表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1607/3930

第1576話 賢者と共に ――エマニュエルの部下達――

 ラグナ連邦のある地方都市にはびこる不正とその背後に居る巨大地下組織。その摘発を行うべくラグナ連邦へと舞い戻ったブロンザイトと共に、ソラはエマニュエルという警察官僚と出会う事となる。

 そんな彼に案内された警察署の一室で出会ったのは、一癖も二癖もある彼の部下ニクラスだった。そうして、彼との出会いから一時間後。なんとかエマニュエルの部下達が勢揃いしていた。が、これもこれで全員揃って一癖も二癖もある者達ばかりだった。


「ぐぉほん!」

「「「……」」」


 盛大に咳払いしたエマニュエルに対して、彼が率いているという四人は気だるげだったり、どこかを向いていたりしていた。唯一前を向いている男も居るが、真面目さとはかけ離れた様子だった。


「ブロンザイト殿。では改めて、今の私の部下を紹介いたします。まず、三年前からの唯一の残りとなるニクラス・アサートン」

「どもー」


 改めての紹介を受けて、ニクラスが笑いながら手を振った。彼は明るい緑色の髪を長めに切りそろえた男だった。背丈はソラより少し小さい程度。服装はだらしない。

 が、わずかに見え隠れしている肉体は筋肉質で、鍛えられている様子があった。少なくとも、洞察力の高い者が見たなら見た目相応の軟弱者とは言えないだろう。と、そんな彼の挨拶にエマニュエルは青筋を浮かべるも、わずかにため息を吐いただけで無視する事にした。


「……いや、良い。話が進まん。次、その横が唯一の女性となるコレット・フレサンジュ」

「ども」


 ニクラスの横。女性としては日本人女性の平均ぐらいの背丈の女性が気軽げに片手を上げる。顔は整っているし小柄にも関わらずメリハリのある身体だが、どうにも表情に締まりがない。

 眠そうとは少し違う、気だるげな様子が常に漂っていた。それもダウナーとはまた違う、本当にやる気の無い感じだった。仕事に来ているというより、休日の公園に休みに来たと言われた方がソラには納得出来る。


「先にも説明したと思いますが、彼女が先程の資料を作っております。情報処理の専門家です」

「……」


 ぽけー、とコレットは無感情にエマニュエルの説明を聞いていた。どうやらソラ達を含めて興味はないらしい。まぁ、その分仕事は出来るというのだ。なら問題はないのだろう、とソラは思う事にした。


「で、その横。マルセロ・ベルナベ」

「おう! 話は聞いてるぜ! 存分に使ってくれや!」


 どうやらマルセロという男は色々と豪快らしい。そんなマルセロだが、声に似合う小麦色の肌の大男だ。背丈は二メートルほど。筋肉はニクラス以上に付いているし、すでにそこそこ寒い日もあるのに半袖を着ているので、隠してもいない。

 所々に傷跡も見え隠れしていた所を見ると、武闘派と見て間違いないだろう。そんな彼の声量にわずかに気圧されながらも、エマニュエルが解説を続けた。


「……まぁ、こいつはウチの課で唯一まだまともに使い物になる男……で良いでしょう」

「「ちょ、ちょっと!? 課長!?」」

「……」


 エマニュエルの言葉にニクラスと最後の一人が同時に抗議の声を上げる。が、それにエマニュエルは二人を睨みつけ黙らせると、マルセロの説明を続ける。


「……ふん。で、マルセロは見て分かる通り、腕っぷしは非常に優れている。元軍人でもある」

「元々憲兵やってたんだが、ちょいと酒で失敗してな! ここの署長さんに拾われたんだよ!」

「「は、はぁ……」」


 豪快に笑って自身の失態を話すマルセロに、ソラもトリンも気圧されながら生返事を返す。とはいえ、それなら二人にもマルセロが傷だらけなのが納得出来た。と、そんな彼に対して、エマニュエルはブロンザイトに一つ頭を下げた。


「こいつに酒は飲ませないでください。酒での失敗が目に余る、とこちらに回されておりますので……それに仕事中でも何かと酒を飲もうとする」

「安心してくれよ、課長。もう失敗はしねぇさ」

「貴様のもう失敗しない、を何度聞いたと思っている……」


 はぁ、とエマニュエルが深い溜息を吐いた。まぁ、そもそもエマニュエルにとってここでの仕事は懲罰に近い人事だ。ここに回されている以上、難点が無い方が可怪しいのだろう。そんな彼は一転気を取り直して、最後の一人の説明に入る。


「で、最後。彼についても再度になりますが……フロラン・リトレ」

「ちーっす」


 フロランと呼ばれた男は軽く頭を下げる。年の頃合いとしてはコレットを除けば最も若く、二十代前半、下手をすれば十代後半の可能性もある。彼の容姿としては、一言軽薄そうで良い。

 チャラい、とまではいかなくとも色々と軽そうではあった。そしてソラがこの一時間話した限りでも、言動には軽薄さが滲んでいる。夕陽を更にチャラ男に近づけたら、こうなるだろう。

 まぁ、警察官をしているぐらいなのだから正義感はあるのだろうし、女性関連についてもなにか不法はしていないのだろう。が、如何せん軽薄そうな見た目の男だった。


「……もう貴様については何も言うまい」

「いや、課長ー。せめて紹介ぐらいはしてくださいよー」

「はぁ……女誑しの無能。以上」

「ちょっ!」


 フロランと言われた男はため息と共に出されたエマニュエルの説明に慌てふためいた。が、それにエマニュエルは思いっきり湿度の高い目で睨みつけた。


「貴様……昨日、私が帰宅する際に女連れである所を見つけ、絶対に遅れるなよ、と言った筈だな?」

「うっ……」


 どうやら事実らしい。そうしてエマニュエルの視線に気圧されたフロランであるが、冷や汗を掻きながら一応の反論を試みる。


「い、いやだなぁ、課長。じょ、情報収集じゃないっすかー。ほら、飲み屋の女の子達って色々酒飲み話聞いてるからさー」

「……時と場合をわきまえろ、と言っとるんだ! 今日客が来る、と何度も言っておいただろう!」

「あ、私聞いてません」

「貴様はそもそもまともに出勤しろ!」


 ぼけっとしながらもきっちり反論を入れたコレットに、エマニュエルが声を荒げる。とはいえ、この四人がエマニュエルの部下だった。エマニュエル含めで一癖も二癖もある人物ばかりだった。ある意味では、彼こそこの課の課長に相応しいのかもしれない。


「はぁ……はぁ……」


 意外と苦労人なんだなぁ。ソラとトリンは顔を真っ赤にして肩で息をするエマニュエルに、そうどこか哀れみを抱いた。そうして、そんな彼は疲れたかの様に手頃な所にあった椅子を引き寄せ、顎で部下達に自分の席に座る様に命じた。


「はぁ……申し訳ない。以前の一件以降、私の所には厄介者が回されてばかりで……」

「いえ、仕方がない事なのでしょう」


 自身の部下を嘆くエマニュエルの深々とした謝罪に、ブロンザイトは何時もの柔和な目をしながら首を振る。そんな彼が何を考えているのか。それはトリンにもソラにもわからないが、少なくとも彼はエマニュエルの部下を非難する事は一切無かった。


「ありがとうございます。こんな奴らですが、ぜひとも好きにお使いください。いえ、貴方の弟子の方が優れているでしょうが……」

「いえ……人手は多い方が良いですからな。有り難く、お借り致します」

「申し訳ない」


 ブロンザイトの言葉にエマニュエルが再度深々と頭を下げる。なお、後にトリンに聞いた所によると、三年前はかなり優秀な部下達も多かったらしい。が、それ故に彼の手腕を危惧されて、曲者だけを回される事になったそうだ。と、そんな彼は頭を上げると、改めて作戦を話し合う事にした。


「それで、ブロンザイト殿。これからどうしますか?」

「ふむ……まぁ、やる事は決まっております。まずは、予防薬を配りましょう。我らが犯罪者を捕らえるのは当然ですが、それ以前に苦しむ民を救わねばなりますまい」


 エマニュエルに問われたブロンザイトは改めて方針を明言する。そもそも今回の一件は表向き、流行病の対処に来ているのだ。それを疎かにするつもりは彼にはなかった。


「それについては勿論、きちんと手配させて頂いております。役所に話を通して、庶務課が動いてくれる事になっております。そもそも今回の一件は表向き、あそこの防疫課が輸入した事になっておりますからな」

「そうですか。それでしたら、多くについてはなんとかなりますな」

「ええ……と言っても、細々とした所に届くのは時間が掛かるかと」


 ブロンザイトの言葉に頷いたエマニュエルは机の下から一帯の地図を取り出し、机に広げる。これは政府が持っているここら一帯の詳しい地図で、獣道等地元民しか知らないだろう道も描かれていた。


「まず、この主要街道沿いには庶務課が動いて、予防薬を配布してくれる事になっております。医師の手配もあちらが。これの主導をする者については、私の警察学校時代からの信頼の置ける者です。ご安心ください」

「ふむ……」


 エマニュエルとて三年前に痛い目に遭っているのだ。裏取り等は慎重に進めていると見て良いだろう。とはいえ、信頼するのと確認するのはまた別だ。故に、エマニュエルもその名を口に出した。


「オズボーン、という男は覚えておりませんか? 三年前の事件で協力してくれていたのですが……」

「おぉ、あの彼ですか。では、彼もまた……」

「ええ……それ故に彼なら、大丈夫だろうと」


 思い出したらしいブロンザイトが目を見開いたのを見て、エマニュエルもまた頷いた。今回、彼らが追う役人がやっているのは、わかりやすく言えばインフルエンザの予防薬を横流しして裏ルートで高値で売り捌いている、と考えれば良い。勿論、これは役人とその背後の地下組織がしている犯罪の一つにすぎない。

 地球でもそうだが、どうしても流行の時期になると予防薬やワクチンの数が足りなくなる事はままある。それを見越して横流しを、というわけであった。それを警戒するのは当然の事だろう。


「そうですな……彼なら、安心でしょう」

「ええ……とはいえ、時期を考えればもうパンデミックまで一刻の猶予も無い。ブロンザイト殿には予てよりのご相談の通り、幾つかの辺境の村へと届けて頂ければ」

「かしこまりました。これでも旅はしておりますからな。足腰には、自信があります。それに……」

「……そうですな」


 一つ笑ったブロンザイトとエマニュエルは、横で会話を聞いているソラに視線を向ける。確かにマルセロも元軍属で強い事は強いが、それでもソラよりは弱い。ソラは現在ランクB。それに対してマルセロはランクC~Dという所だ。

 装備についても軍用品なぞ目でもない高性能な物だ。ランクA級の冒険者が束になって刺客として来るならまだしも、背後にマクダウェル家も控える今、並大抵の相手ならなんとかなるだろう。そしてソラもここでの己の役割はしっかりと把握していた。


「うっす。安心してください。これでも、ラエリアとか色々修羅場は潜ってるんで」

「うむ。昨日も言ったが、君の話は聞いている。頼りにさせて貰おう」


 どうやら社交辞令等ではなく、エマニュエルは本当にソラの功績を知っていたらしい。僅かな信頼を見せて、ソラの返答に頷いた。そうして彼は一つ気を取り直すと、改めて話に入った。


「……それで、移動には竜車をお使いください。悪路も行ける頑強な地竜をご用意させて頂きました。確か御者はトリンくんが出来ましたな?」

「ありがとうございます。ええ、あれはそういう所は小器用で……」

「そうですか……おぉ、そういえば許可証や認識票等については、こちらですでにご用意させて頂いております。明日には届けますので、それをお待ち下さい」

「ありがとうございます」


 ブロンザイトはエマニュエルの手配に再度頭を下げる。やはり長い間連携を取っていたという所なのだろう。きちんと手配が行われている様子だった。そうして、ソラはそんなエマニュエルとブロンザイトの相談に参加して、この日は明日からの支度を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1577話『賢者と共に』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ