からの撤退を判断する。しかし、そもそも。相手は賢者だ。それを見通せない筈がなかった。


「っと。はい、ストップ。おっと……抵抗は無意味だってぐらい分かるよな?」

「っ……」


 監視は振り向くと同時にどういうわけか自らの前に立っていたソラに、僅かな冷や汗を流す。確かに一瞬前までは、こちらに向けて猛烈な速度でダッシュしていたのだ。

 それが転移術と見紛うばかりの速度で自身の後ろに回り込んでいた。が、その次の瞬間。彼は背後に人の気配がする事に気が付いた。そうして、その背後の人の気配が口を開く。


「さって……おっと。言っとくが、振り向く時はゆっくりな。あ、一応言うけど、振り向くまでになにかしようと思っても無駄だ」


 監視の後ろに立った()()は刃を突きつけながら、<<風の踊り子シルフィード・ダンサー>>の一体を監視の前へと動かす。無論、これはブラフ。この風の分身に視覚はない。

 が、それがわからない監視には、その真偽を図る術はない。それ故、それを考える時間を得るべくソラに背を向けたまま、口を開いた。


「……一体、どうやって?」

「そいつはお師匠さんが作った偽物だ。良く出来てるだろ?」

「っ……」


 そういう事か。監視は今目の前に見えているソラが単なる偽物である事をようやく理解した。よく見てみれば、眼の前のソラの偽物は色がわずかに浅黒い。単に土塊を固めただけと理解出来た。

 が、この黄昏時という時間が、あり得ないという事と相まって彼に正常な判断を取らせなかった。その結果、ソラは十分に監視の背後に回り込める時間を手に入れる事が出来た、というわけだ。


「で? こっち向くのか向かないのか……ああ、この分身が一体だけと思ったのなら、ご愁傷さま。まだまだ出せるぜ。何体欲しい? 欲しいだけ、言ってくれ。作ってやるよ」

「っ……」


 更に増えた風の分身に、どうやら監視は諦めたらしい。ゆっくりと手を上げてソラの方を向いた。そして、彼はその判断が正しかった事を理解する。彼が対応を考えている間にトリンが来ており、更にその後ろからはブロンザイトが竜車を移動させていたのだ。


「トリン。悪いが、拘束頼んで良いか?」

「うん。ちょっと、失礼して……」


 トリンは自身の装備となる杖を構えると、一度地面をとん、と叩く。すると土の中から黒褐色の重厚な手錠が現れた。それはトリンの杖の動きに合わせて緩やかに浮かび上がると、監視の手にしっかりと嵌った。


「っ! お、おもっ……」


 どうやら見た目よろしく手錠はかなりの重さがあったらしい。監視は思わず、と言った具合に腰を抜かしていた。そうして、二人は動きを鈍らせた捕らえた監視をブロンザイトの前へと突き出す。


「お師匠さん」

「うむ。ソラもトリンもよくやった」


 ソラの言葉にブロンザイトが一つ頷く。そうして、彼は改めて監視へと向き直った。


「さて……まぁ、お主もその様な職業なので、大凡は理解しておるじゃろう」

「っ……」


 流石に監視も自分が誰を監視させられていたかは分かっている様子だ。それ故、監視は顔に盛大に苦味を浮かべる。ブロンザイトが記憶を抜き出せないとは思っていない。その後にどうなるかはわからないが、少なくとも情報を抜き取られる事だけは事実だろう。


「さて……それ故、お主に選択肢をくれてやろう。お主に取れる手は二つじゃ。一つ、ここで儂に偽りの記憶を与えられ何事も無かったとするか、ここで儂らに敗北を認め上へは偽りの報告をするか。無論、正直に言っても良いじゃろう」

「はっ……お優しい事だ」


 ブロンザイトが提示した第三の選択肢の先に待つ結末を知ればこそ、監視は思わず皮肉を浮かべて笑う。この第三の選択肢の先に待つ末路。それは言うまでもなく、任務に失敗した挙げ句情報を抜き取られた愚か者への罰。死という末路だけだ。


「……前者で頼む。なるべく、死にたくないんでな」

「潔いのう。良かろう……では、そのままその場で眠るが良い」


 わずかに悩んだ後に結論を出した監視に対して、ブロンザイトが杖を向ける。すると監視の頭から光の玉が抜け出して、その代わりにブロンザイトの杖の先から光が放たれる。そして次の瞬間、監視の目から光が失われた。


「お主はここで朝まで儂らの監視を続け、何事も無かったと記憶する」

「……はい」


 目から光が失われた監視が、呆けた様子で頷いた。それを見てブロンザイトが一つ頷く。


「これで良かろう。トリン、儂はこの記憶の封等色々とやる故、先の場所まで御者を頼む。今日はこのままあそこで休む事にしよう」

「はい」


 ブロンザイトの指示を受け、トリンが御者席へと向かい始める。そうして、その後ろにソラも続いて、今日一日の安全を確保するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1581話『賢者と共に』

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