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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第73章 ソラの旅路 ラグナ連邦編

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第1575話 賢者と共に ――作戦拠点――

 ソラが賢者ブロンザイト、その弟子のトリンと共にラグナ連邦へ到着して一日。彼はエマニュエルというラグナ連邦において警察官に確保されていたホテルに宿泊すると、翌日再びエマニュエルの所へと向かっていた。


「おぉ、待っておりましたぞ」

「おぉ、エマニュエル殿。お出迎えくださり、ありがとうございます」


 少なくとも賢者を敬う者、と言って良いのだろう。ブロンザイトを警察署の前で待っていたエマニュエルに、ソラはそう思う。

 まぁ、それでも偉そうなのは変わらない。これが素というのも確かなのだろう。後のトリン曰く、人柄さえ丸ければもっと良い地位に居るだろうに、との事であった。と、そんな彼に案内され、三人は警察署の奥にあるエマニュエルが管理するエリアへと通された。


「ここは……懐かしいですな」

「ははは。どうしても昔を懐かしんでしまいましてな。気付けば、似た形式になってしまいました。机や椅子がボロくなった以外、変わりません」


 ブロンザイトの言葉にエマニュエルが少し恥ずかしげに笑う。これはソラには分からなかったが、案内された部屋は彼が閑職に回される前に拠点として使っていた部屋に似ていたらしい。


「まぁ、こういうわけですので、使い勝手は変わりませんよ」

「それはありがたい。儂としても逐一今のやり方に合わせる必要がありませんからな」

「ははは、申し訳ない……まぁ、以前と同じ様にして頂ければ」

「ありがとうございます」


 エマニュエルの言葉にブロンザイトは彼の勧めた応接用の椅子に腰掛け、トリンとソラは手頃な椅子に腰掛ける事にする。今後、このラグナ連邦での不正摘発まではここが彼らの作戦司令部になるらしかった。

 と、そうしてなにか理由があるのか昔話を始めたエマニュエルとブロンザイトを横目に、ソラは興味深げに部屋を見回していた。


「へー……」

「珍しい?」

「ああ。俺、今まで警察の世話になった事……あ、あったわ」

「へ?」


 今まで警察の世話になった事はない。そう言おうとしたソラであったが、一転して地球での来歴を思い出してあった事を思い出したらしい。そんな彼の言葉にトリンが仰天していた。


「あはは……実はカイトに出会うまでヤンキー……不良でさ。色々とあったんだわ」

「そ、そうなんだ……あ、あははは……」


 人は見かけによらぬもの。トリンは昨日のソラの言葉を少し思い出し、頬を引き攣らせる。とはいえ、それは地球での事で、もう数年も前の事だ。エネフィアでは法を犯す事はしていない。なのでソラの方はほとんど気にしていなかった。


「まぁ、でも……やっぱ警察のこんな奥には来た事ねぇからな。新鮮は新鮮だし、俺が世話になったのもこんな所じゃなかったし……」


 ソラが世話になったのは日本の警察署だ。故に彼が知っているのはよく刑事ドラマで使われる取調室に似たこじんまりとした部屋で、警察官達が詰める様な部屋は知らない。更に言うとこの部屋は日本の警察の部屋というより、アメリカの刑事ドラマで出て来る警察の部屋に近い。尚更、興味深かった。


「そういや、前はどこを拠点にしてたんだ?」

「前はここよりもっと大きなヴォダっていう街の警察署だよ。ラグナ連邦第二の都市だね。でも、そこの署長もつるんでたらしくてね。捕らえた所で実際に介入したのが、その署長だったんだ」

「しょ、署長までグルかよ……ここの署長は大丈夫なのか?」

「どう……なんだろう」


 ソラに問われて、トリンも僅かな懸念を口にする。とはいえ、彼としては実は大丈夫だとは思っていた。前回は様々な要因が重なり組織の巨大さを見誤って敗北を喫したが、ブロンザイトも今回は本気だ。カイトを筆頭にして背後には巨大勢力も控えさせた。もしここの警察署の署長が敵側だとしても、なにか考えてはいる筈だった。


「……まぁ、大丈夫だとは思うよ」

「うむ。ここの署長は安全じゃ」

「うむ」


 どうやら話を小耳に挟んでいたらしい。トリンの言葉にブロンザイトとエマニュエルの二人が頷いた。案の定、裏取りをした上での事だったのだろう。


「今回、事に及ぶに至って私も長い間敵味方の選別を行った。この課に配属された者と、ここの署長は少なくとも安全と言える……役に立つかは、知らんがな」

「ひ、一言多いっすねー、課長」

「大事な客が来るので片付けておけ、と言っていただろう! それなのに揃いも揃って出掛けおってからに!」


 がちゃ、と音を立てて入ってきた一人の若者に、エマニュエルが声を荒げる。まぁ、若者だがここに入っているからには警察官で間違いないのだろう。と、そんな彼はトリンを見て、目を見開いて笑顔を浮かべた。


「ん? やぁ、トリンくん! 久しぶりだねー。客って君達の事だったのかい?」

「ああ、ニクラスさん。お久しぶりです。まただらけきってますね」

「あはは。君ものんびり行こうよ。急いだって良い事無いって。で、今回はどうしたんだい?」


 おい、話は終わっておらんぞ。声を荒げるエマニュエルを放置して、ニクラスというらしい若者が笑う。見た所二十代半ばから後半。背丈はソラより少し小さいぐらいで、顔立ちはのんきそうな様子があった。

 服装はだらけきっており、ネクタイは緩んでシャツはズボンから半分出ている。のんきというよりだらしない、と言った方が良いかもしれない。


「知り合いなのか?」

「おっと……ニクラス・アサートン。階級は警部だよ」

「あ、ソラ・天城です。少々縁あって、お師匠さん……ブロンザイトさんの所で弟子入りを」


 ニクラスから差し出された手をソラは握る。ラグナ連邦での警察の階級制度は基本的には地球と同一らしく、一応はキャリア組と言われる者らしい。これでもラグナ連邦でも有数の大学を出ているとの事であった。


「あー、そうなの? まぁ、君も課長に振り回されると思うけど、ご愁傷さま」

「き、貴様……」

「あはは」


 こめかみに青筋を浮かべるエマニュエルであるが、ニクラスは暖簾に腕押しだ。と、そんな彼に対して、ブロンザイトが笑いかけた。


「お主も変わらんのう、ニクラス」

「あはは、ブロンザイトさん。お久しぶりです。やる気は出すタイミングが重要かなー、と言うのが僕の持論ですよ」

「ふぉふぉ」


 一人気勢を上げるエマニュエルに対して、ブロンザイトとニクラスは呑気に笑い合う。そんな場で、ソラは思わずエマニュエルに問いかけた。


「え、えーっと……エマニュエルさん」

「なんだ!?」

「さっき揃いも揃って、と仰ってた所を見ると、彼以外にもまだ誰か?」

「む……」


 意外と目敏い。声を荒げたエマニュエルであるが、わずかに垣間見えたソラの賢さに目を丸くする。これについては、ソラも話題を敢えて選んだというわけではない。単にこのまま放置はなんだかな、と思っただけだ。が、それ故に選んだ話題は図らずも彼の賢さを示す物でもあった。


「うむ……ニクラス。他の者は?」

「さぁ」

「「さぁ?」」


 問いかけたエマニュエルとソラが揃ってニクラスの返答に首を傾げる。


「いや、だって俺以外まだ出勤してませんし……ほら、タイムカードも俺と課長以外退勤のまま」

「なぁっ……」

「あ、あはははは……」


 ニクラスの返答にエマニュエルが言葉を失い、ソラが頬を引き攣らせる。が、一方のブロンザイトもトリンも特に驚きは無かったらしい。後に聞けば閑職に回されているのだから部下も問題児だらけだろう、とは分かっていたそうである。


「い、今何時だと思っておる! もう9時だぞ!? しかも何度も今日はブロンザイト殿が来られると言っておいたではないか!」

「だ、だから俺は早起きして来てたじゃないですか! それなのに俺に怒鳴られても!」

「ぐっ……」


 正論である。そもそも部屋で待っていろと言われたのに外に出ていた事は抜きにしても、先の会話を鑑みるにニクラスは最初から居た事は明白だ。その彼に怒鳴るのは筋が違う。と、そんなわけで一瞬気勢を削がれたエマニュエルに、ブロンザイトが執り成した。


「まぁまぁ、エマニュエル殿。そうかっかされますと、血圧が上がりますぞ」

「も、申し訳ない……どいつもこいつもニクラスの様に一癖も二癖もある奴らばかりでして……」

「俺は至って普通ですよ」

「お主が一番厄介だろうに!」


 あはは、と笑って口を挟んだニクラスに、エマニュエルが再度怒鳴る。とはいえ、怒鳴った所で無駄である事は五年近くの付き合い――前の一件で彼だけはエマニュエルと一緒の所に飛ばされた――で彼も理解していた。故に、今度は自分で疲れた様にため息を吐いた。


「はぁ……もう良い。どうせ他の奴も放っておけば来るだろうて」

「い、良いんですか……?」

「……」


 良いわけがあるか。ソラの問いかけにエマニュエルは半眼で睨みつける。それに、ソラもこの話題は藪蛇だった、と口を引っ込める事にした。というわけで、その後の話題になる事はなく、エマニュエルは本題に入る事にする。


「昨日頼んでおいた書類は出来ておるんだろうな?」

「多分ですけどね……えっと……」

「コレットの奴……また散らかし放題しおってからに……」


 ニクラスが書類以外の物が山の様に乗った机を漁り、書類を探す。そうして彼は一通の封筒を探し出した。


「あ、あった。これですね」

「うむ……うっ……私は獣人の血を引いてると言えば何度あの女は……」


 渡された書類を手に持った瞬間、エマニュエルが盛大に顔を顰める。どうやら香水の匂いが付着していたらしい。とはいえ、これが無いでは話が始まらない。というわけで、エマニュエルはしかめっ面のまま封筒を開いて中身を取り出す。


「ブロンザイト殿。匂いについては申し訳ない」

「どうやら、随分と楽しい職場のご様子ですな」

「まこと、申し訳ない……」


 楽しげなブロンザイトにエマニュエルがため息を吐いて項垂れる。と、そんな彼が手渡したのは、今のこの部署の警察官達のリストだった。


「ふむ……トリン。お主もソラと共に見ておきなさい」

「はい……ソラ、少し詰めて」

「おう」


 どうやら二部作成されていたらしい書類の片方をトリンが受け取り、ソラと共に閲覧する。元々トリンが一緒なのはエマニュエルも分かっていた事だ。なので彼の分も予め用意させていたらしかった。

 ただソラについてはどういう立ち位置なのか分からず、用意していなかった、という事らしい。と、そうして書類の一枚目を見て、ソラは思わず顔を上げた。


「ふぇ?」

「どしたの?」

「い、いえ……」


 ソラは書類に示されたニクラスの経歴と目の前のだらけきった男が合致出来ず、思わず二度見する。どうやらなんとニクラスは警察学校を主席で卒業していたらしい。しかも武芸の科目においては圧倒的な成績を残し、伝説に近い領域となっているらしかった。座学も悪くはない。


「あはは……意外でしょ? でも三年前の事件がきっかけ、ってわけじゃないんだよ。まぁ、最後の大捕物の時に、彼の本気を見たけど……今回も多分最後には本気出すんじゃないかな」

「お、おう……」


 笑いながら小声で教えてくれたトリンの言葉に、ソラは自分の机でなにかの書類を片付けるニクラスを流し見る。と、そんな風に様々な驚きを得ながら書類を見たソラであるが、総じて一つの感想を得る事となる。


「にしても……」

「うん……」

「すげぇ見やすい」

「一癖も二癖もある人ばっかりだね」


 二人は同時に、別の感想を口にする。これはどちらも正解だ。が、一致していたと思っていた意見がバラバラだった為、二人は思わず顔を見合わせた。


「あ、そっち?」

「お、おう……すげぇ見やすく整ってるな、って」

「そうだね。少し流し見るだけで簡単にわかったから……この資料を作った人、多分エマニュエルさん以上の情報処理能力だと思うよ」


 もしかしたら大穴を引き当てたのかもしれない。トリンはこの書類を作成したらしい人物についてそう思う。それ故、彼は思わずエマニュエルへと問いかけた。


「エマニュエルさん。少し良いですか?」

「ん? なんだ」

「この資料は誰が? 前にエマニュエルさんが作られた物とは色々違う様子ですが……」

「ああ、それはコレットだ。ウチで情報処理を一括で頼んでいる」

「すごいよねー。それ、彼女が昨日一時間で全部終わらせたんだよ」


 エマニュエルに続いて、ニクラスが笑いながら先程の机――つまりはコレットの物――を片付けながら告げる。そんな言葉を聞いて、ソラが書類に視線を落として頬を引き攣らせる。


「こ、これを一時間で……?」

「あれは本当に真面目に働きさえすれば……はぁ……」

「あ、課長ー。コレットから連絡来ましたー。今起きた、って」

「あ、あやつは……」


 ニクラスの報告にエマニュエルががっくりと肩を落とす。後のエマニュエル曰く、この部で一番不真面目なのが彼女らしい。が、頼まれた仕事だけはしっかり終わらせるので、エマニュエルさえ文句は言えないらしかった。と、そんな彼が肩を落とすと同時に、扉が開いた。


「ちーっす……誰?」

「いや、お前が誰だよ」


 ソラは自分の顔を見ながら告げられた一言に、思わず素で突っ込んだ。まぁ、考えるまでもなくこの気軽さでここに入ってくるのだからエマニュエルの部下に間違いない。そうして、エマニュエルの部下達が全員揃うのはなんとここから一時間後の事であった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1576話『賢者と共に』

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